噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

112 誰かの為に

「「っ!!」」

 悲鳴を聞き二人の間に戦慄が走った。壱月はすぐさま抜刀できるように刀を構え、《最新》も感覚を研ぎ澄ます。

「今の悲鳴は何処からだ?速く行かねぇと!」
「待て!戦場で無闇に動くと死ぬぞ!何処かはわからんが、近いのは確かだ!必ず救える!」

「壱月さ〜ん、あそこです!」

 焦る気持ちを戦場にいるという緊張感だけで抑え込んだ。その結果、冷静さを徐々に失いながらもなんとか正確な情報を得ることができた。

 後方で援護に回ってくれていた巴音が、こちらに駆けながら指差してくれたのだ。

 巴音に示されたのは、約二百メートル程先の二階建ての建物。昔ながらの喫茶店といったイメージだ。

 そんな落ち着いた雰囲気を持つ建物が今、破砕音を立てて粉々に砕かれた。

「なっ……」
「そんな…」

 駆け出そうとしていた足が止まり、思いもしない出来事に絶句する二人だが、まだ呆けるには早かったらしい。

ドパッ!と建物があった場所から粉塵を纏って大柄な人影が飛び出してきて野太い声でニヤニヤ笑いながら言った。

「ヘヘッこんな戦まっぴらだ!欲しいもんだけ盗ってさっさと、トンズラこくに限るなぁ!」

 明らかに賊のセリフを吐きつつ、ニンマリ顔で二人の前に現れたのは、身長2.5メートルはありそうな大男だ。しかもその太い片腕には逃げ遅れたと思しき少女が抱えられている。

 様子を見るに先程の悲鳴は彼女のもので間違い無いだろう。

 建物が粉砕された有様を見ていた二人は、少女の無傷な姿に安堵するも、すぐに気を引き締め戦闘態勢に入る。 

するとその気配に今更だが大男の方が気付いた。

「おおっと!動くなよそこのお前ら。妙な動きしたらこの娘の首が飛ぶぞ?」

 賊お馴染みのセリフはスルーして、奴の観察を始める二人。

 大男が腰に下げているのは、大鉈だ。その武器で先程の建物を粉砕したとは到底考えられないが、奴を観察する限り今のところそれ以外、検討がつかない。
 
 一つ可能性として上げるなら大鉈に何かを仕込んでいるかもしれないという事ぐらいか。

 ひとしきり観察し終わって、二人は戦闘態勢から臨戦態勢に切り替える。

「さて、どうする《最新》?
見たところコイツは雑魚だぞ」

「だろうね。僕の方も同じ計算結果だ。コレはだだの雑魚だ。
 じゃあ折角だから僕の実験材料になってもらおうかな?」

「発言がマッドサイエンティストのそれだが……まあいい。アレ使うんだな?」

「ああ、こんな時のためのヒーローシステムさ」

 何やらごちゃごちゃと話し出した二人に寂しさでも感じたのか、それとも構って欲しいのか、大男(雑魚)が喚く。

「おい!てめぇら!何コソコソ話してやがる、さっさとそこに武器を置いて跪け!」

「はぁ、跪くのはどっちだか…
巴音、演出よろしく!かっこいいやつな!」

「かっこいいかはわかりませんが、善処しますね」

 ため息ひとつと、パートナーに無茶な注文をして、壱月はスッと後ろに下がる。

「演出まで付けてくれるとはありがたいなぁ。じゃ、お言葉に甘えて…行きますか!」

 《最新》はセンターに立ち、右手に調停機関の電子端末を持って、構える。

 するとパシュッと音を立てて巴音のライフルから煙玉が飛び出し、《最新》の後ろで軽く爆発して、煙が周囲の建物などを覆い隠す。

 大男からの視点だと《最新》しか見えない状況だ。

「変身ッ!!」

 快活に、そしてかっこよく叫ばれた皆んなの合言葉は、システムの力によって形を与えられ、夢を科学に変える男にとっての正義の鎧となる!

「夢と科学をもって人々の平和を守る正義の味方、レイティス見参!」

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