噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神
109 出雲災厄
 織田軍と日本神話・調停機関連合軍の戦が今まさに始まろうとしている頃、日本神話の本拠地である出雲では各所で火の手が上がっていた。
 都市には逃げ惑う人々が右往左往して溢れかえり、また都市の安全を守る者達は、四苦八苦しながらも消化活動に従事している。部署部門に関わらず消防士、自衛官、警察官等が協力し合ってはいるのは流石というべきなのだが時に意見がぶつかって怒声をあげたり、絶叫をあげたり、混沌と化しているのもまた事実だ。
 それもこれも統制が取れていないのが原因ではあるのだが、統制が取りづらい街づくりにしたのも問題があると言えるだろう。
 まず統制が取りづらい一番の理由はこの都市を治めるものが誰かを考えれば即座に察することができる。
 即ち神だ。
 だがそれも平常時に限る話である。この戦争が本格化している現在、まとめ役である神はそのほとんどが出払っている。非常時の為に統率者を決めて養っておかなかったのは神の慢心故だろうか。
 そしてそんなこの都市の最大の弱点を突いたのが、全人類の敵たる殺戮者だ。
 神領都市・出雲に一番高くそびえ立つ高層ビルのごとき社。おそらく昨年改修された出雲大社の屋上で殺戮者は静かにこの都市の行く末を見下ろしていた。
 隣に並ぶ二人の人物とともに。
 一人は薄汚れた作業着に赤い羽織を着たオッサン。もう一人は小柄な忍び装束を着ている少女。年齢は離れてはいるがれっきとした殺戮者の仲間のようだ。
「しっかし驚きだなぁ。信長の奴が使いを寄越すなんてよ」
「光栄に思え。親方様がお主らを盟友と認めたという証だ」
「勝手に盟友にしてんじゃねぇよ。今回はたまたまお前らとやる事が被っただけだ」
 オッサン、もとい武器商人の言葉を皮切りに忍びの少女、もとい楽漣 遥が信長の代弁をするが殺戮者が切って捨てる。
 遥との出会いはついこの間。石見銀山遺跡で開戦間際の騒動を隠れてやり過ごそうとしていたところを彼女に見つかり、信長が持たせていた密書を渡され今に至る形だ。
 密書の内容は簡単なものだった。暇なら神を殺せ、だ。
 無論、最初からそうするつもりだった殺戮者は信長の言葉に少しイラっとし、密書を破り捨てた。
 だが、奴にはそれすらも計算内だったらしく、すぐに遥から2枚目の密書が手渡される。
 そこに書かれていたのは−
『人の話は最後まで読め、バカ者。
あとそこにいる楽漣 遥のことなんじゃが、そやつは儂の孫じゃ。本人は知らぬがな。 儂亡き後、お前が面倒を見てやってくれ。
 ま、そんなわけでよろしく頼むは〜』
 なんて軽い感じで大事な事が書かれていた。
 これを読んだ殺戮者は密書を燃やし、遥の方を見て言った。
「チッ」
「!?なぜ今舌打ちしたのです!?」
「信長の野郎がふざけた事宣うからだ。はぁ、なんで俺がお前なんぞのお守りをしなきゃならんのだ…」
「お、お守り!?
密書になんて書いてあったんです?」
「お前のオムツを取り替えてやってくれって」
「な!な、何言ってんですか!」
 顔を真っ赤に染め、キッと殺戮者を睨みつける遥であった。
 と、そんな茶番を思い出し、また舌打ち。
「余計なことばかり増やしやがってあの野郎…」
 眼下に広がる破滅の景色の中でふと信長が笑った様な気がしてイラつく。
「…手短に終わらせるぞ」
 破滅を終焉へと向かわせる為、最後の一手を投じる。断じてストレス発散の為ではない、筈だ。おそらく、たぶん。
「俺から離れておけ」
「わかった」
「ああ…」
 珍しく殺戮者が警告を発してくれたので二人は頷き後ろに下がる。
「さぁ、宴の時間だ」
 神薙を抜刀し、刃を己の左腕に押し当てゆっくりと引く。
 
 無論、そこからは赤黒い液体がじわじわと湧き出し、腕をつたい肘に達し、溜まった血液がやがてビルから落ちていく。
 側から見ればただの自傷行為だが、殺戮者にとっては災厄の引き金だ。
「我が内に巣食う悪鬼羅刹の数々よ、今宵この宴にて現世の者共を本能のままに喰らい尽くせ!
 鬼刃一刀流・特式壱ノ型〈百鬼夜行〉!!」
 その瞬間、垂れ流されていた殺戮者の血液に変化が起きた。
 血が沸騰でもしたかのようにゴポゴポと泡立ち、容積が増えて次第に形を成していき、ある程度大きさが維持されると血で覆われた膜が消失し、中から殺戮者の言葉のままに悪鬼羅刹、魑魅魍魎が姿を現して、次々と現世に解き放たれていった。
 数分もすれば治ってきていた人々の叫び声が本格的に恐怖を纏いだし、彼等の絶望がひしひしと伝わってくる。
 すると後ろでズズッと誰かが後ずさる音がした。
「な…か、神を殺すのではなかったのか?」
 明らかにこの状況に動揺しているであろう遥が殺戮者に問う。
「…そのつもりだが、どうかしたか?」
 
 返ってくるのは、「そういう予定だろ?」というような雰囲気のもの。
「なら何故、都市の民達を襲っているのだ?」
 問い方が悪かったと思われたのか再度問われる殺戮者。
「おいおい、今更そんなこと聞くのかよ。街に火つけた時点で分かってるもんだと思っていたんだが」
 わざわざ言わせるんじゃねぇよ、と頭をガシガシと掻きながら問いに対する答えを口にする。
「まず第一に神ってのはな、人間の信仰から生まれるもんなんだよ。その信仰が強ければ強いほど神は形を成し、神格を高めていく。だから神を殺すならそれを作り出した人間の方を先に殺してしまえばいい。
 まぁこの方法は神話全てに共通するわけじゃない。中には神が人を生んだ神話体系もあるからな。因みにその場合も人間の信仰度は神の強さに比例するから若干関係はあるんだけどよ」
 答えというよりか解説と言った方がしっくりくるものが殺戮者の口から語られる。
 因みに補足をしておくと、今の殺戮者なら人間を大量に殺しまくるという面倒な工程をすっ飛ばして神を殺すことができる。なにせ彼は神話を否定することができる武器を持っているのだから。
 それでは何故、こんな回りくどいことをしているのかというと、単純に彼が人間を殺したいだけ、というのに尽きる。
 もともと彼は人類を終わらせる為に自ら剣を手に取ったのであって神を殺すことに関しては二の次に過ぎないのである。
 まぁ、そんなことを知るはずもない遥にとってはただ単に恐怖を感じさせることになるだけだが。
「履き違えるなよ異世界人。俺は、殺戮者だ。この星を害するものは誰であろうと何であろうと俺が殺す。」
 彼の紅い目が細められ、真っ直ぐに遥を睨みつける。流石の織田五大将といえどもそれに慄くのは致し方なかった様だ。
「…ならば我を切って見せよ」
 突如、さらに後方から声が掛けられる。殺戮者達にはまったく聞き覚えのない声だ。
 その声からはどこか気品というか傲慢さが感じられたのである程度、相手は察せられる。
 殺戮者の口がニヤリと弧を描いた。紅い目を怪しく光らせ遥のいる場所からさらに後方を見やる。
 屋上の出入り口付近に立つ声の主は、殺戮者の視線を一身に受ける。決して逸らそうとしないのは、プライド故か。もしくは…
「我が社で狼藉を働くか愚か者共。その不敬は万死に値するぞ。」
「知るかよ、んなもん」
 我が社、その言葉に込められた意味は他でもなく神を指すものだ。しかもこの出雲大社を「我が社」と主張するのはこの国に二人といない。
 即ち神名は、オオクニヌシ。
 現在ではこの国の内政のトップだ。
 そしてこれからそんな相手との戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。
 都市には逃げ惑う人々が右往左往して溢れかえり、また都市の安全を守る者達は、四苦八苦しながらも消化活動に従事している。部署部門に関わらず消防士、自衛官、警察官等が協力し合ってはいるのは流石というべきなのだが時に意見がぶつかって怒声をあげたり、絶叫をあげたり、混沌と化しているのもまた事実だ。
 それもこれも統制が取れていないのが原因ではあるのだが、統制が取りづらい街づくりにしたのも問題があると言えるだろう。
 まず統制が取りづらい一番の理由はこの都市を治めるものが誰かを考えれば即座に察することができる。
 即ち神だ。
 だがそれも平常時に限る話である。この戦争が本格化している現在、まとめ役である神はそのほとんどが出払っている。非常時の為に統率者を決めて養っておかなかったのは神の慢心故だろうか。
 そしてそんなこの都市の最大の弱点を突いたのが、全人類の敵たる殺戮者だ。
 神領都市・出雲に一番高くそびえ立つ高層ビルのごとき社。おそらく昨年改修された出雲大社の屋上で殺戮者は静かにこの都市の行く末を見下ろしていた。
 隣に並ぶ二人の人物とともに。
 一人は薄汚れた作業着に赤い羽織を着たオッサン。もう一人は小柄な忍び装束を着ている少女。年齢は離れてはいるがれっきとした殺戮者の仲間のようだ。
「しっかし驚きだなぁ。信長の奴が使いを寄越すなんてよ」
「光栄に思え。親方様がお主らを盟友と認めたという証だ」
「勝手に盟友にしてんじゃねぇよ。今回はたまたまお前らとやる事が被っただけだ」
 オッサン、もとい武器商人の言葉を皮切りに忍びの少女、もとい楽漣 遥が信長の代弁をするが殺戮者が切って捨てる。
 遥との出会いはついこの間。石見銀山遺跡で開戦間際の騒動を隠れてやり過ごそうとしていたところを彼女に見つかり、信長が持たせていた密書を渡され今に至る形だ。
 密書の内容は簡単なものだった。暇なら神を殺せ、だ。
 無論、最初からそうするつもりだった殺戮者は信長の言葉に少しイラっとし、密書を破り捨てた。
 だが、奴にはそれすらも計算内だったらしく、すぐに遥から2枚目の密書が手渡される。
 そこに書かれていたのは−
『人の話は最後まで読め、バカ者。
あとそこにいる楽漣 遥のことなんじゃが、そやつは儂の孫じゃ。本人は知らぬがな。 儂亡き後、お前が面倒を見てやってくれ。
 ま、そんなわけでよろしく頼むは〜』
 なんて軽い感じで大事な事が書かれていた。
 これを読んだ殺戮者は密書を燃やし、遥の方を見て言った。
「チッ」
「!?なぜ今舌打ちしたのです!?」
「信長の野郎がふざけた事宣うからだ。はぁ、なんで俺がお前なんぞのお守りをしなきゃならんのだ…」
「お、お守り!?
密書になんて書いてあったんです?」
「お前のオムツを取り替えてやってくれって」
「な!な、何言ってんですか!」
 顔を真っ赤に染め、キッと殺戮者を睨みつける遥であった。
 と、そんな茶番を思い出し、また舌打ち。
「余計なことばかり増やしやがってあの野郎…」
 眼下に広がる破滅の景色の中でふと信長が笑った様な気がしてイラつく。
「…手短に終わらせるぞ」
 破滅を終焉へと向かわせる為、最後の一手を投じる。断じてストレス発散の為ではない、筈だ。おそらく、たぶん。
「俺から離れておけ」
「わかった」
「ああ…」
 珍しく殺戮者が警告を発してくれたので二人は頷き後ろに下がる。
「さぁ、宴の時間だ」
 神薙を抜刀し、刃を己の左腕に押し当てゆっくりと引く。
 
 無論、そこからは赤黒い液体がじわじわと湧き出し、腕をつたい肘に達し、溜まった血液がやがてビルから落ちていく。
 側から見ればただの自傷行為だが、殺戮者にとっては災厄の引き金だ。
「我が内に巣食う悪鬼羅刹の数々よ、今宵この宴にて現世の者共を本能のままに喰らい尽くせ!
 鬼刃一刀流・特式壱ノ型〈百鬼夜行〉!!」
 その瞬間、垂れ流されていた殺戮者の血液に変化が起きた。
 血が沸騰でもしたかのようにゴポゴポと泡立ち、容積が増えて次第に形を成していき、ある程度大きさが維持されると血で覆われた膜が消失し、中から殺戮者の言葉のままに悪鬼羅刹、魑魅魍魎が姿を現して、次々と現世に解き放たれていった。
 数分もすれば治ってきていた人々の叫び声が本格的に恐怖を纏いだし、彼等の絶望がひしひしと伝わってくる。
 すると後ろでズズッと誰かが後ずさる音がした。
「な…か、神を殺すのではなかったのか?」
 明らかにこの状況に動揺しているであろう遥が殺戮者に問う。
「…そのつもりだが、どうかしたか?」
 
 返ってくるのは、「そういう予定だろ?」というような雰囲気のもの。
「なら何故、都市の民達を襲っているのだ?」
 問い方が悪かったと思われたのか再度問われる殺戮者。
「おいおい、今更そんなこと聞くのかよ。街に火つけた時点で分かってるもんだと思っていたんだが」
 わざわざ言わせるんじゃねぇよ、と頭をガシガシと掻きながら問いに対する答えを口にする。
「まず第一に神ってのはな、人間の信仰から生まれるもんなんだよ。その信仰が強ければ強いほど神は形を成し、神格を高めていく。だから神を殺すならそれを作り出した人間の方を先に殺してしまえばいい。
 まぁこの方法は神話全てに共通するわけじゃない。中には神が人を生んだ神話体系もあるからな。因みにその場合も人間の信仰度は神の強さに比例するから若干関係はあるんだけどよ」
 答えというよりか解説と言った方がしっくりくるものが殺戮者の口から語られる。
 因みに補足をしておくと、今の殺戮者なら人間を大量に殺しまくるという面倒な工程をすっ飛ばして神を殺すことができる。なにせ彼は神話を否定することができる武器を持っているのだから。
 それでは何故、こんな回りくどいことをしているのかというと、単純に彼が人間を殺したいだけ、というのに尽きる。
 もともと彼は人類を終わらせる為に自ら剣を手に取ったのであって神を殺すことに関しては二の次に過ぎないのである。
 まぁ、そんなことを知るはずもない遥にとってはただ単に恐怖を感じさせることになるだけだが。
「履き違えるなよ異世界人。俺は、殺戮者だ。この星を害するものは誰であろうと何であろうと俺が殺す。」
 彼の紅い目が細められ、真っ直ぐに遥を睨みつける。流石の織田五大将といえどもそれに慄くのは致し方なかった様だ。
「…ならば我を切って見せよ」
 突如、さらに後方から声が掛けられる。殺戮者達にはまったく聞き覚えのない声だ。
 その声からはどこか気品というか傲慢さが感じられたのである程度、相手は察せられる。
 殺戮者の口がニヤリと弧を描いた。紅い目を怪しく光らせ遥のいる場所からさらに後方を見やる。
 屋上の出入り口付近に立つ声の主は、殺戮者の視線を一身に受ける。決して逸らそうとしないのは、プライド故か。もしくは…
「我が社で狼藉を働くか愚か者共。その不敬は万死に値するぞ。」
「知るかよ、んなもん」
 我が社、その言葉に込められた意味は他でもなく神を指すものだ。しかもこの出雲大社を「我が社」と主張するのはこの国に二人といない。
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