噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

107 遊撃戦終結後

 織田軍、出雲侵略部隊隊長である矢帝天子が世界調停機関《最低》に討たれ、その他の残党もすべて倒されたのちに調停機関は各所の報告の後、もう一度、会議を開くこととなった。

 議題はずばり、『《最低》行方不明の件について』である。

 まさかの展開に《最善》すらも理解が追いついていない状況で、機関職員は混乱しかかっていた。

「ま、まず状況を整理しよう!」

 戦いが始まる前はあれほどローテンションだったというのに今では完全にいつもの調子に戻ったようで、眼鏡をクイッとしながら騒然とする会議室をその一言で静める。

「矢帝天子が討たれる数分前に《最高》の信号が途絶えたまでは良しとしよう…」

「おい全然良くねぇだろ。大体なんで《最低》が生き残って《最高》が死んでるんだよ。話と違うぞ」

 《最強》が率直な疑問を口にして、《最善》に解を求める。

 「それに関しては、なんとも言えん。あいつらが自分達の運命を変えたとしか…な」

「あの二人が互いの神秘でお前の二択を覆した、ということか」

 《最強》の補足にう〜んと首を傾げる《最善》。どうやら少し的を外しているようだ。

「いや、この場合は覆したんじゃなくて…一方的に庇った、のか?」

「俺に聞かれてもわからんぞ」

 かといって彼自身、断言もできないようで最後の最後で疑問形になっていた。

「と、兎に角だ。《最高》が殺され、《最低》が矢帝天子に勝った。これだけがわかっていれば今はいい。
問題は−」

「そこから一体何があったか、だな」

 とりあえず結果だけをまとめて、本題に入ることにする。

「となると、《最憶》に聴くしかないな。《最憶》は今どこにいる?」

「忘れたのか?彼なら矢帝にやられて、今、《最医》が治療している最中だ」

「そういえば…そうだったな…」

 過去の状況を把握するなら《最憶》キーシュタインの神秘が一番手っ取り早いと思い、彼を呼び出そうとするが、《最善》の報告を受け、それが叶わないと知る。

「じ、じゃあ、《最目》は?」

「あいつは今、カウンセリング受けてて神秘が使えない。…八方塞がりだな。地道に模索するしかあるまい…」

「おい、アイツが使えないのって未来視だけだったはずだろ!?」

「ああ、それだけの筈だった。だが、なんの酔狂かアイツはもう一度、そのトラウマのシーンを過去視で見ちまったんだよ」

「アイツ馬鹿だろ…」

 《最目》が当人の知らないところでかなりディスられていた。
 会議室も先程から微妙な雰囲気だ。

「…ん〜〜〜〜…あ!
 《最術》の魔術か魔法に過去見るやつあったりしないか?!」

 ひらめいた、といった感じに立ち上がった《最強》。期待の眼差しを窓側の席に座る少年に送る。

「残念だけど、魔力切れだ。神サマを使役するのはかなり疲れるんだよ」

 《最術》は頬杖をつきながらだるそうに呟いた。背後に控えている神、ツクヨミを指差しながら。

「あーちくしょう、打つ手なしか〜他になんかないか?」

 頭を抱えながらも《最強》は次を模索する。もはや地道にコツコツと調べた方が速いというのに悪足掻きを彼はやめない。それだけ楽がしたいのだ。

「もう既に最善の案は出ている」
「なんだ!?教えてくれよ!」

 眼鏡をクイッとしながら結論は出た、と発する《最善》に《最強》はめちゃくちゃ食い付いた。

 「簡単だ。アナログ方式でやるしかない」

 そして現実を突きつける。もはや逃げ道はないと。

「断固拒否だ」

 即断した。だが、もう手はないわけで。

「じゃ、後回しだ。先に信長を倒しちまおう!」

 軽い流れで保留にされる《最低》。そして今後の行動内容を練り始める。

「おい、一応《最低》も到達者なんだから機密の一つ二つ持ってるだろ。それを流用されては困る」

 《最善》が捜索をするべきだと唱えるが、もう《最強》の耳には入らない。

「アイツはアイツなりの考えがあるんだよ、きっと。それに今から死地へ向かおうとしてる奴にそんな仕事してる暇はないんでな」

 それはあとの奴に任せるよ、と誰にも聞こえないくらいの声量で呟いた。
 その後、咳払いを一つし、《最善》と共に信長討伐作戦の概要を説明するのだった。

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