噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

87 新名神攻防戦 その3

 桜夜達、先行組が目指している安楽峠、そこには既に織田の軍勢200が布陣しており、残りの100と部隊長である織田五大将・未智咲は、尖兵団が次の中間拠点として予定していた亀山西ジャンクションに本陣を置いていた。

 織田軍がここに陣を張ってもう2時間は経過している。出陣が一昨日の昼頃なのだが一体どうやって300もの軍勢をたった1日半でここまで動かすことが出来たのか、それは…

「いやぁ、まさか築城する時の資材運搬路がまだ生きていたとは思いませんでしたよ。おかげで予定より早くここへ到着することが出来ました。流石は五大将の中でも知に優れた未智咲殿ですな」

「…そうでもないわ。以前ここを散歩していた事があったから偶々頭に残っていただけ」

 本陣天幕の中で、未智咲と副隊長が言葉を交わしている。

 信長と一緒にいるときとは、全然違う冷たい口調と一辺も緩まない表情。状況が状況だけにいつもの態度を慎んでいると思われるかもしれないが、そんなことはない。この人、外では結構猫かぶってます。本人は否定しているが…

「2時間毎にローテーションで100ずつここで休憩をとらせているけど、あんたは大丈夫なの?ここに来てずっと働き詰めみたいだけど」

「ご心配いただき、ありがとうございます。ですが私ならこの通り、丈夫ですので」

 そう言って副隊長は自分の右腕を曲げ、力こぶを作るが…

「あんたのその細腕は、とても丈夫とは言えないわよ。いいから休みなさい」

 未智咲は椅子に敷いてあった毛布を掴み、それを副隊長へと投げ渡す。彼はそれを細腕らしい緩やかな動作でキャッチした。

「ではお言葉に甘えさせていただきます」

 副隊長は一礼し、天幕を去っていく。ちょっとだけ嬉しそうだった。

 実は一般家臣の視点からこの未智咲の信長と一緒にいれなくて不機嫌そうながらも、面倒見の良いところは大変好評で、そのためだけに無理な業務をこなしたり、どんくさい事をしたりする者が数多くいたりする。どうやら副隊長もその内の一人のようだ。

 しかも当の本人は自覚していないため、たま~に信長との関係をあまり知らない者が誤解して彼女に迫り、信長に処断されるなんてことも異世界にいた頃、多々あった。

 家臣達の間では、勘違い野郎製造機なんて二つ名もあったりなかったり…

 そんなことはさて置き。
 未智咲も少し足が疲れたのか、近くの椅子に腰掛け、数秒後。

「信長様……」

 いつもなら恥ずかしくて名前で呼ぶことは無いのだが、心の声が口から出てしまっている。さらに普段彼の前では絶対しないであろううっとりした表情とニヤけ顔が相まって、女の子がしちゃいけない顔になっている。

 この子、一人でいるときが一番危ない。

 しばらくして、やっと夢想の彼方から帰ってきたらしく、未智咲は頬を少し朱に染めながらも元の凛とした表情に戻っていた。いや、前言撤回。表情は戻っても、自身の身体を抱きかかえ悶えている。

「あいつったらまさかあんな事までするなんて」

 一体、想像の中で信長は何をしたのか……すごく気になるが……

「ううん、それは後のお楽しみにして、問題はあいつが出陣前に言ってたスキルを過信するなってことよ」

 お楽しみの内容がめちゃくちゃ気になるところだが、気を取り直して、出発した時からずっと気になっていたことを口にする。

「そりゃ確かにあいつが元いたこの世界には無い概念だけど……私は今、あいつがいた世界に……じゃなくて、スキル自体は私の世界に古くから伝わるれっきとした人の器を計るためのもので………あいつ、スキルをどれだけ持っているのか知らないけど器大き過ぎ………じゃなくて…」

 未智咲さん、どうやら信長を一々挟まないと考えられないらしい。しかも信長のところになるといつも悶えていらっしゃる。

 こうなると説明力は皆無なので、こちらでスキルについて述べておく。

 スキルとは、以前信長も述べていたとおり覚悟への対価のことである。理屈では異世界で何かしらの強い覚悟をするとその世界の法則に則り対価としてスキルが発現するという仕組みだ。

 例を挙げるなら、とある男が窮地に追い込まれ死を覚悟したとする。その途端、覚悟の強弱にもよるが世界がその男にチャンスを与えるのだ。そのチャンスこそがスキル。それを使って窮地を自身の力だけで覆すことが出来れば、スキルを正式に獲得できる。因みに窮地を覆せなければ、この場合死ぬ。

 なぜスキルが発現するのかは諸説ある。
人間の生存本能の具現化であったり、この世界の神々が簡単に死んでしまう人間への救済処置として定めたとも。

 まあ、これを話すと切りがないので、実用面の話に移る。

 スキルは覚悟をすると仮獲得でき、その覚悟を強いられた場面を覆すと真に獲得できると述べたが、いくらなんでも無限にという訳ではない。スキルの獲得限界数は人間の器の大きさに比例している。

 弱い人間がどれだけ覚悟しても、獲得は出来るだろうが複数個手に入れられるかはその人間の器によるということだ。

 一度、真に獲得すると後は自由に使うことが出来るので、スキルの効果によっては使い勝手がいいものもあるらしい。

 無論、スキルはその人間にとって切り札となり、生命線にもなり得るので、余程のことがない限り明かすものではないため、互いのスキルを理解し合っている者達がいれば、それはかなり信頼関係が出来ている証でもある。

 そして信長の懸念は、そんな自身の覚悟の賜物を信じ切るなということだ。若干、自身を否定されているような言い回しだが、未智咲も信長の言いたいことはわかる。

「自分の力を過信して、驕るなってことは理解出来るけど…」

 それでも彼女は…

「やっぱりあいつには、強い私を見てもらいたい…」

 そう呟くが、それは遠き地にいる彼には聞こえない。ならば…

「なら…結果で示すしかないじゃない…」

 少し潤んだその瞳を一際強く輝かせて、彼女は”覚悟”する。もちろんここは、自分達がいた世界ではないためスキルが発現することはない。しかし、彼女の内に秘める思いがさらに強まったのは確かだ。


 そしてそのすぐ後、彼女らは日本神話尖兵団第一部隊の先行組と接敵するのだった。


メリークリスマス!………と言いたかった…

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