噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神
86 新名神攻防戦 その2
明朝、遙か彼方の地平線に朝日が滲むと、それを合図に新名神亀山ジャンクションでは大型トレーラーの荷台に乗ったアメノウズメが両手で八咫の鏡を抱えるように持ち、その背後に控えた巫女たちが篠笛、和太鼓、神楽鈴でゆったりとした曲調を奏でそれに合わせて、神楽を奉納し始める。
すると、行軍のため整列している尖兵団第一部隊のさらに10メートル前方にうっすらとだが光の幕が形成された。また規模としては術者であるウズメを中心に半径1,5キロ四方に展開されている。
これが今回侵攻の要となる『鏡面結界』だ。本来、鏡面結界の儀式は十数人もの巫女がそれぞれ神器級の鏡を用いて、神楽を寸分の狂いなくシンクロさせることで初めて実用に至るという極めて難易度が高く現実的でない儀式なのだが、流石は芸能神。ウズメには一人で事足りてしまい、いとも簡単にこなしてしまえる。
あとはウズメが一定の間隔で神楽を舞い続けることにより維持され、尖兵団を織田軍の遠距離攻撃から守護してくれることだろう。
しかし空間遮断結界としての機能はそこまでなので、遠距離から近距離の白兵戦へ移行すればほとんど意味がなくなってしまう。なので尖兵団としてはそれまでに三子山の安楽峠付近の亀山西ジャンクションまで侵攻し、遮断結界用の中継点を新たに作成したいところだ。
そんな事を頭で考えつつ、スサノオは尖兵団第一部隊の先行組に行軍開始の命令を出す。
「桜夜! いっちょ派手に暴れてこい!」
「おいおい、敵陣はまだ先だぞ?」
「それぐらい知っとるわ! こういうのは気分が大事なんだ!気分が!」
「気分ねぇ…」
先行組の隊長を務めるのはもちろん桜夜だ。もう既に先日の傷は癒えているらしく、ピンピンしている。スサノオの激励?に納得がいなかなそうだが、まぁいつものことだと思って流す。
「そういや…叢雲の剣は持ってかなくていいのか?……というか何処にあるんだ?」
あれだけ苦労して出雲まで運んだのに、結局最後にはスサノオが何処かへ持って行ってしまった天叢雲剣。それをスサノオに問うが…
「ああ、叢雲なら今、伊勢神宮だ」
「ん?伊勢で何してるんだ?」
「姉貴に頼んで神聖力を込めて貰ってる。たぶん充填され次第、天から降ってくるんじゃねぇか?」
「なんで!?」
スサノオの最後の台詞はマジなのか冗談なのか……しかし神ならやりかねん、と遠い目をし観念する桜夜。
なんとか気を取り直して会話の中で気になる単語が出てきたので聴いてみることに。
「なぁ『神聖力』ってなんだ?」
「え~と神聖力ってのは神聖な魔力のことで…」
桜夜がスサノオから聴いた神聖力についてまとめておく。
神聖力とは、スサノオの言ったとおり神聖な魔力のことだ。しかし誰でもその神聖な魔力が練れるわけではない。この魔力を放出する事が出来るのは神話の神々がほとんどであり、人間がこの魔力を有することはかなり稀だ。世界に片手の指しか存在しない聖人のうち、ほんの一握りと言ったところだろう。
また相性的には神聖力は通常の魔力を浄化することができ、死神特有の魔力である死法力とは正と負という関係性があるため互いに打ち消しあう。殺戮者の有する呪詛については正体不明なので、実際に殺り合ってみないとわからない、とのことだ。
「じゃあ、その神聖力ってのを叢雲に込めたらどうなるんだ?」
神聖力についてある程度、理解したらしい桜夜は、今実際に行われているであろうことの結果に興味を持つ。
そしてそれを待っていたといわんばかりのニヤついた顔で、スサノオは語る。
「それについては、神器の起こりから話した方がわかりやすいと思うから、そちらを先に説明しよう」
「まず、神器とは…」
神器とは、大きく分けて二つに分類される。一つは、神々が自身らの繁栄の為に産み出した神格を有する各種武具、道具。それらを総称して神造物類。
もう一つは、大自然が形作った、叉は大自然が自身の身を守るため封印した神格を有する各種武具や道具。こちらを前述に対し、星造物類という。
その内、神聖力との整合性が高いのが、言わずもがな神造物類だ。
では、神造物類の神器に神聖力を注ぎ込むとどうなるのか。それは神器に内包されている権能の解放を意味する。
もちろん使用者が神の場合、神聖力は常に注がれているため、あまり気にしなくてもいいのだが、使用するのが人間の場合、話は変わってくる。
先程、神聖力の説明でも述べたとおり、人間で神聖力を持つのは一部の聖人だけだ。そうなれば他の一般人がいくら神器を持っていても、それはただ年期が入った扱いづらい骨董品に過ぎず、市販の物の方が使い勝手がいいだろう。
だが一度、神聖力を神から援助されれば、その途端に神器は本来の力を示し始めるだろう。
今、ウズメによって行われている神楽。それに使われている神器・八咫の鏡も長年、伊勢に奉納されていたので神聖力は十分の筈である。ちなみにこの鏡の権能を発動した場合は『魅する』という人を惹きつける力が顕れる。
また神聖力があったとしても最終的にはその力を使いこなせるか否かが重要となってくる。要は使用者の技量が試されるわけだ。ウズメの踊り子としての技量は説明する必要もないだろう。
しかし使用者の技量が権能を御せ切れない場合、神器は暴走する。これに関しては、神聖力と神器との相性が良すぎるということもあり、未然に防ぐ術がない。暴走を鎮めるための神器もあるにはあるのだが、そちらも暴走する条件は同じなため、確実性を確保するには神々の協力が必要だ。
ならば神聖力を叢雲に込めるとどうなるのか、今まで述べてきたことを踏まえながら説明しよう。
最初に天叢雲剣の起こりについて。
叢雲は当初、出雲に棲んでいた頭が八つに尾が八つの怪物、八岐大蛇の体内に封印されていた。その後、オロチを退治したスサノオが叢雲を発見し、姉であるアマテラスに献上。神界にある高天原でその複製として草薙の剣が鋳造された、とこんな感じの流れである。
そしてここから導き出されるのは、天叢雲剣は誰が何のために造ったのか関係なくヤマタノオロチという大自然に『封印』されていた為、星造物類の神器ということだ。
次に星造物類の神器と神聖力の関わりについて。
つい先程、神造物類は神聖力との整合性が高いと記したが、星造物類の場合、整合性が無いわけではない。極めて低い状態ということだ。その為、効率がかなり悪くなるが神聖力を力業で込めることが出来る。
これは神聖力が持つ相性の話でも言ったが、神聖力は通常の魔力を侵食するため、死神特有の魔力、死法力が神器に込められていない限り、特に問題なく神聖力を込められる。
ならばなぜ整合性が低いのか、それは封印されていたことに理由があるからだ。まず前提として、大自然は自身の身を守るために神器を封印している事を忘れてはならない。即ち封印されるということは、大自然に脅威と判定されるだけの神格、叉は権能を有しているということであり、それは神造物類が持っている権能を遥かに凌ぐことは明白。
そしてそれらの力を神聖力を使って発動させようとするならば、必要量が神造物類より多いのは道理である。
さらに大自然の長期間にわたる封印により、神聖力への抵抗が生じている為でもある。
例外として、とある運命の英単語でお馴染みの、かの有名作品に登場する金ピカのAUOが保有する乖離剣。あれをこれらの条件に当てはめれば神造物類だが、乖離剣そのものが作られた時期が神代の初期であり、また当時の神々は大自然と同一視されていたことも考慮すると、星造物類が有する権能に匹敵する力かそれ以上のものを持っているだろう。それが全力で放たれた時、人類が、世界がどうなるかは、察していただきたい。
しかしあの作品では抑止力が働くため、星に大規模な破壊を及ぼすことは不可能だ。だが現実世界にそんな好都合なものはない。もしあったとしたら、神々の再降臨は起きておらず、こんな事にもなっていなかっただろう…
話を戻すが…
最終的に、叢雲に神聖力を込めることに関しては時間が解決してくれるということではある。だが、はたして桜夜にそれらを制御できるほどの技量はあるのか…
「班長! 準備、終わりました。いつでもいけます!」
「お、おう。今いく! すみません師匠、また今度聴かせてください」
「ああ、気をつけてな」
しかしその結論を出す前に、桜夜班の出発準備が整ったらしく、班長である桜夜に声がかかった。無論、無視するわけにもいかないので、渋々その声に応じる形になり、スサノオの解説は中途半端なまま御開きになった。
数分後、桜夜班と舞泉班を中心にして構成された先行組は、偵察役として鏡面結界を抜け、まずは第一次戦線となるであろう滋賀と三重の県境である三子山の安楽峠へと出発した。
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
話が全然進まないのはいつものことですが、説明が多すぎるのは……(言い訳に困った)……フラグ乱立時代が訪れたからです!(大嘘)
今回、多々脱線はあれどこの作品における神器の扱いは、確定したかと思います。そしてこれから天叢雲剣を桜夜はどのように使っていくのか、気になるところ。
さらに、今話から死神特有の魔力を『死法力』と表記させていただきます。説明は、もうこりごりなのでまた今度に…
そしてこの事についてアドバイスを下さった読者の方、ありがとうございます! 励みになりますので、これからもご意見ご感想等、よろしくお願いします。
すると、行軍のため整列している尖兵団第一部隊のさらに10メートル前方にうっすらとだが光の幕が形成された。また規模としては術者であるウズメを中心に半径1,5キロ四方に展開されている。
これが今回侵攻の要となる『鏡面結界』だ。本来、鏡面結界の儀式は十数人もの巫女がそれぞれ神器級の鏡を用いて、神楽を寸分の狂いなくシンクロさせることで初めて実用に至るという極めて難易度が高く現実的でない儀式なのだが、流石は芸能神。ウズメには一人で事足りてしまい、いとも簡単にこなしてしまえる。
あとはウズメが一定の間隔で神楽を舞い続けることにより維持され、尖兵団を織田軍の遠距離攻撃から守護してくれることだろう。
しかし空間遮断結界としての機能はそこまでなので、遠距離から近距離の白兵戦へ移行すればほとんど意味がなくなってしまう。なので尖兵団としてはそれまでに三子山の安楽峠付近の亀山西ジャンクションまで侵攻し、遮断結界用の中継点を新たに作成したいところだ。
そんな事を頭で考えつつ、スサノオは尖兵団第一部隊の先行組に行軍開始の命令を出す。
「桜夜! いっちょ派手に暴れてこい!」
「おいおい、敵陣はまだ先だぞ?」
「それぐらい知っとるわ! こういうのは気分が大事なんだ!気分が!」
「気分ねぇ…」
先行組の隊長を務めるのはもちろん桜夜だ。もう既に先日の傷は癒えているらしく、ピンピンしている。スサノオの激励?に納得がいなかなそうだが、まぁいつものことだと思って流す。
「そういや…叢雲の剣は持ってかなくていいのか?……というか何処にあるんだ?」
あれだけ苦労して出雲まで運んだのに、結局最後にはスサノオが何処かへ持って行ってしまった天叢雲剣。それをスサノオに問うが…
「ああ、叢雲なら今、伊勢神宮だ」
「ん?伊勢で何してるんだ?」
「姉貴に頼んで神聖力を込めて貰ってる。たぶん充填され次第、天から降ってくるんじゃねぇか?」
「なんで!?」
スサノオの最後の台詞はマジなのか冗談なのか……しかし神ならやりかねん、と遠い目をし観念する桜夜。
なんとか気を取り直して会話の中で気になる単語が出てきたので聴いてみることに。
「なぁ『神聖力』ってなんだ?」
「え~と神聖力ってのは神聖な魔力のことで…」
桜夜がスサノオから聴いた神聖力についてまとめておく。
神聖力とは、スサノオの言ったとおり神聖な魔力のことだ。しかし誰でもその神聖な魔力が練れるわけではない。この魔力を放出する事が出来るのは神話の神々がほとんどであり、人間がこの魔力を有することはかなり稀だ。世界に片手の指しか存在しない聖人のうち、ほんの一握りと言ったところだろう。
また相性的には神聖力は通常の魔力を浄化することができ、死神特有の魔力である死法力とは正と負という関係性があるため互いに打ち消しあう。殺戮者の有する呪詛については正体不明なので、実際に殺り合ってみないとわからない、とのことだ。
「じゃあ、その神聖力ってのを叢雲に込めたらどうなるんだ?」
神聖力についてある程度、理解したらしい桜夜は、今実際に行われているであろうことの結果に興味を持つ。
そしてそれを待っていたといわんばかりのニヤついた顔で、スサノオは語る。
「それについては、神器の起こりから話した方がわかりやすいと思うから、そちらを先に説明しよう」
「まず、神器とは…」
神器とは、大きく分けて二つに分類される。一つは、神々が自身らの繁栄の為に産み出した神格を有する各種武具、道具。それらを総称して神造物類。
もう一つは、大自然が形作った、叉は大自然が自身の身を守るため封印した神格を有する各種武具や道具。こちらを前述に対し、星造物類という。
その内、神聖力との整合性が高いのが、言わずもがな神造物類だ。
では、神造物類の神器に神聖力を注ぎ込むとどうなるのか。それは神器に内包されている権能の解放を意味する。
もちろん使用者が神の場合、神聖力は常に注がれているため、あまり気にしなくてもいいのだが、使用するのが人間の場合、話は変わってくる。
先程、神聖力の説明でも述べたとおり、人間で神聖力を持つのは一部の聖人だけだ。そうなれば他の一般人がいくら神器を持っていても、それはただ年期が入った扱いづらい骨董品に過ぎず、市販の物の方が使い勝手がいいだろう。
だが一度、神聖力を神から援助されれば、その途端に神器は本来の力を示し始めるだろう。
今、ウズメによって行われている神楽。それに使われている神器・八咫の鏡も長年、伊勢に奉納されていたので神聖力は十分の筈である。ちなみにこの鏡の権能を発動した場合は『魅する』という人を惹きつける力が顕れる。
また神聖力があったとしても最終的にはその力を使いこなせるか否かが重要となってくる。要は使用者の技量が試されるわけだ。ウズメの踊り子としての技量は説明する必要もないだろう。
しかし使用者の技量が権能を御せ切れない場合、神器は暴走する。これに関しては、神聖力と神器との相性が良すぎるということもあり、未然に防ぐ術がない。暴走を鎮めるための神器もあるにはあるのだが、そちらも暴走する条件は同じなため、確実性を確保するには神々の協力が必要だ。
ならば神聖力を叢雲に込めるとどうなるのか、今まで述べてきたことを踏まえながら説明しよう。
最初に天叢雲剣の起こりについて。
叢雲は当初、出雲に棲んでいた頭が八つに尾が八つの怪物、八岐大蛇の体内に封印されていた。その後、オロチを退治したスサノオが叢雲を発見し、姉であるアマテラスに献上。神界にある高天原でその複製として草薙の剣が鋳造された、とこんな感じの流れである。
そしてここから導き出されるのは、天叢雲剣は誰が何のために造ったのか関係なくヤマタノオロチという大自然に『封印』されていた為、星造物類の神器ということだ。
次に星造物類の神器と神聖力の関わりについて。
つい先程、神造物類は神聖力との整合性が高いと記したが、星造物類の場合、整合性が無いわけではない。極めて低い状態ということだ。その為、効率がかなり悪くなるが神聖力を力業で込めることが出来る。
これは神聖力が持つ相性の話でも言ったが、神聖力は通常の魔力を侵食するため、死神特有の魔力、死法力が神器に込められていない限り、特に問題なく神聖力を込められる。
ならばなぜ整合性が低いのか、それは封印されていたことに理由があるからだ。まず前提として、大自然は自身の身を守るために神器を封印している事を忘れてはならない。即ち封印されるということは、大自然に脅威と判定されるだけの神格、叉は権能を有しているということであり、それは神造物類が持っている権能を遥かに凌ぐことは明白。
そしてそれらの力を神聖力を使って発動させようとするならば、必要量が神造物類より多いのは道理である。
さらに大自然の長期間にわたる封印により、神聖力への抵抗が生じている為でもある。
例外として、とある運命の英単語でお馴染みの、かの有名作品に登場する金ピカのAUOが保有する乖離剣。あれをこれらの条件に当てはめれば神造物類だが、乖離剣そのものが作られた時期が神代の初期であり、また当時の神々は大自然と同一視されていたことも考慮すると、星造物類が有する権能に匹敵する力かそれ以上のものを持っているだろう。それが全力で放たれた時、人類が、世界がどうなるかは、察していただきたい。
しかしあの作品では抑止力が働くため、星に大規模な破壊を及ぼすことは不可能だ。だが現実世界にそんな好都合なものはない。もしあったとしたら、神々の再降臨は起きておらず、こんな事にもなっていなかっただろう…
話を戻すが…
最終的に、叢雲に神聖力を込めることに関しては時間が解決してくれるということではある。だが、はたして桜夜にそれらを制御できるほどの技量はあるのか…
「班長! 準備、終わりました。いつでもいけます!」
「お、おう。今いく! すみません師匠、また今度聴かせてください」
「ああ、気をつけてな」
しかしその結論を出す前に、桜夜班の出発準備が整ったらしく、班長である桜夜に声がかかった。無論、無視するわけにもいかないので、渋々その声に応じる形になり、スサノオの解説は中途半端なまま御開きになった。
数分後、桜夜班と舞泉班を中心にして構成された先行組は、偵察役として鏡面結界を抜け、まずは第一次戦線となるであろう滋賀と三重の県境である三子山の安楽峠へと出発した。
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
話が全然進まないのはいつものことですが、説明が多すぎるのは……(言い訳に困った)……フラグ乱立時代が訪れたからです!(大嘘)
今回、多々脱線はあれどこの作品における神器の扱いは、確定したかと思います。そしてこれから天叢雲剣を桜夜はどのように使っていくのか、気になるところ。
さらに、今話から死神特有の魔力を『死法力』と表記させていただきます。説明は、もうこりごりなのでまた今度に…
そしてこの事についてアドバイスを下さった読者の方、ありがとうございます! 励みになりますので、これからもご意見ご感想等、よろしくお願いします。
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