噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神
82 信長の策・《最強》の覚悟
時は同じく滋賀は安土城にて。
城主である織田信長は、自身の居室にて静かに報せを待っていた。
しばらくして下方が慌ただしくなり、やがて家臣の一人が入ってくる。伝令役と思しき男は膝をつき息も絶え絶えに口を開く。
「申し上げます! 首都出雲で殺戮者と思われる人物が、武器庫を襲撃し、これを破壊。日本神話は我々からの攻撃だと判断し、尖兵団の安土城侵攻が開始されました!」
「そうか…ついに始まったか……」
信長は黙し、次の手を打つべく思考を回し始める。
(やはり儂の思惑通り殺戮者が開戦の合図となり、出雲を引っ掻き回したか……して、これからどう出るか……このまま予定通り作戦を実行してもよいが……それだと面白さに欠けるしのぉ…)
信長が一体どんな策を練っていたのかわからないが、今の考えのみで察すると、これだけは言える。絶対碌なものじゃない。
そしてそれは内心だけであり外には一切片鱗を見せていないのにも関わらず、伝令役の男は密かに冷や汗を流している。
(これぜってぇ、ヤバそうなやつだよなぁ……)
流石は異世界にいた頃より信長に忠義を尽くしてきただけあって、それくらい理解できてしまうらしい。
伝令役でこれくらい分かるというのなら、側近である蘭丸や織田五大将の苦労は計り知れないものだろう。
数秒後、策を練れたのか信長はゆっくりと口を開いた。それを傾聴する伝令。手にはメモ帳とボールペンを持っている。
「出雲からここまでは、おそらく吉田にある飛行場を使って空から来るであろう。だが奴等も馬鹿ではない。一度、二手に別れ一方は兵庫の姫路城、もう一方は三重の伊勢神宮に陣を張り、こちらの様子を窺ってくる、と儂のスキルが言っておる。じゃからこちらから三重を叩こうかと思ったが……」
そこで一端言葉を切り、ほんの僅かの時間顎に手を当て唸るが、直ぐに立ち上がると近くに置いてあった地図を広げ、ある一点を指差し、言った。
「滋賀から三重まで繋がるこの新名神高速道路を主戦場として展開する。無論、下道から来る可能性もあるが……奴等はどこか儂を舐めておる節もある故大丈夫じゃろうて。ま、最悪新名神を爆破じゃな」
「り、了解しました。あと疑問に思ったのですが、空から来る可能性はないのですか?」
信長の最後の一言に冷や汗を垂らしつつも、疑問に思ったことを直ぐに口にする伝令。戦国時代の信長ならこれくらい突っぱねそうなものだが……どうやら少し丸くなったらしい。
「それな、儂も予想したんじゃが…儂のスキルによるとどうにもその可能性が無いんじゃ。理由は不明だがの…」
「いえ、殿の『予見』のスキルは我等全員が信頼しております故、スキルがそうお答えになったのであれば、間違いはないのでしょう」
結局、根拠はあやふやなままだが、それでもしっかりと返事をする伝令役。だが、信長は何処か腑に落ちない。
「お主等、スキルを過信しすぎるのも良くないぞ。こんなものただの理想に過ぎんからな」
「はは!肝に銘じておきまする」
「では言伝は頼んだぞ!」
「承知!」
そう言って伝令役の男は退室し、階下へと駆けていった。
部屋で一人残った信長は、ふと上を見上げ…
「居るのであろう?遥、ちょっと降りてこい」
天井に向かって名前を呼ぶ信長。数瞬後、天井の板がズレそこから人が飛び降り音も無く着地すると、すぐさま信長の前で片膝を着き頭を垂れる。その格好は忍装束で背丈は小柄な少女だ。
「お呼びでしょうか、親方様」
「警備任務ご苦労。面を上げい」
そう言われ少女はゆっくりと顔を上げた。その少女の顔立ちはクールさの中にどこか幼さを感じさせられ、とても可愛らしい。
「お主には、単独で動いてもらおうと思うての」
「は!承知しました。して、何をすればよいので?」
信長は小首を傾げる少女の側により密書を懐から取り出し彼女にそっと手渡す。
「こいつを殺戮者に届けてほしいんじゃ」
「わかりました。必ずやお届けします」
「それと、その後の任務についてもそれに書いてあるからの」
少女は頷き、失礼しますと言って、来たときと同じように天井裏へと飛び上がり姿を消した。
完全に少女の気配が消えたことを確認し、信長は誰にも聞こえないくらいの声で、呟いた。
「達者でな、織田五大将にして忍び頭、楽漣遥。あとは頼んだぞ」
その声音には、確かに哀愁が込められていた。
一方そのころ、世界調停機関では【信濃】に乗船している到達者と機関職員の全員(非戦闘員も含む)が甲板に集められており、場には緊張感があった。
もちろんそこには、壱月や巴音の姿もある。
「一体何人いるんだよ…」
壱月は甲板に集まった人数を見ているだけで疲れているようだ。当然姿勢も悪くなる。
「ダメですよ壱月さん!もっとしゃっきとして下さい。私達は死神本部からの出向なんですから」
そしてそんな壱月の背筋を伸ばそうと頑張る巴音。
「そういや、そんな理由で来てたんだっけなぁ」
もはや、いる理由すら忘れていたらしい壱月。さらに猫背は酷くなっている。
それでも壱月にちゃんとしてもらおうと、無理矢理背筋を正そうとしている巴音に、横から待ったが入る。
彼は唇に人差し指をあてながら、こっそり巴音と位置をチェンジ。大きく右腕を振りかぶって…
「っしゃんとせいやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
一気に腕を振り抜き、背を叩く。周囲にはかなり良い音が聞こえただろう。
「いっってぇぇぇぇ!?」
突然の衝撃に飛び上がる壱月。そのおかげでしっかりと背筋は伸ばされている。
「なにすんだよ《最剣》ッッ!!」
後ろを振り向き、先程の行為に対して抗議する壱月。《最剣》はにっこり笑って…
「女の子が困っていたら、手を貸すのが男の役目だろう?」
「それは…そうかもしれないが……」
確かに納得のいく理由ではあるが、それはそれこれはこれだろ、と頭で納得しても心がそうではないらしい。
「それに女の子を困らしている男を懲らしめるのも男の役目だろ?」
「うっ……」
それを言われると反論できないので、壱月は押し黙るしかない。その様子に《最剣》はニヤッと笑ってガッツポーズ。そんな姿にこめかみをピクピクさせる壱月。
そしてその一連の流れを終えて、壱月達三人は声を上げて笑う。そんな三人につられて遠巻きに見ていた職員達も多少和んだようだ。
しばらくして、甲板の少し隆起しているところに片手にマイクを持った《最強》が現れる。自然と甲板上は静まり、皆《最強》を見上げ言葉を待つ。
「皆に集まってもらったのは、他でもない。戦争についてだ。もう既に開戦状態にあるのは知っているとは思うが、これだけは心に留めておいて欲しい…」
一端そこで言葉を区切り、彼は力強い眼差しで機関職員全員を見渡す。
「今回の戦争は、我々が今まで経験してきた戦争とは一味も二味も違う、ということだ。俺でさえ、この戦争を終焉に導けるかどうか…」
自信の無さそうな声音だが、すぐに気を取り直し続ける。
「だが、今回の戦いも我々のしなければならない事は何一つ変わらない。この戦争を調停し、世界のバランスを保つ。先代達がそうしてきたように…」
確たる意志を持って放たれたその言葉には、彼の覚悟が滲み出ていた。
「当初、日本神話からの調停依頼から参戦することが決まった今回の戦争は神々の再降臨以降、最大規模の大戦となるだろう。よって最後に一つ言っておく…」
「もし世界の脅威となり得ると判断したものがあれば日本神話、織田軍、その他、どちらにしろすぐに到達者を呼んで対処せよ!」
そして一際大きな声で叫ぶ。
「我々は世界の味方であることを忘れるなッッ!!」
「「「「「「「「「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!」」」」」」」
そう締めくくられると、甲板中で大歓声が上がり、すぐさま熱気に包まれていくのだった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
これから年末にかけて少し忙しくなり、更新が遅れるかと思いますがそこはいつものことだと思って、温かい目で見守ってやって下さい。
まだまだよろしくお願いします!
城主である織田信長は、自身の居室にて静かに報せを待っていた。
しばらくして下方が慌ただしくなり、やがて家臣の一人が入ってくる。伝令役と思しき男は膝をつき息も絶え絶えに口を開く。
「申し上げます! 首都出雲で殺戮者と思われる人物が、武器庫を襲撃し、これを破壊。日本神話は我々からの攻撃だと判断し、尖兵団の安土城侵攻が開始されました!」
「そうか…ついに始まったか……」
信長は黙し、次の手を打つべく思考を回し始める。
(やはり儂の思惑通り殺戮者が開戦の合図となり、出雲を引っ掻き回したか……して、これからどう出るか……このまま予定通り作戦を実行してもよいが……それだと面白さに欠けるしのぉ…)
信長が一体どんな策を練っていたのかわからないが、今の考えのみで察すると、これだけは言える。絶対碌なものじゃない。
そしてそれは内心だけであり外には一切片鱗を見せていないのにも関わらず、伝令役の男は密かに冷や汗を流している。
(これぜってぇ、ヤバそうなやつだよなぁ……)
流石は異世界にいた頃より信長に忠義を尽くしてきただけあって、それくらい理解できてしまうらしい。
伝令役でこれくらい分かるというのなら、側近である蘭丸や織田五大将の苦労は計り知れないものだろう。
数秒後、策を練れたのか信長はゆっくりと口を開いた。それを傾聴する伝令。手にはメモ帳とボールペンを持っている。
「出雲からここまでは、おそらく吉田にある飛行場を使って空から来るであろう。だが奴等も馬鹿ではない。一度、二手に別れ一方は兵庫の姫路城、もう一方は三重の伊勢神宮に陣を張り、こちらの様子を窺ってくる、と儂のスキルが言っておる。じゃからこちらから三重を叩こうかと思ったが……」
そこで一端言葉を切り、ほんの僅かの時間顎に手を当て唸るが、直ぐに立ち上がると近くに置いてあった地図を広げ、ある一点を指差し、言った。
「滋賀から三重まで繋がるこの新名神高速道路を主戦場として展開する。無論、下道から来る可能性もあるが……奴等はどこか儂を舐めておる節もある故大丈夫じゃろうて。ま、最悪新名神を爆破じゃな」
「り、了解しました。あと疑問に思ったのですが、空から来る可能性はないのですか?」
信長の最後の一言に冷や汗を垂らしつつも、疑問に思ったことを直ぐに口にする伝令。戦国時代の信長ならこれくらい突っぱねそうなものだが……どうやら少し丸くなったらしい。
「それな、儂も予想したんじゃが…儂のスキルによるとどうにもその可能性が無いんじゃ。理由は不明だがの…」
「いえ、殿の『予見』のスキルは我等全員が信頼しております故、スキルがそうお答えになったのであれば、間違いはないのでしょう」
結局、根拠はあやふやなままだが、それでもしっかりと返事をする伝令役。だが、信長は何処か腑に落ちない。
「お主等、スキルを過信しすぎるのも良くないぞ。こんなものただの理想に過ぎんからな」
「はは!肝に銘じておきまする」
「では言伝は頼んだぞ!」
「承知!」
そう言って伝令役の男は退室し、階下へと駆けていった。
部屋で一人残った信長は、ふと上を見上げ…
「居るのであろう?遥、ちょっと降りてこい」
天井に向かって名前を呼ぶ信長。数瞬後、天井の板がズレそこから人が飛び降り音も無く着地すると、すぐさま信長の前で片膝を着き頭を垂れる。その格好は忍装束で背丈は小柄な少女だ。
「お呼びでしょうか、親方様」
「警備任務ご苦労。面を上げい」
そう言われ少女はゆっくりと顔を上げた。その少女の顔立ちはクールさの中にどこか幼さを感じさせられ、とても可愛らしい。
「お主には、単独で動いてもらおうと思うての」
「は!承知しました。して、何をすればよいので?」
信長は小首を傾げる少女の側により密書を懐から取り出し彼女にそっと手渡す。
「こいつを殺戮者に届けてほしいんじゃ」
「わかりました。必ずやお届けします」
「それと、その後の任務についてもそれに書いてあるからの」
少女は頷き、失礼しますと言って、来たときと同じように天井裏へと飛び上がり姿を消した。
完全に少女の気配が消えたことを確認し、信長は誰にも聞こえないくらいの声で、呟いた。
「達者でな、織田五大将にして忍び頭、楽漣遥。あとは頼んだぞ」
その声音には、確かに哀愁が込められていた。
一方そのころ、世界調停機関では【信濃】に乗船している到達者と機関職員の全員(非戦闘員も含む)が甲板に集められており、場には緊張感があった。
もちろんそこには、壱月や巴音の姿もある。
「一体何人いるんだよ…」
壱月は甲板に集まった人数を見ているだけで疲れているようだ。当然姿勢も悪くなる。
「ダメですよ壱月さん!もっとしゃっきとして下さい。私達は死神本部からの出向なんですから」
そしてそんな壱月の背筋を伸ばそうと頑張る巴音。
「そういや、そんな理由で来てたんだっけなぁ」
もはや、いる理由すら忘れていたらしい壱月。さらに猫背は酷くなっている。
それでも壱月にちゃんとしてもらおうと、無理矢理背筋を正そうとしている巴音に、横から待ったが入る。
彼は唇に人差し指をあてながら、こっそり巴音と位置をチェンジ。大きく右腕を振りかぶって…
「っしゃんとせいやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
一気に腕を振り抜き、背を叩く。周囲にはかなり良い音が聞こえただろう。
「いっってぇぇぇぇ!?」
突然の衝撃に飛び上がる壱月。そのおかげでしっかりと背筋は伸ばされている。
「なにすんだよ《最剣》ッッ!!」
後ろを振り向き、先程の行為に対して抗議する壱月。《最剣》はにっこり笑って…
「女の子が困っていたら、手を貸すのが男の役目だろう?」
「それは…そうかもしれないが……」
確かに納得のいく理由ではあるが、それはそれこれはこれだろ、と頭で納得しても心がそうではないらしい。
「それに女の子を困らしている男を懲らしめるのも男の役目だろ?」
「うっ……」
それを言われると反論できないので、壱月は押し黙るしかない。その様子に《最剣》はニヤッと笑ってガッツポーズ。そんな姿にこめかみをピクピクさせる壱月。
そしてその一連の流れを終えて、壱月達三人は声を上げて笑う。そんな三人につられて遠巻きに見ていた職員達も多少和んだようだ。
しばらくして、甲板の少し隆起しているところに片手にマイクを持った《最強》が現れる。自然と甲板上は静まり、皆《最強》を見上げ言葉を待つ。
「皆に集まってもらったのは、他でもない。戦争についてだ。もう既に開戦状態にあるのは知っているとは思うが、これだけは心に留めておいて欲しい…」
一端そこで言葉を区切り、彼は力強い眼差しで機関職員全員を見渡す。
「今回の戦争は、我々が今まで経験してきた戦争とは一味も二味も違う、ということだ。俺でさえ、この戦争を終焉に導けるかどうか…」
自信の無さそうな声音だが、すぐに気を取り直し続ける。
「だが、今回の戦いも我々のしなければならない事は何一つ変わらない。この戦争を調停し、世界のバランスを保つ。先代達がそうしてきたように…」
確たる意志を持って放たれたその言葉には、彼の覚悟が滲み出ていた。
「当初、日本神話からの調停依頼から参戦することが決まった今回の戦争は神々の再降臨以降、最大規模の大戦となるだろう。よって最後に一つ言っておく…」
「もし世界の脅威となり得ると判断したものがあれば日本神話、織田軍、その他、どちらにしろすぐに到達者を呼んで対処せよ!」
そして一際大きな声で叫ぶ。
「我々は世界の味方であることを忘れるなッッ!!」
「「「「「「「「「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!」」」」」」」
そう締めくくられると、甲板中で大歓声が上がり、すぐさま熱気に包まれていくのだった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
これから年末にかけて少し忙しくなり、更新が遅れるかと思いますがそこはいつものことだと思って、温かい目で見守ってやって下さい。
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