噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

77 こちら太平洋上 その1

 時を同じくして、世界調停機関の本部たる調停艦《信濃》は北太平洋上をおよそ22ノットで航行していた。ちなみに日本の出雲からは約3000キロ離れた地点だ。三日もあれば日本神話陣営と合流が出来ることだろう。

 そしてその艦内では戦争の準備を整えている船員が今も慌ただしく奔走していた。

 そんな大忙しな艦内から抜け出し、甲板の隅の方にあるデッキで風を受け海を眺めている男が1人、壱月である。珍しく傍に巴音がいないのを見ると、仕事をほっぽりだしてさぼっている様だ。

「………はぁ~~~めんどくせぇ~~~疲れたぁ~~」

 デッキの手すりに身を預け、項垂れていた。その姿から何があったのかは大々察せられる。おそらく、準備中に《最強》か《最剣》にでも扱かれたのだろう。

「これからって時に、テンション下げさすんじゃねぇよ~~まったく……」

 そう言って、項垂れていた態勢から今度は柵に背を預け、ずるずると座り込む。その姿からは絶対に動かないという不動の覚悟が見て取れる。

「そんなとこにいたら、風邪引くぜ?」

 すると、壱月のいるデッキに来客が来た。白衣を着た学者風の出で立ちをした若い男だ。

「ほらよっ!」
「っと!どうも」

 その学者男は、壱月に向かって持っていた缶ジュースを投げ渡す。突然の事だったが、そこは流石歴戦の死神だ、特に落としたりするような事もなくキャッチする。

 軽く礼を言い、プルタブを開けて一飲み。すると先程まで冷え切っていた体が芯から暖まっていく、がしかし、滅茶苦茶甘い。

「甘過ぎだろこれ! げっおしるこだと!?」
「何を言う、糖分というのはな脳にとても大切なものなんだぞ」

 そう力説している彼は、先程からグビグビとおしるこを飲んでいた。今まさに二缶目のプルタブを開けたとこだ。
 それを見て壱月は、信じられないような顔をする。

「限度ってもんがあるだろ、限度ってもんがっ!」
「そんなの…(ゴクゴク)……知らないよ……(グビグビ)……プハァ!」

 かなり熱い筈なのだが、そんな事を気にした素振りは見せず、すぐ二缶目を飲み干した。

「ふぅ……これでまた思考速度が、速まるな…」
「んなわけねぇだろ!」
「確かに、飲んですぐさま効果が現れるわけない…か………じゃあしばらく隣、失礼するよ?」

 そんなボケとツッコミをしあって、男は壱月の右隣に腰掛けた。

「ところで、あんた誰だよ」
「えっ!?え~ショックだな~~普段は僕の方が聴く側だから余計に傷つく」
「どんな生活送ってるんだよ」

 男は顔を俯かせ、深くため息。

「はぁ……無知って…怖いよな……」

 壱月、初対面?の男性にいきなり同情され、もう一缶おしるこを懐から取り出し、「飲むか?」と問われた。

「いや、いらねぇから。てか何本あるんだよっ!」
「白衣の裏ポケットにあと5本ある」
「好きすぎだろ、おしるこ」
「そうでもないさ…おしるこ以外もあと5本あるからな」

 男は座ったまま、白衣の左側を広げて壱月に見せびらかす。そこにはコーンポタージュやココア、甘めのコーヒー、おでん、みそ汁などがポケットに納まっている。

「なんでそんなに普通の人が飲まなさそうなのが多いんだ!?」
「たまたまさ。それより僕は世界調停機関、到達者の一人《最新》だ。改めてよろしくね」
「お…おう…よ、よろしく」

 壱月の疑問は超軽く流され、その流れで男は自身が《最新》であることを明かし、左手を差し出して握手を求めてきた。
 謎の流れで自己紹介され、握手を求められた壱月はぎこちない動きで右手を出し、なんとかこの男が《最新》だという現実を認識する。

(想像と全っ然違う!)

 壱月の中で《最新》のイメージとは、以前《最強》から聞いた稀代の天才発明家で滅多に人前に出ず、研究室に籠もりっきりの若い細身の男という話だったのだ。

 だが、実際はどうだろうか。

 体格は話と相違はないが、この清潔で理知的印象を与える白衣の裏に缶ジュースを詰め込んでいるとは誰も思うまい。しかも人前に出ないからコミュ障なのかと思えば、普通に会話でき、さらには高確率でボケ?を噛ましてくるという高等技術の持ち主だ。

 しかし、壱月はまだ《最新》の本領を知らない…


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

調停機関での壱月と新キャラ《最新》のお話です。
これも2、3話やったら次に行く予定です。

これからもよろしくお願いします!

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