噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神
76 正倉院にて その2
本来、勅封を解く際には、勅使(天皇の使者)の同行が必要なのだが、今回はスサノオ自身神ということもあり、天皇とオオクニヌシの同意の下、開封したようだ。
加えて勅封についてたが、現在は神秘や魔術的要因もあり、安易に解けないようになっている。先程の桜夜のような脳筋的思考では、絶対に解けないということだ。実際、人類最強である世界調停機関《最強》が一度試している。
そんな数々の制約を乗り越えて二人は今、正倉院中倉に入っているのだ。
「………何もねぇな…」
「だから宝物は全部、別のところに移したと言っただろう。話聴いてなかったのか!?」
パッと見渡し、率直な感想を述べる桜夜。だが直に彼は気付いた。この部屋に漂う異様な雰囲気に。
「あれは……」
埃が所々積もっているため、目を凝らさなければ入り口からではわからなかったが、確かにそこにある。
それ以外は何も置かれず、中倉の最奥にひっそりと、しかし怪しく、また神々しいそんな気配を放つ一本の剣がそこにはあった。
鞘に納められ、儀式的な陣の上に置かれた剣。
「その名を、神器・天叢雲剣。日本の武の象徴にして、三種の神器の一つ草薙の剣のオリジナルだ」
「あめの……むらくも……!!」
その真名を言い、スサノオは静かに剣に近付いていく。
そして足を止め膝をつき、右手で柄を、左手で刀身を持ち上げ、深く頭を下げてから、儀式陣から離れ入り口へと戻ってくる。
「待たせたな、叢雲…」
スサノオは懐かしむような目でそれを見る。剣は正倉院に納めた時と寸分の違いもなかった。
やがて中倉を出て、勅封を掛け直し、二人は少し広い場所へ。
「ふぅ…ここまで来れば大丈夫だろう」
「……?」
そう言ってスサノオは、身体ごと桜夜に向き直る。
そして叢雲を差し出し、言った。
「餞別だ、受け取れ……桜夜……」
「え!?」
「いいから、受け取れ!」
動揺する桜夜に対し、スサノオは彼の右腕を掴んで無理やり受け取らせる。すると桜夜は突然の叢雲の重みに耐えきれなかったのか、膝を折る。どうにか両手両脚、腰で踏ん張って、立ち上がり元の体勢に戻る。
「おっっも……てぇ……!」
「ふん。鍛錬が足りん証拠だな」
「な……に………を……っ!っ!」
師匠の煽りに、負けじと踏ん張り続ける桜夜。だが。
「もう……無理…!」
次の瞬間、叢雲を持ったまま地べたへ顔面ダイブする。
「っふっが!?」
地面が、柔らかく雑草も生い茂っていたので、特に怪我はないが、このままでは剣を抜くこともままならないだろう。
「取り敢えず、抜いてみて欲しかったんだが………無理そうだな。一旦帰って戦争に間に合うように鍛え直してやるから、覚悟しろよ!」
「ああ、覚悟するぜ、師匠!………その前に……持ち上げて下さい……」
地に突っ伏したまま鍛錬への意気込みを述べるが、同時にギブアップ宣言もする桜夜。
しかし、師匠であるスサノオはニヤリと笑って、先に歩いていく。
「何言ってやがる、バカ弟子。修業はもう始まってるぞ~ひとまず出雲まで歩きだなー」
「ちょっ!待って!割とマジで助けて下さい!……お願いしますぅ!」
起き上がる気配のない桜夜を置いて、それに構わずどんどん先に進んでいくスサノオ。修業内容は結構スパルタだったようだ。
「……くっ! なぁんんの………これしきぃ! おぉぉらぁぁぁぁ!」
一度叢雲から手を離し、先に立ち上がってそれから気合いで持ち上げる。土の付いた顔を拭くことも忘れ、ただひたすらに剣の重みと対峙しながら、歩を進めて行くのだった。
因みに奈良から出雲までは、355キロ(徒歩で3日)あるのだが桜夜にその現実が突きつけられるのは、大阪に出てからになる。
「俺の主人公補正を……なめんなぁぁぁぁぁぁ!!」
最期の最後に如何にも主人公らしからぬ事を叫ぶ桜夜であった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
私にしては切りよく終わったので、次は調停機関側の話になると思います。
これからもよろしくお願いします!
加えて勅封についてたが、現在は神秘や魔術的要因もあり、安易に解けないようになっている。先程の桜夜のような脳筋的思考では、絶対に解けないということだ。実際、人類最強である世界調停機関《最強》が一度試している。
そんな数々の制約を乗り越えて二人は今、正倉院中倉に入っているのだ。
「………何もねぇな…」
「だから宝物は全部、別のところに移したと言っただろう。話聴いてなかったのか!?」
パッと見渡し、率直な感想を述べる桜夜。だが直に彼は気付いた。この部屋に漂う異様な雰囲気に。
「あれは……」
埃が所々積もっているため、目を凝らさなければ入り口からではわからなかったが、確かにそこにある。
それ以外は何も置かれず、中倉の最奥にひっそりと、しかし怪しく、また神々しいそんな気配を放つ一本の剣がそこにはあった。
鞘に納められ、儀式的な陣の上に置かれた剣。
「その名を、神器・天叢雲剣。日本の武の象徴にして、三種の神器の一つ草薙の剣のオリジナルだ」
「あめの……むらくも……!!」
その真名を言い、スサノオは静かに剣に近付いていく。
そして足を止め膝をつき、右手で柄を、左手で刀身を持ち上げ、深く頭を下げてから、儀式陣から離れ入り口へと戻ってくる。
「待たせたな、叢雲…」
スサノオは懐かしむような目でそれを見る。剣は正倉院に納めた時と寸分の違いもなかった。
やがて中倉を出て、勅封を掛け直し、二人は少し広い場所へ。
「ふぅ…ここまで来れば大丈夫だろう」
「……?」
そう言ってスサノオは、身体ごと桜夜に向き直る。
そして叢雲を差し出し、言った。
「餞別だ、受け取れ……桜夜……」
「え!?」
「いいから、受け取れ!」
動揺する桜夜に対し、スサノオは彼の右腕を掴んで無理やり受け取らせる。すると桜夜は突然の叢雲の重みに耐えきれなかったのか、膝を折る。どうにか両手両脚、腰で踏ん張って、立ち上がり元の体勢に戻る。
「おっっも……てぇ……!」
「ふん。鍛錬が足りん証拠だな」
「な……に………を……っ!っ!」
師匠の煽りに、負けじと踏ん張り続ける桜夜。だが。
「もう……無理…!」
次の瞬間、叢雲を持ったまま地べたへ顔面ダイブする。
「っふっが!?」
地面が、柔らかく雑草も生い茂っていたので、特に怪我はないが、このままでは剣を抜くこともままならないだろう。
「取り敢えず、抜いてみて欲しかったんだが………無理そうだな。一旦帰って戦争に間に合うように鍛え直してやるから、覚悟しろよ!」
「ああ、覚悟するぜ、師匠!………その前に……持ち上げて下さい……」
地に突っ伏したまま鍛錬への意気込みを述べるが、同時にギブアップ宣言もする桜夜。
しかし、師匠であるスサノオはニヤリと笑って、先に歩いていく。
「何言ってやがる、バカ弟子。修業はもう始まってるぞ~ひとまず出雲まで歩きだなー」
「ちょっ!待って!割とマジで助けて下さい!……お願いしますぅ!」
起き上がる気配のない桜夜を置いて、それに構わずどんどん先に進んでいくスサノオ。修業内容は結構スパルタだったようだ。
「……くっ! なぁんんの………これしきぃ! おぉぉらぁぁぁぁ!」
一度叢雲から手を離し、先に立ち上がってそれから気合いで持ち上げる。土の付いた顔を拭くことも忘れ、ただひたすらに剣の重みと対峙しながら、歩を進めて行くのだった。
因みに奈良から出雲までは、355キロ(徒歩で3日)あるのだが桜夜にその現実が突きつけられるのは、大阪に出てからになる。
「俺の主人公補正を……なめんなぁぁぁぁぁぁ!!」
最期の最後に如何にも主人公らしからぬ事を叫ぶ桜夜であった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
私にしては切りよく終わったので、次は調停機関側の話になると思います。
これからもよろしくお願いします!
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