噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

65 掟破り

 《最弱》達の説得は意味をなさず、やがて三日目の夜がやってくる。
今、峰影は呑気にキッチンで料理しているため、とてもいい匂いが客室を満たしていた。

 そんな中、客室のソファで寝ころんでいる《最低》は、もはやこの任務に飽きている様子で、先程からお腹をぐぅぐぅ鳴らしながら自身のお気に入りナイフを手入れしている最中だ。
 そしてその様にため息をつき、注意をする《最弱》。

「《最低》、ここは敵地であって他人の家なんだぞ。少しは警戒と遠慮をな……」
「はぁ~わかってないなぁ~ おい《最弱》、オレは《最低》なんだぞ?
 しかも世界調停機関到達者なんだぞ? この意味が分かるか?」
「あーうん。わからん」(あ~めんどくせぇパターン入っちまった~)
「つまりだな、オレは何をしようがなそうが関係無く、オレの評価は決して覆ることがないマイナス値って事だ。
 そんな世界一最低のオレが遠慮なんてするわけ無いだろう!」

 この力説に対して《最弱》は「断言しやがった」と心底呆れているのだった…



 程なくして、峰影が料理を持って客室へやってきた。
そのとたん、ますます部屋に美味そうな匂いが漂い出す。本日のディナーは、北海道で採れた野菜と貝、肉を使った峰影特製シチューだ。残念ながら隠し味については秘密とのこと。

「今回はかなりの自信作だ! いっぱいあるからおかわりも自由だぞ!」
「いただきます…」
「いただきます!!」

 しばらくの間、そこには和やかな雰囲気ができあがっていた。
例えどんなにわかり合えなくとも、美味い料理一つでその空気を覆してしまえる。これこそが食の醍醐味だと、峰影は語る。

「おかわり!!」
「お! 良い食いっぷりだ! どんどん食え!」

《最低》があっという間に1杯目を食べ終わり、すぐにおかわりを頼んでいる。鍋からシチューをすくって皿に盛りつけている峰影も実に嬉しそうだ。

「あ、あの。 僕もおかわりもらって良いですか?」
「もちろんだ! いっぱい食ってくれ!」

峰影の特製シチューはかなり美味しいらしく、先程《最低》に注意していた《最弱》までもがおかわりを申し出る。

(こんなに美味いシチューは初めてです! 野菜類の甘み、貝と肉の絶妙なバランス。そして何よりもこのホワイトソースが素晴らしい!
 北海道の自然豊かな大地で育った牛達のコクのある牛乳、それを最大限活かせる峰影さんの調理技術。きっとこの二つがあって初めてこの味を引き出せるのだろう!)

《最弱》はこれまでにないほど、感動していた…


 3人はシチューを食べ終わり、後片付けを協力して行っていた。あの《最低》が他人の手伝いをするほど、峰影の料理は美味いのだ。
 やがて3人共、片付けが終わり客室へ。

「手伝ってくれてありがとう。おかげで随分早く終われたよ。
 お風呂の用意はできてるから、好きなときに入ってくれ」
「なぁおっさん。この三日間あんたの料理めちゃくちゃ美味かった…ごちそうさま」
「はは、面と向かって言われるとなんか照れるな…」
「そこで…だ」

 スッと、《最低》は先程までの柔らかく温かい微笑みとは別に冷めた目と不適な笑みで、自身のお気に入りナイフを峰影へと突きつけた。
 すると一気に部屋の体感温度が下がったような錯覚を覚え、自ずと緊張感が漂い始める。

「な、なにやってんだよ《最低》!?」
「もう、オレは我慢できねぇ。このおっさんを力ずくでも連れて行く!」
「僕が何か君達の気に障る様なことしたかな?」

 《最低》の突然の行動に動揺する《最弱》。一方、峰影は相変わらずの余裕をもった態度で、《最低》に問う。
 問われた《最低》は、不敵な笑みを浮かべたまま答える。

「別におっさんに悪いところは一つもなかったぜ…」
「じゃあ、一体何が君をそうさせるんだ?」
「逆だ。最高すぎたんだ。あんたのもてなしが」
「うんうん。って、え? 《最低》、お前それで峰影さんにナイフ突きつけてんの!?」

《最低》の素直な理由に、ノリツッコミ?を入れる《最弱》。

「オレは世界一最低のクズだぞ?
 そのオレが、衣食住完璧な奴を連れ帰って楽しようとして何が悪い?」
「そんなことを堂々と胸張って言わないでくれ!」

 ニィっと口の端を釣り上げ、笑う《最低》。
 頭を抱えて呆れ果てる、《最弱》。
 当の峰影は…

「フフ…フハハハハ……ハハ、ハックション!! こりゃ失敬。
 そうかそこまで、僕のことを評価してくれていたとは、なかなか嬉しいよ。だが、何度も言うとおり僕がここから離れるわけにはいかないんだ…」
「それこそ、何がおっさんをそこまでさせるんだ?」
「それはね。僕がこの知床とある契約を交わしているからさ」
「契約?」

 峰影が口にした知床との契約。
それは峰影がこの知床半島に住み始めて、3年経った10年前のことだ。
 10年前この知床は、神秘の力によって動物達が魔物と化した。その時、独り知床に住んでいた峰影は自身を依代として、地脈と干渉し魔物の活動を抑えることにしたのだ。
 そしてその時結んだ契約こそが、『知床守の契り』。
以前、壱月達に話していた知床でのルールなどもこれに当てはまる。その中で最も重要なのが、契約者であり知床守たる峰影に課せられた条件。
  ―曰わく、知床守離れたる時、地脈は暴走せん―
 この通り、峰影がこの地から離れると、地脈が制御を失い暴走に至るのだ。なお、峰影が知床守となる前までは山奥にそびえ立っていた御神木がこの役目を担っていたため、地脈は自然の摂理の元、人為的介入が一切無く管理されていたので、その場合、魔物を抑えることは出来なかっただろう。
 また契りを結んだ時、御神木はその力を失い枯れてしまい、自然へと地脈を返すことも出来ない。さらに御神木になり得る木々も幾万年に一本の頻度でしか育たない為、こちらも望みは薄い。

「まぁ、こんな感じだ」

 峰影がざっくりとした契約の内容説明をし終えると。

「そ、そんな過去があったとは…」
「おっさんにしては、なかなかハードな人生だな…」
「《最低》君、きみ一体僕を何だと思っているんだい?!」
「ただの引き籠もりかと」

 はぁ、と呆れとともにため息をついてその後に温かい紅茶をズズズっと飲み、喉を潤す峰影。

「でも、これでわかってくれたでしょ? 僕がここにいないといけない理由」
「ああ。理解した。納得もした。けど…そこに楽するチャンスがあるのなら、どんな手を使ってでも掴み取るのが、世界一のクズ野郎たるオレの使命だ!」
「何度も言ってますけど、断言しないで下さい! 機関うちの評判がどんどん落ちていきますから!」

《最低》は相変わらずの得意顔。《最弱》は少し泣きそうになっている。

「はぁ……一向に話が進んでないな……」
「すみません。機関うちの自己中が……すみません……」
「ズズズ……ズズズ……」

 そんな何時まで経っても、変わらないこの状況に終止符を打ったのは…

 ……パリンッ!……ガッシャァァァァンン!!……「伏せろッ!!」……バキバキ…ガッシャァァァァンン…………

外からの襲撃だった…

 窓ガラスが割れ辺りに飛び散り、次に家具が倒れ上に置かれていた物や中かの調度品が破壊され、部屋が滅茶苦茶になる。そして照明が壊され、一瞬のうちに部屋を暗闇が包み込む。
 それは弾幕と呼べるほどの密度でもないが一発一発重みのある銃撃が工房を襲う。

「チッもたもたし過ぎたな……おっさん、工房ここどのくらい保つ?」
「緊急時の防御結界が作動したから、3分は保証する!」
「《最弱》とおっさん、急いで脱出の準備をしろ! 時間は稼いでやる…」
「「了解ッ!!」」

 《最低》の指示で、二人が脱出ルート確保のため地下一階へと向かう。
 その間も銃撃は続いているが、防御結界のお陰か多少威力は減衰しているようにも見えたが、結界が張られた当初より威力がまた上がってきているため、襲撃者が距離を詰めてきたのは容易に推測できた…

「さぁ、めんどくせぇ神話勢力とご対面かね…」

 こんな時でも、《最低》は悪態吐きながら不敵に笑うのだった…


いつもお読みいただき誠にありがとうございます!
フォローもありがとうございます!
この調子で行けば次話で下準備が終わりそうです。

夏休みが終わる関係で投稿が遅れるかもしれませんが、ご了承下さい。
これからもお願い致します。

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