噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

63 任務報告

 採用試験を終えた壱月達はパルミラには戻らず、《最術》の転移魔法でそのまま世界調停機関本部へと帰還した。
《最善》と《最目》とは、《最強》の執務室に行く途中でわかれたので、今は壱月と巴音、《最剣》、キーシュタイン、クレトの5人だけだ。
 
 何故二人と別行動なのかというと…
実はこの機関、《最善》がデスクワークの要なのだ。なぜなら彼は、全実働部隊の計画書、報告書等の決裁や予算関係、協力者の賃金等の決済を担当しているからである。この機関のデスクワーク担当率で言えば、9割以上になるだろう。因みに、残り1割は最終決定を下す《最強》だ。
 そうなれば次に必然的に疑問になるのが、同じく副長である《最優》の存在だ。彼女も元々デスクワークをしていたのだが、『最優』の名の通り優しすぎたのである。曰く、「あの人のところへ行けば、意見を押し通せる!」と噂される程度に。そしてそれを問題視したのが《最善》で、今では《最縫》と一緒に日用品担当に移っているのだ。
 おわかりいただけただろうか?この機関のブラックさと《最善》の重要さを。なので上述の通り、《最善》が本部から外出するとその分、実働部隊全ての業務が滞り機関が機能しなくなるのである。そしてそれさえも《最善》にとっては計算の内らしく、いつも外出後、1ヶ月は缶詰め状態で仕事をこなしていたりする。だから、これから1ヶ月は彼の顔を見ることはないだろう…
 そしてもう1人、《最目》については療養が目的である。例のイタズラの件で、未来をみる恐怖を覚えた彼は、今回《最医》のカウンセリングを受ける事にしたのだ。彼はこれから自分が眠れぬ夜を過ごすことになろうとは露ほども思っていないのだろう…

 一方、壱月達五人は長い廊下を歩き続け、やっと《最強》の執務室に到着する。
ノックを3回。

「壱月達か?開いてるから、入ってこい」
「「失礼します…」」
「おかえり!長旅ご苦労だったな」

《最強》は自身の執務椅子から立ち上がり、壱月達五人を出迎えた。

「それで、どうだった?パルミラは」
「そうだな…あの環境にしては綺麗な場所だったな」
「そうですね。あんなにテロ組織の本部と近いのに豊かな感じでした」

壱月と巴音は素直に感想を述べる。そんな二人に《最強》は少し笑った後、その理由を説明した。

「だろうなぁ。お前等はあの都市の歴史を知らないだろうから、今更だが教えといてやる。
 砂漠の都市パルミラの誕生は、約20年前。その頃は「一神派」との抗争の真っ只中で、メソポタミア神話の神々は神都ウルクを防衛するためデコイとしてあの都市を創造した。一時期は軍事拠点となっていたが、「一神派」の勢力が落ちてきた頃を境に、今度は商人達によって発展し今に至る大都市になったってわけだ」
「へぇ~そんな過去があったとは…神が創り、人が発展させた都市か…」
「戦いの中、あそこまで都市を発展させる事が出来た原因がまた戦争とは、皮肉なもんだがな…」
「でも、その繰り返しが人類史なんだろ?」
「まぁ…そうだな…オレとしては認めたくないんだが…」

 《最強》がパルミラの経緯を語った後、少し疑問に思った事があったのか巴音が質問していた。

「《最強》さん。パルミラに神殿がありますよね?」
「ああ、あるな。それがどうかしたか?」
「私の記憶だと、あの神殿はローマ建築だったのですが…それはどうしてですか?」
「それはな、神々があの神殿を創っていないということだ」

少し難しい言い回しだが、聡明な巴音なら理解できただろう。

「つまりは…当時のパルミラの民達が、造ったということ…ですね!」
「半分はそういうことだ。だが、それだけじゃあローマ建築の謎が解けないだろう?」
「確かに…」

当たらずとも遠からずだったようで、少し巴音はしょんぼりしつつも、考え続けている。
 だが、それでも答えを見つけることが出来なかった巴音は、涙目で壱月に助けを求めた。

「壱月さん!…わかりますか?」
(ウッ……この状況で上目遣い+涙目は、可愛すぎる…)

 巴音の助けに応じようとするが、その前にその可愛さで動悸が半端なくなってしまう壱月。ギリギリバレないような態度をとりつつ、どうにか頭の隅から引っ張り出してきた知識を整理し自身の推測を教える。

「確か、あそこには昔、名前が同じ神殿があったはずだよ。それをリスペクトしたんじゃないかな」
「そう…なんですか?」

 壱月から推測を教えてもらい、それを《最強》に恐る恐るといった感じで確かめる。

「おう。まさかお前等二人だけで正解にたどり着くとは、思ってなかったぜ!上出来だ!」
「やった!やりましたよ、壱月さん!」

 正解へ至ったと言われ、巴音は凄く嬉しそうにぴょんぴょん跳ねている。そのノリで壱月に抱きついたりしちゃっている。そしてその後、冷静さを取り戻した巴音は、羞恥で顔中真っ赤にしていた…

「さて、感想タイムも終わったことだし、任務報告をしてもらおうか?オレが頼んだこと憶えてるよな?」

 話を一旦終わらせた《最強》は本題へと移った。

「ああ、もちろん憶えてるよ。パルミラの視察については《最目》がこれを渡してくれってよ。
 あと、テロ組織の壊滅の方はこの二人に聞いてくれ」

そう言って壱月は、《最目》から預かったレポートを《最強》に渡し、後ろにいるキーシュタインとクレトを紹介した。
 まず《最強》はざっとレポートに目を通し、そして気になる一文を言葉に出した。いや、この場合、出してしまっただろうか…

「…ウルクの賢王ギルガメシュは神秘顕現の予兆なし…か…
 …これはメソポタミアの神々が細工でもしたと見るのが妥当だな…」
「ウルクの賢王? ギルガメシュ? 誰だ?」
「お前等はまだ知らなくていい。というか同じ半神半人なんだから、知ってると思ったんだが…所詮バカか…」

 《最強》に知らないだけでバカ扱いされる壱月。惨めである。

「それで、お前達が新規採用者だな?」

 次にさっき壱月が紹介した二人を見る《最強》。さっそくキーシュタインから自己紹介が始まる。

「この度、世界調停機関でお世話になることになりました。
 ファバード・キーシュタインです。よろしくお願いします」
「同じく、橘クレトです。よろしくっす!」
「ああ、二人の推薦経緯や資料は《最善》から貰っているからその程度でいいよ。ありがとう。
 そして、ようこそ!我等が世界調停機関に!我々は君たち二人を歓迎する!」
「ありがとうございます」
「あざっす!」

 軽く握手を交え、《最強》は既にに決まっているらしい配属先を伝える。そしてそれを緊張した面持ちで聞く二人。

「キーシュタイン、君には到達者の一人《最憶》として偵察部隊に所属してもらう。
 クレト、お前は一時的に星害担当課で《最剣》直属の部下として働いてもらう」
「了解しました」
「了解っす!」
「よし、じゃあ君達は今日はもう休んでくれていいよ。《最弱》に案内させるから、外で待っといて」

その言葉を受け、キーシュタインとクレトは執務室から退室した。そして相変わらず《最弱》は案内役だった。
 残されたのは3人だけだ。

「で、拙者達に何の用ですか?」

 黙っている《最強》に痺れを切らしたのか、《最剣》は自分から切り込んでいった。
対する《最強》は…何故かおずおずといった感じで、次の任務を告げるのだった。

「…君達3人には、三日間休暇をとってもらう。その間にしっかり休息をとっておけ。鍛錬するのもありだがな」
「やったぁぁあああ!休暇だ!」
「忙しい中、休息をいただきありがとうございます」
「しゃああああ!休暇じゃああああ!」

バカ二人がとてもうるさくなった。ちゃんと礼を述べていた巴音もかなり嬉しそうだ。

「それで……三日後からの任務についてだが…その…」
「なんだ?今の俺達なら、なんでもこなせるぞ!」

休暇宣言がよほど嬉しかったのか、壱月はなんでも出来ると宣っている。

「そうか?それなら安心なんだが…」

 それでもなお、《最強》はいつもの調子に戻らなかった。その事になにやら嫌な予感を覚えた《最剣》は、テンションを下げて真面目に聞いてみるようだ。この時、《最剣》の中では永年の付き合いからくる経験が、警報を鳴らしていた。

「はぁ、なんなんだ?今度はなにが起きる?」
「実はな、日本で戦争が勃発する寸前かもしれんのだ」
「戦争!?」

 《最剣》に続き、壱月や巴音も驚き出す。それもそうだろう。日本では神々の再降臨後、34年間目立った戦争は起きず平穏な日々(殺戮者が現れたのでそこまで平和ではない、だが他国と比べれば平和な部類だ)が続いていたのだから。

「じゃあ、なんでわざわざ三日後なんだ?戦争問題なら早急に動いた方がいいだろう?」
「急がば回れ、だ《最剣》」
「なんだと?」
「今回は敵が敵だけに、あせって動くのは危険ということだ」
「焦らすな、敵って誰のことだ?」

 《最強》が発した名は、世界的に有名なあの天下取りだった。

「…織田…信長だ」
「おいおい、まじかよ!?」

その名を聞いた瞬間《最剣》は緊張を露わにする。
 そしてここまで言ったら後は同じと判断し、任務内容を説明した。

「戦争勃発の可能性に伴い星害担当課を主軸に、織田信長討伐を行ってもらう。
 もちろん、応援部隊もオレも出撃する。敵の数が未知数な為、出し惜しみはなしだ。
  それと戦争相手である日本神話勢力も加勢するとのことだ。まあ、こちらはあまり期待せん方がいいがな。
 そういうわけだ。3人とも、ゆっくり休息をとってくれ。話は以上だ。」

 《最強》は一方的に話を終わらせ、執務に戻った。そしてそれを見た《最剣》は静かに部屋を去る。
残された壱月と巴音には静寂が降りる。どうやらまだ出て行くつもりはないらしい。

「なぁ。織田信長って強いのか?」
「……強い。この上なくな。奴は恐らく、神々と同等に渡り合えるだろう」
「なっ! …………」

さすがにそこまでは予想していなかったのか、壱月も少し戦慄を覚える。
 
「勝てるのか?」

それは、はたして聞いて良かった質問なのか……
 《最強》の答えは…

「……………………今の状態じゃ、無理だ。だから休息をとらせた。少しでも可能性を上げるために……」
「そうか……わかった、じゃあ、ありがたく休ませてもらう」

 何かに納得した壱月は迷い無く扉の方へ進んでいった。巴音もそれにならい、ついて行く。
そしてその二人の背中に投げかけられる問い。

「…なぁ二人とも。お前等は、これからもオレ達の味方でいてくれるか?」

それは《最強》にしては、いつにもまして弱々しい質問だった。だが、それに対し力強く壱月は答える。

「俺は、全人類の味方にはなれない。だが、『悪・即・斬』に従って善人類の味方にはなれる。
 あんたが道を間違えず、自分の理想を貫く限り、俺はこの先もあんたの味方だ。
 それと世界調停機関の掲げる星の存続という理念は、嫌いじゃない。やり方は嫌いだがな…」

壱月はそう肩越しに告げて部屋から出て行った。その後に一礼して巴音も退室する。
 

 そして一人、部屋に残された《最強》は、諦めずに勝利の可能性を探し始めるのだった…


いつもお読みいただき誠にありがとうございます。
ついに炎の勇者編が終わりました。次回からは織田信長討伐編を開始したいと思います。
これからもよろしくお願い致します。

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