噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

57 反乱

 炎の勇者が私の仲間になったことにより、反乱の準備は整った。あとは、
「反乱の狼煙をあげよ!」
「仰せのままに、王よ」
勇者は鞘から剣と刀をそれぞれ抜き、戦闘態勢をとった。次に何かを思い出すかのように目を瞑り考え始めた。
「我今、思い描くは始まりの炎…
 来たれ、『紅蓮千修羅刃・一式炎海』!!」
彼が目を開けた時そこには、一面の炎が広がっていた。
 この光景には、見覚えがある。ここに連れてこられて1回目の戦場だ。あの時は殆どの者が、戦い方を、実戦を、戦う恐怖を、知らなかった。そんな無知がこの光景を生んだ。
敵か味方かはわからなかったが、誰かが戦場に火を放ち、それが近くのガソリンに引火し、枯れ草や枯れ木を伝って瞬く間に燃え広がった。場所が乾燥地帯なため、消すことは容易ではなく、自然消火も期待できない。兵士は逃げまどうが、ある者は一酸化炭素中毒で倒れ、またある者は絶望したため自殺する。そんな修羅場だった。
 だが、彼だけは違った。身を低くして、害のある煙から逃れ、ひたすらに前進した。そして討ち取ったのだ、敵将を。だから、何度この光景が目の前に現れても、彼の前には脅威にならない。何故なら修羅場の潜り抜け方を知っているから。
 彼のあらゆる知識、経験、そして勇気がこの三年間、彼を生かすことになる。そしてそれは5回目の戦場にて神秘へと昇華された。彼の神秘は『修羅場の記録・再現』といって、一度潜り抜けた修羅場を記録し、任意で再現することができる。応用も可能で、一式である炎海は、炎の勇者という二つ名の由来にもなった。

 王と勇者の二人は先程までいた地下牢から出て、階段を上り地上へ。
ここも既に火の手は回っており、かなりの死者が出ている。だが、これだけではただのぼや騒ぎだ。彼等の目標は反乱、故に決着をつけなければならない、この遺跡を根城にしているテロ組織の幹部と。
そのために二人は走り出す、がしかし…
「いたぞ!反逆者だ!」
「殺せ!」
「撃てぇぇ!」
一個小隊規模の兵士に見つかり、銃撃され、あわてて近くの岩陰に隠れる。ここにグレネードを投げ込まれれば即死もありえるが、火事のせいで向こうも判断力に欠けているらしく、弾幕しか張ってこない。
「既にこちらの顔は割れているようですね」
「当たり前だ、ここで炎が自由自在に使えるのは、お前ぐらいだからな」
「で、どうします?迂回しますか?」
「ハッ決まっているだろう?ここでお前の実力見せてみろ」
「…!仰せの通りに、王よ」
ニヤリと笑い、岩陰から飛び出す体勢を整える。そのギラついた目は、もはや勇者と呼べるものではないだろう。
弾幕が一瞬やんだ隙に、一気に岩陰から出て敵兵へ突進する。遅れて銃弾が飛んでくるが、それに構うことなく兵士へと肉薄し、一閃。次に右手に持つ刀を水平に投げ、すぐ右隣にいた兵士を貫き殺す。死体の近くに転がっているアサルトライフルを使い、3メートル先にいた兵士を銃殺。次の標的に移ろうとするが、
「おっと…ここまでか…」
残りの兵士達に囲まれ、身動きがとれなくなる。が、あのクソみたいな戦場ではこんな事は常にある。今更、修羅場の一つにも数えられん。
「ハハッ」
「…何がおかしい!」
笑った己に怒鳴る兵士。銃を構え、引き金を引こうとするがもう遅い。
―紅蓮千修羅刃・六式砂塵のアギト
「っ何だ!?」
突如、大地が震え思わずよろけ膝が笑い立てなくなる兵士達。そんな弱者をこの修羅刃は逃しはしない。
「何だ?何しやがった!?オイ!」
「ヒッうわぁぁぁぁぁぁ…」
1人の兵士の絶叫が木霊する。
「オイ!?どうした?!!…ッあぁぁぁぁぁ」
辺りには砂塵が舞い、もう兵士達は周りの気配を掴むことはできていない。だからこそ、彼等は死んでいく。
「ギヤァァァァァ…」
「何だよ…何が起きtッいあぁぁぁぁぁ!」
最後の悲鳴が響き渡り、辺りを砂塵にかわって静寂が包み込む。
 ちなみに種明かしをすると、この修羅刃は8匹のサンドワームによって作られたものだったりする。砂漠でしか再現できない修羅刃だが、隠密性が高く、奇襲に向いていて囲まれたときとかに大活躍する。
「ふぅ、片付いた…」
戦闘を終了し、一息つく勇者。その顔は清々しいもので、一切の疲れを見せていなかった。
「ご苦労さん」
隠れていた王も、戦闘が終わったことに気づき、勇者にねぎらいの言葉をかけこちらにやってくる。
「だいぶ混乱も収まってきたな」
「ええ、速くしなければ幹部を逃がしてしまうかもしれません」
「だな。少し急ぐぞ!」
勇者は頷き、先を行く王を追いかける。

 さっきの場所から200メートルほど進んだ所に、幹部の部屋と思われる部屋があった。
ここまで火の手が回っていないからなのか、妙な静けさがある。二人は扉の両側に立ち、勇者がゆっくりとドアノブを回し、扉を開ける。すると、
 カチャン
「ッ伏せろ!」
扉を中心に爆発が起き、勇者は王を庇い、瓦礫の直撃をもろに受ける。
「ガハッッゴッゲホッ」
二人は少し吹き飛ばされるが命に別状はないようだ。
「クソが…トラップか?」
王は悪態を吐きつつも、勇者の状態を確認するため、横たわる身体を見つかりにくそうな、隅に移動させる。
「とても動けそうな身体じゃないな…」
「すんません…しくじっちゃいました…」
「構わん。お前は私を守ったんだ、誇って良いぞ」
「ありがとう…ございます…」
「礼を言うのは私の方だ。だから、気にせず今は休め…」
気を失った勇者を、目立たぬように隠し、王は武器を持って部屋に侵入する。今度はもう警戒は怠らない。

 煙が舞って視界がとりづらいせいで、不安定だがどうにか足音はさせず部屋の中央まで進むことができた。
「コソコソと、何をしているかと思えば、こんな事を企てていたとはなぁ?」
「…!」(この声は…確かここの幹部の…)
「せっかく、爆弾まで仕掛けたんだ、もっと俺を興じさせてみろよ、なぁキーシュタイン」
声は聞こえるものの、気配が全然掴めず、自然と焦り始める。
「さっきからお前、どこ向いて俺の話を聞いてんだよ!なぁ!」
「ッグハッッ!」
突然後ろから蹴り飛ばされ、肺から空気を無理やり吐き出させられるように、吹き飛び転がる。その拍子に武器も落としてしまう。すると、次は胸倉を掴まれ、自然と幹部の男と目が合う。
「人の話を聞くときは、目を見て聞けって習わなかったのか?なぁ?」
「……」
「ああ?何だその反抗的な目は?何か文句があるなら言ってみろよ、キーシュタイン」
「死ね…」
憎悪を含んだ目で、幹部を睨む王。だが、そんな視線には何の力もない。
「フッフハハハハハハハハハハハハハハ!今の貴様に何ができるんだ?なぁ!」
部屋に響く高笑いと共に、今度は投げ飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「ガハッッ!」
壁から離れ、着地がうまくできずうつ伏せに落ちる。
(チッもう一度、奴に近づけたら…勝てるというのに…)
もう、身体が一ミリも動かなかった。
「それじゃあな、キーシュタイン」
幹部の男がこちらに拳銃を向け、引き金に指をかける。
そして…ッパアァンーーーーーー銃声が一つ。

―紅蓮千修羅刃・五十九式瞬動―

「なん…だと…」
突然の出来事に目を丸くする幹部の男。
「待たせたな、王よ」
勇者は王を脇に抱え、室内を駆け隅のほうへ。
「お前、あの大怪我で!?何で!?」
「何でって言われても、あれぐらいの修羅場越えないと勇者じゃないっていうか…」
幹部の男と王が驚いているのも無理はない。この勇者は先程まで戦闘不能状態で気絶していたのだから。それをたった数分で動けるまで回復させ、超至近距離で放たれた銃弾を紙一重で回避し、王を絶体絶命のピンチから助けるという絶技を行った。
それを勇者と呼ばずしてなんと呼ぼう!
 さあ、役者は揃った。
「畳みかけるぞ!」
「承知ッ!」
「チッくたばれ!」
またもや放たれる銃弾。だが、
「ぬるいな…」
口元をにやつかせ、左手に持った直剣で弾道をそらし、来る途中で拾ったナイフで幹部の首を斬りつける。
「ぁ…ぁぁ…」
大動脈を斬ったので、盛大に血が吹き出す。とどめを差さずともこのまま、出血多量で死ぬことだろう。
そんな幹部の男に王は近づき、頭に手を乗せる。どうしてもこいつが死ぬ前に確認しなければならない事があるのだ。
「記憶…干渉…」

 ―ドサッ―
血で赤く染まった広い部屋で、1人の死体が崩れ落ちる。
「終わったな…」
「ああ、だがこれは始まりに過ぎない」
血だまりの中、その死体の側にいるのは、王と勇者の二人だ。
「欲しい情報は手には入ったのか?」
「まぁまぁな」
「そうか…」
「…」

 再び静寂が訪れた部屋で、ふと思った。
「…この旅は、長く面白くなりそうだな…」


お読みいただき誠にありがとうございます。
この頃、週一投稿になっていますが、次話はまた少し遅くなりそうです。すみません。
では、キャラ紹介の方を。

 炎の勇者
本名橘クレト。誕生日9月1日。19歳。身長188。体重77。赤髪黒眼。神秘に魅入られし者。
神秘名『修羅場の記録・再現』
16歳の頃、シリアを旅行中に組織に誘拐され、戦わせられる。
神秘保持者にしては珍しく、願いではなく、潜在能力の昇華という形で神秘に魅入られている。なお、決まった武器を持っておらず、戦場で拾ったものを使い捨てながら戦っている。
 神秘を使った技としては、『紅蓮千修羅刃』が挙げられ、名の通り千式までの修羅刃を再現し戦闘に使うことができる。まさに修羅場の支配者だ。ちなみに男女の修羅場は再現できるかどうか試していないので、わからない。

今のところはこんな感じでしょうか。何か思いついたら書き足すかもしれません。
これからもよろしくお願い致します。

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