噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

56 勇ましき者

 時は約4時間ほど遡る。
壱月達が砂漠に飛ばされて間もない時、パルミラから西南西に70キロ離れた地点で事件は起こり始める。

 とある遺跡の地下牢獄に座り込んだおれは、ふとこれまでのことを思い返す。
この砂漠のクソみたいな遺跡に連れてこられ、テロ組織の戦闘員として戦わせられて早三年。あの勝ち目がなく、勝利条件すら何かわからない修羅場や戦場を幾千と乗り越え、同期はほとんどいなくなった。たった一人、アイツをのぞいて。まあ、アイツが死なずにいるのも不思議ではない、なんたってアイツは指揮官なんだから、安全な所にいるのは当たり前だ。だからこそおれは、アイツを一度たりとも仲間として意識したことはなかったのだが。
 ひとまずアイツの話は置いておいて、次はこの組織での己の扱いを語るとしよう。
己の戦闘センスが花開いたのは、3回目の戦場でだった。その時点で、既に人を殺すことに遠慮がなくなり、疲れはあれど、悲しむことはなくなった。慣れとは怖いものだと、しみじみ思う。そして5回目の戦場で己は不思議な力に目覚めた。俗に言う、神秘という奴だ。それからと言うもの、己は数多の修羅場、戦場をかいくぐり、次第に組織からこう呼ばれるようになった、「炎の勇者」と。己はその名を聞く都度こう思う、
(この組織は勇者の価値観を間違っていないか?)
確かに人の価値観はそれぞれだ。だが己は別に悪と戦っている訳じゃない、戦っているのは人間達とだ。ただの人殺しに、勇者が名乗れるわけがない。それが気になった己はある時、近くにいた奴に誰が呼び始めたのか聞いてみることにした。すると、
「ああ?あんたの二つ名の由来?確か…あんたの所の指揮官が呼び始めて…そこから広がった筈だぜ」
まあ、つまりは、己の指揮官、簡単に言えばアイツだったわけだ。結局、話は振り出しに戻る。

 はぁ、仕方がない。アイツの話をするとしよう。まず本名は、ファバード・キーシュタイン。姿形は、ちょうど目の前にいるこいつみたいな……ん?…何故本人がこんな所にいるんだ!?
「時は来た…さぁ私と来い、炎の勇者…」
いきなり叫びだして、鉄格子越しにこちらに手を差し出してくるファバード。己は全然状況が理解できない。

ガチャリ

次にそんな音がして鉄扉が開き、手招きされる。おそらく己を呼んでいるのだろうが、特にアイツに会う理由もないので、無視しておく事にした。だが、そうなるとあちらから入ってくるのは必然だ。
「何をしている?早く来い」
ちょっと睨まれて、ちょっと叱られた。仕方ない、一応上官なので従っておこう。ゆっくりと立ち上がり、己は牢獄から出る。因みにこの牢獄は、己の部屋だったりする。
「何ですか?キーシュタインさん。今日は非番のはずですが…」
「ハッそんなことは知っているよ」
鼻で笑われた。本当いったい何しに来たんだこの人。
「私とお前は、ここに連れてこられて三年の付き合いだからな。特別に私の計画に加えてやろうと思ってな」
「はぁ」
素っ気ない返事をしたのは、計画とか嫌な予感しかしないからだ。というかコイツも今日で三年って覚えてたんだな。
「その反応、興味なさそうだな。だがそれも計算通り。だからまあ、話を聞け」
牢獄に返ろうとしたら、肩掴まれた…
「私の計画というのは、ざっくり言うと反乱だ」
マジでざっくり言いやがった。嫌な予感的中。最悪の気分だ。
 そして聞いてもないことを、ペラペラとしゃべり出した。
「私はこの三年間、ずっとここから抜け出すことだけを考えてきた。
 そこで思いついたのが、ここである程度偉くなり、自由行動が出来るようになれば、
 反乱の準備ができるようになるということだった。以後、私は戦場指揮に加わり、組織に貢献した。
  だが、反乱には仲間が必要だ。そこで私は、三年間一緒だったお前に目を付けたというわけだ。
 実力も折り紙付きだったしな」
「はぁ」
コイツの熱弁を聞き終わっても己は、それでも素っ気ない返事をした。何故なら、先ほど言ったとおり、己はコイツを仲間として意識していないからだ。それにコイツに人を殺す覚悟はあるのだろうか。己は思ってしまう、人殺しの覚悟がないから、指揮に回ったのではないかと。そしてそんな疑惑の視線を向けていると、
「フッ覚悟を問うている眼だな」
また鼻で笑われた。
「問われた限り、示さねばなるまい。私の覚悟を…」
そう言うとコイツは右手を己の頭に乗せ、一言呟いた。
「神秘『星の記憶』…」
「ッ!?」

 その一瞬で、己は様々な記憶を垣間見た。
星が誕生した時の記憶。海が誕生した時の記憶。生命が誕生した時の記憶。
人類が現れた時の記憶。戦いの現在。滅びの未来。星が死ぬ未来。
過去から現在、そして仮定された未来まで、己はありとあらゆる星の記憶を見た。
時に美しく、時に残酷な、そんな記憶。
その中で一際、印象的だったのはその時々の人間の表情だった。
過去では笑顔と悲しみが、現在は笑顔と悲しみと苦しみが、未来では悲しみと苦しみと絶望が…

 そんな記憶を見せられた己の眼から、涙が零れ落ちる。己はこの時、泣いていた。ただただ、静かに泣いていた。
この男、ファバード・キーシュタインが神秘に魅入られたのはいつ頃なのだろうか。もし己があの記憶を永遠に見せ続けられたなら、きっと今頃、己は心が壊れていることだろう。だが実際この男は、あの記憶を持って、今も自我を保ち続けている。これが、ファバード・キーシュタインの覚悟。
「あんたの覚悟、しかと見せてもらった」
「そうか。では今度はこちらから問おう。炎の勇者よ、貴様はどうする」
この時の己には、もう迷いなんてなかった。あるのはこの男がどこまで高見に上るのか、という好奇心だけだ。反乱を起こすからには、それ相応の野望もあるのだろう。己はそれが気になった。故に、
「悲しみや苦しみ、そして絶望のない未来に己を導いてくれると言うのなら、己はあんたに尽くそう」
己はまっすぐに、この男の目を見る。
「誰だって、辛いのは嫌だからな……
 ああ!約束しよう、我が勇者。私はお前を希望ある未来に、笑顔溢れる未来に導いてやる!」
前半、彼は少し悲しそうな笑みを見せた。おそらく、それが本来の彼なのだろう。
そして後半、彼は自信に満ち溢れた笑みでこちらに手を差し出した。
己は、その手を取って跪く。
「我が王よ、そんな素敵な未来に導いてくださるのなら、己は悲しみを切り払う王の剣になりましょう!」

今ここに新たな王が生まれた。はたしてこれは星の記憶に残るのか、それは彼等しかわからない。


いつもお読みいただき誠にありがとうございます。
そして、気づけばフォロワー50人突破です!本当にありがとうございます!

さて、新キャラが2名登場したので、1人だけ軽いプロフィール紹介をしておきます。もう1人は次回にします。

 ファバード・キーシュタイン
誕生日5月5日。年齢22歳。身長187、体重64。男性。白髪黒眼。神秘に魅入られし者。神秘名『星の記憶』
以前はヨーロッパに住んでいたが、19歳の時に組織に誘拐され、今に至る。元は金髪だった。
6歳の頃に、神秘に魅入られそれ以降、この星の全ての記憶を知っている。

これからもよろしくお願い致します。


コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品