噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

17 殺戮者-北上中(真実2)-

『契約更新おめでとう、これでお前は最強となった…』
「ああ、全身から力が溢れてくる」

 契約更新をした俺は充実感を得た。とてもいい気分だ。今の俺なら何だって出来るだろう。

『よかったなぁ。これからお前は4年前実行できなかったあの計画に取り掛かるんだろぉ?せっかくだから俺もつきあってやるよ』
「?…おい鬼、あの計画ってなんだ?」
『あぁ?4年の間に忘れちまったか?』
「すまないな、いろいろあって忘れたみたいだ」
『なら仕方ねぇなぁ、教えてやるよ…俺とお前の願望、お前が俺の力を使ってやろうとした《人類殲滅計画》についてなぁ』
「人類…殲滅計画…」

 そして鬼は俺に《人類殲滅計画》の概要を説明した。話を聞くと、どうやら過去の俺は“星の復讐者"という設定だったらしく、全人類の殲滅を目的として(妄想の中で)活動していたようだ。

「俺が"星の復讐者"…」
『ああ、その通りだ。そしてお前は人類に復讐することを望んでいた俺と出会い、契約を交わしたんだよ』

 そして鬼の力を得て、人類殲滅を始めようとしたところに神々の再降臨が起きた、というわけだ。我ながら実にイタい。

(最初は悪ふざけかと思っていたが、なんかマジっぽくなってきたな)

 俺の黒歴史ノートには、"星の復讐者"という設定は書いてある。だがそれはもちろん妄想上であって、現実じゃなかった。俺は気付くのが遅すぎたのだ。もうこれは悪ふざけなんかじゃない、現実だということに。

 この現象こそが妄想に想像、空想、願望、幻、伝説が現実となって現れる"神秘の復活"だ。今では神秘にもある程度、制限が神々によってかけられある程度ましになっているが、俺が神秘に魅入られた時は、強く願えば何でも叶ってしまう状態だったようだ。

 俺が鬼と契約を更新して、計画について詳しい内容を話している時にそれは訪れた。

『見つけたぞ、異端者!』
「『!?』」

突如部屋にどこからともなく突風が吹き、中心に一つの影が出現した。やがて風がやみ、影の正体が現れる。

「今度はなんだよ!」
『おそらく神だ、まさかこんなに早く見つかっちまうとはなぁ、少し話しすぎたようだ』
『そう我は神である。日本神話の武神がひとり《倭建命ヤマトタケル》だ。そしてこれから貴様等を殺す者の名だ、覚えておけ』
「ヤマト…タケル!?」

 影の正体は自称武神《倭建命ヤマトタケルノミコト》だった。だが、何故か女性だ。自称というのは、正確には神ではないためだ。日本書紀や古事記によるとヤマトタケル(一般的には「日本武尊ヤマトタケルノミコト」だが)は皇族だ。神を名乗っているのは、この4年間で功績でも挙げたからだろう。

『ハハ…俺達を殺しに来たんだってよ。さぁお前はどうする?』
(お、俺にこいつと戦える力はあるんだよな?)
『ああ、もちろんあるぜ。それと俺の声は向こうにも聞こえてるから、お前も遠慮なく声を出していいぞ』
「わかった」
『ふむ。我と戦うか、愚か者ども。ならば日本の繁栄のため早々に果てるがいい!』

 ヤマトタケルは自身の剣を勢いよく抜いた。その刀剣は、一つの芸術品のように美しく、また神々しい光を放ち堂々とした神格が感じ取れる。

『あれは確か【神器・草薙剣】だったな』
『いかにも、これは我が神器・草薙である。さぁ貴様等も剣をとれ、我は鬼畜ではない、それくらいは許そう』
「剣をとるって、どうやればいいんだ?!」
『契約文を詠唱しろ、そうすれば戦える……ヒヒ…』
「契約文だな!えっと確かノートに…」

 俺は黒歴史ノートに書いてあるはずの契約文を探す。それは一番最後のページに書いてあった。俺はその恥ずかしい文を声に出して読み始める。

「我が心に巣食う、最低最悪、そして最強最凶の鬼よ…これより、共に人類殲滅を開始する!」
『ヒヒッ…ああ始めよう、人類への復讐を…』

 そして俺の意識はここで一旦途切れる…



 俺が意識を取り戻すのは、戦いが終わった頃だった。

「ハッ俺は…なにを…」
『初勝利おめでとう、復讐者』
「俺は勝ったのか?神との戦いに…」
『ああ、いい戦いっぷりだったぜ』

 俺は辺りを見回した。

「こ、これはッ!」
『あぁ?周辺のことか?それなら見たとおりこのざまだ』
「俺がやったのか?」
『正確にはお前とヤマトタケルだがな』

 俺のまわりは、ひどい状況だった。家屋が倒壊し今も燃えている。道路はグチャグチャで、そこら辺に人間の死体が転がっている。ざっと見た感じ約1キロはここと似たような感じだろう。そして、俺はヤマトタケルが倒れている場所を見つけ、そこに歩いて近付いた。

『まさか、人間にここまでやられるとはなぁ。我もまだまだ鍛え足りんようだ』
「ヤマトタケル…」
『ハハ…相打ち覚悟で、草薙を全解放したというのに…まさか生きているとはな』
「…お前の負けだ…」
『ああ、そして貴様の勝利だ、このヤマトタケルに勝ったこと誇るがいい、だが…最後に…』
「?」

 ヤマトタケルは俺に向かって指差し、何か呪文を唱えた。

『貴様と鬼の契約、封印させてもらった…』
「なに!?」

 そう言われ、俺は確かめた。すると確かに鬼の声は聞こえなくなっていた。だが今ある力の方は失われてはないようだ。

『貴様はこれから30年間、力が増幅することはない。力の源である鬼との間に断絶結界を張ったからな…』
「おまえ…自分の命を魔力に変えて結界を張ったのか?何故だ?お前はまだ、助かるかもしれないのに」
『任務に失敗したんだ、責任を取るのは当たり前だろ?それと貴様に頼みがある…』
「確かにそれは当たり前…だな。それで…頼みとはなんだ?」
『神を…神々を殺してくれ』
「!!…そ、それはまた突拍子もない話だな、なぜそうなるんだ?」
『我は神に昇格して、神々の再降臨の理由を知った』
「…」
『それは―――』

 ヤマトタケルは語った、神々の再降臨がなぜ起こったのかを。
 神々は元々神界と呼ばれる現世とは次元が違う世界に住んでいた。だが突如神界に歪みが生じ始める。そしてその原因は人間界にあると特定され、神々は神界から現世へと調査のため降りてきたのだ。それが神々の再降臨。

 そして人類の神話への信仰にその原因があるとわかった神々は人類の完全支配(今の神々の統治よりもより完璧な支配かつ神話への絶対信仰)をするために動こうとしているのだ。
 ヤマトタケルは伝説が現実となった元人間なので、人間が自由に生きられなくなる神々の支配に不満があった。だが神格を得て発言したとしても神々の意志は変わらず。抗議の結果、今回の任務を言い渡され、捨て石にされたのである。だから、今人類で最も力のある、殺戮者にこの思いを託そうとしているのだ。

『このままでは、人間は自由に自分の人生を歩むことができない…』
「だろうな」
『このまま支配が進めば人類は笑うことを忘れ、生きる喜びを忘れ、理不尽で人は死んでいくだろう。お願いだ…神を殺し、人類が自由に生きられる世界を、取り戻してくれ…』
「残念だが、俺にはこの星を苦しめる人類を殲滅するという使命がある……」
『それは…』

 この時、殺戮者は中二病だった頃、なぜ自分が"星の復讐者"という設定を考えたのか思い出していた。"星の復讐者"それは、もう地球が人類のせいで傷つき苦しむことがないように、という願いが元となっている。

「だがな、神がこの星を…傷つけ、苦しめるというのなら、そのとき俺は神も殲滅すると約束する」
『…そうか、それなら安心だな。…ありがとう…』
「…俺がこんな事を聞くのは…あれだが…その…いいのか?」
『何が…だ?』
「俺はどの道、人類を殲滅するぞ?」

 そう。いくらヤマトタケルの願いを叶えたとしても、俺が人類を殲滅するのは変わらない。だからこの時、俺は思い切って聞いたのだ「俺を殺さなくていいのか?」と。そしたら奴は…

『ハハ…ハハッハハハッハハ……ゴホッ…ああ、すまんすまん。貴様がなかなか面白いこと言うからつい…』
「な、何笑ってやがる」
『…殺す側が殺される側の事を考えてるもんだから…珍しく声出して笑っちまった…お前ってなかなか優しいのな…』
「…おい、あんた口調変わってないか?」

『………とにかく、あまり人間の可能性というものを舐めないことだ。貴様を含め、この世界には可能性を秘めた者達が数多く存在する。我の願いを叶える前に果ててくれるなよ?』
「ハッ俺が人類ごときに負ける訳がない!」
『ああ、その傲慢さが貴様にあれば…人類は負けることはないだろう…』

 まったく、あいつのあの自信満々な笑顔は、今でも深く記憶に残っている。

「それと一つ腑に落ちない事がある」
『なんだ?』
「神を殺せというのなら、なぜお前は俺と鬼の契約を封印したんだ?これでは力が手に入らないぞ』
『ハハそんな事か…それなら簡単だ。身の程をわきまえない力は自身を破滅させるからだ』
「そういうことか…」

『これから30年間、体と心を鍛え続けろ。そうすれば鬼の力を制御できるようになり、鬼に体を乗っ取られることもないだろう』
「鬼に体を乗っ取られるだと?」
『さっきの戦いの時、お前は意識を失っていただろう?あの状態のことだ』
「なるほど、わかったこれから体と心を鍛えるとするよ」
『ああ、頑張れ……世界初の神秘保持者が君でよかった……これなら我も神秘を復活させた甲斐があるというものだ……さらばだ……最期にして最大の宿敵"殺戮者"………………………………』

 そう言ってヤマトタケルは消滅した。ヤマトタケルの後には砕けた草薙剣の破片が一欠片落ちてあった。俺はそれを手に取り、ひとりつぶやく。

「殺戮者…か、ハハッ気に入った、これからはそう名乗るか…」

 こうして神秘保持者第一号と神秘顕現者第一号の記録に残ることがない邂逅は終わりを迎えた。
 それからしばらくして、神々はヤマトタケルのような脅威になりかねない者の出現を恐れたため、神秘を一部封印し、無制限に神秘が復活することを防いだ。
 そして今現在、神々の真の目的を知っている人類は殺戮者だけである。


 草薙の欠片を見ながら、最後まで回想を終わらせた殺戮者は…

「もうすぐ約束の30年だ…」

 そんな事をつぶやきながら、また北海道に向けて北上を続けるのだった…

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