Dragoon→Dragon Knights

巫夏希

第三十一話 模擬戦(前編)

 一週間後、ラインハルトは三ヶ月以上ぶりに軍部の施設にやってきていた。
 今日から職場復帰ということもあり、少し遅めにやってきたわけだが、どうやら習慣というのはそう簡単に直せるものではなく、気づけばいつもの時間に起きていつもの時間にやってきていた。

「待ち合わせまでは一時間あるな……」
「よっ、ラインハルト。今日から復帰かい?」

 そう言って肩を叩いたのはアダムだった。
 対してラインハルトはそれについてオーバーなリアクションをとる。具体的に言えば、彼の身体を避けるように身体をスライドさせたのだ。
 それを見たアダムは肩を竦めて、

「なんだい、もうそんな態度をとるのかな? それとも、軍隊の経験がもう戻ってきた?」
「ああ……いや、何でも無い……」
「ま、気にすることは無いよ。いずれにせよ、人は多い方が良い。戦争が終わった以上、平和になるとは限らない。残された小競り合いを潰すこともまた、僕たち軍の役目だ。……ただまあ、それが終わると僕たちはお払い箱になるわけだけれど」
「それは……そうだな」

 そうして二人は、軍部施設内部へと入っていくのだった。


 ◇◇◇


「再生の卵を孵化させるには、あといくつの血の魔方陣が必要となる?」
『今潰しているラスタール地区が最後だ。まったく、再生の卵にも困ったものだよ。大量の生け贄を捧げるだけではなく、孵化の祭壇を作成するためにも魔方陣を作る羽目になるのだから』
『しかしその結果得られるものは甚大だ』
『然様。再生の卵を孵化させた先に得られるものは、恒久の安寧。我々の世界には、我々の世界とは、こうやって「浄化作用」をもたらしていたのだから』
「……その浄化とやらに人間も含まれなければ良いですが」
『何か言ったかね?』
「いいえ、何も」

 何も言っていないことにした。
 そうであれば、きっと何も答えられないから。


 ◇◇◇


 軍部施設に入ると、ベッキーが彼らを出迎えてくれた。

「ラインハルト、早かったじゃない。予定時間はもっと後のはずだと思ったけれど」
「復帰出来るとなると、やっぱり習慣付いてしまっていたものが出てきてしまってね。結局いつも通りの時間に目覚めてしまったわけだよ」
「そりゃそうよね。……ま、いいわ。案内は必要?」
「俺がいない間に変わったところがあるなら」
「なら必要ないわね。強いて言えば、あなたの隣に居るアダムくんが新規入場者として来ただけだし」

 アダムのほうを向くと、にっこりと笑みを浮かべてきた。
 別に笑って貰う必要など無いのだが、彼なりの礼儀なのだろう。

「……まあ、とにかく訓練でもして、明日から任務に参加して貰おうかしら」
「明日からで良いのか?」
「流石にその日のうちから参加させるのは良くないでしょ。というわけでシンギュラリティに乗って貰うから。ちなみにあれから改造されているので中身は竜じゃないわよ。正真正銘の『ロボット』だから」


 ◇◇◇


 起動訓練はシミュレートルームにて行われることとなった。シンギュラリティのコックピットを模した空間が二つ存在し、模擬戦を行うことが出来る。
 ひとまず訓練を行ってから、そうして彼の所属する隊が持つシンギュラリティを利用することになる――という段取りだった。

「それじゃあ、相手は」
「僕にお願いして貰っても良いですか」

 ベッキーの言葉を割り入るように切り込んだのは、他でもないアダムだった。
 アダムはベッキーの表情を見た後、目を丸くしていたラインハルトを見つめ、

「君の戦力を、確認したいんだ。戦って、君と協力するためにはどうすれば良いのかを確かめたい。どうだろう、お願いできないかな?」
「……俺は別に構わないが、ベッキーは? 元々誰にお願いする予定だったんだ」
「……元々は私がやる予定だったわ」

 ベッキーはぽつりと呟いた。
 そして話を続ける。

「だけれど、別に誰がやってもあなたの力を推し量ることは出来るだろうから、別に問題ないわよ。別にシミュレートマシンはその人間に合わせたシステムでは無いしね」


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