Dragoon→Dragon Knights

巫夏希

第二十一話 戦争


 空から見た景色は圧巻だった。森を焼き、敵をいぶり出そうとしている。こちら側の人数を考えても効率が悪すぎる戦法だ。

「いったい、なぜここまでして……」
「そりゃあ、彼の地位による問題だろう」
「王子が国王を殺したことを、よほど隠したいということか?」
「冷静に考えてみれば分かる話だ。……自らの息子に殺されてしまうほど、求心力が低下していたという証拠にも繋がる。国政はまだまだ続く必要があるが、親殺しの王子にはここで事実もろとも消えてもらおうという寸法だろう。大方儂らを殺した後は儂らが王子をそそのかしてクーデターを実施した、なんてあらすじができあがっているやもしれん」
「そんな悠長なこと言っている場合かよ! ああ、もうっ。最悪なことになっちまった。こちとらあまり敵を増やしたくなかったというのに」
「おぬしはもう、あのエルフの村を滅ぼしてから罪の意識に苛まれているはずだ。いや、苛まれていなければならない」
「それは……」
「まさか、何も知らぬとは言わせないぞ? このままどう向かっていくかなぞ、頭が悪い人間でも分かっていただろうに、おぬしは無理に進めた。その結果がこれだ。人間は哀れで低俗で、それでいて悲しい存在だ。そんな連中が戦争以外の選択肢を選ぶことがあり得るか? ただでさえ今は戦争をエンターテイメントとやらにしているのだろう?」

 戦争のエンターテイメント化。
 それはすなわち、視聴率によってその結果を変化させるといったものだった。たとえばとある兵士に人気が高まっていたらその兵士にカメラがフェードインできるように彼に武勲を与えるようにしたりとか、逆に人気の無い兵士は途中退場か誰も守ってもらえずに無残な死を遂げてしまう。
 そんな人間を、彼は何人も見てきた。
 だからこそ戦争なんてくだらないと思っていた。

「戦争は生存本能だ。人は生きていく上で戦い、弱いものは散り、強いもののみが残る。そうやって人間は長い間この世界の頂点に立ち続けたでは無いのか」
「それは……」
「これが神の作りし世界だというのであれば、神に祈りを捧げるが良い」

 ブランは言い放ち、やってくる兵士たちをにらみ付ける。
 兵士たちもようやく羽ばたくブランの存在に気づいたのか、上を見始めた。

「だが、これだけは言える。どんなに汚れた世界だって、見捨てる神が居れば、救う神も居るとな」

 そうして、ブランたちの攻撃は開始された。
 一撃目は炎だ。先ほどドワーフの兵士がやったそれとは比べものにならない、爆発的な炎が彼らに襲いかかる。
 彼らは炎に弱いわけではないのに、その炎を見て大慌てで逃げ出した。冷静に考えて鎧が溶けてしまうのだろう。見た限りではその鎧は金属製だ。

「ははは、逃げていくわ。逃げていくわ! あの炎はどのような金属だって融かしうることができる。それを知ってか知らぬか、逃げていく。ああ、面白い光景だ」

 ブランはそこまで言ったところで、やっと彼の契約者――ラインハルトに目を向けた。
 ラインハルトは俯いた様子で、下界を眺めようとはしなかった。高所恐怖症なら今までの飛行で何らかの拒絶反応を示すはずだし、だからこの状態での違和感は拭いきれなかった。

「……何かあったか、ラインハルト?」
「いや……ちょっとさ。なんで俺たちってこんなことをしているのかな、ってふと思ってしまって」
「なんじゃ、さっきの繰り返しか? この世界は弱肉強食の世界だ。強いもののみが生き残り、弱いものは淘汰されていく。それに何の違いがあるというのか」
「そうなんだ。そうなんだけれど……なんで人を殺さないといけないのか、分からなくなってしまったんだよ」

 まるで堰が切れたように、ラインハルトはぽつりぽつりと言葉を紡いでいく。

「エルフの村だってそうだ。彼らは、ドラゴンと契約を交わすことができる貴重な存在だった。そしてそれはテスラーにとって危険視すべき存在だった。だから、殺さなくちゃいけなかった。でも、殺したのは結果だ。理由じゃない。結果的に、あの村は滅んでしまった」
「そうだ。結果的ではあったが、あの村は滅んでしまった。否、いつかは滅ばざるを得なかったのだよ。そもそもエルフは他種族との交流を絶っていたのに、ドラゴンと力を引き出せることが分かってから積極的にマギニアへ徴兵に行かされるようになった。あの村に女しかいなかったのは、そういった理由がある」

 ブランは淡々と事実のみを述べた。
 そこに彼の感情は存在しない。
 そこに彼の意思は存在しない。
 そこに彼の意味など存在しない。

「……でも、違うと思うんだよ」

 強く、手を握り。

「結果的に死んでしまったから仕方ないだろ、ではなくて、なぜ殺してしまったのか、殺すに値したのか、殺す必要はあったのか、考えなくてはならなかったんだと思うんだ。戦争だってそうだ。昔はお互いがお互いにプライドを持っていた。それこそ今のようなマギニアとテスラーという二分された勢力じゃなくて、あるルールをもった部族同士での小さい戦争もあった。それをどうにかして二つの国にまとめ上げた。それがチャイルド・プランだ」

 チャイルド・プラン。
 十五年前に実行された、小部族国家の連邦制度導入および二国化による貿易問題の解決などを盛り込んだ条約のことだ。代表として現テスラーと現マギニアの二国が調印式に参加し、それにて戦争は終了するはずだった。

「戦争は、それで終了するはずだったんだ。でも、それを許さなかった勢力が居た」
「……商業と報道だな?」

 こくり、とラインハルトは頷く。


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