Dragoon→Dragon Knights

巫夏希

第十四話 天使

「天使を信じるかね?」

 食事を終えた陛下は、秘書の女性に質問をする。
 無論、陛下と呼ばれた男は、分刻みならぬ秒刻みのスケジュールで動いているため、歩きながらの会話となる。本来、歩きながらの会話というのはあまり好ましくないと判断されているのだが、その会話を開始したのが、この国の最高権力者であるからして、それを拒否することなどできないのである。

「天使、ですか?」
「ああ。かつて存在したと言われている存在だよ。神を守護するために存在した彼らは、翼を生やしていたらしい。しかしあるとき、彼らは気づいたのだ。このままでは、永遠に自分たちは使われたままだと。その使われたままの存在である自分たちが、どうあれば良いか考えたらしい。どう考えたと思う?」
「……神を殺した、ですか」
「半分正解だ。強いて言えば、それにオプションが追加されている」
「オプション?」
「神を殺した後、神の庭園を破壊した。そうして、天使は天使ではなくなった。彼らは、自らの地位を自らの手で破壊したのさ。そうして、彼らは一艘の船に乗り込み、地上へと降りてきた。何故だと思う?」
「そこしか無かったから、だと思いますが。あるいはそこを侵略しようとした」
「正解だ。そうして、侵略をするためには、同じ人間の姿であってはいけないわけだ。天使は人間と同じ姿形をしていたのは、神が人間の姿をしていたからと言われているのだが、仕えていた神が居なくなれば、そんなことはどうだって良くなる。とどのつまり、神の言うことを聞かなくても良くなった彼らは、その姿を変容させていった。大きな口を持ち、大きな牙を持ち、大きな爪を持ち、人を食い殺せるほど大きな存在に。……そうして、地上の人類はほぼ滅亡した。今の我らを除いて、ね。さて、その天使は何者だと思う?」

 秘書の女性はそこで立ち止まり、ようやく一言呟いた。

「……ドラゴン」
「正解だ」

 立ち止まり、秘書の女性を見つめる。

「ドラゴンは、長きにわたり我々人類と敵対関係にあった。と同時にエルフとは友好関係を築き上げた。理由は単純明快、彼らが天使の時代に、エルフとは友好関係にあったからだ。そうして、彼らとエルフは、我々人類と敵対関係にあたることとなった。それがマギニア王国と我々テスラーとの戦争の始まりだ」
「でも、ドワーフは中立ですよね」
「ドワーフはその技術力を全世界に売り尽くすことを本性にしているからな。仮にドワーフが誰かの味方になるならば、あっという間に滅ぼされることだろう。まったく、うまい世渡りだよ。……だが、その構図ももう終わるがね」
「何が起きるのですか?」
「老人どもの話では、先ほど指名手配した『彼』がドワーフの王に出会うはずだ」
「そこでドワーフの王を味方につける、と? そんなことがあり得るのですか、だってドワーフの王は」
「全世界に永世中立を保ってきたから、だろう? 私だってそう思うよ。まあ、そこは彼の腕の見せ所だろうね」
「陛下。……あなたはシナリオをどこまでご存じなのですか?」
「私は何も知らない。知っていることしか知らないよ」

 そうして、二人の会話は終わった。


 ◇◇◇


 ドワーフの王が居る場所は、地下深くにある。
 しかしいくら地下にその居城があろうとも、他国との貿易を行っている時点で地上と接続されていることは間違いなく、また地上への出入り口があることも事実だった。

「……ここから入ります。一応身体検査が入りますが、銃の持ち込みは可能です。あくまでも自衛用として申請していただければ」

 ガラシア貿易区。
 その地下入り口にある守衛所。
 ソフィーとラインハルトはそこにやってきた。
 流石にブランが入ることは適わないため、ブランはラルタスのところに置いてきた。ラルタスを守るように命じているため、もし仮にどこぞの軍隊がシンギュラリティの技術を求めてやってきたところでなんとか耐えしのいでくれるに違いない。そうラインハルトは思っていた。

「……兵士か。何を目的としている」
「王への面会、お願いできるかしら?」
「これはこれは、ソフィーさん。兵士はあなたの知り合いですか?」
「ええ。知り合いです。遠方から来られたのでどうせなら、と思い。直ぐ終わりますので、お願いできますか」
「良いですよ。あなたたち一族にはいつもお世話になっておりますゆえ。武器の改造がうまくできるのはもう彼しかいませんからね。ちょっとお待ちください」

 そう言って兵士の一人は電話を取り始める。
 大方、王への連絡をしているところだろう、とラインハルトは思った。
 少しして、兵士は電話を終えると、

「問題ありません。……それと、王もあなたにお会いしたいと言っておりました」
「俺に?」
「はい。……何故かはわかりません。しかし、王は不思議な力を持っておりますから」
「不思議な力、とは」
「簡単に言ってしまえば、予知能力」
「予知能力?」

 思わず反芻してしまうラインハルト。

「疑問を抱いていることでしょう? それも仕方ありません。しかしながら、ドワーフの王になるには、神より与えたもうし予知能力を得たドワーフのみ。仮に王の子であろうとも、予知能力が備わっていなければただの子供。そしてあの子供も……」
「フィアー王子のことですか。彼は、父が王位を持つ間しか効力を発揮しない地位も使わずに、ただ引きこもり続けていると聞きましたが、まだ王位に縋りたい気持ちも分かります。そりゃあ、一国の主ですからね。誰だって喉から腕が出るほど欲しいでしょうよ」
「ま、この国のことだから、兵士さんにはあまり気にすることじゃねえな。……さて、問題ないから門を開けるよ。気をつけてくれよ、ここから先はおたくさんの国の法律は適用されない。仮にあんたが罪を犯した場合は、この国の法律に適用された裁きが下される。……それだけは覚えておくように」

 了解、と短く応答し、ラインハルトは中へ入っていくのだった。


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