Dragoon→Dragon Knights

巫夏希

第九話 ドワーフ

 漆黒の部屋にて。

『担い手が竜の村を滅ぼしたか』
『計画は順調に進んでいる。一ミクロンもずれがないほど』
『然様。であるからこそ、次は救済の黒竜を修正しなくてはなるまい』
『修復が可能な存在は居るのか? 流石に、そのためにまたテスラーに戻すことはできまい』
『可能だ。ドワーフの一族がその近辺に住んでいる。シンギュラリティにも興味を持つドワーフが居るに違いない。彼らの技術力なら、シンギュラリティを修復することも可能だろう』
『ここでは救済の黒竜と呼びたまえ、ナンバー・ツー』
『……失敬。しかし、白竜についてはどう扱うべきかね?』
『ブラン、だったか。それにしても厄介な竜を仕えさせたものだよ。まあ、それほどの人間でなければ、計画を遂行することは適わないか』
「……では、我々は手を出さないということで宜しいか?」

 初めて、発言権を得た顔に火傷を負った人間は話をした。
 目の前のモノリスは出現し、

『その通り。我々はまだ手を出すべきではない。それは修正するほど、計画に無駄がないことを指している。であるからして、今はただ彼の自由意志に任せるということだ。修正が必要になった時は、彼が予定通りに動かなくなったとき……』
『つまり我々は彼の行動を、結果的に操作していることになりますな』
「承知しました。監視について引き続き続行。但し手を出すことはしない。ということで宜しいですか」
『然様。……しかし、監視役をどうするかはまだ手を倦(あぐ)ねていてね。誰か適役は居ないものか』
「……だとすれば、一人適役がいます」

 何かを思い出したかのように、火傷を負った男は語る。
 モノリスはそれを聞いて、

『おお。ならば、監視役の任命は君に任せよう。何、もともと君を「委員会」に入れるかどうかの試験と思えばかまわない。但し、余計なことはしないように』
「承知しました」

 モノリスは消え、彼だけが残る。

「相変わらず……、押しつけが好きな老人どもだ」

 その言葉は、誰にも聞こえることはなかった。


 ◇◇◇


「シンギュラリティを直したい」
「……直す、とは修理ということか?」

 ブランは、シンギュラリティを見つめながら首を傾げる。
 対して、ラインハルトは大きく頷くと、

「ブランも契約をしたから、一緒に戦うというのもわかる。だが、俺はずっとこのシンギュラリティで戦ってきた。だから、こいつを直してまたともに戦いたい」
「……言いたいことはわかるが、部品は? それに、お前が直すのか?」
「まさか。さっき、地図を確認したんだが、ドワーフの村が近くにある」

 ドワーフといえば、手先が器用で様々な工業製品を世界中に送っている、村でありながら一つの企業的団体を構成している種族のことである。
 工業製品は公平であるという観念のもと、どの国からも融資を受けず、どの国からも支配を受けていない。そのために、ドワーフ自身が軍を持ち、自立しているという。

「しかし、ドワーフに知り合いがいるとは思えないが?」
「そう。問題はそこなんだよな……。シンギュラリティの技術には、ドワーフも関わりたいと思うはずだ。何せこの技術は今までドワーフが開発したものの二番煎じしか開発できなかったテスラーが、初めて先行して開発できた戦闘用人型兵器だからだ。だが、このままシンギュラリティを持ち込もうとすると、戦争をするのかと思われてブラン共々殺されかねない」
「それは困るな。まだ生きていようと想っているからのう、儂は」
「この前もう十分過ぎるくらい生きたとか言っていなかったか?」
「さあ、言ったかのう。最近は……耄碌としてしまって忘れたよ」

 とにかく、話をつけに行こう。
 ラインハルトが言ったのは至極簡単なことだった。しかしブランは簡単に言うな、と言う。

「しかし、ドワーフには分からず屋が多いという話だぞ。簡単に言ってしまえば、技術に集中しすぎて、それ以外が億劫になってしまうのだ。ある種の障害ではないか、と言ってもおかしくないレベルでな」
「それは、ドラゴンが言っていいのか?」
「いいのだよ。一応、儂らドラゴンが生態系の頂点だと言ってもいい。それを考えればそれを使役できているお前はその生態系を掌握していると言ってもいい」
「成程ね……。まあ、そこまで深いところは考えていなかったけれど」
「そういうと思っていたよ」

 そうしてブランは翼をはためかせる。

「お、おい。待てよ! 俺を置いていくつもりか!」
「そんなわけがあるか。直ぐにドラゴンが飛べると思うな。何回か翼をはためかせてからでないと飛べないのだよ。運動をするときに人間も準備体操をするだろう? それに近いものだ」
「人間で言うところの運動と、ドラゴンで言うところの飛行を一緒にしてはいけないような気がするけれどな……」

 そうして、ラインハルトはブランの背中に乗り込むと、そのままブランは飛び立っていくのだった。


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