嫌われる意味を知らない者達~異世界で始まった人生の迷い家~

ゼロのカラカラ

十三話 渦中の出会い

 亜人族。人間に似て非なるものだ。その姿故に差別されることも多い。シオンが荘都で学んだ事だ。他にも魔法使いの末裔、理人族がいるが、人種は大きく分けてもう一つの人間族の三つだ。

 その少女は亜人族だった。年は同い年くらいだろうか。白いボブカットは精霊のごとく煌びやかに流れているが、その頭の両方に狐のような耳を持つ。
 シオンの服と同じくボロボロの白いワンピースからは、これでもか!という程に白い肌が現れる。その白さと細さは並大抵のものでは無い。丸太に座っていて、その足はきちんとくっついており、ほっそりとした白い素足。裸足なのに、それほど汚れていないような白さに圧倒される。後にはヒラヒラと尻尾が静かに踊っている。

 そして目鼻立ちがくっきりしていた。まるっきり日本人のそれに似ているが、その可愛さは尋常ではない。モデルと言われても納得できる。青い瞳はサファイアのように深く、少し妖艶さを纏う艶のある口元が薪に照らされる。

 シオンは理解できない。今目の前で何が起きているのかを。それを察したのか、その少女は口を開く。

「貴方が森の中で倒れていたの。初めは傷だらけだし肉も抉れてたけど、私が治療したから大丈夫」

 つまり、彼女はこう言ったのだ。

 彼女は元々この森で「忌み子」としてこの洞窟に立て篭もっていた。軟禁状態だが、出ようと思えば出れる状況。しかし、そんな彼女を迫害した人間に出くわせばすぐ殺される。それに怯え、彼女は何年もこの森の中にいたらしい。

 いつもの習慣とあり森の中で食べ物を散策していた。魔術を使えるため魔獣などからは身を守ることが出来た。元々狐の亜人族であり、肉を食べなくても生きていける彼女は妖森の土地性に優れ、どの場所にどんな食べ物があるのか把握しているらしい。

 そして何やら森の主(バルアジア)が動く振動を感じ取りこの洞窟(すみからしい)に戻ろうとしたところ上空から背中でスライディングする少年が飛んできたのだとか。無論、シオンである。

 飛んできた少年に興味を持ったが、すぐにその異常性を知る。包帯グルグル巻を解き放つと酷い有様だった。右のこめかみは黒い血溜まりができており、心臓の辺りも傷が多少塞がれているが先の衝撃で開いている。右腕には三本の赤い血の線が出来ている。左足は太ももに大きな切り傷が刻み込まれてある。

 極め付きは腹である。以前クズ虫によって蛆虫の親となったシオンだったが、シオンの技術では腹のそれは治療することが叶わなかった。結果、包帯で放置するという悪行にいたり、悪臭を漂わせた諸悪の根源だ。内蔵があと少しで見えるほど傷が広がっており、その傷も黒く変色しかけていた。いわゆる、腐りだ。腹の肉の一部は抉れ、内蔵には幾度の歴戦の跡が残り、尋常でないシオンの体が露呈した。

 バルアジアに吹っ飛ばされ一瞬で意識が無くなったシオンを何とか能力で助けなくてはと思ったそうだ。ゆっくりと自分より思いはずのシオンを抱えて洞窟に寝かせた。そして治療を始める。

 【生命を制する】。彼女もまたチートだった。しかし、それ故に「忌み子」として迫害された彼女は碌に能力を使うことは出来なかった。それでも二日掛けて抉れた体は癒され、大方の怪我は治ったらしい。常人なら理解できないとは思うが、あいにく助けた相手が常人でないのでシオンは理解した。

「それで、何故助けたんだ?」

「ん?」

 聞こえなかったのか、素直に聞き返す彼女。

「俺を助けたところでたかが知れている。俺がこの場でお前を殺すとしたら、お前は俺を助けたことを後悔するんだぞ。ましてやそうでなくてもお前に攻撃しない保証はない。デメリットしかないだろ」

 シオンは冷酷だ。残忍と呼ばれるその心は鉄壁の守りをほこり、他者を寄せ付けない。それが復讐心を駆り立てた挙句の結果であり、仕方ないことだった。

 そんな冷酷なシオンの言葉を全く気にしないように彼女は言った。

「あんなに怪我して、しかも放置してあった怪我を抱えた人間にそんな人はいない」

 的を得てない。冷たき合理主義のシオンには理解し難い。元の人間の感情を持ってくれば理解できるだろうが、それは己への否定。出来るはずがない。

「それとも、貴方はそうしたい?」

「シオンでいい。別にそういうつもりは毛頭ない」

 助けてくれた相手を殺す。それはアイツらと同類ではないか。いや、それ以下。少なくとも復讐相手のようになるなど、出来るはずもない。

「……その、ありがとう」

 復讐に走った少年が初めて言った、素直な感謝の言葉だった。《環境変動》は解除してあり、復讐に駆り立てられた彼がようやく我を取り戻し、ふと視線を沈めた。

 少し馬鹿だった。いくら復讐の為とはいえ妖、しかも同胞を無残に殺された妖に「友達殺したった」と言って戦うなんてどうかしていた。このままでは「人間」としての「シオン」が消えてしまうところであった。

 そんな様子のシオンに少女は優しい目線を絡める。

「困った時はお互い様。私はここから出ることはできないけど、貴方を助けられて、それでいい」

 胸に手を当て、安らぎの顔で目を閉じる少女。何か思うところがあるのだろう。シオンはそっとそのままにしておいた。無闇に他人のテリトリーに入るのは許されない。それは転校したあの少女を脳裏に浮かべた。

「…そう言えば、君の名前は何?」

 「お前」から「君」に変わり、戸惑う少女。しかしそれもほんのわずかで、すぐに顔に雲がかかる。

「名前は…ない。『忌み子』になったとき……失った…」

「じゃあ『リュカ』で」

「……は?」

 本来なら何か同情したりするべきなんだろうが、シオンはめんどくさいと思った。たかが名前を聞いただけなのに暗い雰囲気になりそうなのを耐えかねた。そんな暗い空気はこの少女には不格好であり、見たくない。

「………いやか?」

「嫌じゃない。ありがとう」

 ホットとする。適当に名前を挙げただけなので、「レックス」とか「アルマゲドン」とか思いついた候補を押さえ込み飛び出した結果が「リュカ」だった。

 ケモ耳少女が、リュカ…リュカ…と連呼している様は普通の人から見ればこじらせたストーカーとか変態だろうが、あいにくシオンは普通の人間ではない。

「それと、二日掛けて治療したってことは俺は動けるのか?」

「ダメ。動いてはせっかく治療したのが台無しになる。最低あと三日」

 即座に否定される。あと三日ということは、少なくともその期間は復讐の為の力を蓄えることができないということだ。体を動かし続けてきたシオンにとっては悪行でしかない。しかしせっかく治療したのが台無しになるのはリュカとしても嫌だろうし、ましてシオンもその気持ちは大事にしたかった。

「…でも魔術は教える。法術は精神を使うからダメ。『病は気から』」

 どこぞの医者のようなことをいうリュカに少し呆れた。これまで心身ともに復讐の為削り取ってきたシオンはもうどーとなれー!的な思いになった。どうせ三日ここにいなくてはならないのだ。またバルアジアをどうせ倒そうと決めたので、魔術を教わるのは悪いことではない。今度は策略を練りつつ戦えば勝てるかもしれない。

 「大丈夫、貴方を生かしてあげる」

「そんなこと訊いてない。殺す気だろ?」

「……素直じゃない」

 よく分からない冗談を交える。復讐の少年と忌まれた少女は石の洞窟の中でふっと微笑んだ。空には満点の星空が広がっているのを知らずに。

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