嫌われる意味を知らない者達~異世界で始まった人生の迷い家~

ゼロのカラカラ

十一話 バルアジア遭遇

 拒絶反応が終わり、森を進むシオン。徐々にではあるが心臓の傷が塞いできているし、クズ虫に刺された背中も治りつつある。スキル《回復Ⅰ》の賜物である。しかし、そのスキルを持ってしても、抉れた体は癒されずもはや腐った匂いがするだけだ。

 対処のしようがなく、どうしようかと薬草を塗りたくり気絶した日を忘れない。結局香水的な植物を塗りつぶしその部位の周りに纏わせることでことは収束した。しかし《環境変動》が無ければ精神が異常をきたす怪我を見捨ててる以上、その対処の仕方は人間を本当に超えた。

 今シオンは北へと向かう。西の方には砂漠が広がっており、それ以上は進めないと判断したからだ。北に行くほど妖や魔獣は力を増していく。こんな姿になってもなお蹂躙されることは変わらない。それでもシオンは、「復讐」を諦めない。

 自分を見捨てて生きている奴ら。あの時シオンの体を押した誰か。応戦せずじっとシオンを見ていた姿は、いじめられている生徒を見下す観客そのものだった。絶望に絶望を重ね、精神が剥ぎ取られ、

 シオンは、人格を変える。

 以前はどこか俯瞰した様子であった。誰かと関わっても決して深入りしない。しかし信頼を置いた者にはこれと言ってないほどの関わりを求める。自分自身めんどくさいと思う。しかも自分をさらけ出すのに慣れておらず、信頼を置いた者でさえ彼の本心、心の底を見ることは不可能であった。周囲には大人しい、でも馴れ馴れしい少年に見えたかもしれない。

 しかし、変わった。常に生きること、もとより復讐することに命を賭ける少年へと。孤独に己を叱咤し、ただ命を冷淡に見て、見下す人間に。嫉妬深いとは思ったことも思うようなこともないが、復讐で生きている体なんて面白い、と思うようになった。非力さゆえの努力は止めて、ひたむきに泥を食べ続け、魔獣を喰らい尽くす。本心は隠したままであるが、その手前、復讐心は本物だ。

 食べた魔獣の数だけ強くなれる。スキルが発動し、新たな力を身につけた。

《陰影》《陽灯》《環境変動》《威圧無効》《広視野Ⅰ》《回復Ⅰ》《反射神経Ⅰ》《動体視力Ⅰ》

 付け加えられたスキルは全てゼツレインを食べたあとに加えられたものだ。どれも使い方が、そしてその効能が何か分かりやすい。ものにするのにさほど時間は掛からなかった。

 ふと、《広視野Ⅰ》で異常を発見する。この先十里先に人里が見えるのは把握済みだが、その手前、一里も無いほどの場所に開けた場所があった。そこにいる、並大抵でない魔獣がいた。

 熊。某有名狩猟アクションゲームのアオア〇ラを思わせるような体つき。しかし、ア〇アシラとは決定的に違うのはその色だ。黒い。全身が真っ黒に染まっており、牙から垂れる捕食された者の白い血がそれをさらに強調させた。身長は二階建ての建物ほどあるだろう。

「…殺るか……」

 ふと、そんな言葉が漏れる。拒絶反応後で気怠い感じがある。復讐だけで鞭打った体だ、無茶したら大変なことになる。【命に嫌われる】から不死とは言っても、五体満足でなくては意味が無い。抉れた体でさえ治らないのだ。右腕一本!とかなったら流石に復讐できない。難しくなる。

 一方、そんなことで復讐出来るのかと囁く声もあった。半人半妖の身であり、スキルを七つ覚えた時点で化け物じみている。本来ならこれだけでも部員の三人や四人は軽くお陀仏だ。首を捩じ切って捨てることだってできる。戯れた挙句絶望に満ちた表情の中殺すことも可能だ。

 しかし、あちらにはレイジという化け物がいる。生きているかどうか定かではないが、生きているのなら大きな障壁だ。しかもあちらにはミトコト・ハチという忠犬を思わせるような殿様がいるのだ。今復讐しに行って返り討ちに遭うことだってありうる。万全を期して復讐したいのだ。

 故に、迷う。死を避け強くなるか、死に物狂いで強くなるか。

 もちろんシオンは後者を選ぶ。

 《環境変動》は便利なスキルで、今ある痛みはおろか、アオアシ〇までのぐにゃぐにゃした道のりにすぐに慣れてしまった。無表情で歩く少年一人。

 時間にして十分。〇オアシラがいる場所に来る。そこは拠点のように木々がなくなり、茶色い地面が一面に広がる。腐った肉の匂いがする。顔を顰めて、

「おいデカブツ。何してる?」

 アオ〇シラは食事していたこともあり、また彼の身分的価値を無視した目の前のちっぽけな人間に驚いたが、すぐに平常心へと戻る。ドシンドシンと大きな音を立ててシオンの方を向く。

『小僧、俺はバルアジアだ。名を間違えるな』

 やっぱりあの青グマだろうとシオンは内心ツッコむ。バルアジアは睨むような赤い目でシオンを見下す。おそらく妖だ。なぜ妖がこの森の中に、いるのか。妖は珍しい存在でゼツレインしか見たことのないシオンは少し驚く。しかし、表情は変えない。

「お前はなんだ?場合によっては殺す」

『ふん!随分舐めた口を聞くものだ。ゼツレインがいればお前なぞ一撃だわ』

 どうやら結構な御年齢らしい。老人のような声を出しながらよだれを垂らす熊が見てられない。顔にシワがよる。普通に気持ち悪い。

「…ゼツレインか?下手な命乞いで死んだが、何か?」

 は、バカなとバルアジアは威勢を張るが、目の前の少年が真っ直ぐな目でこちらを見ている。陽動か、それとも真実か。

 人間に迫害された妖は次第に魔獣化していった。その魔獣化に耐え生き延びた者も衰退の一途を辿り、気が付けば妖森の中にいる妖はゼツレインとバルアジアのみとなった。

 もとより交流のなかった彼らだが、次第に減りゆく妖の中の一人として互いを認識し、関わり始めるとすぐに友情が芽生えた。それはもう音速のようにできた友情だ。オマケに固い。当時は仲の良い妖として他の妖からからかわれたものだ。

 故に、ゼツレインの強さは知っていた。自身より妖術が長けており負け知らずのゼツレインは妖の憧れの的だった。次第に減りゆく妖を見かね、一人で人間を滅ぼそうとしたのを止めたのも記憶に新しい。残虐性もあったが、それは人間への報復のため。バルアジアも同じ事をしていたので他人に言えた義理ではない。

 故に、信じ難かった。あのゼツレインがこんなちっぽけな人間に殺されたことを。どう見ても力が無さそうな人間がゼツレインを殺したなどと。しかし、ゼツレインはもとより名を語ることは無い。つまり、この少年はおそらくゼツレインと会っている。そして、今ここにいるということは、

『本当か…』

「嘘ついても意味無いだろ。考えろ」

 挑発に青筋が立つバルアジアだが、次の瞬間とんでもない嫌悪感に苛まれた。黒いオーラが辺りを纏い、カラーとなるのは目の前のシオンだけだった。まるで白黒映画の中にいるような、そんな気がした。

「抗え。俺を討ってみろ」

 静かに歩み寄るシオン。冷たく言い放たれた言葉はバルアジアの心の中に染みとおった。背筋がひんやりと、まるで氷が流れているような恐怖を覚える。立ち尽くし、シオンを注視する。シオンは表情を変えないまま、バルアジアの足元にきた。

 突如、バルアジアの眼が輝く。

 突如現れ、友を殺したという少年にバルアジアは許せないほど「嫌い」になった。「討ってみろ」。その言葉通り討ってやる。その無表情の顔を苦痛に満ちた顔にして引きずり回し、罪という罪を償わせて殺してやる。

 妖森の主として。

 シオンの体が一瞬で吹き飛んだ。

 腕を振るうバルアジアの動きについていけなかったのだ。スキル《動体視力Ⅰ》を発動してなかったおかげで反応が遅れもろに受ける。五体満足のシオンはしかしながら地面を擦りながら吹き飛んだ。すぐに《環境変動》を発動させて対処しようとする。

 自身を纏う環境にすぐに適応するする《環境変動》。珍しい黒系統スキルということもあり、シオンはそれを完璧に使いこなしていた。もとより戦闘の勘が優れていた。

 しかし、そんなシオンを嘲笑するかのようなもう一打。今度は爪でも引っ掻かれ右腕に大きな三本線を作る。それを知る余裕もなく、シオンはあの時のレイジのように森を飛んでいた。

『……威勢だけか。それにしても、ゼツレイン……』

 バルアジアはシオンを殺したい衝動をおさえ、かつての友を労る。その大きな体が小さく見えるのは何も魔獣だけではなかった。

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