嫌われる意味を知らない者達~異世界で始まった人生の迷い家~
十話 復讐者
 この世界には多くのスキルが存在する。基本的な白系統スキル、《陰影》《陽灯》や黒系統スキル、《環境変動》など様々だ。他にも赤系統、青系統、緑系統、黄色系統とあり、それぞれが違う特色を見せる。赤系統は「身体能力の向上」、青系統は「精神の向上」、白系統は「魔術行使」とそれぞれの系統で得意分野が違うのだ。
 そして、それは能力の系統と比例する。シオンは黒系統の能力であるため、黒系統のスキルが上手に使える。しかし、普通はスキルは五つ覚えるのが限度である。それは脳みその認識力、情報処理能力が生み出す限界だった。
 それを超えたのは、シオンである。
 《陽灯》《陰影》《環境変動》《威圧無効》《広視野Ⅰ》《回復Ⅰ》。既に六つのスキルを覚えたシオンは人間ではなかった。後にシオンは気付くことになるのだが、彼は魔獣を喰らい尽くしたおかげで「半人半妖」となっていた。スペックが人間を越し、さらに存在自体珍しい妖の中の半端の者「半人半妖」となったシオンは、やはり人間時代の怪我を残したまま包帯だらけで森の中を進軍する。
 《広視野Ⅰ》で周囲の魔獣達を警戒しつつ、いつでも戦闘態勢に入れるように剣を持つ。二週間。彼が妖森で拷問さながらの日々を送ったのは。来る日も来る日も魔獣達の戦いに耐え、体を抉られ、精神を削り取られてもなお、未だ「復讐」を諦めず永遠に近い時の感覚を味わい続けたシオン。その目にはゴトゴトと煮えたぎる炎が一つ、消えず火力を増していく。
 そう、彼の真価はここにあり。
 チートスペックを携えてきた地学部一同の中で、最底辺のスペックを持ち合わせた少年。その少年の能力【命に嫌われる】は彼の人生に拷問をかけ続けた。肉が抉れても、体内で虫が湧いても、心臓に深々と剣が刺さっても、死ぬことを「嫌う」自身の命。魔獣が「毛嫌い」し休むことを許さない彼らの追撃に耐え続けた。精神が壊れてもおかしくないのに、「復讐」だけで生き延びた少年。
 彼のチートさは、「妬み」だった。
 本来彼は妬みなぞとは無縁のものだった。確かに誰かの力や知識に圧倒され「自分も…」と思ったのは一度や二度ではない。妬みに似た感情を持つことだってあったはずだ。
 しかしそれを顔にも出さず、その場の現状だけで解決しようとする「精神」。現代日本で育てられたポーカーフェイスは並の精神を凌駕する。
 そして、彼は今復讐の第一歩を踏み出そうとしていた。
「久しぶりだな、ゲテモノ」
『…誰かと思えば…!!!お前、生きていたのか!?』
 シオンの心臓に剣を刺して暴行した妖ーーゼツレインはその巨体を大きく動かして捕食をやめる。遺体的にヴワルらしい。あの妖森の中ボスリーダーのヴワルが無残にも死するところは慈悲すら湧いてきた。
 対してシオンは頭、右頬、右腕、胸の真ん中、腹と背中の中腹、肩、そして左足を隠すようにグルグルに巻かれた包帯姿。ゼツレインですら同情した。それが分かるほどに服が破れてボロボロなのだ。二週間前から変えていない服は幾度の戦いと襲撃により、お前貧乏だろ、と小学生が言いそうなまでになっていた。
「ああ、誰かさんのおかげで死にかけたし、ついでに魔獣達が襲ってくるもんだから肉を抉り取られた。これ以上ない激痛がするよ」
 ゼツレインは絶句した。シオンからは血の匂いが充満してるし、所々に赤く包帯が染み付いている。怪我をしていることは明確であるが、シオンが言ったことが全く理解でいないでいた。
 肉を抉り取られた。常人ならば、妖はもちろん魔獣、理人族、亜人族全てが悶絶して死に至るはずのその一言に、シオンが正気を失ったのかと疑問視した。しかし、以前よりも落ち着いて据わった眼を見ると、やはり正気らしい。ゼツレインに衝撃が走った。
 勝てない。この少年には勝てない、と。
『……何が望みだ?言え』
「随分つまらない答えだな。命乞いは死んだ後でしろ。今俺が望むのはただ一つだ
 お前を殺す」
 ゼツレインは全力で逃げたいと思った。彼の【命に嫌われる】能力を超えて、むしろ「脅かされている」。全身に黒いオーラを纏った少年は、周囲の空間を嫌悪の空気へと変えていく。周囲の魔獣が怯え、動物達は怯えすぎて動くことすらままならない。その中で正気を保つゼツレインは、やはりレイジを倒した妖である。
 冷酷な目で歩み寄るシオンにぐうの音も出ない。言えない。この男を嬲ったゼツレインとは思えない。むしろ立場は逆転して、シオンがゼツレインを嬲る可能性もある。静かに、包帯だらけの少年は立ち尽くして動けないゼツレインの足元にくる。
「戦え。俺の復讐のために。抗え」
 そんな無茶だ!とゼツレインは叫びたくなる。明らかに本能がサイレンを全力で鳴らしているし、かといってこの場を支配する黒いオーラに逆らえる気もしない。冷や汗が滝のように流れ、あるはずない口が閉じない。
『ふ、復讐……だと…』
「復讐だ。俺を蹂躙したお前を蹂躙する。全力のお前をこの手で潰す。それが俺の復讐の始まりだ」
 辛うじて出した声にシオンはいとも簡単に、そして絶対零度の冷たさを帯びた声でそう言った。剣を抜いて大きなゼツレインの股間に刃先を向ける。もちろん妖であり、生殖活動が不必要なゼツレインにはそういう類のものはない。それでもゼツレインは今にも逃げ出さんとする意思で一杯だった。
 チェックメイトだ。ボロボロの体のくせに戦ったところで勝ち目はないと悟る。逃げたところで無様に死ぬ。シオンの眼には復讐と捕食という二つの眼があった。不運にも、ゼツレインは絶体絶命だ。窮鼠猫を噛む、なんてことはできない。
『……交渉。お前に妖術を教える』
「……妖術?法術とか魔術とかとは違うのか?」
 話がそれたことに、密かにゼツレインは安堵する。
『似て非なるものだ。法術は内なる力、魔術は外の力とするならば、妖術はその狭間だ』
 曰く、こういうことらしい。
 この世界には「事象の地平面」と呼ばれる絶対領域が存在するらしい。アインシュタインの方程式の解ではなく、あくまでも概念的なものらしい。その「事象の地平面」の外ではニュートン力学が存在でき、それに従い物体は原子レベルで存在する。しかし、「事象の地平面」の中では話は別。そこには膨大なまでのエネルギーが存在し、しかし絶対不干渉の領域故にそれが知られることは無かった。
 それを解いたのは、妖の祖「アヤカシ」である。
 そいつは「事象の地平面」内のエネルギーを抽出し、法術や魔術と同じように酷使できることを発見した。そしてそれが妖、もとい魔獣特有の力であると分かり、妖術と呼んで妖にそれを広めていった。
 妖は皆歓喜した。自分たちは人間から迫害される必要は無い。自分たちの力で人間を圧倒できると。すぐさま世界中にそれは広まったが、それは人間達も同じだった。
 殺られる前に殺る。人間達は理人族ーー魔法使いの末裔ーーとともに妖や魔獣達へ殺戮を行う。世界は断絶し、妖は息を潜め、人間は勝利を謳う。
 そして始まる黎明期。妖が魔獣と退化し、全世界に蔓延り始めた。そんな中ここに来たのは…シオン達一同だった。
「なるほど…理解出来た。死ね」
『お、おい!ここは引いてくれるんじゃなかったのか!?』
「おい、誰がそんな口約束したか?お前が勝手に交渉て言っただけじゃねえか。そんなもの無意味」
 無慈悲に答えるシオンに、ゼツレインが命乞いをする。
『や、やめろ!!!あの時のことは謝る!!!だから、命だけは…』
「下手な命乞い、聞く意味もない。死ね」
 その瞬間ゼツレインが縦に避けた。ただ恐怖しか感じず、ゼツレインは天に召した。
「……食うか」
 歩く嵐は留まることを知らない。
 そして、それは能力の系統と比例する。シオンは黒系統の能力であるため、黒系統のスキルが上手に使える。しかし、普通はスキルは五つ覚えるのが限度である。それは脳みその認識力、情報処理能力が生み出す限界だった。
 それを超えたのは、シオンである。
 《陽灯》《陰影》《環境変動》《威圧無効》《広視野Ⅰ》《回復Ⅰ》。既に六つのスキルを覚えたシオンは人間ではなかった。後にシオンは気付くことになるのだが、彼は魔獣を喰らい尽くしたおかげで「半人半妖」となっていた。スペックが人間を越し、さらに存在自体珍しい妖の中の半端の者「半人半妖」となったシオンは、やはり人間時代の怪我を残したまま包帯だらけで森の中を進軍する。
 《広視野Ⅰ》で周囲の魔獣達を警戒しつつ、いつでも戦闘態勢に入れるように剣を持つ。二週間。彼が妖森で拷問さながらの日々を送ったのは。来る日も来る日も魔獣達の戦いに耐え、体を抉られ、精神を削り取られてもなお、未だ「復讐」を諦めず永遠に近い時の感覚を味わい続けたシオン。その目にはゴトゴトと煮えたぎる炎が一つ、消えず火力を増していく。
 そう、彼の真価はここにあり。
 チートスペックを携えてきた地学部一同の中で、最底辺のスペックを持ち合わせた少年。その少年の能力【命に嫌われる】は彼の人生に拷問をかけ続けた。肉が抉れても、体内で虫が湧いても、心臓に深々と剣が刺さっても、死ぬことを「嫌う」自身の命。魔獣が「毛嫌い」し休むことを許さない彼らの追撃に耐え続けた。精神が壊れてもおかしくないのに、「復讐」だけで生き延びた少年。
 彼のチートさは、「妬み」だった。
 本来彼は妬みなぞとは無縁のものだった。確かに誰かの力や知識に圧倒され「自分も…」と思ったのは一度や二度ではない。妬みに似た感情を持つことだってあったはずだ。
 しかしそれを顔にも出さず、その場の現状だけで解決しようとする「精神」。現代日本で育てられたポーカーフェイスは並の精神を凌駕する。
 そして、彼は今復讐の第一歩を踏み出そうとしていた。
「久しぶりだな、ゲテモノ」
『…誰かと思えば…!!!お前、生きていたのか!?』
 シオンの心臓に剣を刺して暴行した妖ーーゼツレインはその巨体を大きく動かして捕食をやめる。遺体的にヴワルらしい。あの妖森の中ボスリーダーのヴワルが無残にも死するところは慈悲すら湧いてきた。
 対してシオンは頭、右頬、右腕、胸の真ん中、腹と背中の中腹、肩、そして左足を隠すようにグルグルに巻かれた包帯姿。ゼツレインですら同情した。それが分かるほどに服が破れてボロボロなのだ。二週間前から変えていない服は幾度の戦いと襲撃により、お前貧乏だろ、と小学生が言いそうなまでになっていた。
「ああ、誰かさんのおかげで死にかけたし、ついでに魔獣達が襲ってくるもんだから肉を抉り取られた。これ以上ない激痛がするよ」
 ゼツレインは絶句した。シオンからは血の匂いが充満してるし、所々に赤く包帯が染み付いている。怪我をしていることは明確であるが、シオンが言ったことが全く理解でいないでいた。
 肉を抉り取られた。常人ならば、妖はもちろん魔獣、理人族、亜人族全てが悶絶して死に至るはずのその一言に、シオンが正気を失ったのかと疑問視した。しかし、以前よりも落ち着いて据わった眼を見ると、やはり正気らしい。ゼツレインに衝撃が走った。
 勝てない。この少年には勝てない、と。
『……何が望みだ?言え』
「随分つまらない答えだな。命乞いは死んだ後でしろ。今俺が望むのはただ一つだ
 お前を殺す」
 ゼツレインは全力で逃げたいと思った。彼の【命に嫌われる】能力を超えて、むしろ「脅かされている」。全身に黒いオーラを纏った少年は、周囲の空間を嫌悪の空気へと変えていく。周囲の魔獣が怯え、動物達は怯えすぎて動くことすらままならない。その中で正気を保つゼツレインは、やはりレイジを倒した妖である。
 冷酷な目で歩み寄るシオンにぐうの音も出ない。言えない。この男を嬲ったゼツレインとは思えない。むしろ立場は逆転して、シオンがゼツレインを嬲る可能性もある。静かに、包帯だらけの少年は立ち尽くして動けないゼツレインの足元にくる。
「戦え。俺の復讐のために。抗え」
 そんな無茶だ!とゼツレインは叫びたくなる。明らかに本能がサイレンを全力で鳴らしているし、かといってこの場を支配する黒いオーラに逆らえる気もしない。冷や汗が滝のように流れ、あるはずない口が閉じない。
『ふ、復讐……だと…』
「復讐だ。俺を蹂躙したお前を蹂躙する。全力のお前をこの手で潰す。それが俺の復讐の始まりだ」
 辛うじて出した声にシオンはいとも簡単に、そして絶対零度の冷たさを帯びた声でそう言った。剣を抜いて大きなゼツレインの股間に刃先を向ける。もちろん妖であり、生殖活動が不必要なゼツレインにはそういう類のものはない。それでもゼツレインは今にも逃げ出さんとする意思で一杯だった。
 チェックメイトだ。ボロボロの体のくせに戦ったところで勝ち目はないと悟る。逃げたところで無様に死ぬ。シオンの眼には復讐と捕食という二つの眼があった。不運にも、ゼツレインは絶体絶命だ。窮鼠猫を噛む、なんてことはできない。
『……交渉。お前に妖術を教える』
「……妖術?法術とか魔術とかとは違うのか?」
 話がそれたことに、密かにゼツレインは安堵する。
『似て非なるものだ。法術は内なる力、魔術は外の力とするならば、妖術はその狭間だ』
 曰く、こういうことらしい。
 この世界には「事象の地平面」と呼ばれる絶対領域が存在するらしい。アインシュタインの方程式の解ではなく、あくまでも概念的なものらしい。その「事象の地平面」の外ではニュートン力学が存在でき、それに従い物体は原子レベルで存在する。しかし、「事象の地平面」の中では話は別。そこには膨大なまでのエネルギーが存在し、しかし絶対不干渉の領域故にそれが知られることは無かった。
 それを解いたのは、妖の祖「アヤカシ」である。
 そいつは「事象の地平面」内のエネルギーを抽出し、法術や魔術と同じように酷使できることを発見した。そしてそれが妖、もとい魔獣特有の力であると分かり、妖術と呼んで妖にそれを広めていった。
 妖は皆歓喜した。自分たちは人間から迫害される必要は無い。自分たちの力で人間を圧倒できると。すぐさま世界中にそれは広まったが、それは人間達も同じだった。
 殺られる前に殺る。人間達は理人族ーー魔法使いの末裔ーーとともに妖や魔獣達へ殺戮を行う。世界は断絶し、妖は息を潜め、人間は勝利を謳う。
 そして始まる黎明期。妖が魔獣と退化し、全世界に蔓延り始めた。そんな中ここに来たのは…シオン達一同だった。
「なるほど…理解出来た。死ね」
『お、おい!ここは引いてくれるんじゃなかったのか!?』
「おい、誰がそんな口約束したか?お前が勝手に交渉て言っただけじゃねえか。そんなもの無意味」
 無慈悲に答えるシオンに、ゼツレインが命乞いをする。
『や、やめろ!!!あの時のことは謝る!!!だから、命だけは…』
「下手な命乞い、聞く意味もない。死ね」
 その瞬間ゼツレインが縦に避けた。ただ恐怖しか感じず、ゼツレインは天に召した。
「……食うか」
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