嫌われる意味を知らない者達~異世界で始まった人生の迷い家~

ゼロのカラカラ

九話 再誕

ふと、天国か地獄かを判断した。

 死後の世界など信じるに足らない。興味はあるが、決して積極的に信じようとは思わない。つまらない人生の余興的な存在として暇つぶしをしてきた。

 しかし、この生暖かさ、現実である。

「っ!!!」

 起き上がろうとして、胸が痛む。自分が何をしてきたのかを思い出し、何とも言えない気持ちになる。そんなことやってもこの状況は変わらないので、心臓に刺さった剣を抜く。

 もちろんそれはとんでもない苦痛を伴う。一センチ動かす事に吹き飛ぶ意識を繋ぎとめ、かなりの時間を割いて心臓から剣が抜かれる。もちろん剣が抜かれたことでいくらか意識が無くなったのだが…大した問題ではなかった。

 ゆっくりと起き上がる。心臓に手を当て、少しでも痛みが消えるため押さえつける。剣を鞘に仕舞い、歩き出す。剣は血塗れで鞘に仕舞えば錆びてしまうものだが、そんなことをかんがえる余裕もないし別に錆びたところでどうでもいい。歩く度に心臓から血が溢れ、血を求めんと鼓動が速くなる。それでも歩くのはやめない。

 そばにあった水の入ってる樽の水を飲む。そして剣と鞘を水につける。おそらくこの行為はいけないような気もしなくもないが、特段気にしない。使えるものは使っておこう。ふと「アイツら」を思い出しイラついたので樽をひっくり返す。心臓に負担がかかり、胸を抑え蹲る。

 再びして起き上がり、食料は無いものかと探す。木箱を開けると葉物がいっぱいあった。鉄分多めのホウレンソウ的なやつがあるので血は補給できるよね、と楽観視する。貪るようにそれらを頬張る姿は飢えた猿のようだ。しかし、「アイツら」を思い出し再びイラつく。木箱を蹴り上げ破壊する。

 虚ろなまま歩き出す。目の前に木でできた壁のような、柵のようなものがあったのでそれをフェンスを乗り越えるがごとく超える。登る時も着地する時も心臓の痛みにより気絶しかけたが、大した問題ではない。少し行けば歩いて外に出られたのだが…言ってはいけない。

「ヴワアアアアアア!!!」

 魔獣が現れた。これは……弱い。嫌なことを思い出した。「アイツら」と狩りをしたのを思い出し、心臓が速くなる。痛みを忘れ、我を忘れ、今ある感情は「無」。冷淡な目はかつての面影をなくし、獲物を獲物と思わない残酷な視線は一瞬でその魔物ーーヴワルを硬直させた。

「死して怯えろ」

 首を狩られた。ヴワルはそのまま頭のない体をフラフラさせ、地面へと辿り着く。その様子をただ一人眺める。

 無慈悲に歩み続ける少年は止まるところを知らない。歩む先々で魔獣が彼を襲おうとすれば、硬直した瞬間首を狩られるという無様な様子に、他の魔獣が逃げ出す。

 しかし、少年は許さない。視界内の魔獣を硬直させるや否やそばまで歩み寄り、愛でるように首を狩る。彼がその事を忘れ、辛うじて命からがら逃げたものも、もの音を立て見つかり、殺された。彼が歩く先では弱い魔獣の首が散乱していた。

 まさに歩く暴風雨。歩くだけで周囲の魔物が怯え尽くす様は、もはや天災。風のように獲物を捉え、林のごとく威圧をかけ、炎のような殺意を持って、山のような屍を積み上げた。

 名を、シオンと言った。能力は【命に嫌われる】。

 かつての仲間への復讐心が、彼を動かす原動力となる。







「があぁああああああ!!!!?」

 体が拒絶反応を起こす。血が沸騰するような痛みとともに心臓の鼓動の痛みを感じながら、シオンはたった1つの信念を抱えここまでの日々を耐えてきた。

 すなわち、復讐心。自分を見捨ててぬくぬくと暮らしているだろう部員をこの手で殺したい。あの時何もせずただ呆然とシオンが死ぬのを眺めていた人間達を殺したい。この手で心臓を貫き、その血を弄ぶ。歪んでいく心は彼の復讐心をただひたすらに増幅させていった。

 【命に嫌われる】。シオンが生き延びた唯一の弊害。本来なら魔獣や他の生物たちの命から「嫌われ」怯えさせる。能力は本来はこんなちっけなことにしか使えない。

 しかし、副作用が大きかった。まずそうやって「怯えさせる」ことだけでは済まないことがあった。怯えを超え「毛嫌い」となりシオンに歯向かうこともあるのだ。その度に襲われ、たまに腕の肉やら体の肉が持っていかれて悶絶したのは言うまでもない。

 それに拍車をかけたのもまた能力。「自分の命に嫌われる」ためもしかするとすぐに死ねるのでは、と思ったがそうはいかない。どうやら自分の命に嫌われているのは「こいつなんか嫌だな」程度で嫌がらせの程度らしい。シオンが苦痛に満ちて痛みを抑えることをシオンの命が望んでいるのだ。死を許さない。剥がれた肉と皮膚から骨が見えているが、死ぬことは許されない。拠点にあった包帯で傷のある心臓、右腕、また色々な所を覆っても痛みは消えない。

 もはや見た目は人間ではない程傷だらけで肉が抉れていた。だが、復讐心が駆り立てる。部員を殺さんと。その為には力がいる。【命に嫌われる】能力だけでは討ち取ることができないと判断したシオンは魔獣達を殺した着々と力を付けてきているが、そこにはいくつかの弊害があった。

 まず食料である。拠点に存在する食べ物は既に魔獣が食い荒らしていた。シオンは流石に木の葉を食べる所業を見せていたが、消化にかなり悪いと知り、別なものを食べなくてはと当たりを探した。しかし、ここは妖森。食べ物になるものなど存在せず、二日間彼は飢えの状態を苦しんできた。

 そして最終的に魔獣を食らうことにした。もちろん魔獣を食べては拒絶反応に苦しめられる日々が続いた。全身の肉が張り裂けそうな痛みが彼を襲い、気絶して魔獣の餌になろうとしたのは一度や二度ではない。しかし、魔獣を食することで魔力霊力が増幅した。たまにスキルも手に入れることもある。今あるスキルはざっとこんな感じだ。

 《陰影》《陽灯》《環境変動》

 《環境変動》とはその名の通り周囲の環境に適応して自身も変わるということだ。しかし変わるのは自身の魔力霊力の流れや素質であるため、妖森だけの話でならこのスキルは必要ない。しかしそれのお陰で抉れた皮や心臓の痛みに慣れているので便利である。

 拒絶反応も通り過ぎ、ようやく動けるようになったシオン。そろそろ夕方だ。寝床を探そうと痛みを堪え安全な木の上に登ろうと枝に手をかけた途端二つ目の弊害がシオンに襲いかかる。

「!?」

 体が締め付けられ次第に上昇する。ギジジジジと真後ろで音がする。おそらく昆虫の魔獣であろう。シオンと同じ大きさくらいのそれは名をフウマケクといった。体の三分の一に満たない顔は複眼と触覚が気持ち悪さを増す。カブトムシのように羽を滞在させ、八本の節のある足はシオンの抉れた肉に引っかかり、シオンは苦い顔をする。

 第二の弊害、それは休息が取れないということ。戦い続けた彼に挑むように魔獣達が牙を向く。昼夜問わず襲いかかる魔獣達にシオンは心身ともに疲労した。休もうにも襲いかかる魔獣達に応戦しなくてはならず、よくこんなふうに負けて襲われる。

 ブスッと背中を刺される。ゴキュッゴキュッとフウマケクの針から何かがシオンの中に流れ込む。流れ込むたびに彼の体に異物が入り込み、彼は声を漏らす。体内で何かが生まれる。そうシオンは感じた。自身が死ぬことはありえないのだから、どうやって怪我を最小限に留めるか、それを考える余裕さえ生まれていた。

 フウマケクがシオンを解放しシオンは地面に落ちた。刺されたのは背中だが、腹を抑える。蠢く異物。剣で腹をかき切ろうとしたその時

 爆ぜた。

「がはっ!!!!?」

 腹が爆ぜた。中から内蔵が垂れる。そして、白い蛆虫のようなものがわんさか出てくる。普通なら気持ち悪いと言ってその場で力なくひれ伏せるだろう。おそらく宿主を食い破って出てきた蛆虫はその宿主を大量の仲間とともに食い荒らすだろう。

 しかし、復讐を決めたシオンには普通とは言い難い「信念」がある。

 食い破られた腹に手を突っ込むと、まだ腹をうようよしていた蛆虫を捕まえて地面に叩きつける。グチャア、と音を立てシオンの靴の下で緑色の血を噴き出す様子は、まさに異常。痛覚を感じているはずなのに、それを無視して人間を超越しようとしたシオンにフウマケクは本能から恐怖した。逃げようとその場を後に…

「嫌え、クズ虫」

 とてつもない嫌悪感を感じたクズ虫は一瞬にして地面の肥料へと様変わりした。その様子をシオンは眺め、蛆虫を全て踏み潰した後でその魔獣を食べ始めた。

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