嫌われる意味を知らない者達~異世界で始まった人生の迷い家~

ゼロのカラカラ

八話 絶望の山脈

「うわああああ!!!」

 陽日山脈。少し下れば妖森。峠を超えれば荘都。その山の中腹で拠点から逃げてきたものは疲れた表情で岩場に座っていた。レイジは森の中で伸びていたのを回収済み。あんな攻撃を食らったのに大した怪我がないレイジは化け物かもしれない。そして、そんな重苦しい空気にヒビを付けたのは…サクラである。

 自身が世話をしてきた仲間の一人を失ったのだ。人一倍努力家であり、それでもそれを隠そうとしていた素直な少年。帰りたいと言っていても、決して目の前の課題を放っておかない少年。失うには惜しすぎた。サクラ自身他の部員よりも首を突っ込んでいたこともあり、その悲しさは倍増していた。

 それだけではない。彼はサクラを「人間」として接してくれた。他の部員ももちろんそうしていたのだが、そこにはサクラの役職「侍女」が付いていた。もちろんサクラはそんなことは日常茶飯事であり、特段気にすることは無かった。

 しかし、紫苑だけは違ったのだ。「侍女」という役職を捨てて接していきた。若しかしたら本人には自覚がないのかもしれない。冗談でお金を求めた時にも、ツッコミながら普通に渡そうとしてきたのには驚いた。夜にこっそりとそれを戻したのはもはや懐かしい。

 全て元に戻らないのだ。涙を流したとしても紫苑は帰ってこない。遠目で紫苑の心臓に剣が刺さるのを見てしまった。もはや紫苑が生きている確率はゼロに等しい。サクラは何も無い真っ暗な闇の中にいるのも同然だった。

「でも…役立たずだったし……」

 西島はふと呟く。それはおそらくこの場にいた他の誰にも聞こえなかったかもしれない。独り言のようにポツリと漏らした本音は本人でさえ気付かなかったかもしれないのだ。

 サクラ以外は。

 サクラは泣きたい衝動を抑え込む。立ち上がり、つかつかと西島の元へ歩く。誰よりも疲労しているのにも関わらず、立ち上がり、これ以上ない怒りの表情をしたサクラに他のものは驚いている。西島も自分の状況を知り狼狽えている。

 バシンッ!

 峠に軽快な、しかしどこか悲壮に満ちた音がなった。

「……」

「ふざけてるんですか?」

 西島は打たれた頬に手を当ててサクラを睨む。

「何も知らないくせに……そんなこと言うんですか?その能力と体の割には頭は随分と幼稚なんですね」

 何を言われているのか混乱気味の西島。それはほかの皆も同じで、唯一今の状況を把握していたのはレイジ一人だった。

「そんな強い力を手に入れても、結局は人を見る目もないんですね。いえ、『見なかった』んですよね?」

「…な、何を言って…」

「馬鹿なんですか?いえ、馬鹿なんですよね?シオンに対して役立たずなんてよくそんなに口が聞けましたねこの大バカ野郎!!!」

「!?」

 峠中に響く声。やまびこのように反響していく。サクラは興奮気味で顔を真っ赤に染めている。彼女の怒りは頂点に達して、もはや天元突破していた。

「確かにシオンはいつも『帰りたい』と言ってましたよ!それはそうでしょう。こちら側の都合で家族と離れ離れになったんですからね!でもですね、貴方のように力を振るうだけの人間ではなかったんです!!!非力さ故に来る日も来る日も自分で課題を見つけて克服しようとしていた。誰からも褒められることもなくただ自分を強くしようとしていた!そしてようやくスキルが発動したのに…そんな彼を貴方は侮蔑出来るんですか!?たとえ貴方が侮蔑したところでどうでもいいです!!!私が彼を……彼…を…ひぐっ……」

 守る。そう言いかけたサクラだが、自身が守れなかったことに負い目を感じた。高ぶった感情も相まり、我慢してきた(めっちゃ泣いたけど)ものが堰を切る。その場に倒れ込み泣き始めるサクラの背中を、村井が優しくさする。西島は目の前の光景、そして紫苑に対する評価が間違っていたこと、自身がそれに目を向けず嫉妬を続けてきたことを後悔した。

「西島」

 レイジが呼び捨てで呼んだ。紛れもない真面目な空気に、誰もがレイジを直視する。怪我してないにしても疲労が凄く寝たきりだったレイジが体を起こした。

「…あの時君に『やめるんだ』と言ったこと、覚えてるか?」

 あの時。初めて紫苑が非力ながらもケキクキを倒し、スキルを披露したあの日。

「君はおそらく人を表面でしか判断しないのだろう。それは私がいいとか悪いとかいう筋合いはない。だが、それを苛立ちの材料にしてはいけない。彼はこの世界で剣を持ってから毎日のごとく剣を振るっている。さもなくばケキクキを剣術のみで倒すようなことは出来ない。相当追い詰めたんだろうな…今や不可欠な人員であったのだな……」

 西島は拳を握る力を強くした。紫苑という苛立ちの対象が、既にそれではなくなっていた。それは他の部員も同じこと。結局は自身の能力を頼りに振るってきた虚勢が潰えた。あの時足掻けた紫苑が、どれ程強いのか、それを実感した。

 そこにあの時の「犯人」がいるのだと、気付く者はいない。

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