嫌われる意味を知らない者達~異世界で始まった人生の迷い家~

ゼロのカラカラ

六話 妖森ー2ー

「くらええええええ!!!」

 先手を打ったのは大森先輩だった。その魔獣に負けずとも劣らずという覇気で魔獣に剣を構えた。【剣を振るう】の能力は伊達ではないようで、振り遅した瞬間辺りに迅風を巻き起こす。他の部員はおろか、レイジでさえ顔を腕で守る。

 しかし、ここで倒れてくれるほど魔獣も弱くない。

「ヴォおおおおおおおお!!!」

「今の攻撃が無傷だと!?」

 神殿侍に通じた攻撃が通じなかったことに大森先輩は焦る。もちろんそれをヴラルは見逃さない。右手に持った棍棒を大森先輩に振り下ろす。大森先輩は我に返り剣でそれを受け止める。大きな衝撃が妖森に響き渡る。

 紫苑はしっかりと見ていた。大森先輩が攻撃する瞬間ヴラルは一瞬だけ横に逸れたことを。攻撃が終わるとすぐに定位置に付いていた。おそらく敵を混乱させるためであろう。魔獣のくせに頭が回るなと感心する。

 横から遠藤先輩が飛び出る。【身体を固める】能力で固められた拳がヴラルの腹に直撃。空手家ということもありかなりダメージが入ったようで、ヴラルが一瞬苦しい顔をする。しかしそれも一瞬。すぐに遠藤先輩を払いのけようと腕を振る。横から来た棍棒を両手で受けた遠藤先輩はそのまま小さい体を地面を擦りながら吹き飛ぶ。

 続いて大森先輩の剣術。レイジでも受けるのに苦労するそれを棍棒一つ片手で対処するヴラル。大森先輩は機を見計らいその場から飛び退いた。その瞬間ヴラルに高電圧の電気が流れた。

 【雷を放つ】能力の牧原先輩だ。威力はまだ改善の余地があるがしかし、ピンポイントで狙ったそれは後ろの木に弾丸のような跡を残らせた。しかし、ヴラルは咄嗟の反射神経で避けた。ヴラルは避けた先で空気の「弾」うを受ける。

 西島先輩の【空を穿つ】。空気を圧縮して弾丸や矢のようにそれを放つ。高威力で空気があるところならいつでも放てるチート性。ヴラルも思わず苦い顔をする。

「村崎くん!!!見て!!!」

 村井の声に反応して後ろを振り返る。そこには四体のカマキリ、いや、魔獣だった。カマキリ魔獣、ケキクキはじりじりとこちらと距離を縮める。ヴラルに大森先輩、遠藤先輩、牧原先輩、西島先輩が対応している今、ケキクキを退けられるのは紫苑、レイジ、そして田上先生だけだ。防御専門の岩永や回復専門の村井は戦いにくい。

「シャア!」

 一体が飛んで襲ってくる。剣を構えて振りかざす。しかし、ケキクキが自分の真横を通り過ぎる。腕に切り傷。血が飛び出す。深くは無さそうだが、余裕はない。すぐさまもう一体が襲ってくる。後からの攻撃だ。

「《陰影》!!!」

 後からのケキクキにスキルを発動させ、目の前から迫るケキクキの鎌を狙う。

 ケキクキが横を通り過ぎる直前、左からの鎌が襲う。剣を下から振り上げる。こちらを襲う鎌だけでなく、もう一方の鎌を巻き込み、さらに速度を持った体ごと剣が食い込む。そのまま

「おりゃあ!!!?」

 何とか目の前から襲いかかるケキクキの首と鎌を切り落とした紫苑だったが、後からのケキクキが《陰影》を克服したらしく、紫苑を襲う。紫苑は殺したケキクキに攻撃した反動で前の方にめり出ていたおかげで直撃は避けられた。しかし背中に縦線を入れたケキクキの複眼は紫苑の後ろにある赤い線を映す。

「揺れなさい!!!」

 ジェントルマンの田上先生が【地を揺らす】おかげで地面に亀裂が入る。ケキクキ一体がそこに足を挟み込みもがく。そこに現れた無慈悲の戦士。

「死ね!!!」

 レイジは横に刀を振る。ケキクキは何が起こったのか理解できないような顔をしてレイジを眺める。次第に複眼と顔が真っ二つに割れ、徐々にズレていく。

 レイジは振り返る。背中と腕を負傷した紫苑はレイジとアイコンタクトを交わす。もう一体頼みます。ああ、死ぬなよ。レイジは向こう側のケキクキに襲いかかる。それを見た紫苑は目の前のケキクキに視線を落とす。

 右の鎌の先には紫苑を斬ったときよ血が付いている。それを貪るように鎌を舐めるケキクキ。紫苑は痛みを我慢してケキクキに走り込む。

 ケキクキも俺に気付く。紫苑を迎えるごとく両鎌を振りあげ、紫苑が間合いに入った瞬間鎌の軌跡が交わる。しかし、ケキクキはその様を見ることは出来ない。

「シャア!?」

 下からの攻撃。紫苑は攻撃の直撃スライディングしケキクキの腹に潜り込んだのだ。そのままケキクキの腹を切り破る。その頬にはスライディングの時に鎌で付けられた切り傷がある。

 紫苑はスライディングした先で立ち上がる。モタモタしている暇はない。すぐにケキクキに向き直し、ケキクキを見る。

 何が起こったのかケキクキは理解できていない。その証拠に混乱して辺りをキョロキョロ見渡している。紫苑はふと女性陣を見る。そして、女性陣の身体が白く光る。紫苑は思わず笑をこぼす。

「「火舞!!!」」

 法術、火舞。二人の構えた掌から一つの火球が飛びだす。それは森の木々を避けながら混乱しているケキクキに当たる。燃えはしないが、ケキクキはいきなり襲った高温の攻撃をもろに受けた。紫苑はその隙を逃さない。刀に、体に力を入れ、後からケキクキに斬り掛かる。

「シャアアア!!!」

 何かに怯えたようにケキクキは鎌を振る。しかし、本当に怯えていたのか鎌ではなくその裏、鎌でない方で紫苑に攻撃する。

「くはっ!!!」

 まさかの攻撃に紫苑も対応出来なかった。そのまま宙を飛んで木の幹に叩きつけられる。肺の空気が無くなり、呼吸できないと錯覚する。頭がグラグラする。その視界の隅にはケキクキの姿が。

 一刻も早く避けなければならない。しかし紫苑にはそのような状況判断できる余裕はなかった。

「勇者を襲うな!!!」

 レイジが叫ぶと同時に目の前のケキクキのクビは吹っ飛んだ。ようやく自分の状況が分かり、立ち上がることが出来た紫苑はレイジの手を借りて立ち上がる。

「聖絶剣!!!」

「ヴワアアアアア!!!」

 ヴラルが縦に切れた。血を見せずゆっくりと縦に割れていく。裂けていく向こう側からドヤ顔の大森先輩が現れる。辺りには肩で息をしながらもドヤ顔の先輩方の姿が見えた。そばにはヴラルとケキクキ四体の死体。

 初の狩猟かつ討伐は大勝利という形で幕を閉じた。


「あっ!皆さんおかえりなさい!!!」

 拠点は言ってみればキャンプ場みたいだった。森の木を切って土地を整備しただけと土地。そこには侍やら何やらいたが、あるのはテントと木製の机と椅子だけだった。森との境界では柵が施してあり魔獣の侵入を防いでいる。

 拠点に辿り着いたのは日が落ちる前。拠点の門のようなのをくぐって早速サクラが出迎えてくれた。天真爛漫な様子だと、まだ疲れたりしていないようだ。拠点は疲れる人が多いと聞いたが、サクラは我関せずという感じでいつものサクラを纏う。それに部員は疲れが吹っ飛んだようだ。安全な場所に来たと。

 紫苑の背中の傷は流石に癒してもらい、腕の傷は包帯を巻く程度で終わった。あまり村井の【体を癒す】に頼りたくないからだ。ずっと使い続けて身体の自己回復力が弱まってはこまるとレイジが判断した。

「皆さんお疲れ様です!ご飯を用意してます!今日はメロトですよ」

 メロトとはこっちのカレー的なやつだ。部員全員が日本の味にそっくりだと絶賛している。一日目にそんな料理を出してくるなんて気が利いている。

 一同は戦いの疲れを癒しつつ、サクラが作った即席のドラム缶風呂で騒ぎ立てるのだった。


 サクラは起きた。眠い目を擦り侍女専用のテントの端っこで布団から起き上がる。まだ真夜中だ。

 サクラは【水を作り出す】という能力を持っている。しかし、全く戦闘向けでない能力に、サクラは周りの大人から避けられてきた。

 完全に戦闘向けなら侍になって荘都を守ることが出来る。しかし、そうでない人は人間の延長線上でしかない。人間を超えた人間に周りの人が疎むのも仕方ない。そうこうしてサクラは侍女という道を選んだ。勿論そこにある境遇は今までと同じだったのだが。

 何やら外で明るい場所がある。サクラは羽織を着てテントを出る。どうやら明るい場所は拠点の外らしい。サクラはその場所にひっそりと歩む。若しかしたら新種の魔獣かもしれない、警戒して近づく。

 ブンッ、サッ、

 剣で斬る音である。魔獣でないのは安心したが、今は真夜中だ。一体誰が自主練しているのだろう。レイジの可能性が高いとサクラは推測する。それなら別に様子見しなくてもいいが、念の為誰かを確認する。

「……はぁ…全然ダメだ…」

 声の主に驚いて思わず声を漏らすところであった。それでも息を潜めてサクラは柵越しにその人を眺める。その人は自分の剣の振る舞いに納得していないのか、剣を持ち直す。しかしそれでもしっくりしてない。何度かそれを持ち直す。剣が持ち直されるたびに回転し、ある角度でようやくしっくりきたようだ。剣を再び振るい始める。

 その腕は徐々にではあるが上達していた。初めの頃よりもずっと。サクラは異世界人の全員の世話をしている。それぞれの力も把握しており、今彼に彼女に何が必要なのかを見極めることが出来た。今この人は剣術に関しては何も言えない。決してレイジ並に上手いわけでもないが、剣を持って十日も経っていないのに一般人並に上手くなっている。

 それは彼自身の素質か、はたまた別の何かか。いずれにせよ、ここまで成長したのはこの人の自主練の成果だろうと思う。

「……タァ!!!」

 この人が思いっきり剣を振るう。目の前の木の太めの枝が切れる。バサッと音を出して地面に落下する。本人は納得出来ないらしく、自身の手を眺めている。

 サクラはこの瞬間とてつもない嫌悪感に見舞われた。嫌いな人はもちろんいる。しかし、そんな「嫌い」ではなかった。「嫌悪感」と言う方が割に合う。それは心の中からの、若しかすると魂からの「嫌悪感」だったかもしれない。体の芯から呆れるほど、憎いほどの嫌悪が体を巡った。しかし枝が落ちると同時にその嫌悪感は無くなった。

 少し鼓動が早くなる。小さい胸に手を当て音を聞く。それは確かに速く、何かに怯えるような鼓動だった。恐怖でもない、恋などでももちろんない。これまでにない「嫌悪」。

 酷く戸惑うサクラ。しかしこれ以上見るのもこの人に失礼だし、おそらく寝惚けているのかもしれない。サクラはそう思いテントの闇に紛れて行った。

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