嫌われる意味を知らない者達~異世界で始まった人生の迷い家~

ゼロのカラカラ

エピローグ ありがちな異世界転移

 村崎紫苑。ごくごく普通にいる、至って普通の高校二年生。

 短い黒の髪。特に高くない身長。というか、むしろ低い。顔だって悪くない、その程度。決してイケメンの部類でもなく、かと言って醜い部類でもない。

 いつものバッグといつもの制服で登校する。ドアを開けると、始業五分前にも関わらずクラスメイトの多くが席に座る。自身の席に到着すると、バッグを机の横にかける。慣れた動作でそのまま椅子に座り、引き出しから本を一冊取り出して読み始める。

 別に本の虫ではない。それなりに好きなだけである。友達作りに大失敗した高校一年生の時にそれを学び、今では朝から本を読む日課が出来ている。

 突然の椅子を引く音に少し驚きながらも、それなりに慣れているので別に構わない。朝の挨拶だ。そのまま立ち上がり、朝の挨拶をする。

 全員が着席しながら紫苑は右手の親指でページを挟んでいた本を開く。当然先生が朝の連絡をするが、聞き耳を立てるほどのことは言ってないのでそのまま読書し続ける。

 友達がいない。ほぼ皆無。このクラスでは。

 早く終わらないかななんて思いつつ、数学の時間に本を二冊分読み終える紫苑であった。





「カンパーイ!!!」

「「「カンパーイ!!!」」」

 突然の大森先輩の掛け声とともに部員一同、それぞれ持っている紙コップを天に高々と上げ、この日が来た喜びを分かち合う。もちろん紫苑も例外ではない。

 天体観測。とは言っても、俺が地学部に入って三回目。高校二年生なのに三回目とか、やる回数が少なすぎやしないか。それでも楽しみにしていたので、文句のひとつも言えない。

 地学部。それは一見すると地味めな部活である。たまにクラスメイトから「何してんの?」と問われることがある。俺はその度に言うのだ。「何もしてない」と。

 宇宙が好きだったから入った。それだけだった。後先考えないで入った。結果、

「村崎くん。ポテチ食べよ?」

「食べよ食べよ!!!」

 初めのセリフは村井梨花。次のセリフは岩永愛。村井さんの方はふっくらとした頬に紅く彩られている。決して痩せすぎでもなく、どこにでもいる普通の高校二年生。岩永さんの方は村崎よりも身長が20センチメートルくらい低く、ぴょんぴょんと背を伸ばそうとするのがまた可愛らしい。

「はいはい…」

 とてつもなく長い夜が始まる。





「っしゃあー!!!十連続無双!!!」

「嘘だプリン十個ーーーーーーー!!!」

 大富豪十連続無双。村崎の最大の武器である。大富豪ならほとんど負け無し。ちなみに一回勝つ事に俺にプリンを買ってあげると豪語した金持ち牧原先輩は半涙目で机に這い蹲う。ほかの参加者二人も今目の前で起こった十連続無双という結果に驚きつつ呆れた。才能の無駄であると。なんの才能か、それを問い質したい。

「それじゃぁみんなー、屋上に行こうかー」

 何ともマイペース口調で言ったのは地学の先生、田上先生。他の大森先輩、牧原先輩、女性の遠藤先輩、オタッキーな西島先輩、そして村井、岩永がそれに反応して部屋を出て屋上を目指す。それについて行く。

 程よくして、屋上にくる。まだ春先ということもあり多少寒さを感じるが、それを忘れさせる綺麗な星空が見えた。ここは街中ということもあり多少見えづらいが、それでも楽しむのには十分事足りた。

「…綺麗だね、村崎くん」

「そうだね…」

 実際この時、村崎紫苑には何の感動もなかった。彼女の感動に同意したまでだった。事実、村崎の分野は星空ではなく、遥か遠くの、何万光年先の星々、言うなれば銀河なのだ。なので、これくらいのちっぽけなものに囚われるのは些かどうなのだろうと、持論を持つ。

 至って普通の部活。ちょっと変態がいて、オタクがいて、社会的に消しに来そうな人がいる。そんな部活だった。

「……なにこれ?」

 突如地面が紅く光り出す。それを他の部員は警戒するが、村崎紫苑は星空に思いを馳せており、心のここにあらず、だ。

 と、ようやく紫苑も我を取り戻し、地面を見る。

「……は?」

 それは紅く光る魔法陣だった。少し離れた場所に2つの円の中心があり、それに内接するようにひとつの円が回り、またそれに内接するようにさらにもうひとつの円が回る。幾何学的模様と何やら訳がわからない文字が羅列する。

 情報分析と臨機応変さは密かに自負していた紫苑だが、あまりにも突拍子も無いことに驚きを隠せず、呆然とする。

 いくら本を読む紫苑であったが、紫苑は自分で興味のありそうな短編しか読まない。故に、長い物語ーー例えば異世界ものーーは読まず、その編の知識がない。つまり、今起こってるのが

「きゃあーー!!」

「うわあああ!!!」

 異世界転生なんて、知る由もない。

 光り始めた魔法陣は一気に閃光してて、光が収まるにつれ魔法陣は消え、そこにあった者達は消えていった。

 部員と先生、そして紫苑間でもが魔法陣の中に消えていった。

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