さよなら、ダーリン
2
「誰から?」  
口にしてから馬鹿な質問だと思った。そんなの分かり切ってることじゃないか。
「婚約者に決まってるじゃない」
「いいの?」
「よくはないわね。逃げながら走りながら、後悔したわ。けれど足は止められなかった」
「まだ、兄のことが好きなの?」
彼女は僕に近づき、新聞紙ね包んだ菊の花束と2リットルのペットボトルをとった。そして花瓶に入っている、枯れてしまった花と水を隣の墓になる場所へ捨てた。
僕はその枯れた花だけを、新聞紙で包んだ。
「正直に言うとわからないの、弟であるあなたは、私という存在を不快に思うかもしれないわね。けれど、彼を待つことに、いない人の帰りを待つことに虚しさを見つけてしまったの。
彼への愛を確認するのには時間が経ちすぎてしまったのよ。私も心が麻痺してしまったし。なんだか、彼を待つことに、いない人の帰りを待つことに虚しさを見つけてしまったから、それからもうだめね。ダメダメだった。」
「ダメダメ?」
「そう、だめだめ。寝て、起きて、ご飯を作って食べて、大学行って友達と話して、ご飯を食べてバイトへ行って、夕飯を食べてお風呂に入って、寝る。規則正しく生活しているとね、普通に生きていけるの。けどね、体は健康で疲れもないはずなのに、何か足りないの。
ご飯を作っている時も、歯磨きをしている時も、友達と話している時だって、どこにもいない。バイトでつらいことがあったって、慰めてくれない。
私が望む人はどこにもいない。笑顔でいたってどこか悲しいの、それってだめだめじゃない」
彼女は、ペットボトルから花瓶へ水を注いだ。。そして菊を生け始める。ウェディングドレスと菊の花束はアンバランスで、面白い、と思う事は不謹慎なことなんだろう。
「大丈夫?」
「まぁ私には、思い出があるから、まぁね。大丈夫よ。付き合ってる時は特に楽しいことだけってわけじゃなかったんだけどね。思い出すのは楽しい記憶ばかり、なんだかそれって不思議なことよね」
そう言い切った彼女は、ペットボトルの水を盛大に石碑にかけ、ほんの少し残った水を水鉢落とした。仏教信者に怒られそうな場合があるワイルドな墓参りだった。勢いよく、かけた水の水滴が、ドレスにいくつかのシミを作った。けれどそれを全く気にせず、ただ、石碑を眺めている瞳を見て、まだ彼女にも、未練があるのだと、そしてそれはきっと僕と同じ類の未練なのだと確信した。
口にしてから馬鹿な質問だと思った。そんなの分かり切ってることじゃないか。
「婚約者に決まってるじゃない」
「いいの?」
「よくはないわね。逃げながら走りながら、後悔したわ。けれど足は止められなかった」
「まだ、兄のことが好きなの?」
彼女は僕に近づき、新聞紙ね包んだ菊の花束と2リットルのペットボトルをとった。そして花瓶に入っている、枯れてしまった花と水を隣の墓になる場所へ捨てた。
僕はその枯れた花だけを、新聞紙で包んだ。
「正直に言うとわからないの、弟であるあなたは、私という存在を不快に思うかもしれないわね。けれど、彼を待つことに、いない人の帰りを待つことに虚しさを見つけてしまったの。
彼への愛を確認するのには時間が経ちすぎてしまったのよ。私も心が麻痺してしまったし。なんだか、彼を待つことに、いない人の帰りを待つことに虚しさを見つけてしまったから、それからもうだめね。ダメダメだった。」
「ダメダメ?」
「そう、だめだめ。寝て、起きて、ご飯を作って食べて、大学行って友達と話して、ご飯を食べてバイトへ行って、夕飯を食べてお風呂に入って、寝る。規則正しく生活しているとね、普通に生きていけるの。けどね、体は健康で疲れもないはずなのに、何か足りないの。
ご飯を作っている時も、歯磨きをしている時も、友達と話している時だって、どこにもいない。バイトでつらいことがあったって、慰めてくれない。
私が望む人はどこにもいない。笑顔でいたってどこか悲しいの、それってだめだめじゃない」
彼女は、ペットボトルから花瓶へ水を注いだ。。そして菊を生け始める。ウェディングドレスと菊の花束はアンバランスで、面白い、と思う事は不謹慎なことなんだろう。
「大丈夫?」
「まぁ私には、思い出があるから、まぁね。大丈夫よ。付き合ってる時は特に楽しいことだけってわけじゃなかったんだけどね。思い出すのは楽しい記憶ばかり、なんだかそれって不思議なことよね」
そう言い切った彼女は、ペットボトルの水を盛大に石碑にかけ、ほんの少し残った水を水鉢落とした。仏教信者に怒られそうな場合があるワイルドな墓参りだった。勢いよく、かけた水の水滴が、ドレスにいくつかのシミを作った。けれどそれを全く気にせず、ただ、石碑を眺めている瞳を見て、まだ彼女にも、未練があるのだと、そしてそれはきっと僕と同じ類の未練なのだと確信した。
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