幽霊くんと私。

幽霊くんと私。

最近、近所の駅で幽霊を見かける。しかもその幽霊は二週間前に亡くなった友達だった。
友達の名前は遠坂陽樹。中学時代の友達で3年間同じクラスだった。亡くなった理由は…よくわからない。あまりみんなその話をしないのだ。
私は思い切って話しかけてみた。
「ねぇ」
「…」
「そこの幽霊さん」
「!  僕が見えるんですか?」
「まぁ…うん見えてるよ」
「みんな僕のこと見えないみたいで…僕のことが見えるのはあなたが初めてです」
「えっと…私のこと誰だか分からない?」
「あの…ごめんなさい。僕、生前の記憶がないんです」
「えっ…」
「幽霊になってまもない頃は覚えてたみたいなんですけど今はもう何も覚えていません。ただ、ここには何か目的があってきたのは確かなんです。その目的すらもう覚えていませんが…」
「そうだったんだ…なんかごめんね?私は森宮麗恵、あなたは遠坂陽樹、私たちは中学の同級生だったの。」
「遠坂…陽樹…」
幽霊はゆっくり、噛み締めるように自分の名前を繰り返した。私には何かを思い出そうとしているように見えた。
「あの…!もしよろしければ生前の僕のことを教えてくれませんか?」
「うん。いいよ。」
それから私は幽霊、陽樹に中学時代の思い出話をした。次の日もその次の日も私と陽樹は話をした。楽しかったことを、悲しかったことを、一緒に過ごした日々を。
……

そして、陽樹の幽霊と話をするようになってから数日後、いつものように駅のベンチで座って話をしようとしていた。
「あのね、陽樹…」
「麗恵ー?」
話をしようとしたとき声をかけられた。
「あ…優紀」
話しかけてきたのは陽樹と同じく中学の友達の七須賀優紀だった。
「久しぶり〜」
「うん、久しぶり」
「今陽樹って言ってたよね?」
「あ…う、うん」
「陽樹か…やな奴だったよねぇ…だってあんたに振られても結構しつこかったじゃない?なんかあそこまでしてると引くよねぇ…あ、でもこんなこと言ったら罰当たるかな?まぁでも結構事実だもんねぇ…」
「あ…えっと…」
ここに陽樹がいるのに…そんなこと…
「ねぇ麗恵?結構困ってたでしょ?」
やめて…やめてよ…
「あ、私、人待ってるから…」
「あ、そう。ごめんごめん…じゃあまた会おうね?じゃあねー!」
「うん…またね」
……
「…陽樹?あの今のこと気にしなくて…」
「ううん。ごめんね。僕、最低な奴だったみたいだね」
違う。
「死んだ後にまで君に迷惑掛けちゃうなんて…ほんとごめんね。」
そうじゃない。
「ほんとに…ごめんね。」
「陽樹私は…」
……
陽樹はもういなかった。いつの間に消えてしまったのだろうか。もうその場にはいなかった。

私は…陽樹が好きだった。告白されたときほんとは嬉しかった。でもなんでか私は陽樹の告白を断っていた。その後私はほんとの気持ちを伝えるチャンスを待ってた。ただ、勇気が出せなかっただけだったのに。そして陽樹は死んでしまった。その事を知った時私は泣いた、今までにないくらいに。
だから、幽霊になった陽樹を見かけたとき今度こそ話そう、って決めたのに。また、ほんとの気持ちを伝える前にいなくなってしまった。また…
「…っ」
私がもっと早く伝えていれば…こんなことにはならなかったかもしれないのに…
「っ……うぅ…」
……

あれから二週間経った。陽樹の幽霊がいなくなってから二週間経った。相変わらず駅には陽樹はいなかった。
「成仏…しちゃったのかなぁ…」
幽霊って言うのはこの世に未練がある人がなるらしい。成仏したのなら未練は無くなったのか。
だとしたら私の事なのかなぁ…。私にはまだ陽樹に未練があるのに…。そういえば、陽樹はなんで亡くなったんだろう?
私は陽樹の家に行ってみることにした。
……

「あぁ、陽樹の…まぁどうぞ」
家に行くと母親が出てきた。
「お邪魔します」
リビングに案内され、お茶を出してくれた。
「ありがとうございます。あの…本題なんですが陽樹くんってどうして亡くなられたんですか」
母親には話すのは辛いのは分かってはいるけど本当のことを知りたかった。
「陽樹は…事故です。交通事故。車にぶつかった後タイヤの下に入ってしまい内蔵が潰されて即死だったらしいです……うぅ…」
「っ!」
思わず言葉を失ってしまった…。内蔵が潰されて即死…そんな残酷なことが陽樹に…。
その後しばらく陽樹について色んなことを聞かせて貰った。どんな風に育ってきたか、家での態度、私の知らない陽樹のことを教えて貰った。
そしてもう帰ろうとしたとき…
「あ、これ…」
「あぁ、それ、陽樹のお気に入りの場所何ですって。今度そこに陽樹を連れてってやろうと思ってね…」
そう言いながら陽樹のお母さんは陽樹の遺灰を見ていた。
(ここならもしかしたら陽樹が…)
「それでは、お邪魔しました。」
淡い期待を抱きながら私は陽樹の家にあった写真に写っていた場所へ向かった。
……

空がオレンジ色に染まっていく。
その様はとても綺麗だった。そしてそのオレンジ色の空の下に1人の幽霊が立っていた。
「陽樹…」
「!」
名前を呼ぶと陽樹は振り返った。そして…
「麗恵、僕は君に…」
「全部思い出したのね…」
「うん。それで、僕…」
「ストップ。私から先に言わせて。もうチャンスを逃したくないから。」
「う、うん。」
「すぅ…ふぅ…えっとね、まず初めにね、私、陽樹のことずっと好きだったの。」
「えっ?」
「驚くのも無理はないよね。だって私陽樹の告白こと断っちゃったもんね。でもあれは別に嫌いだったわけじゃないんだよ?ただ心の準備ができてなかったんだと思う。」
「…」
「だから…その…ごめんなさい。」
「そっか…僕、麗恵に嫌われたと思ってた…よかった…」
そう言って陽樹は笑った。
「嫌うなんて…そんな…確かにちょっと距離を取ってたかもしれないけど…それはちょっと恥ずかしくて…」
「僕もさすがに言い寄りすぎたよね…優紀さんに引かれる程にね…」
「それは…まぁ…断ったのにあそこまでくるのは今考えてみると結構…?」
「ちょ、麗恵…」
「ふふっ冗談冗談…で、陽樹の話したいことは?」
「あぁ、うん、えっと…謝りたかったんだ、振られた後にしつこかったことを。凄く迷惑かけちゃったことを。」
「それだけ?」
「それだけって結構重要なことでしょ?少なくとも僕には重要なことだった。だって相手からすれば嫌いな相手にしつこくされるのって凄く迷惑だと思ったから…」
「そっか…ごめんね?私が告白されたときに断ってなければ…」
「ううん。大丈夫。今こうして麗恵と両思いだったってわかって僕はとても嬉しいんだ。これで思い残すことは無い、かな。」
「えっ?」
「忘れたの?僕は幽霊。この世にやり残したこと、思い残したことがある人。僕にとっては君がこの世の未練だった。でも、それは解かれた。僕はもうこの世に未練はないんだよ。」
「でも…せっかく今想いが通じ合ったのに…そんな…」
私はつい、涙を流してしまった。
「何も泣くことはないじゃない…僕は元々こうなるはずだったんだ。それを少し先延ばししただけなんだよ。だから泣かないで?僕も泣いちゃうじゃないか…」
「だって…だって…いなくなるのやだよ…」
「…大丈夫。僕はどこか麗恵の近くにいるから。」
「…」
「じゃあもう行くよ。」
「約束、だからね。近くにいてよ?」
「うん。約束。」
そして指切りをした。
「それじゃあね…麗恵。」
「うん。じゃあね。」
「あ、そうだ。僕が駅に来た理由、それはあの駅が麗恵と最初に出会った場所だからだよ。」
「えっ…」
そして陽樹は消えていった。
「…もう、最後の最後に…」

絶対、近くにいてよね。陽樹。

コメント

  • ノベルバユーザー603722

    お互いの不慣れな気持ちを通じるものが伝わる時間がかかる事は当然ですが
    お互い本当の気持ちを言って好きになる。

    0
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