俺はこの世界の主に牙を向く

ハイム

第一部 第五話 襲撃

第五話です。

一応武器を登場させます。使いませんが。



魔獣討伐から数日後、俺達は命令を破ったペナルティとして、村の食事処を手伝わされていた。


「安いんだよー!おいしいんだよー!」


と、伊織は店の前で呼び込みをしている。
そして、俺と流はというと……


「おい!サボってんじゃねえ!まだまだ洗ってもらわないといけない皿やフライパンが沢山あるんだからな!」


店主に怒鳴られていた。


「……なぁ、流」
「……なんだ?睦月」
「理不尽だと思わないか?」
「あぁ、全くだな」


俺と流の仕事は店の皿洗いを開店から閉店まで二人だけでやらされる事だった。

普段は呼び込みなどしないこの店は、店頭に村一番の人気を誇る祈織の呼び込みの効果で、朝、昼、晩と毎食ここで済ませる人が出るほどの大盛況となっている。
当然休む暇などなく、俺達二人にとっては確かにえげつないペナルティとなり、結局三日ほど続いた。


「はぁ……やっと開放されたな」
「下ばっか向いてて首痛てー……」


ペナルティを終えた俺と流は元村長じいちゃんの家に向かう。
先日、魔獣討伐の際に色が変化した指輪の事について聞くためだ。

もちろん、その場にいた祈織も誘ったのだが、


「ちょっと用事があるんだよー」


との事なので、今日は二人だけだ。

家に着くと、流はさっそく、


「じーさん、何で俺の指輪の色は変わっちまったんだ?」


と尋ねた。


「ふむ……流、お主は【属性魔法】に目覚めたのじゃったな?」
「あぁ、こないだの魔獣討伐でな」
「ならばその色は水魔法の覚醒を現す色なのじゃよ」
「「あぁ!」」


言われてみれば納得の結果だった。

普通に指輪が学生証なら、指輪をはめていれば誰でも、それこそ【属性魔法】に目覚めていない者まで入学出来てしまう。
そこで指輪が所有者の【属性魔法】の色に染まるわけだ。
染まっていなければ【属性魔法】は使えない事が分かる。

(なるほど、よく考えられているな……)

話を聞き終わった俺が元村長じいちゃんに礼を告げ、家を出ようとすると、


「睦月、少し待つのじゃ」


と、元村長じいちゃんは俺を引き止めた。


「お主にこれをと思ってな」


そう言って出してきたのはひと振りの長剣だった。
刃渡りは一メートルと少しくらいあるだろうか。
赤茶色の柄を握り、ゆっくりと引き抜くと、黒い鞘に入れられたその刀身はついさっき磨かれたかのような輝きを見せていた。


「これは……?」
「まぁ餞別じゃな、お主ももう少しすれば【属性魔法】に目覚めるじゃろう。
その時に剣の一本でも無ければ締まらんと思ってな。」


元村長じいちゃんの心遣いに、俺は改めて礼を告げ、腰に長剣を下げると、その場を後にした。




「睦月、今大丈夫か聞きたいんだよー」


家を出てしばらくすると、どこかに行っていた祈織が話しかけてきた。


「ん、問題ないぜ?どうしたんだよ?」
「実は、流のお見送り会を開こうと思って、その準備をしたいんだよー」


その言葉に俺はハッとした。
そうだ、【属性魔法】に目覚めた流はもう《魔法学園》に向けて出発するのだ。


「なるほど、俺はその準備を手伝えばいいんだな?」


ならば幼馴染として、あいつを盛大に送ってやろうじゃないか。
この前の借りもある事だしな。


「うん、私も手伝うから、森で獲物を捕るんだよー」
「了解だ」


俺達は素早く準備を終わらせると、流に気づかれないよう、森へと出発するのだった。



~数十分後~


「よし、山菜や果物はこの位で大丈夫そうだな」


俺は祈織に言われたとうり、背中に籠を背負い、山菜や木に生っている果物を採っていた。
祈織は別行動でイノシシやウサギ、鳥なんかを捕まえに行っている。

本来は男である俺が行くべきなのだろうが、


「睦月は張り切りすぎて動物を全滅させそうなんだよー」


と、言ってきた。
失礼な!ほんの一山の動物を捕ってくるだけだと言うのに!

……まぁいい、そろそろ祈織も充分な量の食材を捕ってくるだろう。

俺はあらかじめ決めてあった集合場所へと向かった。




集合場所では既に、祈織が待機していた。


「祈織ー!そっちはどうだー!?」


と聞いてみるが、どうも反応が芳しくない。
何かあったのだろうか?


「どうした?」
「変なんだよー。森の中に、動物が全然いないんだよー」
「は?そんな訳ないだろ?」


そう言って【探知】を発動するが……


「なんだ?全然反応が……ない?」


何故だ?嫌な予感がする。
俺は自分の直感に従い、普段よりもかなり広く【探知】を発動した。

すると、俺の嫌な予感は的中していた事を知る。
【探知】に反応したのは数百を超える獣や魔獣の群れが、村へと進んでいく様子だった。


「祈織!まずいぞ!大量の獣達が村に向かってやがる!しかもこの反応は魔獣も混じってるぞ!」


祈織もこの事態に気が付いたようで、


「急ぐんだよ!今村には対抗できる人が流しかいないんだよ!とにかく三人で魔獣を止めに行くんだよ!」
「いや、祈織は王国に繋がる道の方からみんなを逃がしてやってくれ!
流は多分異変にも気づくだろうからみんなを逃がそうとするはずだ」
「睦月はどうするんだよー?」
「俺は流と二人で時間を稼ぐ!急げ!」
「分かったんだよー!」


俺達は【身体強化】を全開にして、村への道をひたすらに駆けた。

(くそっ!なんで急にこんな事になるんだよ!)



〈流side〉

俺は祈織にじーさんからの餞別である武器を渡すため、【探知】を広げる。
しかし、村の中には祈織どころか、睦月の魔力すら引っかからなかった。

もう少し範囲を広げようと、【探知】に魔力を注ぐと……


「なんだ……これ……」


今まで見たこともないような魔獣の大軍が【探知】に反応したのだ。
慌てて家に戻り、じーさんに現状を伝え、武器をじーさんに返す。
そしてまた外に行き、村人達にも伝えてまわった。
みんなは慌てて王国側の道に行こうとするが、このままじゃ間に合わない。

俺は【身体強化】を発動させると、魔獣達がいる場所へと向かった。


「せっかく力が手に入ったんだ。一人も殺させてたまるかよ!」

向かう方向ではさっきから破裂音がしている。
恐らく睦月だろう。




〈祈織side〉

私は睦月と離れ、一人王国側から村に帰ってきた。
睦月の読みどうり、流が伝えてまわったらしい。
私はみんなを逃がすため、大声で叫んだ。


「みんなー!落ち着いてこっちに集まるんだよー!
一旦この道からほかの村へ避難するんだよー!」


【身体強化】をかけて叫んだ大声は村中に響き、しばらくすると何とか全員を集め終わった。

しかし、私の【探知】は、既に村の目と鼻の先まで魔獣達が迫っている事を知らせていた。


「みんなー!すぐ出発するんだよー!」


睦月と流は時間稼ぎをしてくれるだろうけど、今魔獣を足止めしているのは睦月だけだ。
流はまだ向かっている途中、いくら睦月でも、数百を超える魔獣を相手にする事は出来ない。

私は二人の元に行きたいという気持ちを抑えつつも、みんなの誘導を開始した。




「さっき聞こえた大声……祈織は間に合ったみたいだな」


俺は魔獣の群れを追い越し、その先頭へと迫っていた。

隣で走っているイノシシは三メートルほどの大きさで、俺が目に入っていないのか目を血走らせながら村へと向かっている。

先程から数度、先頭を走る魔獣の頭を【魔力弾】で飛ばして妨害しようとしているが、その死体すら踏み越えて進んでいるようだ。
この様子だと、進路を逸らすことすら出来ないだろう。


「クソ!このままじゃまずいのに!」


焦りながらも【魔力弾】を発射するが、数匹の獣を弾き飛ばしただけだった。
魔獣達の勢いは止まる様子を見せない。
仕方なく俺は魔獣達の先頭、その前へと躍り出る。


「すぅぅぅ……来い!魔獣バカ共!
俺が相手になってやる!」


震える膝を理性で押さえつけ、俺は目の前の生存率零パーセントの、完全な死地へと踏み込んだのだった。




どうも、作者です。
一難去ってまた一難と言った感じです
私はこの言葉はあまり好きではないんですよね……。

次回 終結  です。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品