俺はこの世界の主に牙を向く
第一部 第三話 魔獣現る
第三話です。
やっと【属性魔法】が登場します。
その知らせは、俺達がちょうどその日の修行に出ようとしていた、まさにその時に届いた。
「た、大変だぁ!」
近くに住むおじさんが森の中から大声を出しながら出てきたのだ。
俺達は当然、声の聞こえた方を向く
と、同時にその表情を引き締めた。
本来、草で染めるため青色や、緑色をしているはずのその服は……ドス黒い赤色に染まっていた。
騒ぎを聞きつけた村の人は、とにかく、今のおじさんの格好を子供に見せるわけにはいかないと、村長の家へと送った。
「おい、睦月……」
「あぁ、俺達も向かおう」
「了解したんだよー」
村長は、顔色の悪いおじさんに水を飲ませ、落ち着かせた。
「それで……一体何があったのか教えてくれんか?」
と、尋ねると、おじさんはゆっくりと話し始めた。
「実は……朝、日課の山菜採りに出かけていたんです。近くの山菜は採ってしまったので、今日はもう少し奥の方に行こうと思って…そしたら…………」
「……そしたら?」
「あ……アイツが……」
そこでおじさんは何かを思い出したのか、再び顔を青くする。
しかし、意を決したように村長を見て、一言その名を言った。
その瞬間、場の空気は一瞬で凍りついた。
時は数時間さかのぼり、《ヤメ森》の中
「お、逆巻きゼンマイが生えてるじゃないか、よしよし、これだけ採れば充分だな」
男はいつものように山菜採りをしている。
すると、
ガサガサッ!
と、近くに何かがいる音がする。
男は木の影からそっと覗き込んだ。
そこにいるのは草を食べている一匹の[ハネジカ]だった。この鹿は名前の通り、移動をずっと跳躍で行うほど脚力が高く、さらになかなか人前に姿を現さないのだ。
いいものを見たな、と思った次の瞬間
ギュポ!
シカの首は突如出現した水の塊に吹き飛ばされる!
倒れ込んだ体から吹き出した血は男の体を真っ赤に染めた。
そして男の反対側の木の影から現れたのは……
体長八メートルを超える、【属性魔法】を操る大きな熊の魔獣だった。
「それから、魔獣がハネジカを食べている隙に……」
「走って逃げてきた、という訳か。うむ、話してくれてありがとう」
そう言って村長はおじさんを家に帰した。
「じーさん、一体何でみんなこんなに慌ててるんだ?確かに魔獣は珍しいけど、俺達が倒してきたじゃないか。だから今回も……」
そこまで流が言った途端、
「ダメじゃ」
と、いつもより鋭い口調で元村長は否定する。
そして、
「これより、その魔獣が近辺から去るまで、森に入ることを禁ずる。これは元村長命令じゃ」
突然の森への侵入禁止を言い渡すのだった。
「元村長……話してくれるんだよね?」
「私達なら力になれるかもしれないんだよー」
「何なら俺達が倒せるかもしれないし!」
そこまで聞いてから、険しい表情のじいちゃんはおもむろに話し始めた。
「お主らが生まれる数年前にもな、同じような個体が見つかったことがあるのじゃ。
その個体も【属性魔法】を操りおってな、当時無属性魔法を使えた男達が何とかすると言って出かけたんじゃよ。
魔法適性Bクラス以上は確実と呼ばれとった男達でな、当時のわしの父が、苦渋の決断の末に許可を出したのじゃ。
……じゃが、その男達は二度とは帰ってこんかった。
どころか、魔獣は村のすぐそばまで近寄ってしまったのじゃよ。
幸いにもそれ以上魔獣が村に近寄る事はなく、そのままどこかへと消えたがな……。
若い者を死なせてしまった事、そして村を危険にさらしたこと、その責任を取り、わしの父は村長の座を降りた」
「「「……ッ!」」」
「信じられるか?お主らと同等の力を持つ男達がお主ら以上の人数で挑み、全員殺されたのじゃぞ?
幸いにもそれ以上の被害を出さず
その遺体も食べられ、無くなってしまっとる!
それでもお主らは行かせろというのか?
わしに!孫を殺す決断しろと言うのか!?」
「「「……」」」
「お願いじゃ、どうか、わしの前から居なくならないでくれ……。」
その言葉に……俺は……俺達は何も言えなかった。
あれから二週間たった。
依然として、魔獣は森に居座り続けている。
人口八十人程の小さな村とはいえ、物資の補給を森で行うしかないこの村は、既に食料の底も見え始めるほどまで消耗していた。
「ねーねー、睦月兄ちゃん」
俺の足元にはいつも狩りを楽しみに待っていたチビの一人が俺のズボンを引っ張って立っていた。
俺はかがみ込み、視線を合わせてやる。
「どうしたんだ?」
「あのね、森の中にまじゅーが出たんでしょ?」
「あぁ、そうだよ?」
「それならさ、兄ちゃん達がやっつけちゃえばいいんじゃない?」
無邪気な考えだとは分かっている。だが、一番突かれたくない部分を突かれた俺は、チビの頭をくしゃくしゃと撫で、誤魔化すしか無かった。
その日の夜、俺は流の家の近くに呼び出された。
相手はもちろん流だ。
「なぁ、睦月」
「あぁ、言いたいことは分かってる」
流はしばらく黙ると、何かを決断した顔で、
「俺一人じゃあ多分無理だ。
でも、お前となら行ける気がするんだよ。
頼む!俺と一緒に魔獣を倒しに来てくれ!」
「……出発は明日の夜明け三十分前だ。遅れんなよ?」
「……ありがとう、……すまない」
「気にするな、お前が言わなきゃ俺が言ってた」
こうして俺達は魔獣討伐のため、立ち上がった。
次の日の早朝
「よう」
「あぁ」
短く言葉を交わし、森へ一歩踏み出そうとしたその瞬間
「やっぱりここにいたんだよー」
その言葉に、俺たちの動きは完璧に停止する。
まったく同時のタイミングでゆっくりと振り向くと、そこには……激おこ状態の祈織が立っていた。
「もちろん覚悟は出来てるんだよー?」
その言葉は俺達にはまるで死刑宣告のように聞こえたのだった。
数分後、俺達は三人で森の中に入っていた。祈織は昨日の会話を物陰で聞いており、魔獣討伐に参加するため来たらしい。
どうやって嗅ぎつけたのかというと、祈織曰く、
「二人の考えることくらいお見通しなんだよー。
まだまだ詰めが甘いんだよー」
だ、そうだ。
(まったく……隠し事はできないな……)
「さて、この辺でいいか」
「あぁ、始めるか」
俺達はこの前使った[こいこい草]を潰し、手のひらに乗せて【魔力弾】で上空へ向けて二、三度発射する。
これで魔獣は[こいこい草]に釣られてこちらに向かってくるはずだ。
草の汁は俺たちにも付いているので、これで魔獣を倒すしか俺達が助かる道は無くなった。
「さて、二人とも、覚悟はいいか?」
俺の問いかけに、
「もちろんなんだよー」
「誰に向けて言ってんだよ」
と、頼もしい返事が返ってくる。
しばらく待っていると、地響きが聞こえてきた。
「……来るぞ」
そして、俺たちの目の前に、圧倒的な威圧感を持った魔獣が姿を現す。
どうも、作者です。
本当は覚醒まで持っていきたかったのですが、間に合いませんでした。すみません。
次回 流の覚醒 です。
やっと【属性魔法】が登場します。
その知らせは、俺達がちょうどその日の修行に出ようとしていた、まさにその時に届いた。
「た、大変だぁ!」
近くに住むおじさんが森の中から大声を出しながら出てきたのだ。
俺達は当然、声の聞こえた方を向く
と、同時にその表情を引き締めた。
本来、草で染めるため青色や、緑色をしているはずのその服は……ドス黒い赤色に染まっていた。
騒ぎを聞きつけた村の人は、とにかく、今のおじさんの格好を子供に見せるわけにはいかないと、村長の家へと送った。
「おい、睦月……」
「あぁ、俺達も向かおう」
「了解したんだよー」
村長は、顔色の悪いおじさんに水を飲ませ、落ち着かせた。
「それで……一体何があったのか教えてくれんか?」
と、尋ねると、おじさんはゆっくりと話し始めた。
「実は……朝、日課の山菜採りに出かけていたんです。近くの山菜は採ってしまったので、今日はもう少し奥の方に行こうと思って…そしたら…………」
「……そしたら?」
「あ……アイツが……」
そこでおじさんは何かを思い出したのか、再び顔を青くする。
しかし、意を決したように村長を見て、一言その名を言った。
その瞬間、場の空気は一瞬で凍りついた。
時は数時間さかのぼり、《ヤメ森》の中
「お、逆巻きゼンマイが生えてるじゃないか、よしよし、これだけ採れば充分だな」
男はいつものように山菜採りをしている。
すると、
ガサガサッ!
と、近くに何かがいる音がする。
男は木の影からそっと覗き込んだ。
そこにいるのは草を食べている一匹の[ハネジカ]だった。この鹿は名前の通り、移動をずっと跳躍で行うほど脚力が高く、さらになかなか人前に姿を現さないのだ。
いいものを見たな、と思った次の瞬間
ギュポ!
シカの首は突如出現した水の塊に吹き飛ばされる!
倒れ込んだ体から吹き出した血は男の体を真っ赤に染めた。
そして男の反対側の木の影から現れたのは……
体長八メートルを超える、【属性魔法】を操る大きな熊の魔獣だった。
「それから、魔獣がハネジカを食べている隙に……」
「走って逃げてきた、という訳か。うむ、話してくれてありがとう」
そう言って村長はおじさんを家に帰した。
「じーさん、一体何でみんなこんなに慌ててるんだ?確かに魔獣は珍しいけど、俺達が倒してきたじゃないか。だから今回も……」
そこまで流が言った途端、
「ダメじゃ」
と、いつもより鋭い口調で元村長は否定する。
そして、
「これより、その魔獣が近辺から去るまで、森に入ることを禁ずる。これは元村長命令じゃ」
突然の森への侵入禁止を言い渡すのだった。
「元村長……話してくれるんだよね?」
「私達なら力になれるかもしれないんだよー」
「何なら俺達が倒せるかもしれないし!」
そこまで聞いてから、険しい表情のじいちゃんはおもむろに話し始めた。
「お主らが生まれる数年前にもな、同じような個体が見つかったことがあるのじゃ。
その個体も【属性魔法】を操りおってな、当時無属性魔法を使えた男達が何とかすると言って出かけたんじゃよ。
魔法適性Bクラス以上は確実と呼ばれとった男達でな、当時のわしの父が、苦渋の決断の末に許可を出したのじゃ。
……じゃが、その男達は二度とは帰ってこんかった。
どころか、魔獣は村のすぐそばまで近寄ってしまったのじゃよ。
幸いにもそれ以上魔獣が村に近寄る事はなく、そのままどこかへと消えたがな……。
若い者を死なせてしまった事、そして村を危険にさらしたこと、その責任を取り、わしの父は村長の座を降りた」
「「「……ッ!」」」
「信じられるか?お主らと同等の力を持つ男達がお主ら以上の人数で挑み、全員殺されたのじゃぞ?
幸いにもそれ以上の被害を出さず
その遺体も食べられ、無くなってしまっとる!
それでもお主らは行かせろというのか?
わしに!孫を殺す決断しろと言うのか!?」
「「「……」」」
「お願いじゃ、どうか、わしの前から居なくならないでくれ……。」
その言葉に……俺は……俺達は何も言えなかった。
あれから二週間たった。
依然として、魔獣は森に居座り続けている。
人口八十人程の小さな村とはいえ、物資の補給を森で行うしかないこの村は、既に食料の底も見え始めるほどまで消耗していた。
「ねーねー、睦月兄ちゃん」
俺の足元にはいつも狩りを楽しみに待っていたチビの一人が俺のズボンを引っ張って立っていた。
俺はかがみ込み、視線を合わせてやる。
「どうしたんだ?」
「あのね、森の中にまじゅーが出たんでしょ?」
「あぁ、そうだよ?」
「それならさ、兄ちゃん達がやっつけちゃえばいいんじゃない?」
無邪気な考えだとは分かっている。だが、一番突かれたくない部分を突かれた俺は、チビの頭をくしゃくしゃと撫で、誤魔化すしか無かった。
その日の夜、俺は流の家の近くに呼び出された。
相手はもちろん流だ。
「なぁ、睦月」
「あぁ、言いたいことは分かってる」
流はしばらく黙ると、何かを決断した顔で、
「俺一人じゃあ多分無理だ。
でも、お前となら行ける気がするんだよ。
頼む!俺と一緒に魔獣を倒しに来てくれ!」
「……出発は明日の夜明け三十分前だ。遅れんなよ?」
「……ありがとう、……すまない」
「気にするな、お前が言わなきゃ俺が言ってた」
こうして俺達は魔獣討伐のため、立ち上がった。
次の日の早朝
「よう」
「あぁ」
短く言葉を交わし、森へ一歩踏み出そうとしたその瞬間
「やっぱりここにいたんだよー」
その言葉に、俺たちの動きは完璧に停止する。
まったく同時のタイミングでゆっくりと振り向くと、そこには……激おこ状態の祈織が立っていた。
「もちろん覚悟は出来てるんだよー?」
その言葉は俺達にはまるで死刑宣告のように聞こえたのだった。
数分後、俺達は三人で森の中に入っていた。祈織は昨日の会話を物陰で聞いており、魔獣討伐に参加するため来たらしい。
どうやって嗅ぎつけたのかというと、祈織曰く、
「二人の考えることくらいお見通しなんだよー。
まだまだ詰めが甘いんだよー」
だ、そうだ。
(まったく……隠し事はできないな……)
「さて、この辺でいいか」
「あぁ、始めるか」
俺達はこの前使った[こいこい草]を潰し、手のひらに乗せて【魔力弾】で上空へ向けて二、三度発射する。
これで魔獣は[こいこい草]に釣られてこちらに向かってくるはずだ。
草の汁は俺たちにも付いているので、これで魔獣を倒すしか俺達が助かる道は無くなった。
「さて、二人とも、覚悟はいいか?」
俺の問いかけに、
「もちろんなんだよー」
「誰に向けて言ってんだよ」
と、頼もしい返事が返ってくる。
しばらく待っていると、地響きが聞こえてきた。
「……来るぞ」
そして、俺たちの目の前に、圧倒的な威圧感を持った魔獣が姿を現す。
どうも、作者です。
本当は覚醒まで持っていきたかったのですが、間に合いませんでした。すみません。
次回 流の覚醒 です。
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