300年 吸血 鬼ごっこ

源 蛍

第17話 〜突然の転入生〜

 今日は土曜日なのに学校に集合する羽目になった。私のクラスだけが。何で?
 疑問しか抱かぬままクラスに着くと、洗脳でもされたかの様に全員が同時に私を見た。怖いわ。

「先生ー、今日は何で集めたんすか?」

「転校生が、来たんだよ」

 転校生? ヴォルフに次いでこのクラスには二人目だぞ? 別のクラスにも香恋が転校して来たんだし。
 モヨット先生の声かけにより、転校生らしき人物が扉を開いて入室して来た。

 とても綺麗に手入れされた鮮やかなエメラルドグリーンの髪は少し青みがかっていて、同じエメラルドグリーンの瞳からは何故か異質な雰囲気を感じる。考え過ぎかな。
 肌は透き通る様に白くて、身長はかなり小さめの容姿だ。つまり言うと、可愛い。

「ロンドミゲル……と申します。これからどうぞよろしくお願いしますね、皆さん?」

「えっ……?」

「よろしくー!」

「よろしくね」

 他の生徒達が何喰わぬ表情で彼女を迎えている中、私は一人立ち尽くしその姿をじっと見つめていた。
 今、あの子全体を見渡していた筈なのに、目だけは私をずっと見てた。何か不気味だ。
 だとしても吸血鬼だってことはあり得ないと思う。何せ吸血鬼ってのは男で、だから女の子を狙うんだもん。仮にあの子が吸血鬼だとしても女の子だし、狙われるのは私じゃなくて男子の筈。だから無いな。
 最近はもう暫く無いけど、次々と襲いかかって来る吸血鬼共の所為で警戒心強くなっちまってるよ。

 自分に呆れて心の中で微笑してると、転校生の方から私に近付いて来た。

「貴女もよろしくお願いしますね? 司導凌菜さん」

「え、名前……」

「他の人達が教えてくれましたよ」

「あ、ああ、そっか。よろしくな」

 びっくりした、急に名前を呼んでくるもんだから。
 だって普通直ぐに名前覚えられたとしても全然近付こうともしてなかった奴に話しかけられないでしょ? 気不味いでしょ? あの子はフレンドリーなのかな。

 でもなぁ、ずっとこの髪色が気になってるんだよねぇ。何つぅ色してんのって話よ。緑だよ緑。
 うちの高校は染めるのはダメだった筈なんだけどな。黒と茶色にするのは良いらしいけども。

「おはよ! で? 転校生って?」

「おはよ」

 慌てて教室に入って来たのは遅刻して来たヴォルフだった。まだ色々引っ越し後の生活慣れてないのかな? お疲れ様っす。
 額の汗を拭って、私が掌を向けて教えたロンドミゲルのことを見たヴォルフは、少しだけ眉間に皺を寄せた。どうした? 怯えた様な表情して。

「貴方がヴォルフさんですね? よろしくお願いします」

「……うん」

 礼儀正しくお辞儀をするロンドミゲルへの警戒心が強まっていく一方な感じで退いて行くヴォルフは、とうとう私を廊下に連れ出した。いや急に腕引っ張るなよ。
 どんな吸血鬼が来た時よりも明らかに焦っていて、明らかに脅えているヴォルフは屋上で私を強く抱き締めた。え、何? やめてくれ。
 そして肩を力強く抑えたヴォルフは、鋭い目つきになっている。

「ヴォルフ?」

「あの女は……危険だ! もう二度と近付いちゃダメだよ!」

「え!?」

 女だから吸血鬼では無い筈なのに、何で近付いちゃダメなの? でもこの言い方だと、明らかに私を狙って転入して来てる事になる。さっきじっと見られてたのは間違いじゃなかったのか。

「ヴォルフ、アイツは何なんだ? 人形みたいな綺麗な奴だったけど」

 私が問いかけると、ヴォルフは言葉に詰まった様な表情をとる。
 そして辺りに誰もいないのを確認してから説明を始めた。

「あれは、魔族の吸血鬼だ。僕ら普通の吸血鬼なんかとは色々訳が違う。一人で街を滅せるレベルの怪物なんだ」

「一人で、街を!?」

 ヴォルフは貴族の吸血鬼らしいけど、魔族ってのは初めて聞いたと思う。
 それにしてもそれはチート過ぎるだろ。何だよ吸血鬼一人に街を滅ぼされるって。
 てか何で女の子の吸血鬼がいるのかな!? そこが気になる。

「吸血鬼は何も男ばかりじゃない、女だっているはいるんだよ。アイツは少し勝手が違うんだけど」

「勝手?」

「凌菜ちゃん、『ゴルゴン』って知ってる?」

 ゴルゴン……って確か、メデューサか何かと同じ様なものでしょ? 人を石に出来る化け物。それがどうかしたのか? ん? ちょっと待て、このタイミングで言うってことはまさか!?

「アイツは吸血鬼とゴルゴンのハーフだよ。魔族には魔物との子供が多いんだ。アイツはその中でも怪物だよ」

「嘘だろマジかよどうすんの!?」

「今は緑のコンタクトで全く見えないだろうけど、いずれ攻撃しに来るかもしれない。そしたら──」

 『打つ手はない』。ヴォルフは確かにそう言ってた。
 瞳を見た者は全て石に変えてしまう能力を持つゴルゴンと、血を吸う悪魔、吸血鬼。その二つの能力を使えるロンドミゲルの相手をするには色々リスクがデカいらしい。
 ヴォルフの実力じゃ勝てない相手であって、攻撃は石に出来れば勝利出来る圧倒的な能力の違い。生きること諦めても何も変わらなかったんじゃねぇか、こんなもん。

 もう希望も見えないし、全てを理解した為に諦めがついた私は大人しく教室へ戻った。

「あ、りょーちゃんさっきどうしたの?」

「ん、あーいや何でも。ヴォルフが急な用事があったっぽくて」

「そっか」

 由奈も誰も、ロンドミゲルに警戒なんてしてない。周りから見れば外国からの美人で珍妙な容姿をしたただの転校生なんだから。当たり前だろうけど。
 ロンドミゲルは相変わらずオーラが違う。普通の人間が放っていい様な気じゃない。
 だけどそれに気付く人なんて居はしない。

「あのね皆……」

 気が付けば口が動いていた。何でだろうな、このままじゃ絶対にダメな気がしたんだ。

「そいつ、吸血鬼だよ」

 私に睨みつけられたロンドミゲルの表情は、ゆらりと、ゆっくりを口角を上げていく。
 一斉に彼女を見た生徒達は、やはり前の奴の恐怖を覚えているのか少しずつ後あとずさって行く。

 これって、ヤバいんじゃね? もしかして。皆教室から出ようとはしないし、ロンドミゲルめちゃくちゃ笑ってるし。もしかしてやっちまったか?

「司導凌菜……面白いこと言うね。僕が吸血鬼かぁ」

 さっきと明らかに口調が違うけど、雰囲気は丸っ切り変わってない。ずっと不気味なオーラを放っている。
 顔を右手で覆ったロンドミゲルは下を向き、手を少しずつ下方にずらしながら顔を上げていく。
 床にはコンタクトが二つ落ちた。

「皆アイツを見るな!!」

「ふふふ」

 私は由奈を抱き締めて後ろを向き、恐らく放たれた石化攻撃を何とか防いだ。危なかった。他の皆は大丈夫かな?
 私はロンドミゲルの方を向かない様にして辺りを見たが、そこには先程までは存在していなかった筈の石像・・がいくつも設置されていた。
 代わりに、私のクラスメイト達は消えて──。

 違う、あの石像がクラスメイトなんだ。そんな事は分かりきっている。
 何だろう、こんなにも悲しいのは初めてだ、こんなにも苦しいのは初めてだ、こんなにも怒りが湧いてくるのも初めてだ。初めての感覚に、私は押し潰されかけていた。

「お前、何してんだよ……!」

 振り向く事はない、そんな事したらロンドミゲルの思う壺だからだ。だから背を向けて怒る。怒りをぶつける。

「人のクラスメイト達に何してんだよテメェ!!」

「ふふふ、僕が吸血鬼だって分かったんだとしたらこの場に戻るべきじゃなかった。戻ったとしても皆の前でバラすべきじゃなかったんだよ」

 んな事分かってる。何もかも軽率だった。
 これ以上他の犠牲者を出す訳にはいかない。だけどここに由奈を置いてく訳にもいかない。どうする!?
 今回はどんなに私の血をあげてもヴォルフ一人じゃ勝てない史上最凶の敵。私一人でも絶対に何とかならない。

「りょーちゃんは間違ってないよ。ちゃんと教えたもん、皆が反応出来なかっただけだよ」

「由奈……」

 由奈も眼を開ける事無く震えている。だけど力強く服の裾を握り締めている。悔しいよな、分かるよ。
 そうだ、私だって何もかもが出来ない訳じゃないんだ。ヴォルフだって少しも歯が立たない訳じゃないんだ。

 なら戦える。一人でじゃない、二人でやるんだ。分かるよな? ヴォルフ────。

「はああっ!!」

 飛び散る窓ガラスと共に教室へ突っ込んで来たのはヴォルフだった。ミルフィの言う通り、願ったら来てくれたよ。
 ロンドミゲルをベランダに蹴り飛ばし、直ぐに由奈を抱えて教室から脱出。そのまま体育館へ向かった。

「凌菜ちゃん、何で体育館!?」

「りょーちゃん何するの?」

「これだよこれ! サングラス! 去年の文化祭で使ったのが残ってんだ」

「何やってたの去年」

 眼を見たらダメなゴルゴンの瞳でも、サングラスをかけてそれ越しに見るなら大丈夫らしい。
 丁度四つ・・あったから一人ずつ付ける。決まってるね。
 そうこうしてる内に、悲鳴が学校中に響き渡る。誰かが私のクラスの窓でも見たのか生徒達の変化した姿を見たのかあるいは──さらに石化者が増えたのか。

 一番最後が一番ダメだな、当たり前だけども。
 私と由奈は身体が弱い上に戦う事も出来ないから、せめて身を守るくらいは出来なきゃいけない。という訳で何故かヘルメットを被って竹刀を装備してみる。
 由奈は演劇部の鎧兜に薙刀を装備。何かすげぇな。そして私も由奈も耐久力を上げるって選択肢はなかったのかな。

 ヴォルフも少しだけ前に瓶に入れといた(あげたんだけどね)私の血を補給する。そして常に真の姿へと変身しておく。準備は万端だ。
 だけど流石にこんなとこで戦ったら被害もヤベェしいざという時の逃げ場が殆ど無いので学校の敷地から出る。

「凌菜ちゃん次はどこに行くの!?」

「もう一人役者が揃ってないだろ! 香恋の所に行くんだよ!」

「「僕(私)役者じゃないよ!!」」

「うるせーバカ共」

 香恋は今日は登校してないから自宅だな、ちょっと遠い。急ごう、これ以上犠牲者を出して堪るかよ!!








どうも☆夢愛です!
今回は最後の戦いだと思います、ストーリー上。
そして完結まであと5話程度です!最後までよろしくお願いします!


どこがダメとかの指摘が欲しいです! よろしくお願いします!

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