300年 吸血 鬼ごっこ
第12話 〜覚悟は出来てる〜
急なんだけど、例えば友達が女ってのを隠して男装して過ごしてたりして、他の人達に『あの子普段トイレ行ってるの見たことないんだけど』とか『いつも何処で着替えてるんだろ』とか聞かれたら迷惑? やっぱ迷惑かな? 迷惑だよね。
それとさ、男だ男だ言ってた奴が急に『私実は女だったんです』って言ってきたらどう思う? 『何の為に隠してたんだよ』とか思ったり気分悪くしたりしちゃう? どうかな。
とにかく私はそんなのが嫌で中々決心つかないんだけどさ、私の所為で本気で危なくなったら流石に腹を決めるよ。多分。
ガルドとの対決(?)が終わってそろそろ一週間が経つけど、今までのが嘘だったかのように襲われる事が無くなった。
他の吸血鬼達が私達に気付いていないのか、又は他の聖女の生まれ変わりの血を飲んでしまったのか……。
後者だとしたら、同じ聖女の生まれ変わりとしてかなり悲しいけど、世界は広いもんね。全員が全員逃げ切れる訳じゃない。
私だって助かってるのはヴォルフが味方についてくれてるからだし。
あ、そうそう。ヴォルフと言えば、最近一週間に一回は行っていた鬼ごっこをやろうとしない。
私に遠慮してるのか、聖女の血に興味を失くしたのか──それとも他のことか。
でも血を吸わなきゃ長くは生きてられないんじゃないのかな? 人間がご飯食べるのと同じ様なものでしょ? 違う? そうだよね。
ま、今は授業中だし集中しよ。
「ねえりょーちゃん? ここんとこずっと何か悩んでるみたいだけどどうしたの?」
「え? そうかなぁ」
あまり顔には出してないつもりだったんだけど、やっぱ幼馴染みには隠し通せないかぁ。流石だね。
「何かあるんなら、早めに相談してね? 何でも聞くから」
「その言葉を絶対人には言っちゃダメだからな」
敬礼し元気よく了解した由奈は今日は補習があるからと別のクラスに移動する。
え、凄いな。あんな頭良い奴が補習なんてあるのか。どうしたんだろう。
ふと、辺りを見渡してみる。
何だろう、違和感しか無いんだけどこのクラス。何だろう?
この違和感の正体を確かめるべく、私は他のクラスもこっそりと覗き、最後は職員室の前に設置されている出席名簿を確認した。
「……え?」
私のクラスは全部で34人。てか基本的に30人ちょっとが1クラスとなっている──筈だ。
だけど今日の名簿には『23人』と記入されている。いつもより圧倒的に人数が少ないんだ。
何で? 昨日は全員元気に登校してた筈だし風邪気味の子も居なかった。
その上インフルエンザなどが流行ってるとかの情報も一切聞いていない。
昨日の今日で何があった? 何で今日はこんなに人が居ないんだ? 全クラスから、10人も登校してないのが記されている。
「おかしい、よな」
まず、こんな人数しか来ていない事もおかしいけど、私がおかしいと思ったのはそこじゃなかった。
こんな状況を、誰も話題に出さないし気にしていない事だ。
教師ならこんな一斉サボタージュみたいな事をスルー出来る訳がない。『今日は少ないな』とかもモヨットなら絶対に言う。
でも、言わなかった。何も気づかないようにそのまま授業が開始されたんだ。
そんなの、絶対におかしい。
「おや、どうしたの凌菜ちゃん」
職員室の先にある図書館に入ると、真っ先にヴォルフと出会った。丁度良いとこに来てくれたね。
「良いか? 今日はいつもより各クラス10人以上少ないんだ。しかも誰も何も言わない、おかしいと思わねえか!?」
ヴォルフは思い出すように眉をピクリと動かし、顎に右手を添えた。
「確かに今日はやけに人が少なかったな……その事に誰も気付いていないとなると、色々おかしいね。原因を確かめなきゃ」
「おう!」
やっぱヴォルフは吸血鬼だからかな、この状況に対してもすぐに行動出来てる。頼もしいよ。
だけど先生達に聞いても生徒達に聞いても特に何も情報が得られなかった。
人数が少ない事には気付いてたらしいけど、まるでそれがいつものようにスルーされ続けている。
そうだ、香恋なら何か分かるかも!
「へ? 香恋、今日休んだの!?」
「ああ、詩乃の家からも連絡は無いし、電話しても出ないしなぁ」
「嘘……!?」
香恋が行方不明ってこと!?てかそれだけじゃなくて、香恋の家の人達も誰もいないのか!?どうなってんだ!
教師達がスルーする異変、生徒達が一斉サボタージュする異変、そして香恋が消えた可能性……もう、ただ事じゃないのは解りきっている。
香恋が吸血鬼に殺されちゃったかも知れないって事もあり得なくもない。だとしたら私は……。
「クラス中の人が居なくなったのは、もしかしたら凌菜ちゃんか香恋ちゃんを捜すために漁った結果かも知れない……」
「え!?じゃあ、中途半端に残ってるのは、先に香恋が見つけられたから!?」
「その可能性が高いと思う」
だとしたら香恋はもう……。こんなことって、本当に、これでお別れなのか!?
しかも私の存在に気付いたらもう一度ここに来るかも知れないし、更に犠牲者が増えるかも。
どうしたら……。
ん? 何で匂いが分かるのに香恋だけしか連れてかなかったんだ? 何で私をスルーしたんだ?
それって、もしかして私が男装してるから気付かなかった? 又は別人だと思った?
だとしたら被害者増やしたのは、私──?
「凌菜ちゃん、厳しいようだけど……恐らくその考えで間違いはないと思う。次奴等が来たとしても、またその姿じゃスルーされるか、もしくは殺されるか。そうなる可能性が高めだ」
「そうなったら奴等はいない私を捜して全校生徒を」
「殺すと思う」
ダメだそんなの。でも、今更女なんて言ったって……。
「あれ? りょーちゃんとヴォルフ君? 何で一緒に? りょーちゃん、ヴォルフ君に近付いちゃダメなんじゃなかったの?」
「由奈!」
そうだ、私の事を知ってる由奈の事なら守れるかも。
私が、別肉体を捨てて、女としての姿を晒しても庇ってくれるかも知れない。
由奈だけは絶対に守り抜くんだ!
「────え?」
突然割れた窓、そして明らかに異形な生物に鷲掴みにされ連れて行かれた由奈を、私はすぐに動けず、ただ見送ってしまった。
由奈が、連れてかれた。
「由奈 !!ヴォルフ今のは!?」
「……あれはデビルヴァンパイア、かな。悪魔と、吸血鬼が合わさった者。急ごう凌菜ちゃん! まだ近くにいる筈!」
「う、うん!」
一瞬だった。今までのどの吸血鬼よりも圧倒的に早く、力強く連れ去っていった。
私は由奈が連れてかれてしまったという事実に、恐れてしまった。竦んでしまった。
助けなきゃ。助けなきゃ……!!
ヴォルフが追いかけて行くその後ろ姿は、真っ赤で大きな翼の生えた人間にも見える。
だけど爪は熊のように太く鋭く、ちらりと見えた瞳は私の心に恐怖を植え付ける殺気を放っている。
そして生まれて初めて感じた、死人の気配。
あれは、ヴォルフやガルド達にと別物。本当の悪だ。
そう思った。
暫く追いかけると、廃ビルらしき建物の屋上で降下し気を失った由奈を壁に寄りかからせた。
多分、私達に対抗するんだと思う。
「貴族吸血鬼のヴォルフ……どうした? 何の用だ。俺は今からこの人間の血をいただくんだ。邪魔するな」
ヴォルフのことを知ってる? けど、同じ種族では無さそうだしな。相手の方が強そうだし。
身長はヴォルフの方が高いんだけど、見た感じと雰囲気は相手の方が怖く思える。
ヴォルフと私も同じく廃ビルに降り立ち、そいつと対峙した。
「由奈を返して! 他の子達もお前がやったのか!?」
「お前……そうか、聖女はお前だったか。なら残念だ、コイツを渡すわけにはいかなくなった」
「質問に答えたらどうだ、デビルヴァンパイア」
「その聖女を渡せば答えてやる」
「は!?」
由奈を返すのと他の子達をどうしたか答える代わりに私を渡せ!? こいつ、本当に悪い奴なんだ。
それにやっぱり私に気付いてなかった……だから他の生徒を狙ったのか!
でも、私が血を吸われたらますます大変な事になりそうだし、どうしたら。
「彼女は渡さない。僕が300年前から唾つけてるんでね」
「ならこの女は帰ることないな」
「僕がお前を倒してでも奪うってのはどうだ?」
ヴォルフ! やっぱこいつは良い奴だ。私の事を守るだけじゃなくて、由奈の事も助けようとしてくれてる。
「凌菜ちゃん、ここから逃げて今着てない別肉体を着て」
「え?」
今、私はヴォルフの負担を減らすために別肉体を脱いで女のままの姿でいる。
でも、何で由奈もいるしヴォルフもいるのに逃げなきゃいけないの? しかも別肉体を着ろって、何で? 置いてきたのが学校だから?
私が納得出来ずに戸惑っていると、ヴォルフがそっと耳打ちをしてきた。
「僕じゃきっと、勝てないから」
「!?」
ガルドの時と全然違う、少し怯えてる様にも見えるその顔は優しい表情をしていた。
この顔は、本気の顔だ。つまり相手はマルスよりもガルドよりも強いってこと。
ヴォルフじゃ勝てないってこと──。
「お願い、凌菜ちゃん」
ヴォルフはそう言うと振り返り、相手の吸血鬼に突進していった。
だけどその直後、羽ばたかせた相手の翼の風により吹き飛ばされる。見ての通り、敵は強かった。
ヴォルフは真の姿へと変わり、私にもう一度言い聞かせた。
「逃げて!!」
威圧された様に退いた私の身体は反転し、ビルを駆け下りていく。
本当は二人共を置き去りにして行きたくなかった。だけど言うこと聞かなきゃ、もっと恐ろしい目に遭うんだって解っちゃったんだ。
ヴォルフもあんなに強いのに子供の様な扱いで、それでも必死に戦ってるのに……。
私だけ逃げてそれって、本当に正解なのかな。
学校に戻った私は誰にも気付かれない様に別肉体を着て、屋上からヴォルフ達の戦う廃ビル屋上を見つめる。
お願いだよヴォルフ、負けないで。
「あれ? 司導じゃね? 何やってんのお前こんな所で」
「あ、同じクラスの」
同級生達が私に気付き屋上へ上がって来る。大丈夫かな。
それと、驚いた事に全員が全員消えた生徒達の事を話している。
吸血鬼を見たって人も何人もいる。全員気付いてたんだ。でも馬鹿にされるんじゃないかって、言えなかったらしい。
「あそこ何か凄い煙ー」
「うん、今ヴォルフが……」
「ん?」
ヴォルフの事は、流石にまだ内緒にした方が良いよね。
本人だって学校生活をそこそこ楽しんでるし、ビビられるだけの生活なんて嫌だろうし。
「何でもないよ」
屋上の柵を破り、反対側の柵に激突した何か。
──何かなんて、実は分かっちゃってた。
「あ! え!? 向こうのビルから何か飛んできた! 羽生えてるけど……これ、ヴォルフじゃね!?」
「本当だ! え!?」
ヴォルフが、あいつに吹っ飛ばされて来たんだ。やっぱり今までの吸血鬼達とは格が違う。
こいつがこんなにも簡単にやられちゃうなんて。
ヴォルフの姿についても、向こうから飛んで来る奴についても、それを知る私についても、皆が皆整理つかなくなってる。
そりゃそうだ。つい最近転校して来た男が実は吸血鬼で、それまた吸血鬼と戦って吹っ飛ばされてるんだもん。訳わからないよ。
「聖女は……どこだ」
学校の屋上へ降り立った吸血鬼は、私達を一人一人じっくりと観察する。
それで分かったのが、こいつらの種族は匂いでの区別がつけられないってこと。
だから何も言わなきゃバレないんだろうけど、言わなかったら惨劇が起きる。だから──
「私は、ここだ!」
私は別肉体を脱いだ。
「男装していたのか、それは気付かない訳だ」
「え ︎ 司導お前……」
「こいつは私しか狙わないから! 早く逃げろ!」
そう言い、私は屋上から飛び降りた。
ここから飛び降りるのは生涯二度目だけど、やっぱり足痛くなるね。腰も。
そして全力で走り去って行く。勿論奴も追いかけて来る。
今回はヴォルフも勝てないし、私だって勝てない。だから意味あるのか無いのかイマイチ分からないけど、今私が出来るのは時間を稼ぐ事だけ。
私の弱い肺でどのくらい逃げられるかは分からないけどね。
初めてだな。ヴォルフ以外との鬼ごっこ開始だ。
どうも☆夢愛です!
話ぐちゃぐちゃになっちゃった気がするけど、日本語間違えてなければ何とか大丈夫だと思います! 多分!
もっとバトルシーンとかの表現上手くなりたいな。
では次の更新まで!
2018/10/16
修正致しました。
それとさ、男だ男だ言ってた奴が急に『私実は女だったんです』って言ってきたらどう思う? 『何の為に隠してたんだよ』とか思ったり気分悪くしたりしちゃう? どうかな。
とにかく私はそんなのが嫌で中々決心つかないんだけどさ、私の所為で本気で危なくなったら流石に腹を決めるよ。多分。
ガルドとの対決(?)が終わってそろそろ一週間が経つけど、今までのが嘘だったかのように襲われる事が無くなった。
他の吸血鬼達が私達に気付いていないのか、又は他の聖女の生まれ変わりの血を飲んでしまったのか……。
後者だとしたら、同じ聖女の生まれ変わりとしてかなり悲しいけど、世界は広いもんね。全員が全員逃げ切れる訳じゃない。
私だって助かってるのはヴォルフが味方についてくれてるからだし。
あ、そうそう。ヴォルフと言えば、最近一週間に一回は行っていた鬼ごっこをやろうとしない。
私に遠慮してるのか、聖女の血に興味を失くしたのか──それとも他のことか。
でも血を吸わなきゃ長くは生きてられないんじゃないのかな? 人間がご飯食べるのと同じ様なものでしょ? 違う? そうだよね。
ま、今は授業中だし集中しよ。
「ねえりょーちゃん? ここんとこずっと何か悩んでるみたいだけどどうしたの?」
「え? そうかなぁ」
あまり顔には出してないつもりだったんだけど、やっぱ幼馴染みには隠し通せないかぁ。流石だね。
「何かあるんなら、早めに相談してね? 何でも聞くから」
「その言葉を絶対人には言っちゃダメだからな」
敬礼し元気よく了解した由奈は今日は補習があるからと別のクラスに移動する。
え、凄いな。あんな頭良い奴が補習なんてあるのか。どうしたんだろう。
ふと、辺りを見渡してみる。
何だろう、違和感しか無いんだけどこのクラス。何だろう?
この違和感の正体を確かめるべく、私は他のクラスもこっそりと覗き、最後は職員室の前に設置されている出席名簿を確認した。
「……え?」
私のクラスは全部で34人。てか基本的に30人ちょっとが1クラスとなっている──筈だ。
だけど今日の名簿には『23人』と記入されている。いつもより圧倒的に人数が少ないんだ。
何で? 昨日は全員元気に登校してた筈だし風邪気味の子も居なかった。
その上インフルエンザなどが流行ってるとかの情報も一切聞いていない。
昨日の今日で何があった? 何で今日はこんなに人が居ないんだ? 全クラスから、10人も登校してないのが記されている。
「おかしい、よな」
まず、こんな人数しか来ていない事もおかしいけど、私がおかしいと思ったのはそこじゃなかった。
こんな状況を、誰も話題に出さないし気にしていない事だ。
教師ならこんな一斉サボタージュみたいな事をスルー出来る訳がない。『今日は少ないな』とかもモヨットなら絶対に言う。
でも、言わなかった。何も気づかないようにそのまま授業が開始されたんだ。
そんなの、絶対におかしい。
「おや、どうしたの凌菜ちゃん」
職員室の先にある図書館に入ると、真っ先にヴォルフと出会った。丁度良いとこに来てくれたね。
「良いか? 今日はいつもより各クラス10人以上少ないんだ。しかも誰も何も言わない、おかしいと思わねえか!?」
ヴォルフは思い出すように眉をピクリと動かし、顎に右手を添えた。
「確かに今日はやけに人が少なかったな……その事に誰も気付いていないとなると、色々おかしいね。原因を確かめなきゃ」
「おう!」
やっぱヴォルフは吸血鬼だからかな、この状況に対してもすぐに行動出来てる。頼もしいよ。
だけど先生達に聞いても生徒達に聞いても特に何も情報が得られなかった。
人数が少ない事には気付いてたらしいけど、まるでそれがいつものようにスルーされ続けている。
そうだ、香恋なら何か分かるかも!
「へ? 香恋、今日休んだの!?」
「ああ、詩乃の家からも連絡は無いし、電話しても出ないしなぁ」
「嘘……!?」
香恋が行方不明ってこと!?てかそれだけじゃなくて、香恋の家の人達も誰もいないのか!?どうなってんだ!
教師達がスルーする異変、生徒達が一斉サボタージュする異変、そして香恋が消えた可能性……もう、ただ事じゃないのは解りきっている。
香恋が吸血鬼に殺されちゃったかも知れないって事もあり得なくもない。だとしたら私は……。
「クラス中の人が居なくなったのは、もしかしたら凌菜ちゃんか香恋ちゃんを捜すために漁った結果かも知れない……」
「え!?じゃあ、中途半端に残ってるのは、先に香恋が見つけられたから!?」
「その可能性が高いと思う」
だとしたら香恋はもう……。こんなことって、本当に、これでお別れなのか!?
しかも私の存在に気付いたらもう一度ここに来るかも知れないし、更に犠牲者が増えるかも。
どうしたら……。
ん? 何で匂いが分かるのに香恋だけしか連れてかなかったんだ? 何で私をスルーしたんだ?
それって、もしかして私が男装してるから気付かなかった? 又は別人だと思った?
だとしたら被害者増やしたのは、私──?
「凌菜ちゃん、厳しいようだけど……恐らくその考えで間違いはないと思う。次奴等が来たとしても、またその姿じゃスルーされるか、もしくは殺されるか。そうなる可能性が高めだ」
「そうなったら奴等はいない私を捜して全校生徒を」
「殺すと思う」
ダメだそんなの。でも、今更女なんて言ったって……。
「あれ? りょーちゃんとヴォルフ君? 何で一緒に? りょーちゃん、ヴォルフ君に近付いちゃダメなんじゃなかったの?」
「由奈!」
そうだ、私の事を知ってる由奈の事なら守れるかも。
私が、別肉体を捨てて、女としての姿を晒しても庇ってくれるかも知れない。
由奈だけは絶対に守り抜くんだ!
「────え?」
突然割れた窓、そして明らかに異形な生物に鷲掴みにされ連れて行かれた由奈を、私はすぐに動けず、ただ見送ってしまった。
由奈が、連れてかれた。
「由奈 !!ヴォルフ今のは!?」
「……あれはデビルヴァンパイア、かな。悪魔と、吸血鬼が合わさった者。急ごう凌菜ちゃん! まだ近くにいる筈!」
「う、うん!」
一瞬だった。今までのどの吸血鬼よりも圧倒的に早く、力強く連れ去っていった。
私は由奈が連れてかれてしまったという事実に、恐れてしまった。竦んでしまった。
助けなきゃ。助けなきゃ……!!
ヴォルフが追いかけて行くその後ろ姿は、真っ赤で大きな翼の生えた人間にも見える。
だけど爪は熊のように太く鋭く、ちらりと見えた瞳は私の心に恐怖を植え付ける殺気を放っている。
そして生まれて初めて感じた、死人の気配。
あれは、ヴォルフやガルド達にと別物。本当の悪だ。
そう思った。
暫く追いかけると、廃ビルらしき建物の屋上で降下し気を失った由奈を壁に寄りかからせた。
多分、私達に対抗するんだと思う。
「貴族吸血鬼のヴォルフ……どうした? 何の用だ。俺は今からこの人間の血をいただくんだ。邪魔するな」
ヴォルフのことを知ってる? けど、同じ種族では無さそうだしな。相手の方が強そうだし。
身長はヴォルフの方が高いんだけど、見た感じと雰囲気は相手の方が怖く思える。
ヴォルフと私も同じく廃ビルに降り立ち、そいつと対峙した。
「由奈を返して! 他の子達もお前がやったのか!?」
「お前……そうか、聖女はお前だったか。なら残念だ、コイツを渡すわけにはいかなくなった」
「質問に答えたらどうだ、デビルヴァンパイア」
「その聖女を渡せば答えてやる」
「は!?」
由奈を返すのと他の子達をどうしたか答える代わりに私を渡せ!? こいつ、本当に悪い奴なんだ。
それにやっぱり私に気付いてなかった……だから他の生徒を狙ったのか!
でも、私が血を吸われたらますます大変な事になりそうだし、どうしたら。
「彼女は渡さない。僕が300年前から唾つけてるんでね」
「ならこの女は帰ることないな」
「僕がお前を倒してでも奪うってのはどうだ?」
ヴォルフ! やっぱこいつは良い奴だ。私の事を守るだけじゃなくて、由奈の事も助けようとしてくれてる。
「凌菜ちゃん、ここから逃げて今着てない別肉体を着て」
「え?」
今、私はヴォルフの負担を減らすために別肉体を脱いで女のままの姿でいる。
でも、何で由奈もいるしヴォルフもいるのに逃げなきゃいけないの? しかも別肉体を着ろって、何で? 置いてきたのが学校だから?
私が納得出来ずに戸惑っていると、ヴォルフがそっと耳打ちをしてきた。
「僕じゃきっと、勝てないから」
「!?」
ガルドの時と全然違う、少し怯えてる様にも見えるその顔は優しい表情をしていた。
この顔は、本気の顔だ。つまり相手はマルスよりもガルドよりも強いってこと。
ヴォルフじゃ勝てないってこと──。
「お願い、凌菜ちゃん」
ヴォルフはそう言うと振り返り、相手の吸血鬼に突進していった。
だけどその直後、羽ばたかせた相手の翼の風により吹き飛ばされる。見ての通り、敵は強かった。
ヴォルフは真の姿へと変わり、私にもう一度言い聞かせた。
「逃げて!!」
威圧された様に退いた私の身体は反転し、ビルを駆け下りていく。
本当は二人共を置き去りにして行きたくなかった。だけど言うこと聞かなきゃ、もっと恐ろしい目に遭うんだって解っちゃったんだ。
ヴォルフもあんなに強いのに子供の様な扱いで、それでも必死に戦ってるのに……。
私だけ逃げてそれって、本当に正解なのかな。
学校に戻った私は誰にも気付かれない様に別肉体を着て、屋上からヴォルフ達の戦う廃ビル屋上を見つめる。
お願いだよヴォルフ、負けないで。
「あれ? 司導じゃね? 何やってんのお前こんな所で」
「あ、同じクラスの」
同級生達が私に気付き屋上へ上がって来る。大丈夫かな。
それと、驚いた事に全員が全員消えた生徒達の事を話している。
吸血鬼を見たって人も何人もいる。全員気付いてたんだ。でも馬鹿にされるんじゃないかって、言えなかったらしい。
「あそこ何か凄い煙ー」
「うん、今ヴォルフが……」
「ん?」
ヴォルフの事は、流石にまだ内緒にした方が良いよね。
本人だって学校生活をそこそこ楽しんでるし、ビビられるだけの生活なんて嫌だろうし。
「何でもないよ」
屋上の柵を破り、反対側の柵に激突した何か。
──何かなんて、実は分かっちゃってた。
「あ! え!? 向こうのビルから何か飛んできた! 羽生えてるけど……これ、ヴォルフじゃね!?」
「本当だ! え!?」
ヴォルフが、あいつに吹っ飛ばされて来たんだ。やっぱり今までの吸血鬼達とは格が違う。
こいつがこんなにも簡単にやられちゃうなんて。
ヴォルフの姿についても、向こうから飛んで来る奴についても、それを知る私についても、皆が皆整理つかなくなってる。
そりゃそうだ。つい最近転校して来た男が実は吸血鬼で、それまた吸血鬼と戦って吹っ飛ばされてるんだもん。訳わからないよ。
「聖女は……どこだ」
学校の屋上へ降り立った吸血鬼は、私達を一人一人じっくりと観察する。
それで分かったのが、こいつらの種族は匂いでの区別がつけられないってこと。
だから何も言わなきゃバレないんだろうけど、言わなかったら惨劇が起きる。だから──
「私は、ここだ!」
私は別肉体を脱いだ。
「男装していたのか、それは気付かない訳だ」
「え ︎ 司導お前……」
「こいつは私しか狙わないから! 早く逃げろ!」
そう言い、私は屋上から飛び降りた。
ここから飛び降りるのは生涯二度目だけど、やっぱり足痛くなるね。腰も。
そして全力で走り去って行く。勿論奴も追いかけて来る。
今回はヴォルフも勝てないし、私だって勝てない。だから意味あるのか無いのかイマイチ分からないけど、今私が出来るのは時間を稼ぐ事だけ。
私の弱い肺でどのくらい逃げられるかは分からないけどね。
初めてだな。ヴォルフ以外との鬼ごっこ開始だ。
どうも☆夢愛です!
話ぐちゃぐちゃになっちゃった気がするけど、日本語間違えてなければ何とか大丈夫だと思います! 多分!
もっとバトルシーンとかの表現上手くなりたいな。
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