夢日記

日々谷紺

干からびた死体が寝ている

 夜、父と車を走らせて実家に向かっている。
 家の近くを走っていると、窓の外に女の子二人組が「どうしよう、こんな状況なんて…」「とにかく警察に…」となにやら動揺している。よく見ると、彼女らの足元に干からびた二体の死体が寝ている。
 大変だな、といかにも他人ごとのように考えながら車を走らせると、家の前に死体のあるところと、無いところとが不規則に続いている。まさか自分の家は大丈夫だろうなと心配しながら実家にたどり着く。

 案の定、家の前に死体が寝ている。
 見開かれた左目と特徴的な黒子だけが生前のままの姿で、他全身は干からびているその死体は、紛れもなくうちの母だ。道中、「例え死体があるにせよ他人だろう」などと考えていたため、死体があることには驚かなかったが、それが母だったために酷く動揺しはじめる。
 父に「警察呼ばなきゃ…」と声をかけて振り向くと、先ほどの女の子二人組も動揺し過ぎてか恐る恐るこちらへ近づいてきていて、私は安心させるために「うちの前にも死体ありました。干からびています」と声をかけた。同じ状況に置かれた人を見て安心する心理みたいなものを想定してそう言ったのだが、二人組は更に動揺しながら向こうへ走っていった。
 父はウロウロと母の周りを回って冷静に状況を確認しているかと思えば、突然走って隣の空き地の真ん中に寝ている別の死体の近くまでいって、明らかに干からびた手首に手を当てて脈拍をとったりしている。どうみても一番動揺している。

 私が「とにかく警察に連絡して!」と叫ぶと父は自分の服のあらゆるポケットというポケットをパンパンと叩く動作をして携帯を探すが無かったらしく、車まで走っていった。父より先に私が…と携帯を取り出していると、車から父が電話しながら出てくる。
「○○(地名)で運搬業務を営んでいる○○です」「事件?事故?事故?事件です」「同時多発的です、いやほんとに同時かは分かりませんけども」「先程家へ帰宅しますと家の前の、歩道と駐車スペースの境目に、この境目が白とアスファルトのグレーで材質が見た目できっぱり分かれているのが私は昔から気に入らなかったのですが」
 どう考えても無駄な情報ばかりぺらぺらと喋るうちに電話を切られてしまった。
「何やってんの!私が説明するからもう一回かけて!」
といってかけ直してもらい、電話を受け取る。携帯の画面には『110110110110』と無駄に多くの数字が並んでいたが問題なく通じていた。
 優しげなお姉さんの声が聞こえて「こちら警察です、質問いたしますのでお答えください」と言われる。警察の電話には聞かれたとおりに答えていく、という観念があって言われたとおりに従う。
「守備、覚悟、準備はよろしいですか?」
「…あの、はい…」
「家出して戻られない猫の件ですがこちら…」
「…あの、何の話でしょう…」
「先日お電話いただいた○○様では…」
「いえ、○○(地名)の○○と申します。」
「ああ、違う○○様でしたか。」
「今、帰宅しましたら、家の前にカラカラに干からびた死体がありまして…」
電話の女性は酷く驚いていた。

 電話している間に既に警察が来ていた。父の電話を不審に思ったかあるいはあの女の子二人組が電話したのか。
「死体の件で先程父が電話していたのですが要領を得てないかと思いまして改めてお電話差し上げたのですが…既に警察の方々が来てくださったようです。ありがとうございます」
 電話を切ろうとすると女性に、死体はどんな状況か、周りに他に何かあるか、などと聞かれる。仕事ではなく、興味で聞いてきているみたいだった。

 私はそのまま電話しつつ家に入る。家の中はお通夜会場のようになっていた。喪主の父が玄関で「わっ!」と突然大声を出して来る人を脅かしたりしていて明らかにふざけている。
「死体の他には何も…メッセージのようなものもありませんでした。」
私は電話に答えている。
「今、事件状況を紙にまとめていたのですが同僚が意味が分からないと言っていました」
「そうですよね…カラカラの死体が家の前にあった、なんて…。しかもその死体、私の母親だったんです。」
動揺したように突然電話が切れた。

「思いがけず長電話しちゃったよ…」といいながら長テーブルの席に着く。席には兄と、姉と妹がいる。テーブルの上に、大きな寿司桶にはいった野菜鍋のような食べ物が人数分並んでいた。具材のおかげか赤みがかってとてもきれいだった。刻んだ椎茸だけ別の器に入っていて、「料理の色が濁っちゃうから後から入れるんだって」と姉が説明した。
 後から父がやってきて、座る場所が無いため場所を詰めて移動する。その際、兄がふざけてわざとぶつかってきたりするので「やめてんぐ~」と和気あいあいとふざけあっていて非常に楽しい雰囲気だった。


登場した私の家族は全員見たことのない他人の上、姉や妹など現実には存在もしないが、夢の中ではみんな家族だと認識していた。悪夢なのに一部一部がギャグマンガのようで恐怖心が薄く、むしろ楽しくて、目覚めてから徐々に気味の悪い死体の有様(干からびると縮むためか、左目と黒子の生前部位だけがやたらに大きく、リアリティのなさが余計気持ち悪い)や、楽しげだったことに恐怖していくような嫌な夢。母だけが本当の母で、これをネタとして書き留めている行為が怖い。 



20161226

コメント

コメントを書く

「エッセイ」の人気作品

書籍化作品