プロローグ〜音を奏でる暗殺者〜

とある日の夜、美しい音色がどこからか聞こえてきた
そしてそれを“奏でる者”が静かな闇の中にいた。
首には黒布が巻かれ、風が吹く度それが靡く。
その者は何かを誘っているかのよう静かに音が鳴り響く。


どこを探しても音の出どころが分からず、完璧な音を奏で続ける。それが分かるのは音感の持ち主か裏の同業者だけであろう。


しばらくして、“奏でる者”は音楽を辞め、立ち上がり短刀を抜いた。視線の先はターゲットだけかと思えば突然空気が歪み1人の男が出てくる。その男も自分と同じような黒い格好をしている。一つ違うところは得物と眼帯を付けていることだけだろう。


「.........同業者か。お前はこいつを守るために来たのか？お前のようなやつが殺りに来たのか？」
 
「こいつを殺しに来たが邪魔するならお前も....殺す」

男の質問に簡潔に答える
元々、真面目に返答するつもりなど毛頭ない。
自分の殺意をぶつける。
その殺気に男は体を震わせた。 
男も裏ではかなり腕の立つ奴だ。 
そして同時にその殺意には覚えがあった。
気配を消せば見つけるものはいなく、そして本来使うことない音を使い敵をいとも簡単に始末する世界最強の暗殺者の名を............。


「そうかそうか。マジかよ、あの“闇の奏者”と依頼が被っちまうとは......。」


と男は嫌そうに呟きため息をつく。
一応戦闘態勢は取っていたが頭の中はどう逃げようか考えていた。
大柄でもなく小柄でもない至って普通の奴が出す圧倒的な殺意に、冷や汗が止まらない。
そして奏でる者はそんな男を気にもせずただターゲットから目を離さず、一太刀。

「............？！」 

何をされたかも分からないまま自分の血が流れているさまを呆然と見る男。そして一言も話すことなく息絶えた。
奏でる者は短刀に着いた血を男の服で拭うと、ターゲットへと視線を移す。


「..................。」


短刀を持っている手が震えている。
反対の手を使いその震えを抑える｡
そして気配を消し静かに男の背後に行く。
ターゲットの背後にたった瞬間短刀を構える。


少しだけ躊躇ってしまったが、その者短刀を後ろから首筋に突きつけた。
とても美しい朱色がその者を汚す。
それは雨のようだがそれを避けもせず悠然と浴び続ける。
その血の雨がやんだ頃には“奏でる者”いや、“闇の奏者”はいなくなっていた。