発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

58話

「……ん……イッチャン!始まったよ!」
「そうか……準備いいな?」
「もちろん!」
「いつでもいいよ!」

 上空を飛んでいるサリスが、中の様子を伝えてくれる……こういう時、空を飛べるのは便利だな。
 昼前の『森精国』前―――いよいよ、作戦決行の日だ。

「それじゃ……合図を出すぞ」
「うん!」
「ふー……なんか緊張してきちゃった」
「『形態変化』、『漆式 信号銃フレアガン』」

 試合前の選手みたいな事を言うサリスを無視して、上空に信号弾を放つ。
 『パシュゥゥゥ……』と、白い煙弾が上空に吸い込まれて行った―――次の瞬間。

『ドッ―――ゴォオオオオオオオンンッッ!!』

 あり得ないような轟音が、辺りに響き渡った。

「……よし、行くぞ」

 無言で頷く2人を引き連れ、『森精国』の門に突っ込む。

「―――止まれ!貴様、何者―――」
「『クイック』ッ!」
「んな―――」
「ストレアちゃん!掴まって!」
「うん!」

 『森精国』を囲っている壁―――それを一気に飛び越え、中に入る。
 ストレアはどうするか考えたが、サリスが持ち上げると言うので頼んでおいた。

「サリス!どの辺だ?!」
「王宮!王宮の中!人が入場を始めたから、もうすぐ始まると思うよ!」
「わかった!」

 町の中を駆け―――俺の真上を、サリスとストレアが飛ぶ。
 サリスの翼ってスゴいな……俺の『クイック』と同じ速さが出るのか。

「……予想通りだな」
「そうだね、警備兵はランゼとウィズのおかげで、僕たちに構ってる暇は無さそうだね」
「これがいつまで持つか……時間を掛けすぎたら、ランゼたちも無事じゃ済まない……」
「弱気だねイッチャン!らしくないね!」
「……はっ、早くシャルを助けてランゼたちの所に行く。いいな!」
「うんうん。イッチャンはそうじゃないとね!」

―――――――――――――――――――――――――

「……何の音だ……?」
「エスカノール様?」
「ああいや、なんでもないよ」

 大広間への扉……その前に、私とエスカノールは立っていた。
 ……いよいよ、結婚式が始まる。

「シャルロットちゃん」
「はい?」
「幸せかい?」
「……はい、とても」

 エスカノールと腕を組み、扉を開ける。
 ……参列者の中に、私の知ってる人はいない。

 ……ああ……よかった。
 イツキさんが来なくて、よかった。
 もしここに来ていたら……私は、もしかしたら助けを求めていたかも知れない。

「……行こうか」
「はい」

 赤い絨毯を歩き、神父の前に立つ。

「……エスカノール様、あなたはこの女性を健康な時も、病の時も、富める時も、貧しい時も、良い時も、悪い時も、愛し合い、敬い、なぐさめ、助けて、変わることなく愛することを、誓いますか?」
「……はい、誓います」

 ……ああ……もう、終わり。
 私がみんなと過ごした日々は……もう、訪れる事はない。

「シャルロット様、あなたはこの男性を健康な時も、病の時も、富める時も、貧しい時も、良い時も、悪い時も、愛し合い、敬い、なぐさめ、助けて、変わることなく愛することを、誓いますか?」

 ……嫌だ。
 嫌……だけど。
 ―――私が犠牲になれば、済む話。

「………………は―――」
「―――『フィスト』ぉおおおおおおぉおおおおおおぉおおおおおおおおおおッッ!!」

 凄まじい轟音と共に、天井が崩れ落ちた。
 粉塵が舞い、瓦礫が落ち……そこに立っていたのは―――

「うひょー……間一髪?」
「イッチャンはバカなの?!こんなのムチャクチャ過ぎない?!」
「し、死ぬかと思ったぁ……!」

 黒い死神のような少女が立っていた。
 『鬼族』の少女が立っていた。
 そして―――黒髪の青年が立っていた。

―――――――――――――――――――――――――

「さてさて……よおシャル。お前の言う通り、来てやったぞ?」

 服に付いた砂ぼこりを払いながら、挑発的な笑みを見せる。

「イ、ツキ……さん……」
「なんだよおい―――すげぇ顔してんな」
「え、あ……?」

 シャルの顔―――酷い顔だ。
 悲しみ。疲労。不幸せ。不満。哀情……負の感情しかない。

「お、前は……!あの時の……!」
「よー久しぶりだなクソエルフ……そこの花嫁、さらいに来たぜ」
「―――『襲い掛かる怒りの突風シルフ・インパクト』ッ!」
「避けろッ!」

 迫る豪風を、散開して回避。
 そのまま『森精王子』との距離を詰め―――

「『クイック』ッ!」
「『第三重ドライ・反射リフレクト・結界ゾーン』ッ!」
「チッ―――『フィスト』ッ!」

 赤い結界を粉々に粉砕し、その先にいたシャルの手を握る。

「うっし……!ストレア、サリス!逃げ―――」
「離してっ!」
「……ああ?」

 手を振り払い、シャルが俺を睨む。

「……なんだよおい、逃げるぞ?」
「なん、で……なんで……なんで来たんですか?!」
「は?お前が手紙に書いたんだろ?」
「そんなの……知らない!手紙には何も書いてない!勝手に思い込んでるだけです!」

 激昂するシャルが……俺に掌を向ける。

「……なんの真似だ」
「近づかないでください!それ以上近づけば……魔法、撃ちます!」
「シャルロットちゃん!そいつをそのまま―――」

 掌を向けるシャルに向かって、1歩近づく。

「―――っ!ち、近づかないで!」
「……撃てよ」
「え……」
「撃てよほら、早く」

 両腕を開きながら、距離を詰める。
 ……シャルの眼は、本気だ。
 だけど―――

「―――ら、『ライトニング』っ!」

 シャルの手から放たれる雷が、一直線に迫り―――

「うっ―――がぁああああああああッ?!」

 ―――激痛。
 身体中を、あり得ないような激痛が走る。

 チカチカする。
 体が焼ける。
 脳が溶ける―――

「はっ……はあっ!効か、ねえなぁ!」
「なんで……なんで、避けないんですか……」
「なんだよ……当てるつもりで撃ったんだろうが。だから当たるんだよ」

 ……今ので、理解したはずだ。
 俺はシャルの攻撃を避けない、と。
 となると、優しいシャルはどうなるか?

「ほら……もう1発撃ってみろよ」
「い、嫌……逃げてくださいよ……なんで……助けに来たんですか……」

 いやいやと首を横に振るシャルが、少しずつ後ずさる。
 それに合わせて1発近づき、シャルの手を掴む。

「シャルロットちゃん―――」
「おっとそれ以上近づくなよクソエルフ……シャルが心配なら、な」
「く、く……!」
「「うわぁ、最低……」」

 ストレアとサリスが、若干引いたような声を出す。
 聞こえてないフリをして、ポケットの中に入っているを手に握る。

「……なあシャル」
「離して……離して!」
「お前……本当に結婚したいのか?」
「当たり前です―――」
審議ジャッジ―――ライ

 ポケットの中から、機械声が聞こえる。

「……イツキさん……今のは―――」
「おっと悪い。入ってたみたいだ……ま、気にせず話そうぜ?」

 『にたぁ』と、口元が歪むのを止められない。

「なあ……お前、本当に『森精王子』が好きなの?」
「好きに決まってます!」
審議ジャッジ―――ライ
「えっ……」

 『森精王子』の表情が固まる。

「―――はははっ!見たかよサリス、今の顔!」
「早くしてよイッチャン!そろそろ警備兵が来るから!」
「おっと悪い、じゃあ続きだ……お前の好きな人はだーれだ?」
「そん、なの……エスカノール様に決まってます!」
審議ジャッジ―――ライ

 再び、『森精王子』が固まる。

「さて、次は―――」
「もう、やめてくださいよ!」

 涙目になるシャルが、泣き叫ぶ。

「私は!自分の意思でここにいるんです!もう関わらないでください!もう放っておいて―――っ?!」

 『パンッ!』と、乾いた音が響く。

「イッチャン?!」
「イツキ?!」
「お前……シャルロットちゃんに……!」

 片側が赤く染まった頬……シャルが頬を押さえ、呆然と俺を見上げる。
 叩いたのだ。俺が、シャルの頬を。

「……いい加減にせんか」
「え……?」
「いい加減に、せんかぁあああ?!」

 シャルの胸ぐらを掴み、引き寄せる。

「さっきから聞いとったらなんば言いよっとか?!『魔道具』が『嘘』って言いよろーもん!『魔道具』が無いと自分の気持ちも話せんとか?!よー考えんか!俺も!ストレアも!サリスも!ランゼも!ウィズも!マーリンも!フォルテも!お前の味方なんぞ?!お前は1人ちゃうんぞ?!何にビビっとるんか?!ああ?!」

 ……辺りが、一気に静かになる。

「……何、今の?」
「……なんて言ったの?」

 思わず、地元の方言が出てしまった。

「……もう一回だけ聞くけん、正直に答えろ」
「イツキ、さん……」
「……お前の好きな人は、誰や?」

 手を放し、シャルを下ろして問いかける。

「……好き……イツキさんが、好き……です……!」
審議ジャッジ―――真実トゥルー

 ……聞こえた……ああ、確かに聞こえた。
 シャルの、本当の声が。

「チッ……方言出ちまったじゃねえか……」
「お前……シャルロットちゃんから、離れろ!」
「あー?聞いてなかったのか?こいつは、俺が好きなんだよ。横から入ってくんな脇役が!」

 『冥刀みょうとう』を右手に、『魔導銃』を左手に構え、『森精王子』と向かい合う。

「この……!お前の行動は『森精国』に対する敵対行動だぞ?!」
「ああ……?何言ってやがる?」

 切っ先を向け、宣言した。

「俺は……こいつを取り返すためなら、国1つなんて簡単に敵に回すぞ?」
『―――よく言った』

 鐘のような美しい音―――いや、声が聞こえた。
 それを認識すると同時、『冥刀』が変化を始める。

 黒く禍々しい刀身は、白く美しい刀身に。
 黒く汚れていた鍔は、桜の花弁の形に。

 そして…は現れた。
 俺を見守るようにして、は俺の背後に立っていた。

 孔雀くじゃくのように綺麗な翼、見る者の心を浄化するように澄んだ瞳。

『おい……おいおいおいおい!マジかよあいつ……!』
「シルフ、あれは……?!」
『見間違えるはずがねぇ……あれは―――』

 まさか、こいつは―――

『『光神の精霊 エレメンタル』……!』

コメント

  • シャドウ

    これからどうなるのか楽しみにです!!

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