発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

57話

「変な剣術ね……頭と手と胴体しか狙わないなんて」
「あー?本当は突きもあるんだけど、俺はヘタクソだったからな」
「そんな事聞きたいんじゃないのよ!」

 翌日の早朝―――俺とマーリンは再び手合わせをしていた。

「にしても……お前、本当に強いな」
「まあ、『騎士国』一番の騎士だったからね!」
「……それで魔法が使えたらな」
「うっ……痛い所を突くわね」

 そう、マーリンは魔法が使えない。
 かなり珍しいらしいが『魔法適性』が無いらしいのだ。

「ほら、続きするわよ!構えなさい!」
「へいへいっと……」

 刀を中段に構える―――それと同時、マーリンが鋭く踏み込んだ。
 凄まじい勢いで放たれる突きを刀身で受け流し―――そこから切り返して、胴体を狙う。

「―――ふっ!」
「チッ……!おらあッ!」

 剣道の実力……それだけじゃ、マーリンと互角に戦う事なんてできなかっただろう。
 『身体能力の底上げ』―――ヘルアーシャのおかげで戦えている。

 『魔導銃』も『冥刀みょうとう』も『無限魔力』も……何から何まで、貰い物で強くなった気になっていた。
 それでもいい。貰い物でもいい。
 シャルを助けるなら―――貰い物でも拾い物でも、何でも使う!

「速いねー……イツキって剣も使えたんだね」
「うん……あんなに強いのに、なんで今まで使わなかったんだろ」

 遠くで話しているはずのストレアとサリスの声が、ハッキリと聞こえる。

 ああ……自分でもわかる。
 集中してる。感覚が冴え渡っている。
 普段気にならない音が、耳に飛び込んでくる。
 俺の刀とマーリンの剣がぶつかり合う音が、何故か心地良い。

 眼もだ。
 普段は気にも留めないような動きが、異様に存在感を主張している。
 草の動き。葉っぱの動き。マーリンの銀髪の動き。そして―――マーリンの動き。筋肉の動き。剣の動き。

「……ねえ、なんかイツキ……」
「うん。スゴく楽しそうだね」

 ああ……楽しい。
 フワフワする。体が軽い。

「ふぅ―――!」
「ふっ!しっ!」

 後方に飛ぶマーリン―――間髪入れずに後を追い、刀を振る。
 横薙ぎに迫る刀に対し、マーリンは剣を合わせる事で相殺。
 瞬間、一気に距離を詰め、飛び蹴りを―――

「―――甘いわ!」
「くそッ……!」
「ご主人様ー♪昼食の用意ができましたー♪」

 ふと、甘ったるい声が聞こえた。
 動きを止め、背後を振り返る。

 ……楽しそうに手を振るフォルテを見て、俺とマーリンは顔を見合わせた。

「……休憩するか」
「そうね……はー、久しぶりに熱くなっちゃった」

―――――――――――――――――――――――――

「……で、なんで付いてきたんだ?」
「暇でしたので♪」
「……お前もか?」
「ううん。イツキが外に行ってたから、また黙ってどこかに行くのかなーって思って」

 昼食を終え、国外の平原に来た。
 まあ……なんでストレアとフォルテが付いてきたのかは謎だが。

「別に付いてくるのはいいけどさ、怪我しないように離れろよ?」
「怪我……ですの?」
「ああ、ちょっと色々試すからな」

 そう言って、俺は『魔導銃』を抜いた。

「よし……『形態変化』、『陸式 火炎放射器フレイムスロー』」

 純白の銃が光に包まれ―――真っ赤な銃身の火炎放射器へと変化する。

「……重いな」
「ねえ、それどうやって使うの?」
「ん……こうやって」

 引き金に指を掛け、一気に引く―――

「おお……!スゴい!『炎魔法』が出せるの?!」
「『炎魔法』じゃねえけど……ま、そんな感じと思っときゃいい」

 威力的には申し分ないな。

「次だ……『形態変化』、『漆式 信号銃フレアガン』」

 手の中の火炎放射器が小さくなり―――拳銃のような物に変化する。

「んー……こう使うのか?」

 上空に銃口を向け、引き金を引く―――

「……んお、こりゃいいや」

 『パシュゥゥゥ……』と、白い煙弾が空に吸い込まれていく。

「よしよし……『形態変化』、『捌式 光線銃レーザーガン』」

 信号銃が形を変え―――片手銃そっくりになる。

「……光線銃か……」
「ねえ、それはどうやって使うの?」
「こうやって」

 近くの木に狙いを定め、引き金を引く。

「……え?」
「すげぇ……一瞬で貫通しやがった……」

 『ピュン』と高い音を立て、光線が木を貫通した。
 ……光線は小さいが、貫通能力に長けているな。

「最後だ……『形態変化』、『玖式 対装甲車両破壊弾ロケットランチャー』」

 掌の光線銃が巨大化し―――大きなロケットランチャーへと変貌。

「ご主人様?それは?」
「待て、それ以上近づくな。危ないから」
「え?わ、わかりましたわ」

 遠くに狙いを定め、発射。
 『ドウンッ!』という音と共に、弾丸が放たれ―――

―――――――――――――――――――――――――

「何したの?」

 俺の部屋の中……6人の少女に囲まれ、その中央で正座をさせられていた。
 ……いや、ストレアとフォルテはこっち側じゃね?なんで俺1人が悪いってなってんの?

「……何もしてない」
「何もしてないのに平原が爆発するわけないでしょ?!」

 ロケットランチャーで平原を焼け野原に変えたのをギルドの職員が気づき―――危険な行為をおこなったとされ、ギルドで厳重注意を受けた。
 それを聞いたランゼが、現在怒っているのだ。

「……まあ、あれだ。過ぎた事を気にしても仕方ねえよ」
「主犯が何言ってんのよ!よく考えなさいよ?!もしこれで『1週間、国外へ行く事を禁止する』とかになったら、『森精国』に行けなかったのよ?!」

 おっと、それは困る。

「あのリオンって娘がいなかったら、どうなってたか……」

 左足のレッグホルスターに触れ、先ほどの光景を思い出す。
 ……凄まじい威力だった……『破滅魔法』ほどの威力は無いけど。
 だが、『破滅魔法』は1日1発。対する『玖式』は無限に撃つ事ができる。

「……『森精王子』……ぶっ殺してやる」
「それはやめて。戦争になるから」
「さすがに冗談だっての…………………………たぶん」
「たぶんって言ったわね?たぶんって言ったわよね?」

 胸ぐらを掴もうとするランゼ―――掴まれる前に立ち上がり、机の紙を広げる。

「今日の夜、ここを出発する……その前に、作戦の確認をするぞ」

 全員が頷くのを確認し、続ける。

「ランゼとウィズは、俺が合図を出したら警備兵の気を引く……いいな」
「ええ、任せなさい」
「うむ、任された」

 頼もしい返事を聞き、今度はストレアとサリスを見る。

「ストレアとサリスは、俺に付いてきてくれ」
「うん!わかった!」
「シャルちゃんの事、絶対に助けようね」

 元気に返事をするストレアと、静かに闘志を燃やすサリス……2人から視線を外し、銀髪騎士とマーメイドに視線を向ける。

「マーリンはランゼに付く……ランゼは『破滅魔法』を撃ったら一般人以下になるから、しっかり守ってやってくれ」
「任せて……人を守るのが騎士の役目。しっかり守ってみせるわ」
「期待しとく……フォルテはウィズと一緒に行動だ。木々が燃えすぎたら消火してくれ」
「はい♪……しかし、消火の判断は、ワタクシがして良いのですわよね?」
「ああ……お前が消さなきゃいけない、と思えば消火してくれ」
「さすがご主人様♪ワタクシの気持ちをよくわかってますわ♪」

 フォルテは……なぜか『森精族』の事を嫌っている。
 こいつの気持ちを考えると……消火する事は無さそうだ。

「ああ……あと、もう1つ」

 俺の声に、全員の視線が再び集中する。

「全て上手く進んで、無事にシャルを連れて帰ってこれたら……お前らに、話さなきゃいけない事がある」
「……話さなきゃ、いけない事?」
「お前らに隠してきた、俺の事だ」

 こいつらになら、話してもいいだろう。
 俺がどこから来たのか。何者なのか……全て、隠す事なく話す。
 
 ―――シャルの結婚式まで、残り3日。

―――――――――――――――――――――――――

「ふうっ……こんな感じかな」
『いやー、この辺にドラゴンが出るとか珍しいな』

 動かなくなったドラゴンの前に、幼い少年が立っていた。

「どうシャルロットちゃん?なかなか迫力あったでしょ?」
「……はい、素晴らしかったです」

 ……なんという、破壊力。
 あのドラゴンを……一撃で葬るなんて。

「出力的には、まだ4割くらいだけど……ドラゴンなら、この程度で充分だね」
「4割……ですか?」
「うん……本気を出したら、この辺全てが吹き飛んじゃうからね」
『ま、俺なら当然だよな』

 唖然とした。
 ……これが、4割?
 ドラゴンだけじゃなく、辺りの木々まで吹き飛ばす威力が、4割?

「どうかな……カッコよかったかな?」
「はい!カッコよかったです!」

 ……後悔した。
 手紙のメッセージ……あれに本音を隠した事を、後悔した。

 『三大精霊』のシルフ。
 『森精王子』のエスカノール。
 シルフが最強の矛となり、エスカノールが最強の盾となる……なんて、理想的な組み合わせなのか。

 ……勝てない。
 いくらイツキさんでも、この組み合わせには勝てない。
 偽物の笑みをエスカノールに向けたまま、心の底から思った。

 助けに、来ないで。
 助けに来たら、殺されてしまう。
 私が犠牲になれば済む話……だから―――





























 ―――助けに、来ないで。

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