発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

52話

「……またワタクシの勝ちですわね♪」
「ずぁああああぁあああああああッ!ムッカつくなぁああッ!」

 並べられたトランプを見て、絶叫を上げる。

「ちょっと、ストレアとマーリンが寝てるんだし、もう少し静かに―――」
「うるせえ!おらもう1回だ!もう1回勝負しろフォルテ!」

 御者台から聞こえるランゼの声を掻き消し、フォルテにトランプを投げつける。

「ふふふ♪もちろん良いですわよ♪」

 揺れる馬車の中、フォルテが再びシャッフルを始めた。

 ……『水鱗国』の一騒動が終わり、『人国』に帰る事になった。
 今回だけで『山羊座』『双子座』『牡牛座』が討伐され、合計5人の『ゾディアック』が討伐された事になる。

 だが……今回の件で、『ゾディアック』は『七つの大罪』を本気で殺しに来てる事がわかった。
 今までは『魚座』『天秤座』と、1人ずつだったが……今回は一気に3人攻めて来た。
 もしランゼやウィズが『七つの大罪』だとわかれば……『人国』に『ゾディアック』が攻めてくる事も―――待てよ?
 フォルテは『七つの大罪』ではないが……『ゾディアック』のやつらは、フォルテの事を『七つの大罪』だと思っている。
 って事は―――

「それでは、次は何をしましょうか♪」
「なあ。お前を連れて帰ったら『ゾディアック』が一気に『人国』に攻めてくる、とかならないよな?」
「……えっと、聞きたい事がわからないのですけれど?」
「……いや、やっぱり何でもない」

 ……さすがに『水鱗国』の女王が『人国』にいるとは考えないだろうし、大丈夫か?

「さあ、はじめますわよ♪」
「ん、ああ」

 トランプを受け取り―――ふと、いつもは一番うるさいやつが静かな事に気づく。

「……シャル?」
「……………」
「おい?……おい!」
「…………え、あ、はい?どうしました?」

 何っだこいつ、ボーっとして。

「……なんかあったのか?」
「いえ!イツキさんが気にするような事は何も無いですよ!」

 ……いや、俺じゃなくてもわかると思うけど……嘘だよな?

「……まあ、お前がそう言うんなら言及しないけど……なんかあれば相談しろよ?」
「はい!もちろんです!」

 にこりと笑みを向けるシャル。
 ……まあ……こいつの事だ。何かあれば相談するだろう。

「っし……!じゃあもう一勝負するか!」
「なあ、我も参加したいのだが?」
「あ、うちも!」
「もちろんです♪みんなでやりましょう♪」

 トランプを配り直すフォルテが、心底楽しそうに笑った。

―――――――――――――――――――――――――

「ただいまーっと」

 やっと帰ってこれた……ベッドが恋しい。飛び込みたい。

「うわ……ほんとに屋敷持ってたのね」
「んだよそりゃ。俺が嘘言ってるとでも思ってたのか?」
「それは……まあ……多少は―――痛だだだだだッ?!」

 マーリンの頭を掴み、力を込める。
 こいつ本当に俺の事を信じないよな。

「ああ……なんて痛そうな……♪」
「お前にもしてやろうか?」
「はい!ぜひ―――痛ぁああああああああ♪」

 痛そうに嬉しそうに絶叫を上げる。
 ダメだ。こいつは筋金入りのドMだわ。

「……なんか……『水鱗国』の国民が可哀想だな」
「なっ、なんでですの?!」
「いや……こんな変態を慕ってたなんて……」
「こんな、変態っ……♪」

 頭を掴まれたまま、恍惚とした表情を見せる。
 なんなんだコイツは。俺の手に負えねぇぞ。

「イツキさん」
「んあ?」
「私……ちょっとお父様の所に行ってきます」
「……ん、わかった」

 険しい表情のまま、シャルが屋敷を出ていく。

「シャルちゃん、どうしたんだろうね?」
「……さあな」

―――――――――――――――――――――――――

 シャルがいなくなって、1日目。

「ふ……う、朝か」

 頭を振り、ベッドから体を起こす。
 ……昨日、グローリアスさんの所へ行ったシャルは……帰って来なかった。

「……ま、父親が恋しくなっただけかもしれねぇし、気にすることもないか」

 言いながら、室内を見回し―――

「んんっ……♪ご主人様ぁ……♪」

 うねうねと動く、おぞましい何かが床にいた。

「……………」
「ああ……♪そのゴミを見るような視線……♪ワタクシ、大満足ですわぁ……♪」
「お前それ……どうやったんだ?」
「慣れれば誰にでもできますわよ♪」

 自身の体を縄で縛り付けた変態が、床に転がっている。

「興奮、しませんの?」
「するかアホ。縛られた人魚とかむしろえる―――」
審議ジャッジ―――ライ

 ……おい。

「興奮はする、と……♪隠さなくて良いんですのよ?ご主人様がどんな趣味をお持ちでも、ワタクシは応えてみせます―――」
「何持って来てんだよ!」

 この音は……フォルテが使っていた『審判の音石』だ。

「ったく……おら、部屋から出ろ」
「……縄で縛られて身動きが……」
「お前ってやっぱりバカだよな?」
「はぁぁぁ……♪バカ……バカぁぁぁ……♪」

 ダメだ。やっぱり手に負えねぇわ。

―――――――――――――――――――――――――

 シャルがいなくなって、2日目。

「いらっしゃいま―――あ、イツキさん!」
「えっと……悪い。名前が出てこねぇ」
「酷い?!リオンですよ!」

 ああそうだった。

「イツキさんが来てくださらないので、高難易度クエストが残ってしまって―――」
「おっ、このクエスト簡単そうだな。おっしゃこれに行こーぜ」

 リオンを無視して、クエストボードに貼られている紙を剥がす。

「『魔鉱石の収集』って……『破滅魔法』が使えないじゃない!」
「知らん」
「強いモンスターの討伐に行きましょうよ!こんなの楽しくないわ!」
「それでしたら、こちらの『雷狼 フェンニル』の討伐なんてどうですか?」

 リオンが1枚の紙を差し出してくる。
 ……こいつは……余計な事を……!

「フェンニル、熟練冒険者でも簡単に殺られるモンスター……ふふ、私の『破滅魔法』の餌食えじきになるには、充分ね」
「うむ……我の力を振るうのにも申し分ない」

 この後、ランゼの『破滅魔法』がフェンニル避けられたというのは、言うまでもない。

―――――――――――――――――――――――――

 シャルがいなくなって、3日目。

「……ねえイツキ?」
「あー?」
「シャル……遅いね」

 食堂の中、元気のないストレアが寂しそうに言ってきた。

「……ああ。遅いな」
「……『人王』の所に行かなくていいの?」
「別に大丈夫だろ……シャルの事だ。何かあったら言ってくるさ」

 ソファーに寝転がり、あくまで興味はないと言ってみせる。
 ……だが、内心はスゴく焦っている。
 シャルがいなくなって……なんか、落ち着かない。
 こう、ソワソワするというか、イライラするというか。

「なんか……嫌な予感がするんだよね」
「ストレア……」
「……今日のご飯当番は僕だよね。ちょっと早いけど、昼食でも作ろうかな?」

 厨房に入り、ストレアが料理を始める。
 『トントントン』と、包丁が野菜を切る音は……なんだか無性に俺の心を焦らせた。

―――――――――――――――――――――――――

 シャルがいなくなって、4日目。

「……どうすればいい……?」

 グローリアスさんの所に行くべきか?
 いや……もしかしたら父娘で大切な話があっているかもしれない。
 例えば……国を挙げての祭りがあるから、その準備を手伝ってるとか―――

「そんなわけないじゃん、君って案外バカだよね」

 1人の部屋……そこに、幼い声が響いた。

「……ヘルアーシャ?」
「久しぶりだね……と言っても、君たちは今それどころじゃないんだろうけど」
「その通りだ……シャルがどこにいるか―――」
「シャルロットちゃんは今、『森精国』にいるよ」

 ………………え、は?

「なんで?」
「さあ?私に聞かれても……居場所しかわからないよ」

 『森精国』……だと?
 なんでシャルが……?

「……で、お前は何しに来たんだ?」
「あ、そうだった。ちょっと『魔導銃』について話があるんだ!」

 机に置かれている銃を指さし、ヘルアーシャが続ける。

「壱から伍……今まで君は、この5つの形態を使っていたね?」
「ああ……」
「実はね……『魔導銃』の形態は、9つあるんだよ!」

 ……いや、意味がわからん。
 なんで最初から教えてくれなかったんだよ。

「……その形態って?」
「『陸式 火炎放射器フレイムスロー』『漆式 信号銃フレアガン』『捌式 光線銃レーザーガン』、そして『玖式 対装甲車両破壊弾ロケットランチャー』……この4つが、隠してた形態だよ」
「今なんて?対装甲車両破壊弾ロケットランチャー?」

 兵器じゃねぇか。

「それと……君に、過去を―――」
「イツキ!」

 扉が開けられ、ランゼが姿を現す。
 ヘルアーシャは……寸前で消えたらしく、部屋にはいなかった。

「どうした?なんかあったか?」
「これ!シャルから!」

 荒い息を吐きながら、一通の手紙を差し出してくる。
 封を破り、中身に眼を通した―――

『たくさんの方々へ
 少しの間、皆様の前から姿を消したこと、謝罪します。
 決して、皆様が嫌になったわけではありません。
 逃げたわけでも、ありません。
 今日、私は『森精王子』と結婚することが決まりました。
 ては、さようなら』

「……イツキ?何て書いてあったの―――」
「はぁあああああぁああああああああああッ?!何言ってんだあのアホ!しかも『ては、さようなら』って!『では』だろうがぁあああああああッ!」

 手紙を叩き付け、屋敷を出た。
 向かう先は―――グローリアスさんの所だ。

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