発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

46話



◇side グローリアス・ライガー・ストレア・サリス







「『ネオ・ライトニング』!」

 『人王』の手から、青白い雷が放たれる。
 床をえぐり、壁を破壊しながら、雷が少女に迫り―――

「『ブラックアウト』」

 少女に当たる直前、黒いカーテンのような物に包まれ、雷が跡形あとかたも無く消えた。

「ふむ……魔法を無効化するのか」
「違うよ?……あたしは入口と出口を作ってるだけ」
「入口に……出口?」
「うん、それだけ」

 入口と出口……つまり、『人王』の『雷魔法』を消したのではなく、別の所に移動させている……って事?

「『ウィンドカッター』っ!」
「無駄だよ?『ブラックアウト』」

 黒い物体が、風の鎌を吸い込み―――

「返すね?」
「えっ―――」
「『ネオ・アースウォール』ッ!」

 背後から迫る風の鎌を、ストレアちゃんが土の壁で受け止めた。
 ……今のは……うちの魔法?
 入口と出口を作れると言っていたが……今のは、うちの背後に出口を作ったという事だろうか?

「ふむ……どうするか、ライガー?」
「うーん……遠距離で攻撃しても効かないだろうから、近距離で戦うかな」
「よし、そうするか―――『トールハンマー』」
「『ビーストハウル』」

 『人王』の手に雷鎚が握られ、『獣王』の体が音を立てながら肥大化する。

「『ソウルイーター』っ!」

 死神に変身し……ふと、ストレアが目を閉じている事に気づく。
 何をしているのか、と聞こうと―――

「はぁぁぁぁ……!『インクリース』……!」

 ギラッと、ストレアちゃんの瞳が、一瞬だけ紅く輝いた。
 ……今のは、一体……?

「うーん……近距離戦……あんまり好きじゃないんだけど……」

 困ったように頭を掻き―――『山羊座』の雰囲気が、『ゾディアック』に相応しい禍々しい雰囲気に変わった。

「行くぞ、ライガー!」
「ガルルルルァアアアァアアアアアッ!」

 『人王』が叫び、『獣王』が吼える。
 とてもオジサ……1人娘の父とはおもえないほどの速さで駆け、『山羊座』の頭に雷鎚を振り下ろし―――!

「『ブラックアウト』」

 黒い渦の中に、『人王』の腕が吸い込まれて……『獣王』の頭の上に、出口が現れた。
 それにより、どうなるかと言うと―――

「ガッ―――?!」
「なっ?!すまないライガー!」

 慌てて腕を抜き、『獣王』に駆け寄る……と、その隙を狙って、『山羊座』が『人王』に近づき―――!

「死―――ッ?!」
「―――ふんっ!」

 『人王』が、『山羊座』の腹を殴った。
 凄まじい威力の拳が少女を襲い―――王宮の壁に激突。

 ……雷鎚は、『人王』の右手に握られている。
 だったら、警戒心は右手に集中する……うちだって、誰だってそうだ。

「ふむ……浅いな」

 左手首を回しながら、『人王』が楽しそうに笑う。
 イッチャン……イッチャンの言う通りだよ。
 この国の国王、みんなどこか頭のネジが飛んじゃってるよ。

「ぐふっ……!まさか武器を持ってない方で……?!」
「ふんっ!」

 『ドゴンッ!』と何かを打ち付ける音。
 見ると……ストレアちゃんが、壁を破壊して、その破片を……いや、破片というには大きすぎるそれを、『山羊座』に向かって投げた。

「『アースウォール』!」

 『山羊座』の逃げ場を無くすようにして現れた壁……それを見た『山羊座』が、忌々しそうに顔を歪めた。

「ちっ……『ブラックアウト』!」
「やっぱり、こんなのじゃ倒せないよね」

 黒渦によって返された破片を、ストレアちゃんが殴って粉砕。

「スゴい……『人王』も、ストレアちゃんも!」
「うむ……愛娘の前では見せないようにしているのだ。こんな表情の私なんて、見たくないだろうし……見せたくないしな」
「ガルル……ガァアアアァアアアアアアッ!」

 『山羊座』目掛けて、『獣王』が走り出す。
 ついさっきまでそこに居たはずの『獣王』―――まばたきの間に、『山羊座』の眼前に躍り出て―――!

「ガアッ!ルアッ!ゥルルァアアアァアアアアッ!」
「うっ、くっ……!『ブラックアウト』!」
「ガァ―――ルルルルァアアァアアアアアッ!」
「そんな―――?!」

 剛爪が黒渦に入り、『獣王』が自分の剛爪で腹を抉った……が。
 痛みを感じていないのか、腹から血を流したまま、攻撃を続行している。

 これが……一国を治める国王の力。
 うちの世界の国王は、玉座に座っているだけの飾りだったが……この世界の国王は違う。
 民を思い、民を救い、民のために行動できる……多少、頭のネジは飛んでいるけど、それでも―――

「下がれライガー!『ネオ・スパーク』!」
「『ブラックアウト』!」
「『ネオ・アースウォール』!」

 地を這う白雷が、黒渦に吸い込まれ―――背後に現れたそれを、再びストレアが土の壁で受け止める。

「ガァア……うウゥ……ああ、お腹痛い」
「治療しておけ……血を出し過ぎては、いざという時に力が入らんからな」
「そうだね―――『エクス・ヒール』」

 淡い光を腹部に当て―――傷口が簡単に塞がった。

 しかし……これではらちが明かない。
 『人王』の『雷魔法』は強力だが……相手が悪い。
 あの強力な『雷魔法』を受け止めるストレアにも、いつか限界がくる。

「そこの……ストレア君だったか?」
「え、僕?」
「うむ……ちょっと来てくれ」

 さあ、どうする?
 考えろ……もっと考えろ……!
 こういう時、イッチャンならどうする?
 イッチャンなら、イッチャンなら……?

 イッチャンの強みは『光魔法』の圧倒的火力と、あの『神器』という道具による不意打ちだ。
 イッチャンの強み……不意打ち……

 ……うちは今、死神の姿だが……鎌を持っていない。
 つまり、相手から見れば『『風魔法』が使える女』という認識になる。
 ―――距離を詰めて、鎌を振り下ろす。
 鎌が届くか届かないかの距離で……仕掛ける!

「―――頼んだぞ、ストレア君」
「うん!任せておいて!」
「ライガー!サリス君!すまない、30秒ほど時間を稼いでくれ!」

 そう言った『人王』の体が、パチパチと放電を始める。
 何をする気かわからないが……時間を稼ぐ気はない。正面から、叩き斬ってやる!

「はぁあああああッ!」
「……邪魔……!」

 『山羊座』の前まで来た。
 距離は大体10メートル……そこで、うちは手を上に向け―――

「来い―――『デスサイズ』ッ!」
「なっ―――?!」

 大鎌を召喚。
 握り、その鎌先を『山羊座』の頭に振り下ろす。

「ぐっ……『ブラックアウト』!」
「『ウィンドカッター』!」
鬱陶うっとうしい……!」

 鎌は吸い込まれ、切っ先が真横に迫る。
 うちは鎌から手を放し、体を低くしてそれを避け―――空いた手で風の鎌を放った。

 その風の鎌を……『山羊座』は身を低くして避けた。
 ……うちは動作に、違和感を覚えた。
 
 少女の『能力』なら、入口を作って避けることも可能だろうに……?

「この鎌も、邪魔……!」

 入口を手を突っ込み、鎌を投げ捨てる。
 まさか……こいつは……?!

「準備完了だ」

 低く、重々しい声が響いた。
 振り返ると……何かを堪えるようにする『人王』が、こちらに歩いて来ており―――

「離れて。巻き込まれるよ」
「わっ」

 『獣王』がうちを抱え、ストレアちゃんの近くに立つ。

を使うには、一定時間の溜めと、溜めを維持する集中力が必要でな……なかなか骨が折れるため、普段は使わないのだ」

 1歩、距離を詰めながら続ける。

「それと……お前の入口を作る『能力』。一見強力に見えるが……入口と出口は1つしか作れない。そうだろう?」

 2歩、距離を詰めながら続ける。

「入口が1つしか作れないから、サリス君の『風魔法』を体で避け、鎌を投げ捨てた……入口の中に鎌があったら、別の入口が作れないからな」
「なに……勝ったつもり……?」
「そうだな……おそらく、私たちの勝ちだ」

 3歩―――そこで『人王』が止まる。

「―――『無差別大放電ハイ・ボルテージ』ッ!」
「『ブラックアウト』!」

 ―――例えようのない轟音が辺りを包む。

 雷光が眩しくて、うっすらとしか見えないが……『紅い雷』が、全方向に放たれていた。
 その1つが、黒渦に入り―――

「行くよ……!全魔力!『ネオ・アースウォール』ッ!」

 黒渦から返された紅雷が、分厚く、大きな土の壁に阻まれる。

「なっ、こんなの―――?!」

 黒渦から出る紅雷は止まらない……つまり、入口は塞がってしまっている。
 『人王』から放たれている紅雷は、1つではない。つまり―――

「うっ―――ぎゃあああああああッ?!」

 今まで嗅いだことの無いような臭いが広がり、絶叫が響き渡る。

 紅雷はストレアちゃんの土壁のおかげで、こっちにまでは来ていない。

「あ……あぁ……………………ぁ…………」

 プツンッ、と紅雷が止まった。

「ふむ……みな、怪我はないか?」
「相変わらず……スゴい威力だね」
「そうだな……久しぶりだから制御ができなかった」

 『人王』が、動かなくなった『山羊座』の前で物騒に笑った。

コメント

  • リラ

    とても面白いです
    続き楽しみに待ってます

    1
  • シャドウ

    面白かけん
    頑張ってや

    1
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