発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

24話

「武力が必要なら、僕とアクセルだけで充分と思うんだけどな……」
「……『獣王』は『竜王』が嫌いなのか?」
「『獣王』なんて止めてくれ……ライガーで構わない」
「じゃあライガーさん……で、嫌いなのか?」
「嫌い……まあ嫌いだけど、正確に言うなら、噛み合わないというべきか……」

 グローリアスさんが馬車の準備を進める中、ライガーさんだけが気乗りしない表情だ。

「まあ、アクセルが強いのはわかるし、ライガーさんがアクセルより強いってのも前に聞いたけど……念には念を入れとく、ってことじゃないのか?」
「うーん……そうかもしれないけど、僕が心配してるのは、武力云々うんぬんじゃないんだ」

 ……じゃあ何が心配なんだよ。

「バハムートの力を借りるのなら、僕は付いていかない方が良いかもしれないし……」
「なんで?」
「簡単な話さ……バハムートも僕のことを嫌っている。そんな僕が『竜国』に行ったら、バハムートが『森精国』に同行しない可能性が出てくる」

 ……ああ、なるほど。
 嫌いなやつと一緒には居たくないもんな。

「ま……その辺はグローリアスさんが考えてるでしょ」
「……そうだね。グローリアスはああ見えて聡明な人間だからね」

――――――――――――――――――――――――――――――

「……そういえばイツキ君、『ゾディアック』の1人を討ち取ったと聞いたが」
「ああ……この前ですね」

 多分『魚座』のことだろう。

「『ゾディアック』を討ち取ったって……どういうことだい?」
「いや、この前……その……たまたま『シュリーカ』に用事があって、そん時に交戦になった……って感じだ」
「今っさらだけどよぉ、イツキは『獣王』様にタメ口なんだなぁ?」

 いや、お前もな?

「えっと……ランゼ、ちょっと来い」
「ん、なに?」

 少し窮屈な馬車の中、ランゼが俺の隣へと移動してくる。

「グローリアスさん、こいつ『七つの大罪』の一人です」
「……なんだと?」
「『七つの大罪』……ってぇ、伝承のかよぉ?!」
「い、一応……」

 ランゼが少し恥ずかしそうに手の甲を見せる。

「……なんと書いてあるのだ?」
「『傲慢』……です」
「ふむ……紋様の出現条件などはわかるか?」
「いえ……わかんないです」

 ……確かに、どういう条件で紋様が出たんだろ。

「すげぇなぁ……でもぉ、これでまだ1人目だもんなぁ」
「まあ、そうだな」

 ……俺的には、なんでランゼとかストレアとかウィズとか、あとサリスが付いてきたのかわからないんだが。

「それで……『竜国』にはあとどれくらいかかりそうですか?」
「そうだな……今日中には着かないだろうから、途中の『サルクルザ』で一泊する予定だ」

 『サルクルザ』……確か『竜国』の1つだったな。

「ったくよぉ、武力が必要なら俺とイツキぃ、それと『獣王』様だけで充分だと思うんだけどよぉ。なんで『人王』は『竜王』の力を借りたがるんだよぉ?」

 さっきまでライガーさんと俺が話してたことをアクセルが口にする。

「特に大きな理由はない……念のため、という他はないな」
「なんっかよぉ、俺と『獣王』様が信頼されてねぇみたいじゃねぇかぁ」
「信頼はしている……だが、これは愛娘の将来を決める大切な話し合いなのだ……だから、必要以上に念を入れる」

 ……親バカだなぁ。

――――――――――――――――――――――――――――――

「……うおお……!」
「どぅしたんだよぉ?そんっなに楽しそうにしやがってぇ?」
「んや、『竜族』ってこんな感じなんだなーって思って」

 『サルクルザ』……背中からは翼、頭からは角、見るからに強そうな『竜族』がウロウロしている。

「1、2、3……総員9名か」
「うーん……宿に泊まるには少し多いね」

 馬車の中、グローリアスさんとライガーさんが何か話している。

「男性と女性に分かれる?それが一番いいと思うけど?」
「そうだな……そうするとしようか」
「何を話してるんです?」
「うむ、人数の……ん?『鬼族』の女の子が見当たらないが?」
「へっ?」

 ランゼ、シャル、ウィズ、サリス……ストレアがいねぇ!

「……グローリアスさん、ライガーさんとアクセルと一緒に先に行っててください。ちょっとあのアホを探してきます」
「う、む……イツキ君も大変だな」

 あんの僕っ娘が!観光マニアなのはわかってるけど、勝手に行動するんじゃねえよ!

――――――――――――――――――――――――――――――

「ウィズ、そっちはどうだ?」
「見当たらぬ……どうするんだ?ランゼたちに合流するのか?」

 くそ……あのアホ鬼!

「……このままじゃ日が暮れる……グローリアスさんたちに合流しよう」
「うむ、わかった」

 ……あ。

「……なあ、グローリアスさんたちがどこにいるか、わかるか?」
「知らぬが?」
「奇遇だな。俺もだ」
「……はっ?!わからんのか?!」

 いや、そもそもどこにいるとか聞いてねえし!

「……はあ、ストレア探しはまた明日にしよう。ひとまず、俺たちが泊まる宿を確保しねえと」
「うむ……そうするか」

 ウィズが町中を歩き始める。

「おい、先に行くんじゃねえ。迷子になったら大変だろうが」
「う、うむ……あ」
「あ?」
「あそこ……宿だ」

 ウィズの指差す方向を見る―――異世界語で書いてあるため読めないが、宿なのだろう。

「んじゃ、とりあえずあそこに泊まるか」
「うむ!」

 元気な返事を聞き、宿と思わしき建物の中に入る。

「すんません、二部屋空いてます?」
「大変申し訳ございません。ただいま一部屋しか空いてなくて……」
「あー……そうですか」

 ちら、と宿の時計を確認する……6時過ぎだ。
 どうするかな……今から別の宿を探すか?

「ウィズ、どうしようか?」
「うむ、別に一緒の部屋で構わんのではないか?」
「はっ?」
「イツキは我を襲ったりしないだろう?」
「いやしねえけどさ」
「なら大丈夫だろう」

 そうか、なら大丈夫か。
 ……いや、全然大丈夫じゃねえよ。

「それともなんだ?我と一緒に寝るのは恥ずかしいか?相変わらずヘタレだな」
「なんだと?!すんません!一部屋でいいです!」
「あ、か、かしこまりました……銀貨2枚になります」

――――――――――――――――――――――――――――――

「……………」
「……………」

 静かな部屋の中、月光だけが室内を明るく照らしている。
 ……気のせいだろうか、なんかランゼとも同じ感じになったような……

「……イツキ?」
「なんだ……?」
「その……聞きたいことがあるのだが、いいだろうか?」
「んだよ改まって」

 寝返りを打ち、ウィズのいる方向に頭を向ける。

「あの獣人から聞いたのだが……けんどーとは何だ?」
「―――――」

 一瞬、時が止まったように、体が硬直してしまった。

「何やら、けんどーとやらのことを話すときのイツキはスゴく怖い顔をしていたとか……イツキが怖い顔をするというのを想像できなくてな」
「……聞きたいか?」
「うむ」

 ……できれば話したくないけど。

「わかった、話してやるよ……大して面白くはねえけどな」

――――――――――――――――――――――――――――――

「でっけー……」

 中学校を前にして、少年は―――俺は、学校の大きさに度肝を抜かれた。

「なーにやってんだよイツキ、とっとと中に入ろうぜ?」
「『テル』……お前は何も思わないのか?中学生だぞ中学生!」
「あー……お前っていっつも暑苦しいよな」

 気だるげに頭を掻く少年……『米山こめやま 照己てるき』だ。

「なあ、イツキは部活入るのか?」
「ん、まだ決めてないけど」
「それじゃ、一緒に剣道部に入らね?」
「えっ?」
「俺、小学生の頃から剣道してるんだ。だから中学生になっても続けろって親に言われてんだけど……イツキも一緒にしないか?」

 この時の俺は、友人に誘われたことが、ただただ嬉しかった。

「……それじゃあ俺も剣道部に入ろうかな」

 そして、この時の俺は……自分に剣道の才能があるのを知らなかった。

――――――――――――――――――――――――――――――

「メンあり!勝負あり!」

 先生の声が、剣道場の中に響く。

「……すっげ……イツキ、先輩に勝っちまいやがった」

 メンを外して俺に負けた先輩を見る。
 ……泣いていた。

「はあ……!くそ、くそっ……!」
「……ドンマイ『竹森たけもり』」
「ドンマイじゃ、ねえんだよ……!俺の最後の試合なのに、あんな一年にレギュラーをやるなんて……!」

 今おこなっていた試合は、中体連のレギュラーを決める試合……竹森先輩は3年で、今年で引退してしまう。
 その先輩より強いと示した……おそらく、中体連のレギュラーは俺になるだろう。

「イツキ……」
「……なんだよテル……俺は正々堂々戦って勝ったんだ……ダメか?」
「ダメじゃねえけどよ……いや、なんでもない」

――――――――――――――――――――――――――――――

「はあっ、はあっ、はあ……」
「テル……大丈夫か?」

 1年が経ち、俺たちは2年になった。
 3年生は引退し、俺たちは次の大試合……新人戦に向けて稽古を重ねていた。

「……いいよな……イツキは」

 荒い呼吸を繰り返すテルが、俺を見る―――

「練習なんかしなくても強いし……今んとこ、全試合負けなしだろ?」
「ど、どうしたんだよ急に……」
「急に?急にじゃねえよ……ずっと、ずっと思ってた」

 ―――その眼には、妬みがあった。

「今もそうだ……俺はこんだけキツいのに、イツキは汗を掻く程度……この差はなんだ?」
「な、何言ってんだよ」
「なあ?お前ばっか強くて……俺の方が剣道長くやってんのに、いつの間にか抜かされて……なあ?」

 ……なんで。

「俺のこと、見下してんだろ?」
「そ、そんなわけないだろ?!」
「お前は強いから良いよな……何もしなくても、天才は強いもんな」
「て、テルだって、強くなってる―――」
「だから!それを!見下してるって言ってんだよ!」

 ……どうして。

「お前ばっか贔屓ひいきされて!俺たちは弱いから何も口出しできねえ!」
「贔屓って……何がだよ?!」
「先生から可愛がられて、OBの先輩からも可愛がられて!なあ!何なんだよこの差は!」

 ……なんで、どうしてこうなる?

「お前がいなきゃ、俺が一番だったってのに!」

 ―――何かが、俺の中で崩れた。

「なら、いい」

 荒い呼吸を続けるテルから目を逸らし、先生の元へ向かう。

「勝手にしてくれ……俺は個人戦にしか出場しない」

――――――――――――――――――――――――――――――

「く、そ……くそっ!」

 校舎の壁を殴り付け、涙を溢す。

「なんで……勝てない……?!」

 特に何も考えることなく、高校に進学した。
 偶然そこは剣道の強豪校……俺は初めて練習でボコボコにヤられた。

 中学の最後の試合……個人戦で全国2位だった。
 でも、中学の実力じゃ、高校では通用しなかった。

「……俺には、剣道しかないんだ……!」

 今まで一番だったのは……誇れたのは、剣道だけだ。
 剣道だけは、誰にも譲れない。





「……もう、嫌だ」

 剣道を辞めよう。
 一番だったことが一番じゃなくなった……今の俺には、これだけで精神的ダメージがスゴかった。





 俺が間違っていたのだろうか。
 テルの気持ちが知りたい。
 どこから拗れてしまったのかが知りたい。

「……俺がテルになればわかるのかな」

 この日から、テルの真似をするようになった。
 口癖は『あー……』、常に気だるげに、一歩引いた人間関係を。

「……バカか俺は」

 結局、何が原因だったのか……答えは単純だ。

「剣道……これが原因……」

 俺は誓った。
 もう二度と、剣は……刀は握らない。

「発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く