発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

22話

「『それでは2番手、アクセル選手対、スカー選手!』」
「んじゃぁ、行ってくるぜぇ」
「おお、ぶちかましてやれ」

 アクセルがズボンの中に手を突っ込み―――何やら棒のようなものを取り出した。

「それ……もしかして、トンファーか?」
「なんだぁ、イツキはこれが何か知ってんのかよぉ」

 ガッカリしたように肩を落とし、紅いトンファーを両手に握る。

「だがぁ、普通のトンファーじゃねぇぜぇ……ちょっと特殊な魔鉱石を使ってるからよぉ」
「……どんな?」
「試合を見てればわかるぜぇ」

 ヒュンヒュンとトンファーを回転させながら、アクセルが試合場へと入っていく。

「ふん……おい小僧、先ほどの発言を取り消せ……そうすれば手心を加えてやろう」
「先ほどの発言だぁ?」
「貴様が俺に勝つとか、ふざけたことを言っていただろう」
「おいおぃ……調子乗ってんじゃねぇよぉ」

 トンファーの回転を止め、アクセルの体から殺気が溢れ出す。

「俺がてめぇに負けるなんてぇ、万に一つもねぇよぉ」
「そうか……己の判断を恨むがいい」
『それでは―――始め!』

 ずっと気になってたんだけど……あの司会者の声ってなんでこんなに響くのかな?
 いくら『テルマ』が発展してると言っても、さすがにマイクとかはないだろうし……

「―――しぁあああああっ!」

 凄まじい手首の捻りと共に、スカーの手から強烈な槍の一撃が放たれ―――

「あのよぉ」

 ―――トンファーの回転が、槍の一撃を受け流す。

「それぇ、本気かぁ?」
「―――っ?!」

 心底ガッカリしたようなアクセルの声。

「この……!『シャドウボール』!」

 スカーの手から、黒い球体が放たれる。

「鬱陶しいなぁ!」
「なっ?!」

 迫る黒い球体を、アクセルがトンファーで叩き潰す。

「ぐっ……『シャドウバレッド』!」

 『小さく黒い銃弾』が……数十個、スカーを取り囲む。

「これに……耐えきれるか?!」

 スカーが指を鳴らすと同時、黒い銃弾がアクセルに襲いかかり―――

「……『炎舞えんぶ』ぅ、『双蛇そうじゃ』ぁ」

 ―――『うねる2本の火柱』が、黒い銃弾を焼き消す。

「な、なんだそれは?!」
「あぁ?これかぁ?『炎魔法』が使えるやつの魔力を消費してぇ、トンファーに炎を纏わせることができるぅ……『魔道具』みてぇなもんだなぁ」

 紅炎を纏うトンファーを回し、アクセルが続ける。

「ったくよぉ……魔法も武器も嫌いだけどぉ、強くなるには手段を選んでられねぇしなぁ」
「アクセル……」
「俺は維持張ってたんだよなぁ」

 スカーとの距離を詰めながら、アクセルが続ける。

「全てを切り裂く爪ぇ、何でも噛み砕く牙ぁ、最強の獣人の血統ぅ……俺は最強だぁ……最強で在りたかったぁ」

 歩みを止め、アクセルの顔が悲しみに染まる。

「最強であることがぁ、俺の存在意義だったぁ……でもイツキに負けてぇ、俺は挑戦者だってわかったんだぁ」

 挑戦者……?

「イツキと戦ってぇ……イツキの強さぁ、イツキに課せられてる使命ぃ……そんでもってぇ、イツキの強さならぁ、その使命もちゃんとこなせるってのもわかったぁ」

 使命って……まあ勇者のことだろうな。

「俺は挑戦者……んでもってぇ、最強はイツキだぁ。俺は最強にぃ、イツキに近づくためにぃ、あらゆる手を尽くすぅ……魔法だろうが武器だろうがぁ、使えるもんは何でも使ってやるぅ。その背中にぃ、憧れにぃ、少しでも近づくためにぃ」

 なんか……褒められるのってむず痒いな!

「うるせえよ……!子どもが、偉そうに上から物を言ってんじゃねえ!」
「なーに言ってんだぁ、てめぇが下だから言ってんだろっがよぉ」

 怒るスカーに対し、アクセルはあくまで冷静に挑発する……いや、挑発すんなや。

「こ、の……!『ダークネス』!」

 スカーの体から、『黒い煙』のようなものが噴き出す。

「アクセル!」

 アクセルの姿が黒煙に包まれ―――

「『炎舞』―――『龍尾りゅうび』ぃ!」

 ―――『龍の尻尾のような炎』が、黒煙を裂く。

「そんな……『ダークネス』が―――がっ!」

 勢いを止めることなく、そのままスカーを押し潰した。

「『け、決着!スカー選手戦闘不能で、アクセル選手の勝ちです!』」
「すげえ……アクセル!」
「なんだよぉ、俺が負けるとでも思ったかよぉ」

 悠々と試合場を下り、アクセルが楽しそうに笑う。

「これでぇ、俺たちの勝ちは確定だなぁ?」
「まあ、そうだな」
「けどぉ……負けねぇよなぁ?イツキぃ?」

 俺を見るアクセルが、ハイタッチを求めてくる。
 まったく……無意識な信頼ほど、悪質なものがあるだろうか。

「はっ……当たり前だろ?」
「それでこそ俺の憧れだぁ」

 アクセルとハイタッチし、試合場へ上がって―――メオールと向かい合う。

「まさかザクロとスカーが負けるとは……」
「ったりまえだろ……クーロンはともかく、アクセルに勝てるわけねえだろ」
「……そんなに強いのに、なんで昨日と一昨日『ギルド戦闘』に参加しなかったんだ?」
「俺にも色々事情があんだよ……」

 ランゼの事とか、『魚座』とか。

「……俺は、さっきの二人より強いぞ?」

 再び、メオールが鬼気を放ち始める。

「悪いな……俺だってさっきの獣人より強いんだわ」

 ……てか、他国アンバーラの『ギルド戦闘』に、他国獣国のやつが参加してよかったのだろうか?

「『3番手、イツキ選手対、メオール選手!』」
「確かにザクロとスカーは負けたわ……でも」

 ふと、リーシャの声が聞こえた。

「誰がどう言っても、最強はメオールよ」
「『―――始めっ!』」

 司会者の掛け声と共に、『魔導銃』を抜く。

「『エクスフレア』!」
「うおっぶな!」

 メオールの手から放たれる『大きな火の塊』を横っ飛びで避け―――

「『ファイアアロー』!」
「しゃらくせぇなあ!」

 ―――続いて迫る『火の矢』を、『魔導銃』で相殺させ―――いや。

「なっ―――『ファイアウォール』!」

 相殺するだけでとどまるわけがなく、『火の矢』を貫通し、メオールに当たる寸前で『火の壁』に阻まれる。

「『形態変化』……『弐式 散弾銃ショットガン』」

 重く鈍い音……散弾銃の一撃が『火の壁』を霧散させる。

「―――もう終わりか?」

 散弾銃を突き付け、冷たく問いかける。

「メオール!あなたがそんなやつに負けるわけないでしょ?!早く本気出しなさいよ!」
「やれやれ……厳しいな、リーシャ」

 力なく笑うメオールの眼に―――覚悟が見えた。

「―――『フェアリーオーソリティ』」
「「なっ―――?!」」

 アクセルとクーロンの驚いた声と―――

「あ……ぁ……?」

 ―――試合場の床を割って現れた『木』が、俺の左腹部を貫いていた。

「……まさか能力を使うことになるとはな」
「がっ、ふぅうううっ!」

 腹部に刺さっている木を引き抜き、そのまま引き千切る。
 木はもろく、簡単に引き千切れた。

「ぐ、がぁ……今、のは……?」
「『フェアリーオーソリティ』だとぉ……?!それってぇ、『妖精族』が使える能力じゃねぇかぁ?!」
「へえ……よく知ってるな」
「他種族の『種族能力』をぉ、知らねぇ方が変っだろうがよぉ!」

 『妖精族』……?それに、『種族能力』だって……?

「ぐふっ……『形態変化』!『壱式 片手銃ハンドガン』!」

 腹から流れ出る血……貧血で倒れるのも時間の問題だ。なら―――

「1秒でも早く、お前を仕留める!」

 ―――『魔導銃』をレッグホルスターに入れ、メオールに突っ込む。

「『フェアリーオーソリティ』」
「『クイック』!」

 襲い来る木々を避け、メオールとの距離を詰め―――

「『ファイアウォール』!」
「ぐ熱っ?!」

 ―――行く手を炎の壁に阻まれる。

「があっ、ああ……!」

 くそ……!『炎魔法』のこと忘れてた……!

「イツキぃ!何やってんだよぉ!そんなやつぅ、イツキならワンパンだろっがよぉ!」
「ワンパン?ふん、メオールがワンパンでやられるわけないでしょ?」
「……イツキぃ!かましてやれやぁ!」

 ワンパンって……『フィスト』のことかよ。

「は、ぁあああああ……!『フィスト』ッ!」
「『フェアリーオーソリティ』」

 腰を落とし、迫る木々に―――

「―――しぃいいいいいいいいっ!」
「なっ―――」

 ―――拳圧で木々を粉砕。
 さらにその先にいたメオールを吹き飛ばす。

「が、くっ……!『フェアリーオーソリティ』!」
「『クイック』!」

 木々を掻い潜り、メオールに近づき―――!

「―――ふっ!」
「は―――?!」

 拳圧でメオールをぶっ飛ばす。

「ぐ―――がっ……」

 壁に激突……メオールがぐったりとし、動かなくなる。

「はあ、あー……キッツ……」
『けっ、決着!メオール選手、戦闘不能で、イツキ選手の勝利!……勝者数3対0で、『アンバーラ』の勝利です!』

 ……痛い。
 アドレナリンが切れたのか、左の脇腹が痛み始める。

「やってくれやがったなぁイツキぃ!」
「がっ!」

 興奮したアクセルが試合場に上がり、俺に飛び付いて来る。

「いだだだだだっ!おま、離れろ!傷口が!」
「お、わりわりぃ!」

 脇腹を押さえ―――クーロンの隣に立つ女の子に気づく。

「イツキさん!」
「リオンか……ちょっと『回復魔法』使ってくれねえか?」
「あ、わかりました―――『エクス・ヒール』」

 優しい光が俺の脇腹を包む。

「……すげ、傷痕も残らねえんだな」

 魔法ってすげえな。

コメント

  • ノベルバユーザー396340

    維持じゃなくて意地です。

    1
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