発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

20話

「……はあ」

 ランゼの実家の風呂の中……1人溜め息を吐く。

「すき……すきって、好きか?」

 いや、それ以外にあるわけねえだろバーカ。

「ランゼ……」

 うーん……ランゼが『七つの大罪』の1人である以上、俺の正体を話しといた方がいいのか?

「……でも、俺が勇者って証拠もないし……」

 ……別に言わなくても良いか。

「……お……イツキ、だったか?」
「……ジルガバーナさん」

 風呂場の扉が開けられ、全裸のジルガバーナさんが姿を現す。

「『ゾディアック』……討伐したそうだな」
「はい、一応」
「……スゴいな」
「でもランゼがいなかったら負けてました……ランゼが危険を冒して、俺を助けに来てくれなかったら、俺は死んでました」

 ……だが、今回でわかった。『ゾディアック』は強すぎる、異常なほどに。
 パイシーズは偶然に偶然が重なったおかげで討伐できたが……次はそう上手くいくわけがないだろう。

「……だが、ランゼを動かしたのは、お前の行動だ」
「俺の……ですか」
「ああ、お前が『ゾディアック』に立ち向かわなければ、ランゼがお前を助けに行くこともなかった……なんならこの国は滅んでただろうしな」

 ……そうかな。

「……はあ、らしくないことしちまった」
「何か言ったか?」
「んや、なにもないですよ……それじゃ、俺上がりますね」

――――――――――――――――――――――――――――――

「……イツキ」
「ランゼ……」

 昨日と同じ寝室……ランゼはその部屋の中にいた。
 ……いや超気まずいんですけどぉ?!

「えっと……き、今日は大変だったな!」
「そうね……まさか『ゾディアック』が攻めてくるなんて、思ってなかったし」

 空気に耐えかね、何か話題がないかと話始める。

「……私が『七つの大罪』の1人なんて、もっと思ってなかったし」
「……………」

 そう、ランゼは『七つの大罪』の1人。

「……まさかランゼが『七つの大罪』なんてな」
「私が一番驚いてるわよ」

 どうしようか……俺が勇者だって言っといた方がいいか?

「それにしても、相変わらずイツキは強かったわね」
「そうか?ランゼがいたから『魚座』は討ち取れたんだぜ?」
「ううん……私は逃げたもの」

 布団の上に座るランゼが、顔を俯かせる。

「……逃げた?」
「ええ、イツキに『魚座』を任せて……私は安全な所へ避難してたもの」
「あれは俺が避難してろって―――」
「そう、避難してろって言ったのはイツキ……でも、避難したのは……逃げ出したのは私なの」

 ……なんやそれ。

「お前……ふざけてんの?」
「……えっ?」
「俺が避難してろって言ったんだから、逃げたも何もあったもんじゃねえだろ」

 ちょっと口が悪くなってしまった。まあいいだろ。

「だからよ……なんつーか、『私が』とか『私なの』とか、自分を責めんじゃねえよ」
「……でも―――」
「あーごちゃごちゃうっせえな……てか、お前覚えてえねのかよ」

 ランゼの前に座り、視線を合わせる。

「……『後は、俺に任せとけ』って言っただろ」
「そ、そうだけど……」
「俺が任せとけっつったんだ……だから『魚座』と戦ったのは俺の意志……お前が責任感じる必要はねえよ」
「……そう、かな」
「そうだ」

 手を伸ばし、ランゼの肩に手を置く。

「だから……笑えよ?暗い顔なんて、お前にゃ似合わねえぞ?」
「……うん……うん!」

 目に涙を浮かべたランゼが、クシャクシャの笑みを見せた。

――――――――――――――――――――――――――――――

「……2日間、お世話になりました」
「私的には、もう少し泊まってもらってもいいんだけど……」
「いえ、その気持ちだけで充分ありがたいです」

 さすがに屋敷にいるシャルたちが心配になってきたし。

「んじゃ……行くか、ランゼ」
「ええ!」

 隣にランゼが立ち、左手を握ってくる。

「……離せ」
「……ダメ……?」
「いや……ダメじゃねえと言うか何と言うか……」

 ……振りほどけない。
 ランゼの気持ちを知ってしまったからだろうか、以前までなら躊躇なく振りほどけたのに、何か申し訳なくて振りほどけない。

「……せめてもう少し離れてくれないか?」
「なんで?」
「なんでって……」

 ……もういいや。

――――――――――――――――――――――――――――――

「……イツキさぁん?ずいぶんと仲がよろしいようですねぇ?!」
「待て!落ち着け!落ち着いてその手に持ってるナイフを下ろせ!」

 現在、シャルに追いかけられております。

「おいランゼ!いい加減離れろ!死ぬ!殺される!」
「……ダメなの?」

 ……上目使いは卑怯だろ?!

「す、ストレア!助けて頼む!」
「そんなこと僕に言われても……」
「ウィズでもサリスでもいいから!助けて!」
「「えぇ……」」

 いや『えぇ……』じゃねえよ!

「せ、せめて眼帯付けて!『魔眼』を隠して!それ怖いから!追いかけられる恐怖倍増するから!」
「大人しく捕まってくれたらぁ、隠しますよぉ!」

 やだ怖い。

「とりあえず外に―――!」

 屋敷の玄関を開け、外に逃げようと―――

「おい邪魔するぜぇ……イツキぃ、いるか―――」
「どけ邪魔だぁあ!」

 ―――なにかを蹴っ飛ばしてしまった。
 いや構ってられん、こちとら命がかかってんだ!

「ねえ、イツキ」
「んだよ?!今それどころじゃ―――」
「今蹴り飛ばしたの、この前イツキが仲良くなった獣人じゃないの?」
「……え?!」

 思わず足を止め、背後を振り返る。

「―――つーかまえ、たぁ!」
「うおっぶな?!」

 振り下ろされるナイフを避け、シャルの腕を掴む。

「放してください!私はイツキさんを―――」
「落ち着けっつってんだろ、俺はランゼと付き合ってる訳じゃねえんだよ」
「……じゃあ何でランゼさんがくっついて離れないんですか」
「知らん、俺に聞くなランゼに聞け」

 そう言ってランゼを顎でしゃくり―――

「イ、ツキぃ……!いきなりぃ、何をしやがるぅ!」

 ―――地面に倒れていた獣人が跳ね起き、俺に掴みかかる。

「アクセル!ひっさしぶりだな!」
「その前に言うことがあんだろぉがぁ!」
「悪い悪い!生きるのに必死だったんだ!」
「生きるのってぇ……何やってんだよぉ?」

 ナイフ持った女の子に殺されかけてたんだよ。

「それより、何でアクセルがここにいるんだ?」
「『獣王』様がぁ、なんか『人王』に用事があるっつってよぉ……護衛の俺が付いて行かねえわけにもいかねえしぃ、付いてったんだがぁ……」
「……それで?」
「……話の内容が訳わかんなくてぇ、暇してたら『人王』が『イツキの所に行くか?』って言ってくれてよぉ……『人国』の騎士に案内してもらったんだぁ」

 ……『獣王』が、グローリアスさんに用事?

「……どんな内容の話をしてたか覚えてるか?」
「詳しくは覚えてねえがぁ……『森精国』がどうとか話してたなぁ……」
「『森精国』って……エルフが暮らしてる国か?」
「あぁ……あと、『竜国』とも言ってたなぁ」

 『竜国』……『竜人』が暮らしてる国だったよな。

「よくわかんねえけど……何かめんどくさそうだな」
「何っでだよぉ……まあいいやぁ。それよりぃ、どっか遊びに行かねえかぁ?」
「それこそ何っでだよ」
「暇だったからここに来たんだしよぉ」

 んなこと知らんわ。

「遊びに行くっつってもなぁ……」
「どっかねえかよぉ?自由に暴れられる所とかよぉ」

 んな所あるわけ―――

「……あ」
「んだぁ?どっかあんのかぁ?」
「わからん……もしかしたら終わってるかも知れんしな」
「終わってるってぇ……何がだよぉ?」

 ―――首を傾げるアクセルと共に、とある場所へ向かった。

――――――――――――――――――――――――――――――

「……ここって来る度に空気が暗くなっていくよな」
「ここってぇ……ギルドかぁ?」

 空気が重いギルドの中に入り、室内を見回す。

「あ……イツキさん!来てくださったんですね!」

 暗いギルドの中、リオンの明るい声が響く。

「その……大変勝手だとは承知でお願いしたいことが―――」
「あー……『ギルド戦闘』だろ?」
「……そうです」

 よかった、まだ終わってなかったみたいだ。

「昨日、一昨日と戦ったのですが……惨敗でして……」
「そうか……今日もあるのか?」
「はい……今日が最終日です」
「『ギルド戦闘』のルールは?」
「ルール……ですか?『3人1組のチーム戦、相手の戦闘不能、降伏の意思表示で勝敗を決めるものとする。武器の使用、魔法の使用を認める。立会人には『回復魔法』が使える者、そしてギルド長を立てるものとする』……です」

 ……なんだ、簡単じゃないか。

「……んじゃ、俺も参加するわ」
「い、いいのですか?」
「ああ……ただし、アクセルも一緒に参加することが条件だ」
「アクセル……?」
「おぉ……ちっと面白そうじゃねぇかぁ」

 拳の骨を鳴らすアクセルが、楽しそうに笑う。

「俺とアクセルで2人……あと1人足りないのか」
「大丈夫です、私が出ますから!」
「リオンが?」

 こいつ、戦えるのか?

「……『ギルド戦闘』はどこであるんだ?」
「『テルマ』の町中で行われます。もう出発されますか?」
「アクセル」
「おおよぉ、いつでもいいぜぇ」
「……じゃあ行くか」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品