発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

19話

「はっははは!ほら、逃げないと死んじゃうよ?」
「ひっ、だ、誰か―――」

 見るからに悪役な男の子が、町の住民を―――

「『クイック』!」
「お?」

 ―――殺す寸前で、住民を抱えて、男の子から距離を取る。

「あんた……怪我はないか?」
「は、はい!」
「なら走れ」

 住民が町の南部へ向かって走っていく。

「へえ……速いね、君」
「……お前が『魚座』だな」
「そう……僕は『ゾディアック』、『魚座』の『パイシーズ』!」

 変なポーズを取りながら『魚座』が―――パイシーズが名乗りを上げる。
 ……うん、こいつウィズと同類かな?中二病臭がプンプンするぞ?

「……妙だね、君は逃げないの?」
「あー?んなこと俺の勝手だろうがよ」
「うーん……そうだね、そんなの君の自由だよね!」

 パイシーズが無邪気に笑う。
 ああ、こいつ中二病じゃなくて、精神が幼いだけだ。

「……1つ、聞きたいことがある」
「ん?なーに?」
「……この国を襲った理由はなんだ?」
「別にー?ただの暇潰しと……そろそろ行動を起こし始めようかと思っただけだよ?」

 ……『そろそろ行動を起こし始めようか』って……どういうことだ?

「……大人しく退く気はねえか?俺は戦うのが……ってか、痛いのが好きじゃねえんだ」
「痛いのが嫌いなら、大人しくこの国が滅ぼされるのを見てたら?」

 パイシーズの手に『水で型どられた剣』が握られる。

「悪いな……ここは俺の……か、彼女の母国でな、そういうわけにもいかんのよ」
「なんでちょっと恥ずかしそうに言うの?」
「やかましいわ」

 彼女って言うの恥ずかしいな!

「―――よそ見してる場合?」
「っ―――」

 脅威的なスピードで、パイシーズが突っ込んでくる。

「―――ぐっ!」
「ほらほら!どんどんいくよ!」

 凄まじい剣技―――ジルガバーナさんより速い!

「避けてばかりじゃ勝てないよ!」
「あー……そうだな―――『フィスト』」

 拳を握り、パイシーズの顔面を―――

「危ない―――?!」

 放たれる拳撃……それにより、凄まじい拳圧が起きる。

「いいね……君、本当に面白いよ!」
「『形態変化』……『伍式 対物銃アンチマテリアル』」

 レッグホルスターから『魔導銃』を抜き、対物銃に変化させる。

「これが最後の警告だ……大人しく退くなら、見逃してやるぞ」

 パイシーズが無言で水剣を構える。

「はあ……」
「あははは!」
「うるさい」

 突っ込むでくるパイシーズの顔面を、対物銃で撃ち抜こうとして―――

「ぁ、ぁああああああっ?!」
「ひょー……相変わらずイカれた威力だな」

 顔面は避けられたが、右肩に直撃した。
 パイシーズの右肩が吹き飛び、グロテスクな断面が姿を見せる。

「うぇっ、気持ち悪っ」
「ああああああ?!僕の、僕の右腕がぁあああああっ!」

 ……仕留めるか。

「まあ相性が悪かったと思え」

 うずくまるパイシーズに向け、弾丸を―――

「ぐ、ぅうううううっ!」
「チッ―――」

 ―――弾丸は避けられ、獣のような動きで逃げる。

「『クイック』」

 逃げるパイシーズの後を追いかけ―――

「―――う、動くな!」
「っと……あ?」

 ―――パイシーズが、女性を人質にしている。
 左手に水剣を持ち、勝ち誇ったような笑顔を見せてくる。

「さあ……その『魔道具』を置いて―――っ?!」

 躊躇なくパイシーズの左頭を撃ち飛ばした。

「ぐぁあああああああっ?!」
「『クイック』!」

 パイシーズが痛みに苦しんでいる隙に、人質の女性を―――

「えっ?」

 ―――女性が溶けて、水溜まりと化した。

「くそ……!まさか、偽者って気づいてるなんて……!」

 顔半分を押さえたパイシーズが、悔しそうにこちらを見る。
 いや、まったくこれっぽっちも気づいてなかったけどな。

「……『水魔法』……?それとも『水を自在操る』能力か……?」

 まあどちらにしろ、早く仕留めるか。

「ぐぅ……まさか、これを使うことになるなんて……!『リヴァイアサン』!」

 ドクン、と脈打つ音。
 それがパイシーズの体から聞こえていると認識するのに、さほど時間はかからなかった。

「あっ、ああ、ああああああっ!」

 ―――よくわかんねえけど、止めねえと!

「これで、死んどけ!」

 対物銃から放たれる弾丸がパイシーズを―――

『もう遅い』

 ―――仕留める寸前で阻まれた。

「……おいおいおい、マジかよ」
『……ただの人間に、本気を出すときが来るなんてね』

 『水で型どられた竜』……その中にパイシーズがいる。
 先ほど放った弾丸は、パイシーズに届く前に、水竜を型どった水に阻まれたのだ。

『さあ……戦いの続きを始めようか!』

 どうしよう、困ったな。
 対物銃で撃ち殺せないなら、片手銃の威力では絶対に撃ち殺せない。
 散弾銃と機関銃の威力も対物銃には劣る……今の俺に打つ手はない。

「……『形態変化』、『壱式 片手銃ハンドガン』」

 『魔導銃』をレッグホルスターに入れ、どうしたものかと考える。

『……来ないなら、こっちから行かせてもらうよ!』
「『フィスト』!」

 水竜の尻尾を受け止めようと、力を上げて―――

「ガボッ?!」

 ―――触れることができなかった。

『……君はバカ?水に触れられると思ったの?』
「ガ……ゴボッ……」

 なるほど……水を受け止めるなんて、そもそも無理な話か。
 まあ、でも―――

「ゴボッ―――ォオオオッ!」
『……へえ』

 『フィスト』で底上げしていた腕を振るい、俺を覆っていた水竜の尻尾を弾く。
 ……うん、『フィスト』の力なら、水くらい簡単に弾くことができるな。

「でも……裏を返せば、こっちの攻撃は相手に効かない、ってことになるからな……」

 参ったな……せめてパイシーズを覆っている水竜がどうにかできればな……

「『クイック』『フィスト』!」

 距離を詰め、パイシーズに殴りかかる。

『―――ふんっ!』
「ブッ―――ボッ!」

 今度は水竜の爪に掴まれる。

「ガッ―――ァアアアッ!」

 再び腕を振り、水竜の爪を振りほどく。

「ごほっ……が、ああ……!」

 クソ……これじゃいずれ窒息しちまう。
 何か、何か策は―――

「―――イツキぃいいいいっ!」

 ―――背後から、声が聞こえた。

「……ラン、ゼ?」
「大丈夫?助けに来たわよ!」

 隣に立つ女の子―――ランゼだ。

『よくわかんないけど……死んでね?』
「『クイック』!」
「きゃ―――!」

 降り下ろされる水爪、ランゼを抱えて避ける。

「お前……避難してろって言っただろ」
「ご、ごめん……心配になっちゃって……」
「……でも、来てくれて助かった」
「……えっ?」

 家の陰に隠れ、ゆっくりとランゼを下ろす。

「ランゼ、お前にしかできないことがある」
「なっ、何?」
「……あの化け物、『破滅魔法』でぶっ飛ばしてくれ」

 ランゼの『破滅魔法』なら……いけるかもしれない。

「む、無理よ!あんな大きいの―――」
「なんだ、ビビってんのか?」
「……そ、そうじゃないけど……」

 嘘つけ絶対ビビってんだろ。

「……お前の魔法は、あんなヘンテコ竜も吹き飛ばせないくらいヘボいのか?」
「そ、そんなわけ……」
「『破滅魔法』は『ゾディアック』を討ち取るのには力不足か?」
「そんなわけないでしょ!」

 ……もう一押しか。

「『破滅魔法』よりスゴい魔法なんて……最強にふさわしい魔法なんて、あるか?」
「はあ?!あるわけないでしょ!」

 俺を睨みつけ、ランゼが立ち上がる。

「1日たった1発しか使えない、それでも破壊力だけで考えたら『破滅魔法』の右に出るものはない、『破滅魔法』は最強の魔法なんだから!『破滅魔法』よりスゴい魔法なんて、最強にふさわしい魔法なんて存在しないわ!」

 右拳を握り締め―――

「……ぇ?」
「……なによ、何か変?」

 ―――ランゼの右手の甲が、異様に輝き始める。

「お、お前……?!」
「……何、これ」

 右手の甲を見つめ―――

「……『七つの大罪』……『傲慢』?!」

 ―――『七つの大罪』?!

『―――見ぃつけた』
「ぐっ―――『クイック』!ランゼ、掴まれ!」
「え、ええ!」

 ランゼの手を掴み、パイシーズの攻撃をかわす。

「……さあ、ランゼ!」
「任せなさい!―――討ち滅ぼせ『ビッグバン』!」

 腕の中、破壊と滅亡を呼ぶ魔法が唱えられ―――

『んな―――?!』

 ―――目の前の水竜が、爆発に包まれる。

「『フィスト』!」
「あ、イツキ―――」

 ランゼを下ろし、粉塵が舞う中へ突っ込む。

「ぐ、く……今のは―――」

 『ズパァンッ!』という快音が辺りに響き、パイシーズを覆っていた粉塵が晴れる。

「悪いな……勝負あり、だ」

 頭が消し飛んだパイシーズがよろめき……倒れた。

「……頭を消し飛ぶ威力って……『光魔法』も『破滅魔法』と同じくらいチートだな」
「イツキ!」

 駆け寄ってくるランゼが、そのまま抱きついてくる。

「お、おい、お前―――」
「ありがと……ありがとぉ……!私の育った国を、守ってくれて……!」

 こいつ……

「気にすんな……それより、お前のその模様って……」
「……うん、『七つの大罪』、『傲慢』って書いてある」
「読めるのか?」
「ううん……読めない、けどわかるの」

 見たことのない文字だ……日本語でも異世界語でもない。

「『七つの大罪』……まさかランゼが……」
「うーん……でも、他の『七つの大罪』がわからないし……何より勇者が誰かわからないしね」

 お手上げ、と言わんばかりにランゼが両手を上げる。

「それに……勇者がいたとしても、私はイツキの側から離れるつもりはないし」
「……?なぜ?」
「だってイツキが好きだもん」

 こちらを見るランゼが―――

「ん?」
「イツキが好き」
「俺が?」
「好き」

 ―――そう言って、頬を赤らめる。

「は?!」

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