発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

18話

 『シュリーカ』は小さな村のような国……目立つ建物は特に無く、小さな一軒家がいくつかある程度だ。

「イツキー!頑張れー!」

 ランゼの実家の前、そこでランゼの父さんと向かい合ってる。
 ……何故か『シュリーカ』の住民たちが、面白そうに事の成り行きを見守ってる。

「よし……準備はいいか?」
「よくないです、なんで戦わなきゃならないんですか」
「さっきも言っただろう……実戦でお前の心を見定める、それだけだ」

 ランゼのお父さん―――ジルガバーナさんが剣を抜き、切っ先を俺に向けてくる。

「冗談だろ……」
「イツキさん、遠慮しないで戦っていいですからね」
「……それは、戦闘不能にしても?」
「ええもちろん」

 うーん……『回復魔法』が使える人がいないと、怪我をさせそうで怖いな。

「……っておいおい……自分への評価が高いな、俺は」

 『怪我をさせそうで怖い』なんて発想、今までの俺にはなかった。
 『魔導銃』に『光魔法』、そして『身体能力』を底上げしてもらって、強くなった気になっていた。

「『光魔法』はともかく……『魔導銃』と『身体能力』の底上げは、自分の力じゃねえだろ……調子に乗んなよ俺」
「何をブツブツと言っている……行くぞ」
「ぇ―――」

 鋭く踏み込み、ジルガバーナさんが俺の首を切り落とさんと―――

「―――ぶねっ!」
「……これを避けるか」

 ―――おいおいおい、なんってスピードで剣を振りやがる、あれで片腕かよ。

「どんどん行くぞ……!」

 再び剣を構えて、ジルガバーナさんが飛び込んでくる。

「ちっ!」

 レッグホルスターから『魔導銃』を抜き、銃弾をジルガバーナさんに向けて放つ。

「―――ふっ!」
「は、あ?!」

 放たれた銃弾を、ジルガバーナさんは正面から切り捨てた。

「……なんだそれは、ずいぶんと面白い『魔道具』だな」
「いやいや……本格的に化け物かよ」

 銃弾を切るなんて……アニメじゃねえんだからよ。

「……これは久しぶりに面白い相手かもな……『カオスインパクト』」
「は―――?」

 ジルガバーナさんの剣が輝き始め―――

「……くらえ」

 ―――輝く剣から、衝撃波が放たれる。

「―――『クイック』!」

 直撃する寸前で、脚力を上げて回避する。

「あ、あっぶな!死ぬかと思ったわ!」
「……今のを避けるか」

 初めてジルガバーナさんが笑みを見せる。
 いや待て、この人異常だろ、何の躊躇もなしに俺の命を殺りにきたぞ。

「いいな……面白いなお前」

 そうかよ俺はちっとも楽しくねえよクソッタレが。

「実力的にはアクセルと同じ……いや、それ以上か……?」

 服に付いた砂を払う。

「……もうイツキ!早く本気出しなさいよ!」

 背後からランゼの声が聞こえる。

「なんだ……まだ本気じゃなかったのか?」
「……………」
「……本気で、来い」

 抜き身の剣を構え、明らかにジルガバーナさんが敵意をむき出しにする。

「本気も出し切れないような中途半端なやつに、娘を任せるなんてできないからな」

 そりゃそうだ。

「……わかりました、全力で行きますね」

 『魔導銃』をレッグホルスターに入れる。

「……『カオスインパクト』」
「『フィスト』」

 小細工は無しだ……正面からぶち抜いてやる。

「―――ふんっ!」
「ああああああっ!」

 放たれる斬撃と拳圧がぶつかり合い、凄まじい衝撃を生んだ。

――――――――――――――――――――――――――――――

「すみません、今後気を付けます」
「まったく……国の中であんな爆発を起こすなんて……次に見かけたら許さないからな?」

 警察署のような所を出て、深いため息を吐く。

「……まあそんなに気を落とすな」
「ジルガバーナさん……」

 いやあんたにだけは言われたくないわ!共犯みたいなもんだろうが!

「……俺も初犯だから早めに釈放されたが……まさか警備に見つかるとはな」

 警備……この世界にも、そういう役職があるんだな。

「……ジルガバーナさん」
「……どうした?」
「あの、ジルガバーナさんが使ってた、剣から衝撃を飛ばすのって何ですか?」
「ああ……あれは『破滅魔法』の『カオスインパクト』って魔法だ」

 あれも『破滅魔法』なのか。

「……お前が使っていた魔法は?」
「俺のは『光魔法』です」
「『光魔法』……そうか、珍しいな」

 いや、あんたが『破滅魔法』使えるのも珍しいけどな。

「早く帰ろう……セルザとランゼが心配するからな」

――――――――――――――――――――――――――――――

「イツキ!お父さん!」
「あら、思ってたより早かったわね」
「……ただいま、ランゼ、セルザ」

 ……家族っていいな。
 俺なんか血の繋がったやつなんて、この世界にいないぞ。

「さ、夕食できてるわ。イツキさんも早く中に」
「……え?俺もですか?」
「当たり前でしょ?ランゼの彼氏だけ仲間外れなんてしないわよ」

 ……ジワリ、と心が暖かくなる。

「早く早く!料理が冷めちゃうわ!」
「あ、ちょ―――」

 セルザさんが俺の腕を掴み―――

「ちょっと!イツキは私のなんだけど!」
「あらあらあら……これは失礼したわね」

 ―――すかさずランゼが反対側の腕を掴む。
 いやおい待て、いくらなんでも近すぎるだろ。確かに彼氏役って言ったけど、こんなことされるなんて聞いてないぞ。

「……あら、イツキさん顔真っ赤」
「は、え?!そ、そんなことないですよ」

 嘘だ、自分でも顔が熱いのがわかる。
 というか、今まで女の子と付き合ったことの無い俺が、こんな美少女に抱きつかれたらそりゃ顔も赤くなるわ!

「……おいこら離れろ」
「別にいいじゃない!付き合ってるんだし!」

 違う、付き合ってはない。付き合ってるフリをしてるだけだ。

――――――――――――――――――――――――――――――

「それじゃあ、イツキさんはこの部屋に泊まってくれる?」
「わかりました」

 夕食を食べ終え、寝床をどうするか悩んでいたら『泊まる部屋ならあるわよ!』とセルザさんが言ってくれた。
 セルザさんに案内された部屋に入り、室内を見回す。
 ……簡素な部屋だ。目立った家具はなく、クローゼットと机がある程度、あとは―――

「……なんで布団が2枚敷かれてるんだ」

 ―――部屋の中央に、布団が2枚敷かれている。

「……まさか……いや、まさかな……」

 引き笑いを浮かべながら後退りする、と。

「……あれ?イツキ?」
「ランゼ?!」

 冗談だろ、まさか一緒に寝ろってか?

「……布団が2枚……ってことは、イツキと一緒に寝るの?」
「……ちょっと俺、近くに宿がないか探してくる」

 いやいやいや、さすがに女の子と一緒に寝るってのは無理がある。

「別にいいんじゃない?一緒に寝るくらい」
「よくねえよ。お前がよくても、俺がよくねえんだよ」

――――――――――――――――――――――――――――――

「……………」
「……………」

 静かな部屋の中、ランゼの寝息だけがすうすうと聞こえる。
 ……寝れるかぁあああああっ!
 なんなんだよこの状況!はっ?!どうしてこうなった?!

「……おいランゼ、起きてるだろ?」
「……………」
「……マジで寝てんのか?」

 こいつも警戒心無さすぎだろ。
 俺だって年頃の男なのだ……隣で美少女が寝てたら平常心じゃいられない。

「……ランゼ」
「……………」

 ……今なら、やりたい放題じゃないか?
 いや待て、それは人として最低だ。そういうことは、シャルが受け付けてくれる―――違う、そうじゃない。

 ……ダメだ、外にでも行こう。

「よっ―――お?」

 ふと、右腕を引かれる感覚があった。

「ランゼ……?」

 隣の布団から、華奢な腕が俺の右腕を掴んでいた。

「イ、ツキぃ……」

 ……こいつ、起きてんの?どっちなの?

――――――――――――――――――――――――――――――

「イツキ!こっちこっち!」
「あいあい……」

 翌日、『シュリーカ』を駆け回るランゼの後を追いかける。

「……ったく、はしゃぎすぎだろ、あいつ」

 まあ久しぶりに母国へ帰ってきたんだろうし……はしゃぐのも無理はないか。

「はあ……早く帰りたい―――」
『緊急連絡!緊急連絡!現在、町の北部の入り口に『ゾディアック』『魚座』が現れました!近隣の住民の皆さまは、ただちに避難してください!繰り返します!現在―――』

 突如大音量で流れ始めた警報に、走り回っていたランゼが動きを止める。

「『ゾディアック』……『魚座』……!」
「おいおいおい……冗談だろ……」

 町の住民が避難を始める。

「……ランゼ」
「ええ、行きま―――」
「避難しよう」
「なんっでよ!」

 ランゼの拳が後頭部を打つ。

「いてえな」
「ほら、早く行くわよ!」
「嫌だ……おら、とっとと避難するぞ」

 町の北部へ向かおうとするランゼを引っ張り、避難を―――

「―――もう!バカ!」
「は、あ?!なんでバカになるんだよ!」
「イツキの力なら、『ゾディアック』でも『魔王』でも倒すことができる!のに!なんで戦おうとしないのよ!」

 ―――目に涙を溜めたランゼが、俺を睨む。

「……ここは、私が育った場所……失いたくないの!」
「……………」

 育った場所……か。

「チッ……おい泣くな」
「な、泣いてなんかないわよ!」
「とりあえず、お前は避難してろ」
「何でよ!私だって―――」

 何か言っているランゼの口を手で押さえた。

「後は、俺に任せとけ」

コメント

  • -弧+妻

    相変わらず面白い
    展開が早くて飽きない
    十二人+魔王多くて出すの大変でしょうけど頑張って下さい

    2
コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品