発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。

ibis

7話

「『フィスト』に『クイック』か……」
「びっくりしたわ、デスタイガーの背後に回り込むし、さらには拳の拳圧で地面を吹き飛ばすなんて!」
「ああ……こりゃチートだな」
「……ちーとって何?」

 異世界にチートって言葉はないのか。

「まあ気にすんな……早くギルドに行こうぜ?」

 『アンバーラ』の入り口を通り、ギルドを目指して歩く。

「……なんかイツキ、ソワソワしてない?」
「し、してねえよ……」

 ……リオンは、俺に何の話があるんだろうか。

「……リオンも可愛いからなあ」
「イツキは何を口走って―――」
『緊急連絡!緊急連絡!現在、町の南部の入り口に『ゾディアック』『乙女座』が現れました!近隣の住民の皆さまは、ただちに避難してください!繰り返します!現在、町の南部の入り口に―――』

 突如、凄まじい音量で流される警報に、ランゼが表情を引き締める。

「こ、これは……?!」
「『ゾディアックセンサー』……!町の南部に『ゾディアック』が攻めてきたみたいね」

 『ゾディアックセンサー』って……ヘルアーシャが置いていった『魔道具』だったよな?

「……どうしようか」

 正直、危険な目には遭いたくない。
 俺じゃなくても、他の誰かが『ゾディアック』を討伐してくれるんじゃないだろう―――

「何を迷ってるのよ!」
「いっ―――お前、いきなり叩くんじゃねえよ!」
「イツキの強さなら『ゾディアック』を討ち取れるかもしれない……ね?」
「ね?じゃねえよ」

 でも……『ゾディアック』がどのくらい強いか見とく必要もあるし……

「はあ……危険だったらすぐに逃げよ」
「なんでそんなに後ろ向きなのよ?!」
「そんなことより、町の南部ってどこだ?」
「こっちよ!付いてきて!」

 『乙女座』……一体どんなやつだろうな。

――――――――――――――――――――――――――――――

「ぐふっ……こんな、ところで……」
「はあ……もう終わりなんですか?あっけないですね」

 ―――見つけた。
 おそらく『乙女座』と思われる少女と―――血まみれの女の子が。

「……さて……そろそろ侵略開始といきますかね」
「君、の相手は……僕、だよ!」
「しぶといですね……『アイスインパクト』」

 少女の手から放たれる『氷の塊』が、女の子に襲いかかり―――

「『クイック』」
「ぇ―――」

 ―――当たる寸前、女の子を抱えて『乙女座』から距離を取る。

「……大丈夫か?」
「う、うん……大、丈夫……」

 ……この女の子、額から『角』が生えてる。

「イツキ!」
「ランゼ、この子を連れて離れてろ」
「わ、私だって戦うわよ!」
「いや、お前『破滅魔法』使っちまっただろ?意味もなくな」
「うっ……それはそうだけど……」

 この女の子……酷い怪我だ。

「いいから早く―――」
「『アイスインパクト』」
「―――鬱陶しい」

 迫る氷の塊を、『魔導銃』で正面から撃ち砕く。

「へえ……なかなかやりますね」
「そりゃどうも……」

 女の子をランゼに預け、少女と向かい合う。

「……お前が『ゾディアック』の『乙女座』か?」
「その通りですけど……その名前可愛くないです……私にはちゃんと『ヴァーゴ』という名前があります」

 ヴァーゴ……?

「まあお前の名前とかどうでもいいんだけど……」
「あなたから聞いておいて、その反応は失礼だと思うのですが……」
「あいあいわかったわかった……」
「……雑な人ですね」

 ヴァーゴが身を低くし、戦闘体勢に入る。

「あー……『クイック』」
「『クイック』……?まさか『光魔法』ですか?」
「そだよ……なんだ、びびったのか?逃げるんなら見逃してやるぞ?」
「びびってはないです……相手にとって不足なし、と思っただけです―――『アイスブレード』」

 『氷の剣』が現れ、ヴァーゴを取り囲む。

「さあ……戦闘開始です」
「上等じゃねえか」

 高速で迫る氷の剣を、横っ飛びで避ける。
 ……よし、『クイック』でスピードを上げれば、ヴァーゴの攻撃は避けられそうだ。

「『光魔法』が使える……どうやらハッタリではなさそうですね」
「そうか、ならたっぷり味わってくれ―――『フィスト』」
「『ネオ・アイスインパクト』」

 腕力を上げ、先ほどより『格段に大きくなった氷の塊』を砕く―――

「むっ―――」

 ―――それだけでなく、その先にいたヴァーゴを拳圧で吹き飛ばす。

「『クイック』!」

 一気に距離を詰め、体勢が崩れたヴァーゴの顔面に―――

「―――ふっ!」
「うおっ!んにゃろ……!」

 ―――避けられた、嘘だろ?『クイック』でスピードを上げてるんだぞ?!ヴァーゴにはこの速さが見えてるのか?!

「ふうっ……『光魔法』というのは相変わらず驚異ですね、死を覚悟しましたよ」
「その割には随分余裕そうじゃねえか」
「そうですね……あなたは強いですが、私には勝てませんから」
「言ってくれんじゃん」

 ……強いな。
 これがあと11人もいるって考えると……気が滅入る。

「しゃーねえな……」

 『魔導銃』を構え、ヴァーゴに弾丸を放つ。

「『アイスウォール』……『アイスブレード』!」
「『クイック』!」

 弾丸は『氷の壁』に阻まれ、続けざまに氷の剣が襲いくる。
 氷の剣を避けつつ、距離を詰めながらヴァーゴに『魔導銃』を構える。

「『アイスウォール』!」

 目の前に氷の壁が現れ、俺の攻撃は―――

「『形態変化』!『弍式 散弾銃ショットガン』!」

 瞬間、『魔導銃』の形が変化する。
 淡い光に包まれたかと思うと、あっという間に形を変え、散弾銃に変貌した。

「しゃらあ!」
「んなっ?!」

 『ドーン!』という重く鈍い音、散弾銃の一撃の前に氷の壁は砕け散った。

「おらおら!どんどん行くぜ!」
「くっ!むっ!」

 連続で放たれる散弾を避け、ヴァーゴが驚いた表情を見せる。

「そ、それは何です?!そんな危険な『魔道具』見たことないですよ?!」
「『魔道具』じゃねえ…これは『変化式魔導銃』っていう『神器』だ」
「じ、『神器』……?」

 ……『神器』って言葉はないのかな?

「まあいいや……おら、逃げるんなら今のうちだぞこら」

 『ジャコッ』と威圧的にリロードする。

「あなたみたいな冒険者がいたとは……本気を出すしかないですね」
「……今なんて?本気出すって?」

 いや、待て待て……そうハッタリだ、ハッタリに違いない!

「『ネオ・アイスウェポンアーツ』」

 ヴァーゴの冷たい詠唱……それに従い、数え切れない数の『氷の武器』が現れた。
 ……え、マジで?いやいや、こんなの無理じゃね?

「さあ……これに耐えきれますかね?」
「……『クイック』」

 スピードを上げ、ヴァーゴに向かって―――

「―――え?」

 ―――突っ込むことなく、背中を向けて逃げた。

「ちょ、ちょっと?!それはあんまりじゃないですか?!戦闘中に背中を向けるなど―――」
「じゃあなにか?!お前は俺に死ねと?!」
「はいそうですけど」

 そうだ、こいつ敵だったわ。

「くそ、早いです……!」
「いやなんで振り切れねえの?!」

 ヴァーゴの足速すぎだろ?!こっちは『クイック』でスピード上げてんだぞ?!なんで付いてこれるんだよ?!

「付いてくんじゃ、ねえよ!」

 振り向きながら散弾銃を構え、狙いを定めることなくぶっ放す。

「ほっ?!いきなり攻撃してくるなんて……まさか、攻撃に繋げるための演技だったと……?!」
「んなわけあるか」

 狙いを定めてない一撃が当たるわけもなく、簡単に避けられてしまう。

「はあ……『ネオ・アイスウェポンアーツ』―――いけ」
「『クイック』!」

 先ほどより『魔力』を込め、スピードを上げる。

「ふ―――ぬっ!」
「ほらほら、避けないと怪我をしてしまいますよ?」

 んなことはわかっとるわ!

「うおっぶね!ぐぬっ……!」

 ヘルアーシャが『身体能力を底上げ』してくれてなかったら、今ごろ俺はボロボロにされてただろうな。

「くた、ばれやあ!」
「『ネオ・アイスウォール』!」

 散弾銃から放たれる一撃は、分厚い氷の壁に阻まれる。
 ……これじゃ、俺が殺されるのも時間の問題だ。
 やっぱりここは逃げた方が―――

「―――ったく、そんな思考になるから俺はヘタレなんだよな……」
「何をブツブツと言っているのですか?」
「何もねえ」

 ヴァーゴの身体能力は、あり得ないほどに高い。

「……なあ、お前強すぎないか?」
「当たり前じゃないですか、私は『ゾディアック』の中で3番目に強いんですから」
「ん?3番目?」

 そりゃ強いわけだ。
 ……てか、こいつが3番目って……こいつより強いのがいるのかよ。

「……大人しく退く気はないか?今なら見逃すけど?」
「何を言ってるんですか。ここまで戦っておいて」
「ま、それもそうか……」

 ……ランゼは、もう逃げただろうか?

「さてさて……もう1つ試してみるか―――『形態変化』、『参式 機関銃マシンガン』」

 散弾銃が淡く輝き、機関銃へと変化する。

「……また面白い形に変わりましたね……あなたは一体何者なんですか?」
「俺か?俺は……勇者候補って感じかな?」
「勇者候補、ですか」

 意味深にそう呟き、ヴァーゴが邪悪に笑う。

「それなら尚更、あなたを殺さなければなりませんね……『ゾディアック』に驚異となる者には、死を」
「おーおー、随分と物騒なこと言ってくれんじゃん、ロリっ子が」
「……そのろりっこ、という言葉は初めて聞きましたが、とても不愉快ですね」

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