家族になって1ヶ月の妹に誘われたVRMMOで俺はゆるくやるつもりがいつの間にかトッププレイヤーの仲間入りをしていた

ノベルバユーザー203449

第2話 ゲームでの妹

 星歴351年。惑星『エネルガル』は突如として破滅の脅威にさらされた。

 4柱の異界の神々により文明は破壊され、多くの人々が命を落とした。やがて世界に潜んでいた人類の原初からの敵である魔物達もその活動を活発化させ、人類はいよいよ滅亡の危機に立たされていた。

 このままでは世界が滅んでしまうのも時間の問題だと考えた星神『エリア』はその力の全てを使って異界とのゲートを開く。

 ゲートより呼び寄せたのはかつて異界の神々と戦い、そして勝利した世界の住民である勇者達。

 彼等は異界の神々を倒し、人類を滅びの恐怖から解放するために、未知なる世界を冒険者として突き進む。

 ――――これは後に《異界神戦争》と呼ばれる神と人間による旧世界決別の戦いの序章である。

アルテマブレイバーズ ヴァーサスリバイバル Season1
《異神復活》

 ◇

 ゲームを起動して最初の脳波スキャン終了後、真っ先に視界に飛び込んできたのは美しい緑の世界が炎に包まれる様子。次いで4つの巨大な影が現れて人々と町を消し去った後に光を放つ女神が降り立ち、空に向けて一筋の光を放った。

 これは言うまでも無くABVRのオープニングムービーだ。公式サイトでも紹介されているメインストーリーをナレーション付きでかなり簡単にムービー化したものが流れると聞いていたが、その現実と相違ないリアル感は圧巻の一言だった。炎が出てきたときには思わず身構えてしまったし。

 ちなみにメインシナリオにはかなり物騒なワードが飛び交っては居るがプレイヤーは実際の所、何をしても良い。仮想現実の世界を気ままに観光しても良いし、家や畑を作って農家として過ごしても良い。

 ただまあ一応はこういうメインシナリオがあって、運営が用意したプレイヤーの目的は異界の神々を倒すことだということさえ覚えておけば良いらしい。もちろんこのメインシナリオを進めていけばゲームが進行し、新アイテムや新エリアが開放されていくという話だ。

 ともかくどう遊ぶにしてもゲームの世界に行かなければ何も始まらない。早速ゲームをスタートする。タイトル画面から設定画面へ。

 本来ならこれからキャラメイクの時間なのだが、遊びやすさ重視のABVRではゲームスタートに先んじてスマホやパソコンの専用アプリでキャラメイクができる。そして事前に作っておいた物をコード入力で呼び出すだけでキャラメイク完了。

 もちろん実際に動かした感覚の確認なんかは実際にゲーム内で無いと分からないが、それでも事前に大体の見た目は作っておけるのでキャラメイクのために何時間も費やしてVRMMO初体験の1日目を不意にするなんてことにはならずに済む。面倒なら自分の写真を撮ってそれをそのままアバターにすることもできる。

 俺はその機能を利用してほぼ現実の姿そのままのアバターにした。

 ほんの少しだけ癖がついた茶髪以外はそんなに分かりやすい特徴は無い自分の姿。スマホでパシャっと写真を撮っただけなの身長まで同じアバターができあがってしまった。科学の進歩を感じる。

 そして初期クラスも事前に天音ちゃんにコレにするべきと言われていたものを選択。

 クラスというのは他のゲームでいう職業のようなもので好みのプレイスタイルや戦闘スタイルで選ぶ物らしい。
 その種類は10種類以上あるらしく、それぞれステータス補正値や使える技、あとは装備に差があるらしいのだが、良く分かっていない俺は天音ちゃんの言うことを鵜呑みにしてクラスを決めた。

 そして最後に設定の最終確認と個人情報の登録。そしてプレイヤーネームの登録が来る。

 プレイヤーネームは本名を少しだけもじった《アキト》に決定。NGワードというわけでも無いようなのですんなり通る。これで全ての準備が完了。満を持して仮想現実の世界へ飛び込める。

「ゲームスタート!」

 そして視界は暗転、吸い込まれるような感覚と共に視界に映る景色は大きく変化する。

 そこは石造りの床の大きな広場。空を見上げればどこまでも広がる済んだ青空。試しに体を動かしてみれば思うように動く。ついにVRMMOが始まったのだ。

「うわー凄いリアル」

 降り立ったのは世界の中心にして始まりの町、セントラルエリア。そのなかでも全てのプレイヤーが最初に降り立つ始まりの場所こそがこの星門せいもんの広場だ。
 メインシナリオでも言及されていたゲートはこの広場に繋がっているらしく、異界からやって来た俺達プレイヤーはこの場所に転送されることになっている。

 周りにはゲームを始めてすぐのプレイヤーが大勢居る。殆どがレベル1だが、中にはレベルが20以上のプレイヤーも混じっている。恐らく彼等がβテスターなのだろう。装備も俺が今着ているような初期装備のインナーでは無く、色とりどりの物を身につけている。

「いや、人間観察じゃ無くて、早く天音ちゃんを見つけないと」

 実はゲームにログインする前にいったん合流してから行動しようという約束をしていた。βテストから参戦する天音は俺と比べれば入力項目は更に少ないはずなのでもうログインは完了しているはず。

 けれど非現実的なまでに人が多いこの状況では特定の一人の人物を見つけるというのはすさまじく難易度が高い。

 大声で名前を呼んでも良いのだが、互いに恥ずかしい想いをするのは確実なのでそれは最後の手段。

 どうした物かと考えていたとき、一人の女性プレイヤーが手を振りながらこちらへ駆け寄ってくる。

 頭上に表示されているプレイヤーネームの横にはフレンドであることを表すサムズアップマークがついている。実はフレンド登録もスマホなんかでできるのでそれを利用して先んじてやっていたのだが、俺はそのフレンドが果たして本人か疑わしかった。

「やっと見つけた! あきひ――いや、アキトさんで良いよね? 」
「あ、はい」

 目の前でこう聞いてきたのは金髪の少女。レベルはβテスト時点での上限である30。装備も初期装備の簡素なものでは無く白色のこざっぱりとしたパーカーを羽織っている。

「いやーこうも人が多いと移動するのも一苦労で。マーカーを頼りに進もうとしても邪魔されるのなんので」

 そんな風にフレンドリーに話しかけてくれるが俺としては正直戸惑ってしまう。ものすごく悪い話だとは思うが、俺はこう言うしか無かった。

「えっと、本当に天音ちゃん?」
「えっ」

 そのプレイヤーの名前は《カノン》。事前にフレンド登録しているところや俺の本名を知っているところから分かるように天音ちゃんのアバターだ。けれど先にプレイヤーネームは聞いては居たが、アバターの容姿は聞いていなかったため違和感が半端ないことになっている。

「いやだってほら、キャラ違うし、金髪だし、キャラ違うし……」
「そんな2回も言わなくて良いから。うーん、まあでも言ってなかった私も悪いから仕方ないか」

 唇の辺りに指を当てて空を見上げる天音ちゃん改めカノンは普段の現実世界の彼女とは全く別人に見える。髪色以外はリアルと大差ないのにその口調や性格のせいで全くの別人に見えるから恐ろしい。

「私自身、自覚は無いけどめちゃくちゃ集中してるときは性格変わるらしいのよね。昔からずっと」
「うん」
「もっと言うとABやってるときは凄い集中してるらしくてさ、ずっといつもと違う人間みたいって言われてる」
「それって二重人格ってこと?」
「病院で見て貰ったらバラバラの人格が居るわけじゃ無いから違うって言われた。あえて例えるなら、家族と話すときと他人と話すときで口調と声の高さが変わるおばちゃんみたいなものだって」
「あーいるよねそういう人」

 ここに来てまさかの新事実。俺の義妹はゲームをやる時は人が変わるタイプのようだった。でもまあそれで接し方を変えるようなことはしないし本人に自覚が無いなら変に掘り下げるのも野暮だろう。ここは大人しく話題を変える。

「ところで金髪の方は?」
「あ、これはただの願望。リアルだと頭皮弱いし、校則で禁止だし、友達には黒の方が良いって言われるしで染められないからゲームくらいはって感じ。で、アキトさんはどう思う?」
「けっこう似合ってる」

 そもそも元の顔が良いから何やっても似合いそうではある。下手したら丸坊主でもなんとかなるかもしれない。激怒されても困るから絶対口にはしないけど。

「ありがと。じゃあ早速行こっか」
「行くってどこに?」
「冒険者会館。最初はそこに行かないと始まらないから」

 昨日唐突にプレイすることに決めた俺なんかとは違い、カノンは充分過ぎるくらいに事前情報を仕入れている。だから序盤の攻略チャートも頭には全て入っているのだ。なので少なくとも最初の内は俺はカノンと一緒に行動する段取りになっている。

「じゃあそれで。俺は何も知らないからカノンさんに大人しく従うよ」
「よし、それじゃあ早速――待って。なんでさん付けなの?」
「いや何となく今の感じはさん付けの方が良いかなーって」
「なんかムカつく。こっちも呼び方変えてやる」

 沸点がとんでもなく分かりづらい。というかそれ以前にこのキャラを前に距離感がイマイチ掴めない。

 まあゲームも家族としても始まったばかり。スタートは確かに切れたのだからあとはゆっくりでも慣れていけばいい。

「じゃあこれからよろしくね、アキト君?」

 そう、俺達の忘れられない一夏の冒険はここから始まる。 

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