異世界英雄のレイン (旧題:異世界英雄の創造主)

Noct@Kirusu

襲撃、魔族の男



「はぁー、またゴブリンか・・・」


 これで何匹目だろうか。四十匹以上は倒しているなのにゴブリンの数は一向に減らない。


「兄様、口より手を動かして下さい!」


 アイリは口ではそう言っているが実際にはかなり嫌がっている。その証拠に、魔法が雑になって何匹か生き残りがいる。

 アイリさん、アイリさん、嫌がっているのは分かっているから僕に八つ当たりしないで欲しいな~


「八つ当たりなんてしていません!」


 言葉と行動が一致せず、八つ当たりでゴブリンたちは氷付けさせられ、その次は風魔法で切り刻まれ、また火魔法で焼かれた。

 ここまで一方的にゴブリンが殺されると、ゴブリンに同情したくなるんだが・・・


「・・・・・・ゴブリンが何故、襲ってくるのかわかりましたか」


「まだだよ」


 ふざけるのも、やめにして真面目に考えるか。何故ゴブリンが襲ってくるのか、を。

 まず、ゴブリンの特徴を思い出そう。ゴブリンは弱い、そのため数が多い。このことは人間にも当てはまる。人間は弱い、そのため数が多い点では当てはまる。しかし、ゴブリンは人間より数がはるかに多い・・・いや、この言い方だと違う。ゴブリンは人間よりも遥かに多く子供を産む。そのため、本には《ゴブリンを見つけたら、百匹いると思え》と書かれる始末だ。
 話が脱線しかけたので戻すが、ゴブリンは賢くないため本能に従う。相手が強いと分かったらすぐに逃げ出すほど。

 それなのに、ゴブリン達は逃げない。アイリの力には到底及ばないと分かっているはずなのに。もちろん、僕もゴブリンを虐殺した。

 このことから二つの可能性が浮かんでくる。一つは、僕達よりも強い相手がいるため、僕達を殺して逃げようとしている。もう一つは、洗脳または命令されている。

 弱い魔物は何故か強い魔物の命令に従う。これは本にも書いてあった。

 本の事は今、どうでもよくどちらの状態もヤバい事が重要だ。ゴブリンは家に近づくほど数が多くなっている。これは家に何かあった、または家の近くに危険な魔物がいることを示している。


――ズドン、ズドン

 めんどくさい事にオークまできたよ。何でオークまで出てきてるの。ここはゴブリンも滅多にでてこないはずなのに。


 オークはゴブリンより強く、体も二メートル近くまでの大きさ。力が強く大人一人は普通に持ち上げれる。物理に強い反面魔法に弱いそのため、ゴブリンより強いはずのオークがアイリの魔法によって瞬殺された。

 あれれ?オークってこんなに弱かったの?


「兄様、早く帰りましょ・・・ッ!」


 オークを全て倒したアイリは気を抜いてしまいシャドウウルフの存在に気づけなかった。僕はもちろん気づいていたからアイリの後ろにいたシャドウウルフ達の首を剣で切り落とした。

 ほんの数秒。しかし、その数秒だけで人の生か死か決まる。さっきの状況がまさにそうだ。僕がいなかったら、アイリは死んでいたかもしれない。

 そのことに気がついたアイリはただ反省しかない。


「ごめんなさい・・・」


 しっかりと理解できてるから怒らない。僕は怒る代わりにアイリの頭の上に手をのせる。アイリはこれが好きだった。だから慰めるために使う。少しでも安心して欲しいから。最悪の結末なんて想像して欲しくないから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 そんな僕の思いとは裏腹に大きな爆発音といっしょに黒い煙が上がった。黒い煙の下は家がある場所と一致する。

 僕の中で何かが壊れかけた。


「ま、待って下さい、兄様!」


 アイリの言葉を聞かず、一直線に進む。進行方向にいる魔物は殺した。

――首を切り落とした
――魔法で打ち抜いた
――蹴り潰した

 これを何度も続けた。一秒で何体も殺した。一秒毎に殺すスピードを上げた。速く、魔物を殺すことだけを考えて。




◆◆◆



 家に着いたとき・・・いや家の方から爆発音と煙が上がったときから覚悟していた。カレン、エイナ、ケイが死んでいることを。カレン達は体中から血が出ていた。顔を除いて・・・・・。まるで誰か分かるように。

 そして、カレン達のそばにいる男は笑っていた。その男は背中から翼を生やし、頭には角を生やしている。そう、その男は魔族だ。


「お前らが、この虫の子どもか?」


 魔族の男はカレンを指差し言った。とても嬉しそうに。この言葉を聞いたアイリは激怒し、『アイスランス』を10本無詠唱で魔族の男に向かい放った。

 しかし、魔族の男は避けること無く、アイスランスを全て溶かした。一本の『ファイヤーランス』で。


「おいおい、そんな弱い魔物じゃ俺の火魔法に勝てないぞ~」


 今の攻防でアイリは魔族の男の力を理解した。「自分では絶対に勝てない」と。アイリは全力の攻撃をしたのに魔族の男は小手調べのような力しか出していない。

 絶望しているアイリの顔が良かったのかご機嫌のままアイリを煽る。


「やっぱり、虫の子どもは虫だな。一回の攻撃で諦める虫と親が死んで何もしない臆病な虫だ」


 カレンとレインのことを馬鹿にした魔族の男をアイリは今すぐ殺したかった。けど行動出来なかった。アイリが優秀過ぎるために魔族の男の力とアイリの力は天と地のように離れていたことが嫌というほど理解できた。「どんなことをしても勝てない」と。「魔族の男が少しやる気になれば一瞬で殺される」と。

 レインとアイリが絶望していることに満足している魔族の男は笑いながら言った。


「俺はお前らのような未来ある子どもを殺すことは出来ない(笑)。だ~か~ら~、二人殺し合って勝った方は見逃してあげるぞ。俺って優しいな」


 これこそ、悪魔の囁きだ。殺し合いをすれば殺された側は相手を恨み、相手が自殺すれば取り残された人は罪悪感が襲ってくる。絶対に負の感情が生まれてしまう。そして魔族の男が約束を守る保証がない。

 そのことを理解しているアイリは迷うことなく相手から視線を外さない。


「俺は悲しいぞ(笑)。こんなに優しい魔族が他にいると思うのか(笑)」


 魔族の男は涙を拭うような仕草をしながらレインとアイリのことを笑っていた。

 しかし、レインとアイリが何の行動もしなかったのが面白くなかったのか笑いを止めた。


「じゃあ、俺が約束を守る男だと証明してやろう。そこの怖じ気づいて動かない虫のステータスが最初、オール1だっただろ?更にスキルもなかっただろう?」


「ッ!!」


 アイリは何故、兄様のステータスをこの魔族の男に知っているの理解出来ず、動揺してしまった。アイリの表情に変化があったことでまた、上機嫌になった魔族の男は続けて説明した。


「エイナって名前の虫がそこで倒れているだろう。その虫が俺に魔法で攻撃してきたんだよ。だからな、すぐに殺そうとしたんだよ。けど、お前らの母親が「私の命はどうなってもいいのでエイナを逃がしてください」ってお願いしてきたんだよ」


 俺みたいな魔族にだぞ?あの時は笑った笑った。


「だから俺はこいつらが絶望した姿が見たかったんだよ。どうすれば、こいつらが一番絶望するか考えたんだよ。そのお陰で思いだしたんだ。人間は自分の子どもを一番大切にすることを。だから呪いをかけたんだよ。自分が産んだ最初の子どものステータスがオール1になってスキルが修得出来ていない状態にする呪いを」


 あ、これは魔法で記憶を消していたっけ?一瞬悩んだがすぐに悩みなどどうでもよくなった魔族の男は証明できたことを喜んでいた。


「まあ、これで俺は約束を守る優しい魔族だと証明できただろう?」


 このことを聞いたアイリは激怒した。自分の兄であるレインのステータスが低かった原因が目の前にいるとわかったから。自分の家族を不幸にさせた原因が目の前にいると知ったから。

 アイリは魔族の男を殺すことしか考えてなかった。


「アイスランス、アイスランス、アイスランス、アイスランス、アイスランス、アイスランス、アイスランス、アイスランス、アイスランス、アイスランス、アイスランス、アイスランス、アイスランス、アイスランス、アイスランス、アイスランス、アイスランス」


 アイスランスは魔族の男を狙ったり、動きを封じるために周辺に飛んでいった。そして魔族の男をアイスランスで取り囲んだことを見たあと、詠唱省略で詠唱し始めた。


「《聖なる氷よ、邪悪なる存在を凍らし、浄化せよ》聖氷華ホーリークリスタルフラワー


 聖氷華に凍った魔族の男を見てアイリは安心して地面に座り込んだ。聖氷華は魔族や魔物を凍らし大ダメージを与える束縛系消滅魔法だ。この魔法は本来、アイリが、超天才の5歳の子どもが使える物ではない。では何故使えたかと言うと、アイリは自分の生命力、HPを代償にMPを増やした。アイリの固有スキルで・・・・・・・・・・

 少し回復したアイリは立ち上がりレインの様子を見ようと後ろを向いた時、嫌な音が聞こえた。大きな氷を内側から壊した時のような音が。振り返ると、魔族の男が聖氷華から出ていた。

 その瞬間、何かを見られているような変な感覚が感じた。すぐに離れようとするが、MPを大量消費してしまったために体が上手く動かず、転けてしまった。


「おい、そこのお前」

 アイリに指を差しながら近づいて来る魔族の男。


「この俺、マージラスの部下にならねえか?」

 さっきまで殺そうとしていた敵を部下にしようとする魔族の男、マージラスにどのような反応をすればいいのかわからないアイリ。


「人間の子どもとは思えない程の力をお前は持っている。しかも5歳だ。このまま成長すれば俺ぐらいの力を得るだろう。だから、このまま殺すのはもったいないと思ったわけよ」

 そして更に勧誘が続く。


「もしも、俺の部下になるなら優遇してやるよ」

 だけど条件があると言うマージラス。元々、アイリが部下になる気がないことに気づかずに条件を言った。


「お前の兄を殺せばな」

 ここでアイリの表情が怒りに変わった。そのことを理解出来なかったマージラスはアイリに言う。


「じゃあ、お前を殺すぜ」

 マージラスは腕を上げた。アイリは怖くなり目を瞑った。しかし、マージラスの腕は下ろされてこない。そこで目を開けて、見た光景は片腕がなくなって怒っているマージラスと氷より冷たい表情をしていたレインの姿だった。







お久しぶりです!早速ですがアイリの魔法、聖氷華のルビがダサいと思ったらいい案を下さい。<(_ _)>


 本文の後半部分にアイリが何かを見られていると感じたのは、マージラスが鑑定を使ったためです。


どうか、これからもよろしくお願いします。

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