チートな俺の異世界生活

日ノ丸太郎

12話 チートな俺とゴブリン王

 両者刹那的ともいえる時がすぎさり、風は穏やかに吹き続けていた。 自分との力の差を噛み締めた彼は一粒の汗を流しながら、近づいてくる本日のメインイベントの方をいつもどうりの不敵な笑みを浮かべながら振り返るのだった。

振り返った健太の目に映ったのは、ゴブリンナイトよりも背が高く、ゴブリン王と思われるゴブリンだった。 ゴブリン王(仮)は片手に自身よりもデカイ大剣を持っており、ゴブリン王の筋力をわかりやすく教えている。 顔、手、胸、足、に傷があるその様は、ゴブリン王(仮)の強さを表しているようにも感じ取れる。

「テメーか、ゴブリンナイトを殺ったのは」

その者が発した力の籠った声は、静かに空気を揺らす。

「いや、こいつには眠ってもらっているだけだ、殺してはいないから安心しろ」

「あぁ そうかい。 で、覚悟…できてんだろうな人間」

「勿論だ」

「よし、じゃあ…」

「待て」

剣を構える彼に対して健太は手のひらを広げ前に出した。 

「何だ、今更命乞いしてもおせぇぞ」

「そんなことはするわけがないだろう」

頭をゆっくり横に振る健太。

「じゃあ何だ?」

「まず、お前はゴブリン王か?」

「あぁそうだが」

「よし、ならばいい…《絶対命令権》」

「あ? 何だ?」

そう言うと健太の目の前に紙のようなものが出現した。






絶対命令権

ゴブリン王が健太に負けた場合。

・この村に住むゴブリン達は健太の命令に絶対に服従しなくてはならない。

・人を傷つけてはならない。
(だが、相手が悪意をもって攻撃してきた時は攻撃して構わない。 相手が防衛手段として攻撃してきた時は殺してはいけない。 話しあいで解決すること、それでも駄目な場合は仕方ない。 だが、その判断は絶対命令権が決める)





そして、ゴブリン王の目の前にも同じく紙が出現する。ゴブリン王は、その紙を掴もうとしなかったが、紙は地には落ちず、浮いている。

「その紙はお前が俺に勝った時に俺にしたいことを書くものだ。 書くと言っても思えば勝手に書いてくれるから安心しろ」

「…んなもん、いらねぇな」

口角を上げゴブリン王はそう言った。

「じゃないと始まらないぞ?」

「はぁ?」

(!!? …何!? 体が動かないだと?)

「言っただろう? これは『絶対命令権』だと」

少し苦い顔をするも、再び口角を上げた。

「なら、これだな」

そういい、ゴブリン王は書いてある紙の表面を健太の方に向けた。





絶対命令権

・ゴブリン王が健太に勝った場合健太は死ぬ





「ふん、バカだな」

「ああ?」

「いやだってバカだろう。どうせお前は勝つ時にこの命令権がなくても殺すのにっと思っただけだ」

そして、紙は燃えて消えていった。 そして、また一枚の紙があらわれる。

健太は戦いの内容が元々決まっていたのか、出現した紙の表面にはすでに文字が書き始まっていた。





絶対命令権勝負内容

一対一の1本勝負

・基本ルールはなし

・相手が気絶するか、死ぬかで勝負は決まる





「この紙が燃えきった瞬間、バトル開始だ」

ゴブリン王は剣を構える。

「さぁ せいぜい楽しもうではないか!」

健太は勢いよく紙を投げた。 そして、剣を構える。 

紙が燃えきった瞬間、両者檻から放たれた獣の如く駆け出した。俺こそが狩人だと言わんばかりに。

両者同時に剣を振り下ろす。 

そして、鉄と木はぶつかった。 両者の腕にそれと同じぐらいの衝撃が両者の腕にぶつかりあった時に生じた音のように響きわたる。

(やはり…力の差を感じるな…だが、こんなもので弱音を吐いてはいられない)

ゴブリン王が健太の腹を蹴ろうとした瞬間、健太は体ごと剣に力を乗せた。

「グヲォ!?」

ゴブリン王は体のバランス崩す。 健太はその隙を逃さす次の一手をうつ、剣を横に構えて、ゴブリン王の胸元に剣を振るう。

が、ゴブリン王はぎりぎりのところで剣を構えた。 健太はそれに惜しいとは思ってもそのまま剣ごと押し飛ばした。

飛ばされはするものの、すぐに体勢を持ち直すゴブリン王。 健太は再び隙を狙うことはなく、ゴブリン王が起き上がるのを待っていた。

(そうか、アイツゴブリンナイトも俺と同じ戦い方だからそれで、コイツによまれたってことか…だが、力ではこちらの方がぶがあると思える)

ゴブリン王が駆け出すと、健太も駆け出す。

「フン!」

再び始まったが…

(…所詮は下級冒険者だな)

(これは!?)

その瞬間健太は飛ばされていた。 健太はゴブリンナイトの時ほどではないが、木に勢いよく背中をぶつけた。

「…!?!?」

声にならない痛みが健太を襲う。 全身が悲鳴をあげる。 息も一瞬できなくなった。

「ゲホ! …ウェ…はぁ…はぁ」 

(ふざけるな…なんだ今のは……クソ!)

ゴブリン王は健太の目の前まで既に迫って来ていたのだ。 

そして…

とても、表現し難い音が漏れた。 

(な…何をされた)

それはまるで、脳が理解を拒むようだった。
何をされたかが、目には映っているのにそれを理解しようとしない。 

背筋が凍る。 体の芯が冷える。 恐怖で視界の周りが黒くなっていく。

(…あ…何? 俺は今…)

次の瞬間焼けるような痛みが健太を襲う。

「あ、ああああああああ!!!!!」

ゴブリン王は剣を健太の胸から引き抜き、その場から去ってった。

(己ではない何かが叫んでいる。 血は止まらない。 何も感じない。 意識が、記憶が薄れていく)

だが、彼を何かが己を掴み地獄に叩き戻した。

(う、うわあああああああ!!!! ふざけるな! 何故戻した!!!)

何かは嘲笑いながらこう言った。

(お前には回復魔法があるだろ? お前はアイツとは違う…お前は強い…何度貶されても、落とされても絶対挫けない、不屈の魂だろ?)

「………五月蝿いな、誰…だ…ふぅ…偉そうに言っているのは」

彼はゆっくり立ち上がる胸からは血が滴り落ちる。 痛みともいえない痛みが彼を立ち上がらせる。

「はあぁ…ふうぅ…はぁ…ふうぅ…クッ」

(たまらないな…悔しくて、悔しくて…本当に…たまらないな…)

沼に入った足をあげるが如く健太は歩く。
健太を何が動かしているかわからない。 
だが、健太は進むゴブリン王のもとに。

「ン…フッフッフッフッ…ゴブリン王…何を勝った気でいる…俺は…生きてるぞ?」

途切れ途切れであるが彼はいつもようにそう言った。

ゴブリン王は健太のほうに振り返る。

「!? …フン…バカなヤツだなお前…静かに死を受け入れていればいいものをな」

ゴブリン王は剣の先を健太に向けながらそう言った。 

「このままでは流石に戦えんな…全回復フルヒール」 

痛み、そして、黒き渦が健太の中から消え去った。 胸の穴も綺麗に元の状態に戻っている。 

「何!? お前! 今何をした!!!」

ゴブリン王は咄嗟にそう叫んだ。 無理もないだろう、普通ならなし得ない奇跡なのだから。 

全回復フルヒール。 それは、回復魔法の中でも上位の魔法である。 ゴブリンが見たのならそれは奇跡に達する。

(ふざけるな…そんなことをできるのは上位悪魔くらいだぞ!……まさか、コイツの魔力は上位悪魔に匹敵するとでも言うのか? …スキルか…普通にしてはバランスが壊れすぎている。 第一に魔法専門ならば、この男の行動は狂気の沙汰だ…この人間…いったい何を考えているのだ)

「さて、ゴブリン王…第二ラウンドを開始といこうか!」

そう叫び、健太は駆け出した。

「クソガァ!!!」

ゴブリン王も駆け出す。

当たり前のことだが、ゴブリン王の大剣のほうがリーチが長い。 そのため、先に剣を振り下ろしたのはゴブリン王だった。

ここで健太がこの一撃を受けとめたなら先程のように力負けするだろう。 

この勝負ゴブリン王の方が有利なのだ。
健太の魔力が化物じみていなかったのなら。

剣が健太に当たる寸前にゴブリン王の目に口角の上がっている健太の顔が映る。



ゴブリン王の一撃は健太に当たらなかった。
健太は右斜め上から斬りかかってくる剣を屈んで素早く左に回避したのだ。

(ぬ!?)

ゴブリン王の顎に強い衝撃がはしる。

(バカな!?)

健太はゴブリン王の一撃をかわし、剣を切り上げた。 続いて胸に一突きいれる。

ゴブリン王の筋肉が剣の入る長さに比例してへこむ。

「ぐおぉ」

健太はそのままゴブリン王を突き飛ばす。
だが、ゴブリン王の筋肉も馬鹿にはできず、空中で体勢を崩すことなく、数メートル飛ばされただけでとどまった。

無言で距離をつめるゴブリン王。

右斜め上から 岩をも砕きそうなその一撃を健太は先程と同じくかわす。

直ぐ様二連目を放つもそれも健太はまるでその行動を読んでいたかのように右に跳んでかわす。 そして、かわしている途中ですかさず反撃をくわえる。

その一撃をゴブリン王は頬におもいっきしくらう。

少し体が浮いたが、踏みとどまるゴブリン王。

「ぐおぉぉぉぉぉ!!!」

ゴブリン王は直ぐ様横切りをくりだす。

健太ははたまたその行動を読んでいたのか、ゴブリン王が攻撃をくりだしたその時には上に回避していた。

そして、一度大剣を土台にし、ゴブリン王の顔面を叩き斬る健太。

この一撃にはさすがのゴブリン王も体勢を崩す。健太の一撃で転がっていくゴブリン王を止めたのは木であったが、その時に生じた痛みは追撃ともいえるものだった。

「ふざけるな…ふざけるなぁぁ!!!」

起き上がり叫ぶゴブリン王。

その後、何度も健太に斬りかかるゴブリン王だが、健太はその全てをかわした。

そして、ゴブリン王はあることに気づく。

(この人間、俺が攻撃をするたびに反応速度が上がっていないか?)

ゴブリン王が一度止まりそう思っている間も健太から攻撃をすることはなく、不敵な笑みを浮かべているだけだった。

(この人間!!)

だが、ゴブリン王の頭を沸騰させるには十分な煽りだったらしい。

ゴブリン王の一撃の速さがいっきにあがる。 まるで、片手剣を振り回す如く。

それでも健太はかわす。 何十とかわし続ける。 

しかし、ゴブリン王の剣を振るう速さが健太の避ける速さに追いついた時だった。

健太は右に持っていた剣を左に持ち替え、自ら右腕をゴブリン王に斬らした。

(コイツ…笑ってやがる)

瞬間、健太の腕から飛び出る血がゴブリン王の目に入る。

「うわあ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!」

少しならよかったが、激しく飛び出る血の量はシャワーの水が目に当たるのと差ほどかわりないものだろう。

健太はその隙を逃すはずもなく一撃一撃といれていく。

ゴブリン王も反撃をしようとするも上手く視界が定まらず、そのような攻撃が健太に当たるはずもない。

健太は止まることなく攻撃を続ける。 一瞬の隙も見えない。 

だが、健太はおもいっきりゴブリン王を叩き斬りゴブリン王と距離をとった。

ゴブリン王はこのチャンスを逃すまいと、視界を取り戻し、右手を失なった健太に今しかチャンスはないと、とどめの一撃をいれにいく。

風斬りかざぎりぃぃぃぃ!!!!!」

健太は剣を逆の方向に持ちかえ、ゴブリン王の大剣が当たる瞬間、門番ゴブリンの槍でやってみたように。 剣の剣身の部分をを大剣の剣身に擦れるように当てた。大剣は健太の剣の剣身部分を線路の上を走る電車の如く擦れていった。

「受けながされた…のか?」

刹那、健太はゴブリン王の方向に振り向き。

風突つかざとつ!!」

「ぶうわぁ!」

風の槍に突かれた如くとんでいくゴブリン王。木に当たるも、その木は一瞬で折れて、続いて4本折った後に6本目の木でようやく止まった。

回復ヒール

健太の切れたはずの右手が元に戻る。

「これで、引き分けだな…ゴブリン王」

紙が健太の前に出現する。




勝者 佐藤健太




「よし、後は死んでないか確認するだけだな」

健太がゴブリン王に近づいていく途中だった。右の方向からゴブリンが一体走ってきた。

「待ってください! お父さんを殺さないで!」

その声から察するにこのゴブリンが雌ということがわかった。

その声を聞いた健太は驚きのあまり言葉を失った。

この時をもって佐藤健太の本当の実戦を終わりとなる。 彼はこれからもこのように戦っていく。 彼を止めるには、 一撃で理不尽に殺すしかないのだ。

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