チートな俺の異世界生活

日ノ丸太郎

9話チートな俺と白髪の少女

 時はたち、太陽は壁の向こうに隠れて辺りは幻想的な光が街を照らし始めた。

(…あれ? 体が重くない…それに苦しくない…それに暑くも、寒くもない…なぜ?)

フユカはそっと目を開ける。

(これは天井? ここは、部屋の中? )

横を見るとそこにはフユカの目覚めを待っている健太が天井を見ていた。

(それに暖かい…こんなに気持ちいいのは初めて。 男…? ………!!!?)  

ばっとフユカは壁に寄る。

「な、なんで男がいる!? それにここはどこだ!」

体が元気なったからかその声はとても通りのいいものになっていた。

「お、どうやら目を覚ましたようだな。
体調のほうはどうだフユカ」

健太は天井を見るのをやめ、フユカのほうを見た。

(…いや、そんなことより体が今までにないくらい軽い! 逃げれる!)

フユカは自分の体の軽さがわかるやいなや窓のほうにジャンプした。

ゴォン!

「痛ったぁ!」  
 
当然と言えば当然だが、勿論その窓は閉まっておりおもいっきり閉まっている窓に跳んだフユカは頭を強打したのだった。

「うぅ~…」

少し頭を押さえていたフユカだったが、すぐさま健太のほうを向きそして

(まずい、捕まる!)

フユカが両腕を前にだした瞬間、先端が尖った氷の塊があらわれた。健太は辺りが少し冷えるのを感じたが、それに驚いている暇もあたえてはくれなかった。

何故かというとフユカが出現させた氷の塊は今にも健太の胸を突き穿ちそうだったからだ。

(まずい、マジで殺す気だ。 これもまだ試したことがないが、今試すしかなさそうだな)

健太が先程手に入れた西洋型木の剣の樋をフユカのほうをむけた。

(そんな木で私の魔法を防げるとでも)

健太が剣を構えた瞬間にフユカの氷の塊は健太に向けて射出された。

氷の塊は空気を裂く音を1度起こすと同時に、木の剣に衝突した。木の剣に当たった氷の塊は硝子が割れた時のような音とともに細かく破壊された。小さな氷の粒は何かに押し出されるが如く左右にとんでいった。

(何で!?)

(どうやら成功したみたいだな)

健太が今使った技は剣に魔法をのせる魔力付与(エンチャント)と呼ばれるものだ。

(まだだ、こんなところで捕まるわけには!)

再びフユカの手の先に氷の塊が出現する。

(今度こそは!)

(先程とは大きさは同じでも作る時間は長いな、レイが言うには魔力の制御というのは難しいらしいからな。 そうポンポンと射てるものではないのだろう)

(お願い!)

氷の塊が健太に向けて射出される。だが、フユカの思いは届かず氷の塊はあっけなく割れ消えた。

(何で! 何でなの!)

フユカが三度目の氷の塊を出そうとしたそのときだった。

健太は木の剣をその場に落とし、フユカを抱きしめた。

(!?)

フユカは一瞬何をされているのかわからず1度は固まるも、自分が置かれている状況を瞬時に理解し爪をたて健太の腹を刺した。

「ぐ…」

(フユカの爪は思ったよりもとがっているのが何故だ? さっき見たときは普通だったのだが、そんなことよりも今は自分もの身を考えろ俺…血は少なくとも今までよりかは全然出ているだろう)

(これくらいじゃ離さないか)

次にフユカは健太の首を力強く噛んだ。

健太はフユカの背中をトン…トンとしはじめた。
 
フユカはやめることなく健太の首、腹からは血がで続けている。

それでも健太は続ける。 

(離せ…離せ…離せ…離せ!)

フユカの頭を埋め尽くしてるのはハツユキの『男という者を信じるな』という言葉。

(離せ…離せ…離せ!……………離してよ)

健太の肩に暖かい液体が当たった。

(…)

健太はただただ続けた彼女がいつか信じてくれるのを信じて。

「何で…何でなの? 何でこんなに暖かいの?」

フユカは噛むのをやめたが腹に爪だけはまださしていた。だが、その体は震えていた。 それに気づき健太はフユカを安心されるためにより強く抱き寄せた。

「何でお前は何もしてこないの? 痛くないの…言うこと聞かない私がうざくないの? 」

「うざくない…これはしかたないことだし、1度優しくされたくらいで消えるトラウマなんてないと思う。 フユカが何をされていたかは知らん。 だがな、こんなまだ幼いお前がここまで男を憎むんだ…よっぽどのことか、親によっぽどのことがあったのだろう。その痛みに比べればこれくらい朝飯前というやつだな」 

フユカの頭には今もハツユキの言葉が流れてる。 唯一信じられる存在。そんな彼女の言葉だったからこそ、フユカは今悩んでいるのだこの男を信用していいのかどうかを。

「ねぇハツユキ…男から受ける全てが嘘だって言ってたけどさ…これも嘘なの? この心の暖かさも、この安心感も、この男の言葉も………それに この男の涙も…全部偽物なの?わかんないよ! 甘えたいよ! ハツユキは1度も優しさも温もりをくれなかった! 何で!!  何でこんなに男なんかに! 男なんかに! 心を許したいのよ!! 教えてよ! ハツユキ!!!!」

フユカの悲しく響く叫びがハツユキに届くことはない。 それは彼女が死んでいるからか、それとも本当に聞こえていないのかはわからない。

それからフユカは本格的に泣きはじめた。腹を刺していた爪は今は健太の両腕を『掴んで』いる。








先程まで声を出して泣いていたフユカだが、今は静かに泣いている。彼女はまだわからないのだ『男を信じていいのかどうかが』それは当然だろう。犯罪者、泥棒、これらの人物を信じたいなんて普通は思わない。 けど、彼女は思ってしまっている。 そんな自分に対する自己嫌悪や、彼に頼りたい甘えたいという人を求める心、これらがごちゃごちゃになり脳内を支配してぶつかりあう。 10才もいっていない少女が考えるには難しすぎる問題だ。

「フユカ」

「フユカじゃない」

「……そうか、だがきいてくれ」

「……」

「俺のこといや、男のことはまだ完全に信用しなくていい。 ただチャンスをくれないか? 俺を見極めてはくれないか? 俺が真の嘘つきか、信用あたる人間かを…それでも駄目なら仕方ないから、俺は他の方法を探す。
だから……その…俺にチャンスをくれないか?」

「嫌」

「頼む」

「嫌」

「頼む」

「ふ…お前ってさ人の言うこと聞いたことある?」

そのとき初めてフユカの口角があがった。

「あるぞ一回 、親に痩せろって言われてたし痩せた」

「何それ」

すっかり沈んだ太陽、二人を照らすのは銀色の月。 この静かな空間だからこそ聞こえてくる、雑音ともいえる人々の声。店などの光は天井を色鮮やかに照らす。

「もういい、離して」

「わかった」

健太はフユカから少し離れる。

「お前のことを少しだけ信じてみる。 完全に信じるわけじゃないから勘違いするな」

フユカは健太の目を見てそう言った。

「そうか、ありがとな 」

健太は涙をひとまず拭いた。

「それとな、名前まだないだろ?」

「ない」

「だからこの名をお前にやろう。今日からお前の名前はフユカだ」

「わかった。 いいよそれで」

「案外あっさりだな。だが、改めて宜しくなフユカ」

健太は右手を出す。

フユカは右手をグーにして出した。

「まだ認めてないからこれ」

「わかった」

きっとこれから先の二人の距離はこの拳と拳の当たる重さでわかるだろう。現状はまだ少し弱く頼りないものだが。

拳の重さは想いの重さ。拳の強さは想いの強さ。

彼女が心から笑える日はまだ、先のお話。

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