絶望の サイキック

福部誌是

槍使い

見た目が中学生ぐらいで、身の丈に合わない長い水色のコートを着た栗色のボブヘアーの少女、蟹目ミミは地上52階、約156メートルの高さから狙撃銃で男を狙っていた。

狙撃銃に取り付けられたスコープを用いて遠距離射撃に挑む。

屋上の柵の間から銃口を突き出し、自身の身を低く保ちながら相手を狙い撃つ。

今までの狙撃は全て失敗に終わっている。男の超能力によって刃物化された腕によって防がれたのだ。

蟹目ミミは目を閉じて深く息を吸い込んだ。

そして息を吐くのと同時に目を開いて照準を定める。引き金にかけて指を掛けてそのまま地面に弾丸を飛ばす。


飛来した弾丸は空気を斬り裂きながら進んでいき、男の頭に命中したかのように思えた。

だが、これもまた腕によって防がれてしまう。

「⋯⋯ダメか」

そう短く吐き捨てて次の狙撃に備えた。





   


男は狙撃された弾を見事タイミングよく腕で防いでみせた。

だが、その生まれた隙を拍穂蒼雅が見逃す訳もなく、突き出された槍先を反対側の腕で弾いた。

金属音が響いて火花が激しく散る。

拍穂蒼雅は負けまいと弾かれた槍先を柄を巧みに操って自身の元へと引き寄せる。

その動きに隙はなく、男が切り込もうと迫った瞬間に槍先が男の頬を掠めた。

男は身をよじらせてそれを回避する。

そこへ狙撃の弾が飛来する。金属音が鳴り響く事が狙撃の失敗を知らせる。

拍穂蒼雅は槍を振り回しながら男に攻撃を仕掛ける。

その眼光には憎しみが映し出されている。男は殺気を感じ取る。仲間を殺された事への憎しみと怒り。

その両方のこもった槍の突き技や払う攻撃に腕を使って防ぐ。

「はぁっ!」

槍の連続攻撃に後退しながら応戦して金属音と綺麗な火花を散らせる。

(こ、こいつ、強い⋯⋯、)

そう呟くのは殺人者である男。

明らかな強さ。眼前の槍使いは能力を使うことなく互角の殺し合いを繰り広げて見せた。

「⋯⋯くっ、」

そこへ飛来する狙撃弾。

男は腕を振り上げてそれを阻止する。が、途端に槍が顔面へと迫る。それを払い除けて男は拍穂蒼雅との距離を開ける。

男は切れた息を整えようと一息着いている間に次の弾丸が男を狙う。

その弾を避け、地面へと衝突したそれは虚しくも多少の土埃を起こすだけだった。

その弾に意識が集中した瞬間、拍穂蒼雅の槍先が空気を切り裂く。

後ろに飛んで避けた男へと更に迫る槍先。槍の追撃に男は腕をクロスさせてこれを凌いだ。

前方へと突き出した槍を外され、拍穂蒼雅は男の攻撃に備えるかと思われた。実際に男は空いた脚で拍穂蒼雅に反撃を試みた。

だが、拍穂蒼雅は防御を捨てて槍を振り上げてみせた。

拍穂蒼雅の腕の血管が浮き上がって筋肉が伸縮する。

「⋯⋯っ、おりゃっ!」

火花を散らしながら男は宙に浮いた。拍穂蒼雅の振り上げた槍に持ち上げられて無防備に身体がさらけ出された。

「なっ、」

驚きに声を漏らした瞬間、遠距離から発射された銃弾が男の身体を貫いた。

痛みに耐え、傷口と口から血を吐き出しながら男は迫る槍を弾いて凌いだ。弾かれた槍は地面に亀裂を走らせてコンクリートを破壊してみせた。


抜け目のない拍穂蒼雅の追撃から逃れた男は地面の上に膝を付きながら着地する。

予想しなかった攻撃に不意をつかれ、更に着地で膝を故障した男はニヒッ、と笑って腕を振り払って地面に切り傷を付けて砂埃を舞わせた。

その砂埃に身を隠すようにして男はその場から離脱する。

だが、拍穂蒼雅は手に持った槍を上下反転させると男を狙って槍を構えた。逃げた事に苛立ちもせずに冷静に男を睨んで息を短く吸い込んだ。

「追い穿て、カットゥーラ!!!」


目を見開き、脚を大きく開いて後ろから前へと体重を移動させる。そして男めがけて勢い良く槍を投げた。

投擲された槍は定められた狙いの通りに空気を裂いて男に迫った。

明らかに射程範囲外への攻撃。

無謀かと思われた攻撃。だが、槍はまるで見えない糸を辿るかのように男を追った。

男が槍から逃れる為か槍の軌道上から大きく外れる為に右へ進路変更を行ったのだが、槍は男へと向かう為に進路を修正してみせた。

その異常に男は目を見開いて驚きの声を上げる。

迫る槍を今度は避けるのではなく、振り向きざまに腕を払って槍を弾き落とした。

槍は回転しながら地面の上で跳ねる。程よく乾いた音が辺りに響き渡る。

「⋯⋯、穿て」

万策尽きたと思われた拍穂蒼雅は静かにそう呟いた。

その言葉に反応するかのように離れた槍が殺気を取り戻す。

乾いた音を響かせ数回地面を跳ねた槍は急に勢いを取り戻して男に向かって攻撃を再開させた。

完全に勢いを失った槍が息を吹き返して男の肉を抉りとる。

頭を狙った槍は男の右肩の肉を抉った。男は瞬時に大きく身体をを傾けて槍の攻撃から逃げた。

右肩上がりになった男の右肩を槍先で抉った槍はそのまま男の後方へと飛んで行き、数メートル先で乾いた音を立てて沈黙する。

槍が息を吹き返して攻撃に移るまで2秒もかかっていない。

男の凄すぎる反応に拍穂蒼雅は息を飲んだ。動揺と驚きに身体が震える。

「⋯⋯なるほどな、これがお前の能力か」

男は拍穂蒼雅を睨んでそう呟いた。

「マジかよ、あれを初見で凌ぐのか⋯⋯、」

驚きについ本音が出てしまう拍穂蒼雅。手に汗を握って男を見詰める。

男は右肩から血を流し、痛みに堪えながら飛来した銃弾を叩き落とした。

金属音と火花の直後にコンクリートが砕ける音が響く。

男は踵を返して拍穂蒼雅とテルヤから離れる為に走り去った。

拍穂蒼雅は歩いて槍を回収してからテルヤの元へと戻ってきた。


「⋯⋯⋯⋯っぁ、ぅ、うぅぁ、ぁ」


まだ崩れて虚ろになるテルヤは頭を抱えて大粒の涙を流して現実を拒否し続ける。

拍穂蒼雅は振り向いて辺りを見渡す。そこには仲間の死体が転がっている。

転がる頭と崩れた身体
上下に別れた身体
何パーツにも切り分けられた身体

血の塊が広がって異様な刺激臭が舞う。鼻の奥が痛くなるような匂いに顔を顰める。

悔しそうな表情でテルヤの首筋に手刀を食らわせて気絶させる。

テルヤの身体を片腕だけで抱えた拍穂蒼雅はアジトへ戻る為にその場を後にした。


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