絶望の サイキック
狂気の殺人者
マジックハントの一員である浜野六佐はその日の夜、仕事を終えて帰宅する為に街中を歩いていた。
夜だと言うのに、まだ騒がしい人混みの中を歩く。
上司である隊長も同僚の女性も何故か連絡がつかない。
今、この瞬間に彼から離れた工事途中のビルで殺し合いが行われていることを知らずに帰宅する。
仕事上嫌な事も多く、酒を飲んだり女性がいる店に入ったりしたいが、明日の朝も早いし、いつ何処で何が起こるかわからないから、と自分自身に言い聞かせて欲望を抑制する。
彼も昔は一般の社会人として大手会社に勤めて金を稼いで妻子に恵まれたかった。
だが、そんな彼の願いはあるひとつの事件によって奪われてしまう。
彼の仕事は人殺し。能力者である人間を殺す事。だが、この仕事は正直自分には合っていないと思う。
何故なら、彼は「人の死」に慣れないのだ。死体に慣れている人など可笑しいもので、異常としか思えないが、仕事の関係で死体を嫌という程見ると慣れてしまうという。
彼自身は慣れたくもないし、今後慣れることはないと思っている。彼自身が願っているし、彼の性格上死体に慣れることはきっと訪れない。
マジックハントは警察という訳では無いが、公務員として公式に政府に認められた組織だそうだ。
詳しい事はわからないが組織の中にいる武器の製造員や研究者の後ろには政府が存在しているらしい。
そいでもなければ、特別な武器を製造する事など出来ない。自転車や自動車は勿論のこと、銀行、警察までもが自動化や空を飛ぶ事が普通になった社会でも特別な科学武器の製造は秘密裏に行われている。
そんな凄い物を自分なんかが持っていてもいいのか、という気持ちが湧いてくる。
マジックハントの一員として、しっかり事件を解決しなければならない。
(女性のバラバラ死体、か)
心の中で唱えた一言にその情景が蘇る。
気分が悪くなりかけて頭の中から消し去ったところで視界の奥で普通では信じられない事が起こったのだ。
眩い閃光と凄まじい音と共に数本の雷光が空を掛ける。
一瞬の出来事で理解が遅れる。
それは超能力者による派手な攻撃であった。
周りの人々がそれに足を止め始める。こんな世の中になっても、稲妻が空から落ちてるくのではなく、横一直線に空を掛けたのが珍しいのだ。
いや、普通ならば有り得ない光景に携帯端末のカメラを稲妻の方に向け始める者もいる。
誰もがそれが危険な物であると理解していない。珍しいからとネットに晒そうとカメラを向けている。
「け、警察です!ここを通して下さい!」
六佐は出来るだけ大声で叫んでから人混みの中に突っ込んだ。
今までの仕事では必ず近くに隊長がいた。
だが、今夜は居ない。今までにないほどの緊張と不安が募る中、六佐は走った。
その声にその場の全員が1度動きを止めた。
突如現れた彼に注目が集まった。
「⋯⋯この状況を見ても驚きが少ない、って事は⋯⋯マジックハント、か」
『仲間』を殺した髪を真上に立てた男は見た目に合わず彼を観察しながら呟いた。
動きが止まって視線も気も逸れたであろう男の後頭部を狙って眼鏡の少年が鉄パイプを振り下ろした。
「くっ、」
息を殺して振り下ろした鉄パイプは次の瞬間、綺麗な断面だけ残して先端はクルクルと宙を舞った。
男が振り向きざまに左腕で弾いたのだ。否、それだけでは説明の出来ない現象が起こった。
腕で鉄パイプを切断出来るわけがない。今までの戦闘で男は刃物を1度も使っていない。
全て素手で戦闘をしていた。だが、今の現象とこれまでの戦闘から仮説が立てられる。「男の腕」が超能力によって刃物化しているという仮定。
「お、おまえ、まさか⋯⋯、」
眼鏡の少年がそう呟いた瞬間、男は笑顔で右腕を斜めに振り下ろした。
眼鏡の少年は目を細めて少女達を見つめる。身体に斜めの筋が入って上下に別れる。
大量の赤い液体が吹き溢れる。
「⋯⋯っ、くそっ!」
金髪のポニーテール少女は涙を貯めながら稲妻を放つ。
「ニヒッ、お前は俺のタイプだ!って事で最後だな!」
男は稲妻を避けて金髪のポニーテール少女に近付いて腹を勢い良く蹴り上げる。
「ぐっ、ふ⋯⋯、」
と息を漏らして、腹痛に表情を歪めながらその場に崩れる。
「と、止まれ!」
そう言ってマジックハントの彼は銃弾を撃ち込む。
だが、男はそれを難なく腕で弾いた。鋭い金属音が響いて銃弾は弾かれる。
その現象に彼は焦りを感じ始める。
「ニヒッ、名古屋の銃使いって言ったら『重力弾』が有名だが、お前じゃないらしいな。どう見ても素人じゃねぇか」
男は彼に向かってそう言う。
聞き慣れない単語にテルヤは理解出来なかったが、仲間がまた1人減った。
「ぅ、くそっ⋯⋯、どうして!」
右手に力を入れて、右眼の周りを押しながら能力を使おうとする。
が、何も起こらない。
マジックハントの彼は銃弾を何発も放つがほとんどが外れて、命中しそうな弾も腕で弾かれて男にダメージはない。
男はゆっくり彼に近付いていく。彼はゆっくり後退りながら銃を握って銃弾を放つが全てが無意味に終わる。
彼も涙目になりながら応戦しているが、男は難なく近寄って、目と鼻の先まで辿り着く。
そして、右腕を真上に上げる。
その表情は笑顔で、まるで人を殺す事に快感を得ているかのように躊躇なく腕を振り下ろした。
彼は恐ろしさのあまり、脚を滑らしたが男の腕が身体にめり込む。
そして、男は一気に腕を引いた。
彼はその場に崩れ、その反動で銃が地面を滑って彼の手から離れた。
目の前で次々に人が倒れ、死んでいく。
その異常な光景にテルヤは恐怖を覚える。
身体に震えで力を入れる事が出来ない。目の前の男は恐ろしい。
それでも能力を使おうとする事を止めない。
男は振り返って1歩、また1歩と近付いてくる。
金髪のポニーテール少女はまだ腹を抱えて地面に蹲っている。
青髪の少女は水溜まりの中で静かに身体を震わせている。
「⋯⋯なんで、どうして!」
テルヤは震えながらも叫んで眼を変色させようとする。
「や、やめて」
金髪のポニーテール少女は微かな声で呟く。
その声に男は更に口角を上げた。
(あの時を、アイツを思い出せ!『茨使い』を!銀色の長髪の狂人を!思い出せ!あの感覚を!あの痛みを!)
ドクン!
血液が巡って心臓が大きく鳴った。
男は青髪の少女の股の下から広がる水溜まりに足を踏み入れた。
水音と波紋が広がる。その刺激臭に少し表情を歪めながら、それでも笑顔で涙を流す少女を見詰めながら口を動かした。
「いいねぇ、その表情。漏らすとか最高だよぉ!」
「ぐっ、⋯⋯⋯⋯、や、め」
「⋯⋯やめてぇ」
テルヤと金髪のポニーテール少女がそう呟く。
(能力を!早く!)
心の中でそう叫ぶ。
やがて、ようやく右眼から一滴の血液が垂れ落ちた。
望みがようやく叶ったその刹那、男が横一直線に右腕を払った。
テルヤは見開いて目の前で落ちていく彼女の頭を見詰めた。
それは限りなく短い時間だったが、何よりも遅く感じられた。
視線を外す事は出来ず、彼女の死を目の前で確認する。
零れ落ちた少女の頭は地面の上で鈍い音を立てた。
その瞬間、テルヤの中で何かが崩れた。
目の前の少女が幼馴染みの死と重なって見えた。
「ぁ、ぅぁあ、ぁぁ、ぁ⋯⋯⋯⋯あぁ、ぁぁ」
少し離れた場所で青髪の少女の死を確認した金髪のポニーテール少女も地面に頭を擦り付けて大粒の涙を零した。
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
崩れた彼女の声にピクリと男が反応する。その声に、その姿勢に男は興奮気味に頬を赤らめた。
「いいねぇ、いいねぇ!いいねぇ!⋯⋯⋯⋯あぁ、もう駄目だ。最後って決めたのに、我慢出来ねぇ!」
1人で葛藤した男は欲望に負けて地面を蹴った。
崩れて声を漏らすテルヤを無視して金髪のポニーテール少女まで一気に迫った。
そして背後からひと思いに腕を振り下ろした。
「ニヒッ、ニヒッ、ぁあ、良い、良い、良い、良い!」
男は狂いながら、笑顔で叫んで少女をバラバラにしていく。
もう悲鳴を上げることも出来なくなった少女。
返り血を浴びて少女の肉を破片に変えていく。
何度も何度も腕を振り下ろして、振り払って血を浴びながら笑顔で鋭い眼光で興奮しながら切り刻む。
少女の髪を、眼を、鼻を、唇を刻んでバラバラに別けた。
顔をバラバラにした後、男は首に腕を伸ばした。
膨らんだ胸を斬り裂いて、キュッと締まった腹をバラバラにして、美しい脚を細切れになるまでひたすら腕を動かした。
彼女の肉が飛び散る。彼女の骨が飛び散る。彼女の血が飛び散る。
グシャッ!と男が肉の一部を踏み付けた。だが、作業に夢中でその事に気が付かない。
周りから、騒ぎに気付いた一般人が悲鳴を上げる。
だが、その声は男にもテルヤにも届かなかった。
男は自分の世界に夢中になって彼女をバラバラにした。
食材のみじん切りに近い形で人の肉をバラバラに切り刻んだ男は顔を傾けて鋭い眼光を崩れたままのテルヤに向けた。
ニヒッ
そして、男は血塗れになってテルヤに近付いた。
だが、それ以上男がテルヤに近付く事はなかった。
次の瞬間、迫る脅威に男が反応した。
遠く離れた場所から放たれた銃弾から頭を守る為に腕で頭を覆った。
程よい金属音が響いて、銃弾が弾かれる。
「なっ、⋯⋯⋯狙撃!?」
男が視線を送った先に建てられた建物の数々。その1番手前の屋上で、月光に照らされて輝く物を見付ける。
それを確認出来た訳では無いが、狙撃に使われた銃をだと直ぐに想像出来る。
そして、更に男を追い詰める為の攻撃が迫る。
男の背後から、空を斬り裂いて物凄いスピードて迫る鋭利な物。
その存在を察知して、顔を傾けた。
その残像を掠めて美しい紺青色の槍が地面に突き刺さる。
槍先が地面を破壊して亀裂を生む。
明らかに男の頭を狙った一撃。
投擲された東洋の長槍に男は身を仰け反らせてその場から離脱する。
男の頬を生暖かい赤色の液体が伝う。
「ちっ!掠ったか⋯⋯、」
吐き捨てるように言った男を狙う狙撃された銃弾。
バチンっ!と金属音と眩い火花が散って銃弾と男の腕が衝突する。
なかなかの反射に男の頭を撃ち抜く事が出来ない銃弾。
だが、その隙を突いて男が槍の元に駆け寄った。
そして、槍を引き抜いてその場で振り回す。構えを決めてから槍の動きを止めて男をひと睨みする。
額に黒の布を巻いた青髪の男性。革ジャンを着て愛槍を使いこなす。
アルドアージュの幹部の1人、拍穂 蒼雅。
「てめぇは」
男が蒼雅を睨みながら呟いた。
現場を一瞥して状況を判断した蒼雅はただ短く
「ぶっ殺す」
とだけ呟いて槍先を男に向けて地面を蹴った。
夜だと言うのに、まだ騒がしい人混みの中を歩く。
上司である隊長も同僚の女性も何故か連絡がつかない。
今、この瞬間に彼から離れた工事途中のビルで殺し合いが行われていることを知らずに帰宅する。
仕事上嫌な事も多く、酒を飲んだり女性がいる店に入ったりしたいが、明日の朝も早いし、いつ何処で何が起こるかわからないから、と自分自身に言い聞かせて欲望を抑制する。
彼も昔は一般の社会人として大手会社に勤めて金を稼いで妻子に恵まれたかった。
だが、そんな彼の願いはあるひとつの事件によって奪われてしまう。
彼の仕事は人殺し。能力者である人間を殺す事。だが、この仕事は正直自分には合っていないと思う。
何故なら、彼は「人の死」に慣れないのだ。死体に慣れている人など可笑しいもので、異常としか思えないが、仕事の関係で死体を嫌という程見ると慣れてしまうという。
彼自身は慣れたくもないし、今後慣れることはないと思っている。彼自身が願っているし、彼の性格上死体に慣れることはきっと訪れない。
マジックハントは警察という訳では無いが、公務員として公式に政府に認められた組織だそうだ。
詳しい事はわからないが組織の中にいる武器の製造員や研究者の後ろには政府が存在しているらしい。
そいでもなければ、特別な武器を製造する事など出来ない。自転車や自動車は勿論のこと、銀行、警察までもが自動化や空を飛ぶ事が普通になった社会でも特別な科学武器の製造は秘密裏に行われている。
そんな凄い物を自分なんかが持っていてもいいのか、という気持ちが湧いてくる。
マジックハントの一員として、しっかり事件を解決しなければならない。
(女性のバラバラ死体、か)
心の中で唱えた一言にその情景が蘇る。
気分が悪くなりかけて頭の中から消し去ったところで視界の奥で普通では信じられない事が起こったのだ。
眩い閃光と凄まじい音と共に数本の雷光が空を掛ける。
一瞬の出来事で理解が遅れる。
それは超能力者による派手な攻撃であった。
周りの人々がそれに足を止め始める。こんな世の中になっても、稲妻が空から落ちてるくのではなく、横一直線に空を掛けたのが珍しいのだ。
いや、普通ならば有り得ない光景に携帯端末のカメラを稲妻の方に向け始める者もいる。
誰もがそれが危険な物であると理解していない。珍しいからとネットに晒そうとカメラを向けている。
「け、警察です!ここを通して下さい!」
六佐は出来るだけ大声で叫んでから人混みの中に突っ込んだ。
今までの仕事では必ず近くに隊長がいた。
だが、今夜は居ない。今までにないほどの緊張と不安が募る中、六佐は走った。
その声にその場の全員が1度動きを止めた。
突如現れた彼に注目が集まった。
「⋯⋯この状況を見ても驚きが少ない、って事は⋯⋯マジックハント、か」
『仲間』を殺した髪を真上に立てた男は見た目に合わず彼を観察しながら呟いた。
動きが止まって視線も気も逸れたであろう男の後頭部を狙って眼鏡の少年が鉄パイプを振り下ろした。
「くっ、」
息を殺して振り下ろした鉄パイプは次の瞬間、綺麗な断面だけ残して先端はクルクルと宙を舞った。
男が振り向きざまに左腕で弾いたのだ。否、それだけでは説明の出来ない現象が起こった。
腕で鉄パイプを切断出来るわけがない。今までの戦闘で男は刃物を1度も使っていない。
全て素手で戦闘をしていた。だが、今の現象とこれまでの戦闘から仮説が立てられる。「男の腕」が超能力によって刃物化しているという仮定。
「お、おまえ、まさか⋯⋯、」
眼鏡の少年がそう呟いた瞬間、男は笑顔で右腕を斜めに振り下ろした。
眼鏡の少年は目を細めて少女達を見つめる。身体に斜めの筋が入って上下に別れる。
大量の赤い液体が吹き溢れる。
「⋯⋯っ、くそっ!」
金髪のポニーテール少女は涙を貯めながら稲妻を放つ。
「ニヒッ、お前は俺のタイプだ!って事で最後だな!」
男は稲妻を避けて金髪のポニーテール少女に近付いて腹を勢い良く蹴り上げる。
「ぐっ、ふ⋯⋯、」
と息を漏らして、腹痛に表情を歪めながらその場に崩れる。
「と、止まれ!」
そう言ってマジックハントの彼は銃弾を撃ち込む。
だが、男はそれを難なく腕で弾いた。鋭い金属音が響いて銃弾は弾かれる。
その現象に彼は焦りを感じ始める。
「ニヒッ、名古屋の銃使いって言ったら『重力弾』が有名だが、お前じゃないらしいな。どう見ても素人じゃねぇか」
男は彼に向かってそう言う。
聞き慣れない単語にテルヤは理解出来なかったが、仲間がまた1人減った。
「ぅ、くそっ⋯⋯、どうして!」
右手に力を入れて、右眼の周りを押しながら能力を使おうとする。
が、何も起こらない。
マジックハントの彼は銃弾を何発も放つがほとんどが外れて、命中しそうな弾も腕で弾かれて男にダメージはない。
男はゆっくり彼に近付いていく。彼はゆっくり後退りながら銃を握って銃弾を放つが全てが無意味に終わる。
彼も涙目になりながら応戦しているが、男は難なく近寄って、目と鼻の先まで辿り着く。
そして、右腕を真上に上げる。
その表情は笑顔で、まるで人を殺す事に快感を得ているかのように躊躇なく腕を振り下ろした。
彼は恐ろしさのあまり、脚を滑らしたが男の腕が身体にめり込む。
そして、男は一気に腕を引いた。
彼はその場に崩れ、その反動で銃が地面を滑って彼の手から離れた。
目の前で次々に人が倒れ、死んでいく。
その異常な光景にテルヤは恐怖を覚える。
身体に震えで力を入れる事が出来ない。目の前の男は恐ろしい。
それでも能力を使おうとする事を止めない。
男は振り返って1歩、また1歩と近付いてくる。
金髪のポニーテール少女はまだ腹を抱えて地面に蹲っている。
青髪の少女は水溜まりの中で静かに身体を震わせている。
「⋯⋯なんで、どうして!」
テルヤは震えながらも叫んで眼を変色させようとする。
「や、やめて」
金髪のポニーテール少女は微かな声で呟く。
その声に男は更に口角を上げた。
(あの時を、アイツを思い出せ!『茨使い』を!銀色の長髪の狂人を!思い出せ!あの感覚を!あの痛みを!)
ドクン!
血液が巡って心臓が大きく鳴った。
男は青髪の少女の股の下から広がる水溜まりに足を踏み入れた。
水音と波紋が広がる。その刺激臭に少し表情を歪めながら、それでも笑顔で涙を流す少女を見詰めながら口を動かした。
「いいねぇ、その表情。漏らすとか最高だよぉ!」
「ぐっ、⋯⋯⋯⋯、や、め」
「⋯⋯やめてぇ」
テルヤと金髪のポニーテール少女がそう呟く。
(能力を!早く!)
心の中でそう叫ぶ。
やがて、ようやく右眼から一滴の血液が垂れ落ちた。
望みがようやく叶ったその刹那、男が横一直線に右腕を払った。
テルヤは見開いて目の前で落ちていく彼女の頭を見詰めた。
それは限りなく短い時間だったが、何よりも遅く感じられた。
視線を外す事は出来ず、彼女の死を目の前で確認する。
零れ落ちた少女の頭は地面の上で鈍い音を立てた。
その瞬間、テルヤの中で何かが崩れた。
目の前の少女が幼馴染みの死と重なって見えた。
「ぁ、ぅぁあ、ぁぁ、ぁ⋯⋯⋯⋯あぁ、ぁぁ」
少し離れた場所で青髪の少女の死を確認した金髪のポニーテール少女も地面に頭を擦り付けて大粒の涙を零した。
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
崩れた彼女の声にピクリと男が反応する。その声に、その姿勢に男は興奮気味に頬を赤らめた。
「いいねぇ、いいねぇ!いいねぇ!⋯⋯⋯⋯あぁ、もう駄目だ。最後って決めたのに、我慢出来ねぇ!」
1人で葛藤した男は欲望に負けて地面を蹴った。
崩れて声を漏らすテルヤを無視して金髪のポニーテール少女まで一気に迫った。
そして背後からひと思いに腕を振り下ろした。
「ニヒッ、ニヒッ、ぁあ、良い、良い、良い、良い!」
男は狂いながら、笑顔で叫んで少女をバラバラにしていく。
もう悲鳴を上げることも出来なくなった少女。
返り血を浴びて少女の肉を破片に変えていく。
何度も何度も腕を振り下ろして、振り払って血を浴びながら笑顔で鋭い眼光で興奮しながら切り刻む。
少女の髪を、眼を、鼻を、唇を刻んでバラバラに別けた。
顔をバラバラにした後、男は首に腕を伸ばした。
膨らんだ胸を斬り裂いて、キュッと締まった腹をバラバラにして、美しい脚を細切れになるまでひたすら腕を動かした。
彼女の肉が飛び散る。彼女の骨が飛び散る。彼女の血が飛び散る。
グシャッ!と男が肉の一部を踏み付けた。だが、作業に夢中でその事に気が付かない。
周りから、騒ぎに気付いた一般人が悲鳴を上げる。
だが、その声は男にもテルヤにも届かなかった。
男は自分の世界に夢中になって彼女をバラバラにした。
食材のみじん切りに近い形で人の肉をバラバラに切り刻んだ男は顔を傾けて鋭い眼光を崩れたままのテルヤに向けた。
ニヒッ
そして、男は血塗れになってテルヤに近付いた。
だが、それ以上男がテルヤに近付く事はなかった。
次の瞬間、迫る脅威に男が反応した。
遠く離れた場所から放たれた銃弾から頭を守る為に腕で頭を覆った。
程よい金属音が響いて、銃弾が弾かれる。
「なっ、⋯⋯⋯狙撃!?」
男が視線を送った先に建てられた建物の数々。その1番手前の屋上で、月光に照らされて輝く物を見付ける。
それを確認出来た訳では無いが、狙撃に使われた銃をだと直ぐに想像出来る。
そして、更に男を追い詰める為の攻撃が迫る。
男の背後から、空を斬り裂いて物凄いスピードて迫る鋭利な物。
その存在を察知して、顔を傾けた。
その残像を掠めて美しい紺青色の槍が地面に突き刺さる。
槍先が地面を破壊して亀裂を生む。
明らかに男の頭を狙った一撃。
投擲された東洋の長槍に男は身を仰け反らせてその場から離脱する。
男の頬を生暖かい赤色の液体が伝う。
「ちっ!掠ったか⋯⋯、」
吐き捨てるように言った男を狙う狙撃された銃弾。
バチンっ!と金属音と眩い火花が散って銃弾と男の腕が衝突する。
なかなかの反射に男の頭を撃ち抜く事が出来ない銃弾。
だが、その隙を突いて男が槍の元に駆け寄った。
そして、槍を引き抜いてその場で振り回す。構えを決めてから槍の動きを止めて男をひと睨みする。
額に黒の布を巻いた青髪の男性。革ジャンを着て愛槍を使いこなす。
アルドアージュの幹部の1人、拍穂 蒼雅。
「てめぇは」
男が蒼雅を睨みながら呟いた。
現場を一瞥して状況を判断した蒼雅はただ短く
「ぶっ殺す」
とだけ呟いて槍先を男に向けて地面を蹴った。
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