絶望の サイキック

福部誌是

たった一人

目が覚めた時、テルヤは一瞬の安堵を感じた。


そして、目の前の現実を目にして絶望した。


「⋯夢じゃなのいか」

と溜め息と共に吐き出す

窓から外の世界を眺める。いつの間にか夜は明けていた。世界に光が存在している。


一晩で殺人鬼に襲われ、唯一無二の存在を失った。

その事をもう1回認識する。


テルヤは立ち上がり、ツカサの死体があった場所に視線を向けた。


────あ?


そこに変わり果てた親友の身体は存在していなかった。


どうして?なぜ無い?

死体が消えている


ただ、乾いた血だけがそこに広がっている。


可笑しいだろ。テルヤは右手を頭に当てる。


死体が消えるなんて⋯まさか、これも超能力と関係があるのか?

俺が無意識の間に消してしまったとか?


おいおい冗談じゃねぇよ


「クソ!もうなにが何だか」


俺が本当はこんなに口が悪いなんて知ったら皆はどういう反応をするんだろうか?



これから先どうすればいい?

俺は人殺しだ。もう元の生活に戻れる訳が無い。


「⋯自首⋯か」


だが、こんな話誰が信じる?


変な男に追い回されて、そいつの正体は超能力者でツカサが死んで俺も超能力者だった


可笑しすぎる。どうかしてる

そう思われるに決まってる。


とりあえず

「⋯⋯一旦帰るか」

と独り言を呟いて廃墟を後にした。




   


家に帰り、シャワーを浴びる。

身体に着いた汚れと血の匂いを落とし、新しい下着に着替えて制服の予備を着る。



一段落して、スマホを開いた。

時間は午前の10時をとっくに過ぎていた。

完全に遅刻かよと思いながらメッセージを開く。

ナズナからの新着メッセージが1件届いていた。


内容︰ツカサはともかくテルヤが学校に来てないのは珍しいね。もしかして何かあった?休みでも遅刻でも学校にしっかりと連絡しなさい!




「悪い。これから直ぐに向かう」と返信してから台所に向かった。

「⋯⋯食欲ねぇな」

と呟いてから鞄を右手に玄関に向かった。靴を履いて外に出る。鍵を閉めてから学校に向かう為に歩き出した。




変化には直ぐに気付いた。

可笑しい

人気がない。無さすぎる。

家を出て10分近くが経過する。その間誰ともすれ違わない。それだけならともかく、学校の前は大きな道路があり、いつも車が何台も走っている。


それなのに、車が1台も通っていない。


「なんだよこれ」

とテルヤは呟いて歩くスピードを速める。


何が起こっているのかは分からないが確かに何かが起こっている



途中から走り出したテルヤは学校の門を通過し下駄箱でシューズに履き替える。


そして、廊下に出て階段を数段飛ばしで駆け上がった。

2階の廊下に辿り着いたテルヤは目の前の現象を目の当たりにして鞄を落とした。


乾いた音が反射する。



少年の目の前に広がるのは血の海。

テルヤから数十メートル離れた先に広がる血と死体の海。

壁や床にはワイヤーが張り巡らされている。

ワイヤーからは数秒に1滴血が床に落ち、その音が響いている。



教師と生徒の死体が散らばっている。細いワイヤーが束になり身体を貫いているもの、細切れにされ原形を留めていないもの、なかには内蔵が散らばっているものもある。


頭が切断され、脳みそのようなものが飛び散っている死体も存在した。


テルヤは途端に気持ちが悪くなり、その場にしゃがみこんで吐き出す。


鼓動が早くなり、目眩が起こる。

テルヤはゆっくりと立ち上がってその場から駆け出した。

まだ乾ききっていない血の海を渡り、ズボンの裾とシューズを赤色に染めながら自分の教室へと辿り着いく。


そして勢いよく扉を開ける。強い衝撃と音が響いた教室の中にはクラスメイトと担任の死体が山のように積み重なっていた。


死屍累々。

そんな言葉が咄嗟に脳裏に浮かんだ。



「あ、あぁ、ぁあ」


1歩。また1歩と死体の山に近づく

そして、死体の山に両手を突っ込む。死体の山を掻き分けて幼馴染の少女の頭部を見つける。

いや、それは掻き分けた山の中から転がり落ちてきた。


そう。首から下が存在しなかった。



────!


意味も分からない衝撃と共にテルヤの中で何かが崩れる。

叫び散らして目の前の全てを拒否したかった。


でも、どんなに叫んでも何も変わらなかった。



「ぁあ?なんだよまだ人がいたのか」


廊下から低い男性の声が聞こえた。

咄嗟に振り向く。

廊下には上着のフードを深く被った人が存在していた。

声から察するに若い男性。

背丈はテルヤよりも少し大きいか?


テルヤは目を見開いてその男を凝視した。


「ふ、そんなに睨むなよ!」


分かっている。理解している。目の前の男もまた超能力者であると

この現状を目の当たりにしても動じていない様子からテルヤはそう判断する。


───思い出せ!

昨日のアレを、あの感覚を

テルヤは立ち上がって拳を握り締めて男に向かって真っ直ぐに腕を伸ばす。


ズキッ!

と右眼に痛みが走り、紫紺色に変色する。

「うあぁぁぁぁぁ!」

すると、『粉』が出現する。



「ん?なんだぁ、こいつぁ」

フードの男はその場から左後ろに大きく飛び退く。

ついさっきまで男が立っていた場所がボロボロに崩れ出す。


「⋯⋯なるほどなぁ。お前も能力者か」


男はニヤリと口角を上げて右脚を踏み込む。


すると、床を割って巨大ないばらが出現する。


ムチのように曲がった荊が打ち出される。


その攻撃を咄嗟に避けたテルヤは床の上を転がる。


荊は教卓を吹き飛ばし、教卓は窓を割って外に落下していく。



あんなもん食らったら⋯⋯


と考えている間に次の攻撃が繰り出される。


「くっ」


息を漏らして更に大きく飛んだ。


荊は床を砕きながら迫ってくる。


「くそっ!」


テルヤは左手で空を切って『粉』を出現させて『荊』に攻撃する。


荊はボロボロに崩れたが衝撃がテルヤを襲う。




「うっ!」壁に激突したテルヤは直ぐに体制を立て直そうとするが身体に力が入らない。



「⋯⋯ふふ、ハハハハハハハ能力を使いこなせてねぇじゃねえかよ!」



男はまるで勝ち誇ったかのようにそう言った。



「は、てめぇだって荊がなきゃなんも出来ないだろ!」


とテルヤは睨みながら答える。



「⋯⋯おいおい、まさかよォなんも知らねぇお子ちゃまかよ!これで終わりだと?誰が言った?!」



と男は笑いながら床を割って荊を数本出現させる。



「なぁ?!」


ふざけんなよ!あれだけじゃなかったのかよ


と勘違いでテルヤは追い込まれる。



どうする!?


この状況を打破しなければ



「ふん!それにしてもよぉ、大人しそうな顔してるのに大した口の聞き方じゃねえかよ。人は見かけによらないなぁ。⋯⋯それとも、あれか?偽善者ってやつかぁ?」




と男の余裕そうな態度に


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


テルヤは床に拳を叩き込んで立ち上がる。



偽善者。


そうだ。俺はずっと周りを騙してきたんだ



ずるくて弱くて


ずっと偽りながら暮らしてきた。


そんなに良い奴じゃないんだよ。




皆から嫌われるのが怖かったから本当の自分をさらけ出せなかった。



────ごめん




次の瞬間、男の荊が全て腐り出す。


その光景に男は驚きを隠せない声を上げる。


「あぁ!⋯⋯おいおい⋯⋯なんだよこいつぁ」



粉は男の顔に向かって進む。それを察して頭を逸らして飛び退く。


だが、粉は男のフードを掠める。


そして、大きく飛び退いた衝撃でフードがとれ、男の素顔が晒される。



青色の髪。長い前髪で両目が隠れている。左耳にピアスをしている。



「やろぉ⋯⋯」


と男は何かを言いかけたが黙り込む



「チッ!随分とタイミングがいいじゃねぇかよォ」


となにやら独り言を呟いた。



「⋯てめぇの顔は覚えたからなぁ。次会った時は必ずぶっ殺すぜぇ!」


と舌を出して挑発した後、右腕で窓ガラスを割って外に飛び出した。



「⋯はぁ?」


とワケも分からないままテルヤは1人取り残される。



死体が積み重なり、山が出来た教室の中にただ1人





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