ウィザードオブバージン

チャンドラ

タイマン

「訊きたいこととは?」
 すると、マリー先生は鋭い目つきで尋ねてきた。
「お前、実技の授業、本当に全力で受けてるか?」
「ええ、もちろん。先生には手を抜いてるように見えましたか?」
 マリー先生は自分の右目に手を当てた。
「ディアグノス」
 手から魔法陣が発生し、右目が真穂人に触れた。
 マリー先生の人目が赤くなった。
「ふむ、確かに嘘を言ってるような体温には見えないな......」
「その魔法はアークミー量を測るだけじゃなく、嘘発見装置にもなるんですね。便利な魔法ですね」
 マリー先生はムッとしたような表情になった。
「勘だが、お前はどうも何か隠し事をしているようにしか思えない」
「それは考えすぎですよ。何を根拠に」
 俺は努めて冷静な口調で話した。
「お前、童貞と処女しかなれない魔法使いがどうやって子供を作るのかしってるか?」
「ええ、ざっくりとは」

 魔法使いは性行為をすれば、魔法が使えなくなる。
 そのため、パートナーと子供を作りたい時はパートナーに魔法をかける必要がある。
 この際に使う魔法を『契約魔法』と呼ばれる。
 どんな人間にも必ず一体、体に精霊が宿っていると言われている。
 パートナーに魔法をかけ、精霊を呼び覚まし、自分の精霊とパートナーの精霊に契約の儀式を行う。
 これを行うことで性行為なしで子供を作ることができる。

「そうか。ディアグノスはな、アークミー量が数値化され見えるのだが、それに加えて一人一人の精霊の様子も見ることができるんだ。お前の精霊は常に退屈そうにしている。いつも暴れたいという様子が感じられる」
「きっと、イキってるだけですよ。イキり精霊なんですよ」
 苦しいか? さすがにこの言い訳。自分で言っておいてなんだがイキり精霊ってなんだ?

「あとお前、魔法使いに必要な資質ってなんだと思う?」
「えーっと、アークミー量とかですか?」
「違う」
 即否定された。

「魔法使いに必要なのは性への邪心がない状態だ。普通の高校生ってのは猿のようにやりたい盛りだからな。そういう意味では高校のうちは女性の方が優れた魔法使いが多い傾向がある」

 へぇ、初めて知った。
「ディアグノスはな、生徒のムラムラ度が分かるんだ」
「本当! 恐ろしい魔法ですね!」
 突っ込まずにはいられなかった。

「大なり小なり男子高校生はムラムラ度が高くなるのだが、藤島。お前はおかしい。お前はいつも、ムラムラ度が十を下回っている。クラスで真面目な佐々木でも五十は行くのに。お前の次に低い鈴鐘ですら、三十前後だ。お前は絶対におかしい」
「生々しい話は良してください」
 なんで、他人のムラムラ度とかいう話を聞かなきゃいかんのだ。

「そういうわけで、お前はおかしい。何か欠けていると判断した」
 なるほどな。厄介な先生だ。
 マリー先生の言う通り、俺には欠けている

 人並みの性欲が。
 人並みの感情が。
 あるのは人並み外れた魔法の知識と技術のみである。

「それで、俺はどうすればいいんですか? 仮に先生の言う通りだったとして本気で実技に取り組めと?」
「ああ。そうだ。私の推測だが、お前はあまり魔法の力を他の人に見せてくはない。適当な魔法に関する職についてゆったりと暮らしたい。そんなところだろう。理由は危険で大変な職業につきたくないから」
「......」
 さすがはマリー先生と言ったところか。全部当たっている。

「お? ちょっと体温に変化が起きたな。気に入らないんだ。才能のあるやつが自分の力を使わないのが」
「力を使いたくない人に使わせるのはエゴだと思いませんか?」
 俺は無表情でそう返した。
「そうかもな。でもとりあえず、お前は私と戦え!」
「なんでそうなりますか?」
 全くもって意味不明だ。前後の脈絡が出鱈目もいいところである。
「本当のお前の力がどんなものなのか知りたいんだ。お前を呼び出した一番の目的がそれだ。それには戦うことがもっとも分かりやすいと考えた」
「付き合ってられません」

 俺は屋上の扉へ移動し、ドアノブをひねった。
 しかし、扉は開かなかった。
「無駄だ。この屋上一体に結界を貼った。誰も入れないし、出ることもできない。出たかったら私を倒すしかない。安心しろ、私の方は手加減してやる。お前は本気でかかってくるんだな。ほれ」
 先生は手に持っていた杖を渡してくれた。
 それを使って戦ってもいいよってことか。
「......」
 全くめんどくさい先生だな

「分かりました。それでは遠慮なく行きます」
 やれやれ、帰ってゆっくりと昼寝でもしたかったのに。
 俺は杖を地面に置き、先生の方へ向かって走りだした。
 正面からパンチを打つために構えた。
 先生の方は顔色一つ変えない。

「バニッシュ」
 俺は呪文を唱えた。
 移動場所は先生の真後ろ。
 マリー先生の真後ろに立った俺は勝ったと思った。あまりにも無防備だったからである。
 俺はマリー先生の頭に手をかざした。
「ドラン.....」
 俺は魔法、『ドランク』を使い、マリー先生の気分を悪くしてやろうと考えた。
「ブローブ」
 俺が呪文を唱えきる前にマリー先生は呪文を唱えた。
 マリー先生の手のひらから発生させた魔法陣から衝撃波が発生した。
 俺は腹にその衝撃波を喰らい、数メートル吹っ飛んだ。
 受け身を取ってダメージを軽減させた。

「いてて......」
「やるな。藤嶋。まさか杖なしで魔法が使えるなんて思ってなかったぞ」
 マリー先生は淡々とした様子で賞賛してくれたが、正攻法で勝つのは難しい気がする。

「どんどん来い」
 挑発するように言ってきた。
 俺はマリー先生から離れた位置から魔法を使ってみることにした右手を伸ばし、マリー先生の方へ向けた。
「フレイムキャノン」
 俺の右手から赤い大きな炎の玉が発生し、先生の方へ向かっていった。
「ウォーターバリア」
 先生がそう唱えた瞬間、マリー先生が立ってる地面から青い魔法陣が発生し、先生の体が水の玉に包まれた。
 フレイムキャノンはウォーターバリアによって鎮火してしまった。
 パンとウォーターバリアが割れてマリー先生が出てきた。

「すごいな。藤嶋。もうそんなこともできるなんて。お前は天才と言っても過言じゃないな」
「なら、俺の才能に免じてもう家に帰してくれませんか?」
「まだだめだ」
 にやりとマリー先生は笑った。

 しょうがない。
 気は進まないが『あの魔法』を使うか......









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